1 : 以下、名... - 2017/01/16 16:54:58.83 NMHIafx00 1/284



サァァァァァァァァァ…


ーー狐の嫁入り
夏も盛りのこの季節、雲が無いにもかかわらず滝の如く降り注ぎ洗濯物の乾燥を躊躇わせる傍迷惑な天気雨のことを言いますの。

僭越ながら言わせてもらいますわ狐さん方。 全く、どうしてあなたたちの気紛れな婚儀に私達人間がとばっちりを受けなければいけませんの?

恵みの雨だなんて有り難がるのは農業を営まれる方々だけで、今こうして学校へと歩みを進めるこの伝統と格式ある名家の長女、黒澤ダイヤにもたらせる恩恵は一つもありませんわ。

…大体、如何なる理由があって大切な挙式にて雨を降らせるといった愚行に走るのでしょう?「本日はお足元の悪い中…」といった決まり文句の省略に繋がるというのに…


ふふっ…冗談に決まっているでしょう?


天気雨の原理は実に単純…雨粒が地に到達し人々が雨を認識する前に雲が消え去るか、遥か遠くに浮遊するあのドス黒い積乱雲から飛来しているか…

よもやこの私が狐のまやかしなど本当に信じているとでも?馬鹿馬鹿しい。

…と、理屈をこねても雨は雨。
早く傘を差さないと…



グググッ…ボキッ!



ダイヤ「なっ…!?」



ザァァァァァァァァァァァァァァァァ



ダイヤ「全くこんな時に何故ですの!きっと善子さんの不運でも移ったんですわ!!」バチャバチャバチャ

2 : 以下、名... - 2017/01/16 16:55:39.32 NMHIafx00 2/284



ザァァァァァァァァァァ


善子「へぇぇっくしょん!!」ブルブル


梨子「きゃっ!ちょっと善子ちゃんこっち向かないでよ!」


千歌「大丈夫善子ちゃん?」


善子「…フフン。どこの誰だか知らないけど、この堕天使ヨハネの非監視下にて間接的な攻撃を試みる悪しき者の存在を察知したわ。我が管轄外に住を成す全てのリトルデーモンよ。今すぐその不届き者を見つけ出し裁きの鉄槌を…」ブツブツ


果南「…まあ仕方ないかもね。ここ最近天気が安定しないし…さっきも突然の雨に逃げ遅れたの善子だけだったからね」


梨子「そうよ。ずっと自分の決めポーズに酔いしれて雨に打たれてるの気付かないんだもの…」フキフキ


花丸「でも善子ちゃんはいつも病気みたいなものだし風邪の一つで慌てる程でもないずら」


善子「ちょっとズラ丸!それどういう意味よ!?」


「まあまあ!それより、このまま雨が続くと来週の"歩楽祭"ちょっとマズいんじゃない?」


花丸「ふがくさい?」


善子「今更?浦の星女学院の文化祭のことよ」


花丸「成る程!マル、ずっと"とらくさい"だと思ってたずら」


善子「聞くは一時の恥云々ね」

3 : 以下、名... - 2017/01/16 16:56:22.44 NMHIafx00 3/284



「えっと…今日が8月3日だから歩楽祭は6日後の9日から10.11日の計3日間。私たちのステージも3日間あって、最終日には新曲も披露するよ。それまでにトレーニングと既存の曲のおさらいに加え新曲の練習をやらなきゃいけないからかなりハードだね」パラパラ


千歌「困ったなぁ…新曲も衣装も作って、あとは精一杯踊るだけなのに…せっかくの文化祭なんだからしっかりしたパフォーマンスを見てもらいたいよ!」


善子「はぁ…天の哀哭は当分終わりそうにないわね」


花丸「善子ちゃんは先に補修を終わらせないとね」


善子「ぎくぅっ!(何故それを!?)」


果南「まあ今日はただの天気雨だし、もうちょいで止むと思うよ?それまでは我慢我慢!」


千歌「ぶー。果南ちゃんは雨嫌いじゃないの?」


果南「うーん、確かに練習ができないのは辛いけど雨は嫌いじゃないかな。落ち着くし」


千歌「あー!蛙の面にしょんべんってやつか!」


果南「えっ」

4 : 以下、名... - 2017/01/16 16:56:55.72 NMHIafx00 4/284



千歌「普段海でビッショビッショに濡れてくる果南ちゃんは雨粒程度へっちゃら!ってことだよね!?」


果南「いやいや、それはダイビングスーツ着てるからだし…私だって制服着て雨の中突っ込むのは流石に嫌だよ」


千歌「えー!だって果南ちゃんはびしょ濡れの専売特許みたいなとこあるじゃん?今外に飛び出したらこう…ゲコゲコ!って!!」


果南「鳴かないよ!何専売特許って…ていうかカエルから離れてよ!なんかしょんべんかけられても喜びそうなニュアンスじゃん!」


千歌「それは違うよ!蛙は水に強いからしょんべんかけられたくらいじゃ動じないって意味なのに…果南ちゃんやっぱり!」


果南「千歌!!」クワッ


ワーワー
ギャーギャー


梨子「はぁ…また始まったよ暑苦しい…」


「まあまあ、千歌ちゃんは果南ちゃんいじりの専売特許みたいなものだし…」


花丸「練習までの暇つぶしにはもってこいずら」


ルビィ「……」


花丸「ルビィちゃん、さっきから元気無いけど大丈夫?」


ルビィ「う、うん…」



ダイヤ「さっきからスクールアイドルらしからぬ下劣な会話が聞こえてくるのですが!?」ガラガラガラ

5 : 以下、名... - 2017/01/16 16:57:22.67 NMHIafx00 5/284



ルビィ「!!」


果南「げっ!?ダイヤだ!」


ダイヤ「うぅ…」ビチャビチャ


千歌「うぇ!?なんでそんなにびしょ濡れなの?まさかダイヤさんもしょんべーー」


千歌「むぐぅっ!?」ジタバタ


梨子「千歌ちゃんこれ以上はダメ///」


鞠莉「ふふっダイヤったらお間抜けさんで壊れた傘持ってきちゃったみたいなの♪」スッ


ダイヤ「鞠莉さん。あなた傘を持って昇降口
に立っていたにもかかわらず何故助けに来てくれなかったのです?」ワナワナ


鞠莉「だって~あんなに凄い剣幕で一生懸命走ってるダイヤ見たことなかったからそりゃもうゴーゴーダイヤ!って応援したくなっちゃうじゃない♪」


ダイヤ「…」ブチッ


(あ、これはマズい)

6 : 以下、名... - 2017/01/16 16:57:56.59 NMHIafx00 6/284



ダイヤ「全くあなたという人h……


「ヨーソロー!!ほ、ほら見て!雨が弱くなってきてるよ!!」


ポツポツポツポツポツ…


ダイヤ「なっ…!?どうして私が着いた途端に…」ガクッ


鞠莉「アンラッキーね!かわいそうなダイヤ」ヨシヨシ


善子「じゃあ9人揃ったし練習を…」


ダイヤ「…」ギロッ


善子「ひっ(何よ私何かした!?)」


千歌「」チーン


梨子「と、とにかく屋上に行きましょう?」

7 : 以下、名... - 2017/01/16 16:58:28.28 NMHIafx00 7/284



キーンコーンカーンコーン

17:30分になりました。
まだ校舎に残っている生徒は
速やかに下校してください。


「よし、今日はここまで!」パンッ


善子「ふあぁ…終わったぁ」ヘナヘナヘナ


花丸「もうダメずらぁ…」ドサッ


梨子「はぁ…でもなんだかんだ言って段々良くなってきてるよね」ドサッ


千歌「うん!1週間もあれば最っ高に輝けるステージになりそうだよ!!」


ダイヤ「千歌さん。やる気があるのは構いませんが少しテンポが早めになっています。もっと周りに合わせるよう意識してください」


千歌「は、はい。すみません…」ドサッ


ダイヤ「それから…」


鞠莉「アディオスみんな!!マリーちょっと立て込んでるからもう帰るわね!」タッタッタッタッ


果南「あ、私も帰らないとだった!じゃあねまた明日!!」タッタッタッタッ


ダイヤ「あ…ちょっと鞠莉さん果南さん」


ダイヤ「はぁ全く、まだミーティングが残って…」


千歌「いっけない!!美渡ねえに呼ばれてたの忘れてた!!!」


ダイヤ「なっ…」

8 : 以下、名... - 2017/01/16 16:59:01.15 NMHIafx00 8/284



梨子「私もお母さんの手伝いしないと!」


「今日は久々にお父さんが帰ってくるんだった!」


善子「我が教徒達に堕天の言霊を与える刻が迫る…」


花丸「まーた生配信とやらをするの?」チラッ


善子「ギクッ!?」


花丸「じゃあマルも帰るずら。ルビィちゃん行こ?」


ルビィ「う、うん…」


ダイヤ「あなたたち…」ゴゴゴゴゴゴゴ


善子「ひっ」


千歌「うわ!ダイヤさんが怒った!!逃げろー!!」ドタバタ


花丸「ずらー!!」ドタバタ


「ヨーソロー!!」ドタバタ


梨子「ご、ごめんなさいダイヤさん!!」ドタバタ


善子「ちょっと待ちなさいよ!!」ドタバタ

9 : 以下、名... - 2017/01/16 16:59:43.84 NMHIafx00 9/284



シーン……


ダイヤ「全く!どいつもこいつも!!」プンスカ


ダイヤ「ふん!いいですわ。私もさっさと校舎の戸締りをして帰ーー」



ルビィ「お姉ちゃん!!」


ダイヤ「!!」


ダイヤ「ル…ルビィ!まだ残っていたんですの?」


ダイヤ「早く帰らないと花丸さん達に置いていかれーー」


ルビィ「あの!!!!」


ダイヤ「!?」


ルビィ「……」


ダイヤ「ルビィ?」

10 : 以下、名... - 2017/01/16 17:00:18.45 NMHIafx00 10/284



ヒュォォォォォ……


黄昏迫る 港町♪
津々浦々を 紅く染めん♪
眠りにつかん 風と波♪
静か穏やかの 安らぎ破り♪
顔を覗かせよ 妖百鬼♪
吹き荒れる 風と波 静寂よ沈め♪
ああ我ら強くあらん 全てに抗い♪
ああ我ら浦の星 ここに在り♪



ーーコホン。
【夕凪の梢(ゆうなぎのこずえ)】

我が浦の星女学院の校歌ですの。
一般的には【○○高校校歌】が主流ですが、
如何なる理由で聴く前から趣溢れるような曲
名を充てたのか首をかしげるところですわ。
こうして富士に体を向けて想いを捧げるよう
に歌うのが長きに渡る伝統ですの。

11 : 以下、名... - 2017/01/16 17:00:57.31 NMHIafx00 11/284



…今の学生で卒業までに校歌を暗唱でる方は
果たしてどのくらいいるのでしょう?
大半が気怠い朝礼を口パクでやり過ごす不届
き者に違いありませんわ。

でも私は違いますの。
こうして四階の最も見晴らしの良い場所から
富士のご尊顔を拝し、ノスタルジアな校歌を
口ずさむのもまた一興…
…私は三年生であり生徒会長であり一人の姉
でもあるが故、何かと損が降り注ぐ立場であ
ることは疾うに自覚していますわ。

ですが、高くそびえる富士の高嶺に比べれば
私の周りに吹き荒れる不条理などちっぽけな
もの。それもこのそよ風が洗い流してーー


ピタッ…


ダイヤ「止みましたわ」イラッ


ダイヤ「さ、さあ。私もそろそろ帰りましょう。これが最後の窓です」ガラガラガラガラ…




…ピタッ


あれは…なんでしょう?

12 : 以下、名... - 2017/01/16 17:01:37.47 NMHIafx00 12/284



今、にわかに信じがたい光景が瞳に映し出されていますわ。
何故ならアレはつい先程まで見晴らしていた時には存在しなかったのですから。
ほんの数秒…一瞬目を離した隙に普通ここまでの変貌を遂げるでしょうか?一体何が起こったのでしょう。 私、気になりますわ。

…ここは一つ頭をひねってみましょう。
考えられる原因は三つ。

まずは私の注意不足…と言ってもこれは真っ先に選択肢から除外されますわね。
いくら富士に目を向けていたとはいえ、この場所から見晴らす内浦の全体像は完璧にインプットされているのですから。
小さな一軒家のボヤ騒ぎすら瞬く間に発見した経験を持つこの眼が同じ場所からあんなにも目立つ異変に気付かぬはずがありませんもの。

次に、窓の反射による錯覚。

13 : 以下、名... - 2017/01/16 17:02:39.01 NMHIafx00 13/284



ガラガラガラガラ…


いえ、こうして一切のレンズを通さずとも私の瞳はあの非現実的な光景を脳に訴え続けています。


と、なると…


Aqoursメンバーによるイタズラとしか考えられませんわ。
ははーん。成る程。そう考えると全ての合点がいきますわ。
思えば今日の皆さんは何かおかしいと感じていたのです。
そうですかあなたたちでしたのね?



あの淡島神社にいくつも光っている謎の灯火の正体は。



傘が壊れていたのも、鞠莉さんが助けてくれなかったのも、廊下中に響く破廉恥な会話も全て皆さんのドッキリの一部。
そしてあれが仕上げの仕掛け。ミーティングを無視してまず飛び出したのは淡島組の鞠莉さんと果南さん。あの二人はこっそり水上バイクで登校していますから仕掛けの準備は容易…そして他の方が帰るフリをして出て行く中残ったルビィ。私に「あんなお願い」をしたのもあそこに誘い込むためのワナ。
戸締りを終え淡島神社に向かった私を驚かそうという目論見だったのでしょう。


…面白いですわ。
いいでしょう。行ってやりますわよ。
そしてドッキリを暴いてしっかりと私の威厳を知らしめる良い機会じゃありませんか!
タッタッタッタッタッ


…………
……


ザザーン…


ダイヤ「定期船は次で最後ですか。まあ、果南さんの首根っこ捕まえて…あまり乗り気ではありませんがあのバイクで陸まで送ってもらうとしましょうか」フフッ

14 : 以下、名... - 2017/01/16 17:03:28.09 NMHIafx00 14/284



ダイヤ「はぁ…はぁ…はぁ…」ザッザッザッ


ダイヤ(いつも思うのですが、どうしてあんな高い所に神社を設けたのでしょうか?ランニングコースならともかく、本来の目的を持ってお参りされる方々の足腰に優しくないにも程がありますわ…)ザッザッザッ


ツルッ…


ダイヤ「きゃっ!?」ドサッ


ダイヤ「いたた……」


ダイヤ「……」


ダイヤ(暗い…それに先程の雨も相まって非常に転びやすくなっていますわ…)


ダイヤ「…」ギロッ


チラチラチラ…


ダイヤ(暗くなるにつれ明るさが目立ちその存在感が増していく…誰かが気付いて警察にでも連絡されたら大変ですわ!急いで止めさせないと…!)

15 : 以下、名... - 2017/01/16 17:04:04.48 NMHIafx00 15/284



ザッザッザッザッ…


ダイヤ「はぁ…はぁ…やっと着きましたわ……」ザッ



シーン…



ダイヤ(灯りが消えている…)


ダイヤ(何故…)


ダイヤ(それにこの暑さ、そして連日の雨もあって纏わり付くように不快な空気…)


ダイヤ(いえ、それとは別に空気が重い…重過ぎる。ねっとりとした空気を掻き分け心臓をキュッと掴まれるような…)


ダイヤ(これは間違いなく恐怖)


ザッザッザッザッ…


ダイヤ(しかし何故?私は鞠莉さん達の企みを既に認識し、咎めるためにやってきましたわ。つまり、ここにいるのは私だけでなく…恐らくAqours全員。何も恐れることは無い。
まあ、一度は驚かされるでしょうがその後はいつもの調子で笑う鞠莉さん、千歌さん、善子さん…続いて謝る果南さん、梨子さん、曜さん、ルビィ…最後に私の反応など無頓着に流す花丸さんがゾロゾロと出てきて安堵の空気に包まれるはず…)


ダイヤ(なのに…足の震えが止まらない…)

16 : 以下、名... - 2017/01/16 17:05:29.95 NMHIafx00 16/284



ダイヤ(ここに来るべきでは無い)



ダイヤ(体中の細胞が警告している…今すぐ引き返せと)


ダイヤ(そういう類のものは一切信じていなかったのに…)


ダイヤ(しかし、仮に何かがあるとすればここにいる皆さんが危険に晒される…!今すぐ助けないと)グッ



ダイヤ「か、果南さん!鞠莉さん!いいえ、全員今すぐ出てきなさい!」ザッザッザッ


ダイヤ「あなたたちには呆れましたわ!こんな一歩間違えば警察沙汰になるような仕掛けをしてまで私を陥れるのですか!?」ザッザッザッ


ダイヤ「一体どういうおつもりですの?学校からも丸見えでしたよ!!」ザッザッザッ



ピタッ


ーーいえ、ちょっと待ってください。

17 : 以下、名... - 2017/01/16 17:06:10.06 NMHIafx00 17/284



そもそも何故、学校からあの灯りを見ることができるんですの?
確かにこうして日没を迎えたのならともかく、四階から眺めた時は淡島を含め夕陽が町全体を紅く照らしていましたわ。
そうですわ。あの程度の光なら簡単に掻き消されてしまう…
なのに私はその一つ一つを鮮明に捉え焼き付くように…って違いますわ!!
私が見た灯りは一つ二つじゃない!!!!!
少なくとも三十は越えていた…果南さんと鞠莉さん…いえ、八人でもあれら一つ一つを揺らすのは……



クォォォォォォォン…シャラララン…
クォォォォォォォォォォォォォン…シャラララン…



ダイヤ「!?!?」


ダイヤ「何ですのこの音は…!?」



クォォォォォォォォォォォォン…シャラララン…



ダイヤ「くっ……」フラッ



ダイヤ(何ですかこれは…意識が朦朧として…)ハァ…ハァ…

18 : 以下、名... - 2017/01/16 17:06:45.42 NMHIafx00 18/284



クォォォォォォォォォォォォン…シャラララン…



ダイヤ「はぁ…はぁ……」フラッ


ドサッ…


ダイヤ(み…耳だけじゃない…全身の細胞を支配していた恐怖一つ一つを餌に次々と襲いかかってくるような……)



ダイヤ「!!」



ダイヤ(あそこに落ちているのは…)ハァ…ハァ…



ダイヤ「くぅっ…」ズズズ…



クォォォォォォォォォォォォォン…シャラララン…



ダイヤ(一体どうなっているのです…?こんなこと絶対にありえませんわ…)ズズズ…



クォォォォォォォン…シャララララン…



ダイヤ(音が…もうすぐそばまで…)ズズズ…



ダイヤ(お願いですわ…届いて…)グググッ



ダイヤ(届いてください…!)グググッ



ガシッ


ダイヤ「!!」


ダイヤ「はぁ…はぁ…と、取れましたわ……」



グチュ…

19 : 以下、名... - 2017/01/16 17:07:19.11 NMHIafx00 19/284



ダイヤ「!?!?」



グチュグチュ…



ダイヤ「あ…あぁ……ぁぁぁ…」ドクドク



「……」


「……」ペロペロ



ダイヤ「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぐぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!!!!」ドクドク



ダイヤ「い"だ"い"い"だ"い"い"だ"い"い"だ"い"い"だ"い"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"!!」ドクドクドク



グチュ…ズチュチュチュ……



ダイヤ「あ"…… 」ジワァ…



「……」ペロペロピチャピチャ



ダイヤ「…」



「……」



クオ"ォ"ォ"オ"ォォ"ォ"ォォォ"オオォォ……

20 : 以下、名... - 2017/01/16 17:07:49.00 NMHIafx00 20/284



警察「…質問はこれで以上です。また何か分かりましたらご連絡ください」


美渡「どうも…」スッ


千歌「……」


美渡「ほら千歌…行くよ…」スッ


千歌「……」コクッ



千歌「……」カツンカツン


…ほらあの子、黒澤家のお嬢さんと最後まで一緒にいた子の一人だそうよ…


…文化祭の練習で遅くまで一緒に残ってたみたい。可哀想よねぇ…突然行方不明になっちゃうなんて…妹さんもショックで寝込んじゃったんでしょ?…



千歌「……」カツンカツン



…あ、そういえばお嬢さん、日が暮れる前に淡島に向かうのを見た人がいたそうよ?何やら凄い慌ててるようだったって…


…でも不思議よねぇ。お友達の松浦さんと小原さん…だっけ?あのハーフの。あの子達の家にも行ってないって…



千歌「……」カツンカツン



…今漁師さん達と海上保安の人達と…あ、昨日帰ってきた渡辺さん達も必死に捜索してるんだって…


…でも、海に落ちちゃってたならもう…



千歌「……」ポロッ



ーーダイヤさんが…いなくなりました



【8月4日:黒澤ダイヤ失踪から1日】

21 : 以下、名... - 2017/01/16 17:08:31.44 NMHIafx00 21/284



ミーンミンミンミンミン…



千歌「……」


千歌「……」ゴロン


千歌「……」


千歌「……」


志満「千歌ちゃん…開けるね」ススス…


千歌「……」


志満「梨子ちゃんいらしてるけど、どうする?」


千歌「帰ってもらって…」


志満「……」


志満「うん、分かった…」ススッ


千歌「……」



志満「さて…」


ウゥ…ゥゥ……グズッ…


志満「!!」


志満「……」

22 : 以下、名... - 2017/01/16 17:09:01.83 NMHIafx00 22/284



梨子「はい…そうですか。分かりました…」


志満「ごめんなさいね…あ、それと窓から話しかけるのも…」


梨子「分かってます…」


志満「そう…じゃあね…」ピシャッ


梨子「……」


梨子「はぁ…」


しいたけ「くぅん…」


梨子「辛いわよね…」


しいたけ「……」


梨子「なんで…なんでダイヤさんが…」ジワッ


梨子「くっ…」ポロッ


花丸「梨子さん」


梨子「!!」


梨子「は、花丸ちゃん…?」ゴシゴシ

23 : 以下、名... - 2017/01/16 17:09:52.23 NMHIafx00 23/284



ザザーン…


花丸「……」


梨子「ここの砂浜、よく来るんだけど…なんだか現実じゃないみたい…こんなにあちこちに船が出てるなんて…」


花丸「多分あの中に曜さんもいるずら」


梨子「え?」


花丸「お父さんに泣いてすがりついて…一緒に船に乗るって聞かなかったみたいだよ」


梨子「そう…」


花丸「でも見てて許せないずら」


梨子「え?」


花丸「だって!まだダイヤさんが死んだって決まったワケじゃないのにこれだけ船を出してるってことは…」


梨子「やめて!」


花丸「え?」


梨子「死んだなんて言わないで!!!」


花丸「!!」


梨子「くぅっ…」ギュッ


花丸「ご、ごめんなさい…マルもそんなつもりじゃ…」


梨子「ううん…ごめん取り乱して…分かってる……」グスッ

24 : 以下、名... - 2017/01/16 17:10:26.63 NMHIafx00 24/284



花丸「……」


花丸「千歌さんは…」


梨子「ずっと落ち込んでるみたい…さっきも門前払いされちゃった…」


花丸「そうなんですか…」


梨子「他のみんなは…?私、怖くて携帯見れないの…」


花丸「警察の事情聴取が終わった後、それぞれ家に帰らされたみたい。ルビィちゃん以外は…警察の人曰く、ルビィちゃんは部屋から全く出られないみたい。ショックもそうだし色んな人が家に出入りしてて相当怯えてるみたい。マルが連絡しても出てくれないし…」


花丸「善子ちゃんは家にいてもしょうがないってこの後ここに来るみたい。梨子さんにも連絡したけど返ってこなくて心配してたずら」


梨子「そう…」


花丸「鞠莉さんと果南さんは音信不通…あの様子じゃ淡島からも出られないと思う…」


梨子「歩楽祭は?」


花丸「文化祭自体は予定通りやるみたい…こんな田舎の学校でも色んな企業や団体と提携してるから、ただでさえ廃校寸前なのに中止なんてできないって…」


梨子「残酷ね…」


花丸「マル達は無理だよね…仮に今日ダイヤさんが見つかっても当日踊れる程無神経じゃないずら。それに、こんなことがあったのにお客さんに楽しんでもらおうなんて…多分マル達も、お客さんもそれは無理だと思う」


梨子「うん…」


ヴヴヴヴヴヴ


花丸「?」ポチッ


LINE

堕天使ヨハネ:
バス寝過ごして学校来ちゃった

25 : 以下、名... - 2017/01/16 17:11:11.75 NMHIafx00 25/284



キーンコーンカーンコーン…


善子「おはよう…ズラ丸、梨子さん」


梨子「おはよう善子ちゃん」


花丸「学校入れるの?」


善子「職員室や部室の周りは警察関係者みたいな人が何人かいるけど、教室棟の方は多分大丈夫。裏口から入るわよ」



カツンカツンカツン…


花丸「事情聴取どうだった?善子ちゃん最後だったよね?」


善子「多分みんなと一緒よ…まず名前聞かれてダイヤさんとの関係と最後に会った時の様子と…アリバイ的なのの確認。疑われてるワケじゃないって分かってても…ちょっと堪えたかも」


梨子「みんなそうなのね…」


花丸「でも、あの後みんな真っ直ぐ家に帰ったんだよね?」


善子「ええ。果南さん鞠莉さんはバス停のところに止めてた水上バイクをすっ飛ばしてたわ。私達はみんなバスに乗ったでしょ?」


梨子「ルビィちゃんが少し遅れてたから運転手さんに待ってもらったんだよね…」


花丸「…」


梨子「?」


善子「ズラ丸?」


花丸「なんで…」


善子「?」




花丸「なんでダイヤさんは淡島へ向かったんだろう?」

26 : 以下、名... - 2017/01/16 17:12:00.02 NMHIafx00 26/284



梨子「え?」


善子「なんでって…ほ、ほら!あの後突然お説教始めそうだったから逃げた果南さんと鞠莉さんの家に殴り込みに…」


花丸「警察の人曰く、ダイヤさんが戸締りしてるのを先生が見かけたそうだよ。あの剣幕を維持するのなら、わざわざ丁寧に戸締り終えた後に行かないでそのまま追っかけるでしょ?それに最後の連絡船に乗ってまで向かう程固執する理由がないよ…正直昨日のAqoursもいつものノリだったし」


梨子「最終連絡船って18:40でしょ?流石に1時間も経てば怒りも治るよ…多分」


善子「確かに…」


花丸「でも、普通ダイヤさんが淡島に行く目的として考えられるのは、果南さんか鞠莉さんに会いに行くか、マル達と一緒にランニングに向かうか…のどっちかだよね?」


梨子「うん」


花丸「日没直前に向かったのを見たって証言があったみたいだけど、いくら足元が暗くても行き慣れてる果南さんや鞠莉さんの家に行くのに足を滑らせて海に落ちることは無いと思うずら」


花丸「それと、その時制服だったみたいだからランニングの線も薄い。それに真っ暗で湿ってるあの階段を登ろうなんて危険なことをするとは考えにくいよ」


善子「まさか…他の来場者に殺されて海に……」


花丸「それも無いずら」


善子「え…?」

27 : 以下、名... - 2017/01/16 17:12:45.60 NMHIafx00 27/284



花丸「淡島への交通手段は連絡船だけだから入場者数と退場者数が必ず一致するはず。鞠莉さんと果南さんのバイクのことは管理人さんが把握してるから大丈夫だとして…もし数が一致しなかったら警備員さんが徹底的に捜査するはずだよ。特に鞠莉さんちのこともあるから、もし退場者数が少なければ不審者を使用人総出で血眼になって探し回ると思う」


梨子「その日に来場した人は少なかったから直ぐに全員取り調べができたみたいだけど、疑わしい人はいなかったって…私が取り調べされてる時に他の刑事さんが言ってたわ」


善子「じゃあ島の裏側から別の水上バイクで侵入して犯行後に同じ手段で逃げたんじゃ…」


花丸「それも無いずら」


善子「どうして?」


花丸「昨日の夜は曜さんのお父さんが大きい船で沼津港へ帰ってきてたから多分周辺の警戒態勢は万全だったと思うよ。難しいことはよく分からないけど、進行中そういう小さなボートとか巻き込まないようにレーダーとかで周辺の海域を常に監視してるらしいし」


善子「成る程…じゃあ犯人が外部から侵入した可能性はゼロに近いわね」


梨子「…ってことは、ダイヤさんは鞠莉さんか果南さんに何の前触れもなく訪問しようとした?」


花丸「仮にそうだとすると戸締りを終えてからその要件を思い出した、或いは要件ができたことになるけど、余程重要な事とは言え最終連絡船に乗るくらいなら連絡して向こうから来てもらう方がダイヤさんにとってもいいと思わない?」


善子「ああ…それもそうね」


梨子「どういうこと?」


善子「そうなった場合、どちらかの家に行ってる間に連絡船は陸に戻っちゃうから必然的に水上バイクで陸まで送ってもらうことになるけど…」


花丸「ダイヤさん、あのバイクとっても苦手ずら」


梨子「へ、へぇ…」

28 : 以下、名... - 2017/01/16 17:13:25.22 NMHIafx00 28/284



善子「だから二人が目的ってワケでもなさそうね」


花丸「つまり、まとめるとこうだよ。
下校時刻の17:30、マル達はそそくさと下校。でもダイヤさんは残って着替えた後戸締りをして下校したのが大体18:00前くらい、それまでに何かしらの理由があって淡島に行かなければならない理由ができたのでダッシュで向かう。その時間に走ってるダイヤさんを見たって人がいるらしい。最終連絡船の出航時間18:40になんとか間に合い淡島に着いたダイヤさんは果南さんにも鞠莉さんにも会うこと無く日没の19:00頃完全に消息を断つ。でも海には落ちてないから島のどこかで今も助けを待っている可能性が高いずら」


善子梨子「おぉ!!」


善子「ズラ丸…あなた中々やるわね…」


梨子「凄いよ花丸ちゃん!…ってことはダイヤさんが助けられるのも時間の問題だね!」


花丸「船が多くて不安だけど、最近の度重なる雨のせいで島内の捜索が危険だと判断されたからまずは海の捜索に重点を置いているんだと思う。島を本格的に探せばすぐに見つかるずら」ズズッ


善子「それじゃあルビィにも連絡を…」


花丸「ダメだよ…ルビィちゃん、いくら連絡しても返って来ないし家は捜査関係者ばっかでマル達が入れるような状況じゃない…」


善子「そんな…」


花丸「それに、それっぽい理論並べたとは言え所詮は仮説だし…根っこから違うかもしれない…」


梨子「まあでも…ダイヤさんの身の安全は分かったようなもので…」



「こらお前達!勝手に入ってきちゃダメだろ!!」

29 : 以下、名... - 2017/01/16 17:13:56.84 NMHIafx00 29/284



善子「ヤバい見つかった!!」ダッ


梨子「ちょ、ちょっと善子ちゃん!!」ダッ


花丸「ふ、二人とも…」



花丸「!!」


ヒュォォォォォォ…


花丸(あれ?あの窓だけ開いてる…他の窓は全部閉まってたのに)


花丸(なんでここ4階の角だけ…)



「こら国木田!!」ガシッ



花丸「ずら!?」


善子「ズラ丸!!」


梨子「花丸ちゃん!!」

30 : 以下、名... - 2017/01/16 17:14:22.93 NMHIafx00 30/284



善子梨子花丸「すみませんでした」


「辛いのは分かるけど…今警察が地元の方々にも協力していただいて必死に捜索してるから…信じて家で待っててくれ」


善子梨子花丸「はい…」



サァァァァァァァァァァァ…


「雨か…仕方ないな。先生の車に乗ってけ」

31 : 以下、名... - 2017/01/16 17:14:55.80 NMHIafx00 31/284



サァァァァァァァァァァァ…

チョロチョロチョロ…カコーン!!



花丸「雨…止まないね…」コトッ


善子「結局今日もまともな捜索が始まらないまま日が暮れちゃうじゃない」ズズッ


梨子「このままだとダイヤさんが…」ズズッ


花丸「ねえ、二人とも」ズズッ


善子梨子「?」



花丸「淡島に忍び込んでみない?」


善子梨子「はぁぁぁぁ!?!?!?」


善子「あなた何言ってるの!?」


梨子「そうだよ花丸ちゃん。さっき散々淡島とその周辺のセキュリティについて語ってたのにどうやって……こう言っちゃなんだけど、それは探偵ごっこにも度が過ぎると思う」


花丸「でもこのままじゃダイヤさん、また一晩中雨にさらされることになるよ…ダイヤさんが助かるならマル達が怒られるくらいどうってことないよ…」


梨子「でも…」


花丸「お願い…」


善子「……」


善子「分かったわ」


梨子「善子ちゃん!?」

32 : 以下、名... - 2017/01/16 17:15:37.93 NMHIafx00 32/284



善子「私もダイヤさんを助けたいもの。今は三人だけだけど…またみんなで九人揃ってAqoursの活動したいし……少しでも力になりたい」


梨子「……」


花丸「梨子さん…」


梨子「はぁ…分かったわ」


善子花丸「梨子さん!!」


梨子「ただし、ダイヤさんは暗くなってきた時一人でいたことで今回のような事故にあったわ。私たちもミイラ取りがミイラにならないよう常に三人で固まって行動すること。いい?」


善子「分かってるわよ!」


花丸「それじゃあ21:00に連絡船乗り場に集合ずら!」

33 : 以下、名... - 2017/01/16 17:16:25.37 NMHIafx00 33/284



ヒュォォォォォォォォ…


梨子「雨止んでよかったわね」ヒソヒソ


花丸「警察の人ももういないずら」ヒソヒソ


梨子「お家の人は?」ヒソヒソ


花丸「大丈夫、ちゃんと梨子さんの家に泊まるって言ってきたから」ヒソヒソ


梨子「え」


善子「私も同じよ」ヒソヒソ


梨子「私今部屋で寝てることになってるんだけど…」ヒソヒソ


善子花丸「……」


善子「ところでズラ丸、なんで21:00なのよ?」ヒソヒソ


梨子「ちょっと」


花丸「それは…」



ブロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ……

34 : 以下、名... - 2017/01/16 17:17:07.33 NMHIafx00 34/284



善子梨子「!?」


善子「船のエンジン音!!」ヒソヒソ


梨子「どういうこと!?警察の人はもう帰ったし連絡船も無いのに…」ヒソヒソ


花丸「鞠莉さんちの船ずら」ヒソヒソ


梨子「え!?」


花丸「毎週火曜日、この時間はメンテナンスしてたクルージング用の船を島に運ぶんだよ」ヒソヒソ


善子「あなたよくそんなこと知ってるわね」ヒソヒソ


花丸「事故の影響で今日は無いかもって思ってたけど…よかった…」ヒソヒソ


花丸「いい?あそこに船が二隻あるでしょ?後ろの船が鞠莉さんちので、それを前の船でけん引するずら。だから運転手さんにバレないように鞠莉さんちの船に忍び込んでやり過ごすよ」サササッ


善子「了解…」サササッ


梨子「待って二人とも!」サササッ

35 : 以下、名... - 2017/01/16 17:17:50.41 NMHIafx00 35/284



梨子「…」ドキドキ


善子「ズラ丸もう少しそっちに詰めなさいよ」グイッ


花丸「これが限界ずら」ムギュッ


梨子「しっ誰か来た」


善子花丸「……」ゴクリ



「…ったくおっかねぇなぁ…またあんな事件があったのに…こんな時間に淡島に船を出せだなんて…小原さんとこは年寄りをなーんだと思ってるずら」ヨボヨボ


善子「船の操縦士ね。この声…ヨボヨボのおじいちゃんみたいだしきっとバレないわよ」ヒソヒソ


梨子「またあんな事件…?どういう事?」ヒソヒソ


花丸「最近この辺で行方不明者が出た事件なんてあったっけ?」ヒソヒソ


善子「どうせボケてるのよ…ほら、ご飯食べたのに飯はまだか~?って聞く年寄りのテンプレボケよ」ヒソヒソ


花丸「だといいけど……」ヒソヒソ


梨子「よくはないけどね」ヒソヒソ

36 : 以下、名... - 2017/01/16 17:18:22.33 NMHIafx00 36/284



ブロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ……



梨子(うわ…夜の淡島ってこんな感じなんだ…本当に真っ暗ね。明かり一つない…不気味過ぎる…)


梨子(こんなとこに掻き分け入ってくなんて…私たちも消されたりしないよね?)


梨子(でも、本当にダイヤさんがまだこの島のどこかにいるんだったら怖くて怖くてたまらないんじゃないかな…大丈夫かな…一日とは言え何も口に入れてないだろうし…)


ギュッ


梨子「!?」


善子「大丈夫よ。私は堕天使ヨハネ。この島に魔獣がいたとしてもすぐに従えてやるわ」


梨子「善子ちゃん…」


梨子「ふふっありがとう」ニコッ


花丸「……」


花丸(遠くでよく分かんないけど…あそこが鞠莉さんの部屋だったかな?明かりは付いてないみたい…)


花丸(……)


花丸(みんなどうしてるんだろう…)

37 : 以下、名... - 2017/01/16 17:19:10.37 NMHIafx00 37/284



ブロ ロ ロ ロ ロ……



善子「着いたわ」ヒソヒソ


梨子「あとは運転手さんだけど…」ヒソヒソ



「ありゃ?部品どこに積んだっけかな?」



花丸「一瞬でもいいから船から離れて…」ヒソヒソ



「あ~思い出した後ろの船に乗せたんだったわい」ヨボヨボ



善子梨子花丸「!?!?!?」


善子「ちょちょちょちょ…ちょっとちょっと!?こっち来たわよ!!」ヒソヒソ


花丸「しまった…足元にあるこの金属のことだ…」ヒソヒソ



「え~っと確か…」ヨボヨボ



梨子「ダメ…バレる……」ギュッ


善子「くっ…ここまでか…」ギュッ


花丸「……」ギュッ



「うぅぅその前にしょんべんだしょんべんだ漏っちまうわい」タッタッタッタッ



シーン…


善子「……」


梨子「……」


花丸「……」


善子梨子花丸「ほっ…」

38 : 以下、名... - 2017/01/16 17:19:55.19 NMHIafx00 38/284



リーンリーン
コロコロ…シャンシャン…


梨子(夜の淡島…凄い迫力ね…今まで緑黄緑に認識してた物が全部ドス黒くのしかかってくる気分…)


梨子「つ、着いたはいいけど…どこを探すの?こんなに広くて…それに真っ暗……」


花丸「島の周囲はもう見ただろうから、淡島神社の方に行ってみよう」


梨子(よりによって一番怖いところに…)


善子「安心しなさい。二人にこのヨハネの魔道具を貸すわ」スッ


梨子花丸「じーっ…」


花丸「これは…」


梨子「何?」


善子「ロザリオよ。ロザリオ。魔術店で特別に仕入れた代物よ。安心しなさい。更にこのヨハネの魔力を込めてあるから持っているだけで下級魔獣は近づけなくなるわ」


花丸「いつもならガラクタ扱いなんだけど…」


梨子「藁にもすがる思いとはこのことね…」ギュッ


善子「さあ、行きましょう。目指すは淡島神社よ」ズカズカ


花丸「善子ちゃん危ないよ!」タッタッタッタッ


梨子「三人一緒じゃないと…」タッタッタッタッ

39 : 以下、名... - 2017/01/16 17:20:38.19 NMHIafx00 39/284



梨子「…」カツン…カツン…


花丸「…」カツン…カツン…


善子「…」カツン…カツン…


梨子「ね、ねえ…今どのくらい上った?」


善子「も、もうかなり上ったんじゃないかな?」


花丸「まだ半分も行ってないんじゃ…」


梨子(鳥居がどんどん遠ざかっていく…階段を一歩…また一歩進むたびにどんどん現実から遠のいていくような気がする…一体私たちはどこを目指しているんだろう)


梨子(もう二度とこんなとこでランニングなんてしたくない…)


ガサガサガサガサ…


善子梨子花丸「ひぃっ」ブルル


善子「何…」ガクガク


梨子「わ、分かんない…」ガクガク


ガサガサガサガサ!!


花丸「来る!…」ガクガク



シュルシュルシュルシュルシュルシュル…

40 : 以下、名... - 2017/01/16 17:21:08.13 NMHIafx00 40/284



善子梨子花丸「!!」


善子「へ…ヘビ……」ガクガク


花丸「しかも大きい…」ガクガク


梨子「お、落ち着いて…ただのヘビよ。殺人犯でも幽霊でもない…ゆっくり進みましょう?」


善子「そ、そうね…」カツン…カツン…


花丸「それもそうずら…」カツン…カツン…


梨子(この中で私が一番上なんだから…怖くてもしっかりしなくちゃ…)



カツン…カツン…カツン…


善子「ここを登ったらいよいよ神社だけど…」


梨子「ここまででダイヤさんはいなかったわよね?正直ほとんど見渡せてないけど…」


花丸「ということはこの上にダイヤさんが…」


善子「…せーので覗きましょう」


梨子「…」コクッ


花丸「…」ゴクリ


せーの!!

41 : 以下、名... - 2017/01/16 17:21:57.06 NMHIafx00 41/284



ダイヤ「ダズゲデ ダズゲデ ダズゲデ ダズゲデェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"」


ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!!



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ガバッ


「……」


コチッ…コチッ…コチッ…コチッ…


「あ…あぁ……」


「ゆ…め…」ポロッ



朝、ダイヤさんのことを聞いて居ても立ってもいられなかった私は、お父さんに無理を言って捜索の船の一つに乗せてもらった…分かってた。
船に乗るってことはそう、海に浮かんでいるか沈んでいるダイヤさんを探すということ。
でも、ジッとなんかしてられない。
何か役に立ちたかった。
ごめんねダイヤさん。
見つけられなかったよ…


コンコン…


「は、はい!」ゴシゴシ


「曜、大丈夫か?」ガチャ


「う、うん。大丈夫だよ…」


「そうか…心配するな。何としてでも黒澤家のお嬢ちゃん、探し出して見せるから」


「……」


「あぁ、それと…お友達が来てるぞ」スッ


「へ?」


「……」ヒョコ


「!!」




千歌「ごめんね曜ちゃん…こんな遅くに…」

42 : 以下、名... - 2017/01/16 17:23:13.50 NMHIafx00 42/284



ザザーン…


「……っていう夢を見たんだ」


千歌「……」


「ダイヤさんは必死に助けを求めてた…喉が張り裂けるような声で…」


「そんな気持ちも知らないで私は海に出ちゃった…最低だよね……」


千歌「そんなことない」


「え?」


千歌「私はずっと家にいて何もしてなかった。美渡ねえ志満ねえ、それに梨子ちゃんも邪険にしちゃった…みんな辛いのは一緒なのに…」ポタポタ


「千歌ちゃん…」ギュッ


千歌「私ね…ダイヤさんが生きているって信じたい」ギュッ


「!!」


千歌「きっとまだどこかで助けを求めてる。私たちが見つけてくれるのをずっと待ってる。そんな気がする…だから諦めない」


「うん…私も」ギュッ


千歌「帰ったらみんなに謝らないと…」


「志満さんも美渡さんも…それに梨子ちゃんも、きっと分かってくれると思うよ」


千歌「うん…そうだよね!」



「また九人でやりたいねAqoursの活動…」

43 : 以下、名... - 2017/01/16 17:24:20.25 NMHIafx00 43/284



シーン…


善子「……」


梨子「……」


花丸「……」


善子「何も…いないわね…」


梨子「うん」コクッ


花丸「ぱっと見ダイヤさんも…いないね」


梨子「うん…」コクッ


梨子(神聖なはずの鳥居、絵馬、賽銭箱、拝殿…全てが不気味に見えるわ…こんな木が鬱蒼と茂る中に佇んでるんだから、昼はまだ不思議だなで済むかもしれないけど夜は恐怖以外の何物でもないわ。これが夜の神社…)


梨子(でもダイヤさんがいるとしたらここしかないわよね?他に行くあてが無いし…だとしたら何故?)


花丸「もしかしたら茂みに隠れているのかもしれない。もっとよく調べるずら」


善子「分かったわ…」


梨子「みんなはぐれないでね」



カツン…カツン…



善子梨子花丸「!?!?!?」

44 : 以下、名... - 2017/01/16 17:25:16.57 NMHIafx00 44/284



梨子「足音…」


善子「だ…誰か登ってくるわ…」



カツン…カツン…



花丸「誰にしろ見つかったらマズい…拝殿の裏側に隠れよう!」タッタッタッタッ


梨子「うん…!」タッタッタッタッ


善子「待って!」タッタッタッタッ



……
…………


カツン…カツン…


梨子「…」ドキドキ


花丸「…」ギュッ


善子「…」ゴクリ


ピタッ


善子「上がってきたわね…」


花丸「こ、こんな時間に誰だろう?」


梨子「警察は帰ったはずじゃ…」

45 : 以下、名... - 2017/01/16 17:25:54.65 NMHIafx00 45/284



カツン…カツン…


善子梨子花丸「!!」


花丸「は、拝殿に向かってるよ…」


梨子「大丈夫…さすがに裏までは…」




ピタッ…


善子「…?」


花丸「止まった?…」


梨子「…」ゴクリ


……
…………

カツン…カツン…


善子「やっと動き出したわね…」


花丸「またこっちに向かってる…」


梨子「バレないよね?本当にバレないよね?」

46 : 以下、名... - 2017/01/16 17:26:40.10 NMHIafx00 46/284



ピタッ…


梨子「?」


花丸「また止まった?」


善子「そうみたいね…」


……
…………


カツン…カツン…


梨子「また歩きだしたわ…」


善子「あぁもうじれったい…」


花丸「……」


ピタッ…


………
……………


善子「どういうこと?あれから十分くらい経つわよ」


花丸(あれから一向に動きが無い…というか、明らかに奇妙ずら。止まって歩いてを繰り返して…何かを探してるようでもないし一体何を……)


善子「ちょっと出て覗いてみる?」


梨子「待って、まだ油断はできないわ…」スッ

47 : 以下、名... - 2017/01/16 17:27:17.51 NMHIafx00 47/284



タッタッタッタッタッ…


善子梨子花丸「!?!?」


善子「また誰か登って来るわ…!」


花丸「しかも駆け足…」


梨子「今度は誰!?」



「はぁ…はぁ…見つけましたよお嬢様!」


「!!」


「旦那様も心配しておりました。部屋にお戻りください」


「ノー!イヤよ!!絶対にダイヤを探すんだから!!」


梨子「この声…鞠莉さん!?」


「お気持ちは大変よく分かりました。明日からは我々も協力して全力で捜索致します。ですので今日はお戻りください。まだ犯人がうろついている可能性があります」


「犯人…って、何でそんなこと言うのよ!!ダイヤが殺されたとでも言うの!?」


善子梨子花丸「!!」

48 : 以下、名... - 2017/01/16 17:28:01.68 NMHIafx00 48/284



「ダイヤは…ダイヤは殺されてなんてないの!!絶対にどこかで…うぅ…ごめんなさいダイヤ……」ボロボロ


「戻りましょう。お嬢様」



カツン…カツン…カツン…



善子「……」


梨子「……」


花丸「……」



梨子「行っちゃったね…」


善子「ええ、みんな考えてることは同じなのね」


花丸「うん。ダイヤさんのことが大好き。そして信じてる。それはみーんな同じずら」


梨子「鞠莉さんのためにも…絶対にダイヤさんを助けてみせましょう」


善子 「そうね!」


花丸「ずら!」




「お前達、ここで何をしている?」

49 : 以下、名... - 2017/01/16 17:28:41.88 NMHIafx00 49/284



善子梨子花丸「!?!?!?!?!?」


善子「ひっ…」


花丸(いつの間に後ろに…)


梨子(や、やっぱり犯人が…いた…)


善子「い…いやーー」


バッ


善子「うぐっ!?」


花丸「善子ちゃん!!」


梨子「もうダメ……」ジャラン…


梨子「……」


梨子「…って、あれ?」


花丸「あ!!」


「しーっ!」


善子「うぐっ!?」


梨子花丸「か……」



「「果南さん!!」」


果南「はぁ…全くもう」ポリポリ

50 : 以下、名... - 2017/01/16 17:29:18.09 NMHIafx00 50/284



果南「ごめんね?驚かしたりして」コトッ


花丸「ありがとうございます」ズズッ


梨子「うぅぅ…えぐっ…怖かった…怖かったよぉぉ…」ズビッ


果南「よしよし頑張ったね…梨子」ナデナデ


果南「でも、こんな時間に何してたの」


善子「うっ…」


果南「私の家の前をこそこそ横切る影が三つもあったから…恐る恐る後をつけてみたらこれが落ちてた」チャリン


善子「あ!私のロザリオ!!」


果南「てっきり残り二人は千歌や曜かと思ったんだけど…まさか花丸と梨子だなんてね。残念だけど意外だったよ」


花丸「……」


梨子「……」


果南「どうやって忍び込んだかは聞かないでおいてあげる。でも…ダイヤが……くっ…
あんな…あんな事件があった後で女の子三人でこの暗闇を歩き回るなんて正気なの!!?」バンッ!


善子「それは…」


花丸「ごめんなさい…」


果南「もしまだ島の中に犯人がいたらどうするつもりだったの!?あんたたちも殺されてたかもしれないんだよ!?」


梨子「えっ?」バッ


果南「もうヤダよ…これ以上大切な人がいなくなるなんて……私……うぅ…」ポタポタ


花丸「果南さん」


果南「何?」グスッ


花丸「多分だけど、ダイヤさんは殺されてなんかないよ」


果南「え?」


果南「そ、それってどういうこと!?」ガタッ


花丸「実は…」

51 : 以下、名... - 2017/01/16 17:30:18.96 NMHIafx00 51/284



…………
……

果南「成る程…確かに、筋は通ってる」


梨子「それで、ダイヤさんはまだ淡島のどこかにいるんじゃないかって」


果南「そうだったんだね…私、てっきりダイヤが殺されたのかと思ってた…朝外に出て飛び込んで来たのは大量の警察関係者と大量の船と…島中に貼られた立ち入り禁止のテープ…最初は何が何だか分からなくて混乱してたけど、事情聴取に呼ばれて初めてダイヤのことを知った…最初は何を言ってるのか分からなかった…夢でも見てるんじゃないかって思ってたけど…嘘じゃないって分かると共に、あの状況を勝手に解釈して島で殺されて海に落とされたんじゃないかって……」


果南「勿論信じたくなかった…でも、その辺で話してる警察の人もみんなもうダメだとか…可哀想に…とか話してるし……」


花丸「果南さん…」


果南「でも、花丸の言う通り。確かに…今日は土砂崩れを気宇してほとんど島内の捜索が行われなかったみたい。それに、忍び込めるような人もいないから殺されてもない。パニックしてたから全然整理がつかなかったけど、ちょっと考えれば分かることだったね…」


果南「私バカだな…今日一日ダイヤのことで頭いっぱいだったのに…それ全部死んだこと前提で考えてたんだ…信じてなかったんだ……最低」


梨子「そんなことありません!果南さんは…」


果南「ううん。いいの…あの時すぐ帰ってダイヤの話を聞いていればこんなことには…」


善子「違う!!」

52 : 以下、名... - 2017/01/16 17:31:11.43 NMHIafx00 52/284



果南梨子花丸「!?!?」


善子「らしくないわ。誰のせいとかじゃないでしょ!!あんまりグチグチ言ってると天罰下すわよ!」


花丸「よ、善子ちゃん…」


善子「あの時確かにみんなふざけて帰ったりしたけど…誰もダイヤさんをこんな目に合わせようなんて考えてなかったでしょ!?だから違うの!!誰も悪くない!!」


ギュッ


善子「!!」


果南「ごめんね善子…ありがとう」ギュッ


梨子「果南さん…」


花丸「……」


善子「うぅ…」グズッ


果南「花丸も梨子も…ありがとう」


花丸「ずら!」


梨子「ええ、ダイヤさんを信じましょう!」


果南「うん!」


果南「さて…今日はもう遅いから…こっそりバイクで陸まで送ってあげる。もうダメだよ?こんなことしちゃ…」


善子「ふ、ふん!分かってるわよ!」ゴシゴシ


梨子「もう二度と来たくない…昼にも…」ビクビク


果南「あはは…」


花丸「さっきの鞠莉さんみたいに取っ捕まりたくないし…」


果南「え?」

53 : 以下、名... - 2017/01/16 17:31:39.62 NMHIafx00 53/284



梨子「じゃあ果南さん、よろしーー」



果南「ちょっと待って」


善子梨子花丸「??」


花丸「どうしたの?」


果南「本当に鞠莉に会ったの?」


善子「そ、そうよ…」


梨子「正確には、その鞠莉さんから隠れてたんだけどね…まさか鞠莉さんだなんて思わなかったし…」


花丸「果南さんは鞠莉さんに会わなかったの?」


果南「うん…どうして……」



梨子(確かに…普通にあの階段を登ってきたら二人は絶対遭遇するはず…)


梨子(じゃあ私たちが聞いたあの音と声はなんだったの?)


梨子「……」ゾワッ


花丸「……」


果南「さ、さあ、行こう」スッ


善子「そ、そうね…」スッ


花丸「夜遅くにお邪魔しました…」



梨子(何だろうこの胸騒ぎ……)


梨子(物凄く嫌な予感がする……)

54 : 以下、名... - 2017/01/16 17:32:12.97 NMHIafx00 54/284



ピピピピッ
ピピピピッ


梨子「う…うん……」ポチッ



梨子「ふわぁ……」ノビー


梨子「ん?」チラッ


花丸「くかー」スヤスヤ


善子「すぴー」グゥグゥ


梨子「……」


梨子「はぁ…そうだったわね…」


梨子「……」チラッ


梨子「千歌ちゃん…まだ落ちこんじゃってるのかな…」


梨子「…志満お姉さんに言われてたけど…やっぱり気になっちゃうよ」スッ


梨子「よし…覗いてみよう」ゴクリ



バサッ!!



梨子「!!!!!!!!!!」



千歌「梨子ちゃん!!おはよう!!!!」

55 : 以下、名... - 2017/01/16 17:32:55.04 NMHIafx00 55/284



梨子「ち…千歌ちゃん!?」


志満「ほら千歌ちゃん。また叫ぶと美渡ちゃんに怒られるわよ?」


千歌「えーだって朝の開口一番は梨子ちゃんちに叫ぶのが習慣で…」


美渡「バカ千歌ー!!うるさーい!!!」ドンガラガッシャン!


千歌「げっ…マズい!あ、あとでバス停でね梨子ちゃん!!」ダダダダダッ



梨子「…」ポカーン


花丸「うーん…何ぃ?」ゴシゴシ


善子「ふわぁ…朝からうるさいわねぇ…」ノソノソ


梨子「千歌ちゃんが……」


善子花丸「?」


梨子「千歌ちゃんが…元気になった…」



【8月5日:黒澤ダイヤ失踪から2日】

56 : 以下、名... - 2017/01/16 17:33:37.91 NMHIafx00 56/284



プップー
イッテキマース!



千歌「えぇぇ!?三人でお泊まりしてたの!?」


梨子「う…うん。そうだけど…」


千歌「ずるーい!私にも言ってよー…」ショボン


梨子「いや…だって昨日は…」


千歌「もう!梨子ちゃんのいじわる~」


ワイワイ
ギャーギャー


善子「どういうこと?」


花丸「分からない…昨日はひどく落ち込んでたらしいけど…」


善子「それに…学校行こうだなんて…どうせ今日も開いてないわよ」


善子「全く…吹っ切れたのかしら…」


花丸「……」


善子「ズラ丸?」


花丸「海を見て」


善子「!!」


花丸「船が一隻も無い…」


善子「なんで…」


花丸「昨日はあんなにたくさんあったのに…」


善子「き、きっとアレよ…海にいないって分かって島の中の捜索に移ったんだわ」


花丸「だといいけど…」

57 : 以下、名... - 2017/01/16 17:34:18.03 NMHIafx00 57/284



キーンコーンカーンコーン…


梨子「学校が…」


善子「開いてる…」


花丸「ずら…」


千歌「もう…何してるの?早く行くよ!」ダダダダダッ


梨子「あ…ちょっと…」


梨子「行っちゃった…」


善子「もしかしてこれは…」


梨子「ん?」


花丸「全部夢だった」


梨子「!!」


花丸「やっぱそうだよ。昨日までの張り詰めた空気も警察関係者も全く無い。学校も普通に文化祭の準備が始まってるし…」


善子「これは間違いなくいつもの内浦…」


梨子「確かに……」


梨子「なんだそうだったんだ…長い悪夢だったんだ…」


梨子「!!」


梨子「と、いうことは!」


善子「ええ、屋上に向かうわよ!」


花丸「うん!!」



タッタッタッタッタッタッ…


バタン!


善子梨子花丸「ダイヤさん!!」

58 : 以下、名... - 2017/01/16 17:34:50.37 NMHIafx00 58/284



「あ!梨子ちゃん、善子ちゃん、花丸ちゃん!おはヨーソロー!!」


鞠莉「Oh~三人して遅刻デスカ?もっとパンクチュアリーに生活しなきゃダメですよ!」ビシッ


果南「ふふっ…さてはあの後夜更かししたな~?」


千歌「えっ!?あの後って何!?まさか果南ちゃんも途中まで一緒だったの!?」


果南「ふふふ…千歌にはなーいしょ!」


千歌「ええ果南ちゃ~ん!!」


ワイワイ
キャッキャッ


善子「本当に元通りね…」


花丸「う…うん。信じられないずら…」


梨子「ダイヤさんはまだいないみたいね…」



「さあ、全員揃ったしステップ合わせよう」パンッ


善子梨子花丸「!?!?」

59 : 以下、名... - 2017/01/16 17:36:13.52 NMHIafx00 59/284



果南「よーし、じゃあ最初は肩慣らーー」


梨子「ちょちょちょちょっと待って!!」


四人「?」


鞠莉「ホワッツ?」


「どうしたの梨子ちゃん?」


梨子「これで全員ってどういうこと!?ダイヤさんは!?」


千歌「梨子ちゃん?」


梨子「あれは全部夢だったんだよね?殺されてなんかないよね?ダイヤさんは生きてるんだよね?そうだよね!?」


千歌「梨子ちゃん」


梨子「千歌ちゃん!ダイヤさんは来るんだよね?歩楽祭のステージ一緒に踊るんだよね!?今日もその練…」


千歌「だから梨子ちゃん!!!」


梨子「!!」





千歌「ダイヤさんって……誰?」

60 : 以下、名... - 2017/01/16 17:36:47.02 NMHIafx00 60/284



梨子「え……」


善子「は……?」


花丸「誰って……」


花丸「黒澤ダイヤさんだよ!!浦の星女学院の生徒会長でAqoursのメンバーの!!黒髪パッツンで完璧主義者でいつもガミガミお説教するけど本当は優しくて温かくてそれにチョローー」


鞠莉「ンノー!!生徒会長はこの私よ!!」


花丸「!?」


花丸「じゃあ理事長は…」


鞠莉「それもこのマリーよ!私は理事長と生徒会長を兼ねている浦の星女学院の絶対的女王なのデース!」フンス


善子「あ…あなたたち一昨年まで三人でスクールアイドルやってたんでしょ!?」


果南「え?鞠莉と二人だったけど…」


善子「そんな…」


「さっきからどうしちゃったの三人とも?Aqoursはずっと七人でやってきたじゃん!」


花丸「七人…」


花丸「!!」


花丸「ルビィちゃん…一年生の黒澤ルビィちゃんは!?」

61 : 以下、名... - 2017/01/16 17:37:45.33 NMHIafx00 61/284



「ルビィちゃん…あぁ、あの黒澤家の女の子だっけ?」


花丸「そうだよ!ルビィちゃんとそのお姉ちゃんであるダイヤさんが加わって九人!Aqoursはずっと九人でやってきたずら!!」


果南「黒澤家に娘さんって二人もいたっけ?」


千歌「ううん。ルビィちゃんって子が一人だと思ったけど…かわいそうだよね。そのルビィちゃんも入学してから全然学校来れてないし…」


花丸「そんな…なんで…」


果南「あ、さては三人とも…あの後こっそりお酒飲んだでしょう?それでみんなで酔っ払ってるんじゃない?」


梨子「!!」


千歌「えぇぇぇぇぇ!?!?あの真面目な梨子ちゃんが…」


梨子「飲んでない!!」


鞠莉「ふむ…これはよくありませんね三人とも」


善子梨子花丸「!?」


鞠莉「確かにルビィは不登校だけれど…本人は頑張って来ようとしてるのデス!それを…ダイヤ?っていう架空のシスターを生み出して馬鹿にするなんて…怪談話のつもり?ホラーは好きですが、さすがにこれは関心できません!!」


梨子「…」ブチッ


千歌「ほら梨子ちゃん…ふざけるのもいい加減にーー」



梨子「ふざけてるのはあんたたちでしょうが!!!!!!!!!!!」

62 : 以下、名... - 2017/01/16 17:38:24.65 NMHIafx00 62/284



六人「!?!?!?」



花丸「梨子さん…」


善子「……」


梨子「うぅ…ぅぅ…う…ぐすっ……」ポタポタ


果南「梨子…」


鞠莉「……」


千歌「り…梨子ちゃん…」


「一体どうしちゃったの…?体調悪いなら保健室に…」


梨子「そうね…私の体調が悪いのよね。大切な大切なメンバーのことなんてそうやって知らないフリするのが当然よね。ええ、私がどうかしてたわ。いい。自分で保健室に行くから…さよなら」スッ



バタン!!!



千歌「梨子ちゃん!!」


鞠莉「ストップ千歌っち!」


千歌「で、でも…」


果南「梨子も、歩楽祭の様子は初めてで慣れてないから疲れちゃったのかもね…」


「うん…心配だけど、とりあえずそっとしておこう。後で保健室に行こ?ね?」


千歌「うん…」


鞠莉「お二人さんもイイですか?」


善子「何よ…良いワケなーー」


花丸「はい!もう大丈夫ずら!」

63 : 以下、名... - 2017/01/16 17:38:59.69 NMHIafx00 63/284



善子「ちょ、ちょっとズラ丸あんた…!」


花丸「今はとりあえず話を合わせて…」ヒソッ


善子「……」


善子「分かったわよ…」ヒソッ


善子「わ、悪かったわね!!この堕天使ヨハネが下級魔族のまやかしにかかるなんて…油断は禁物ね」フッ


鞠莉「イェア!いつも通りのヨハネデース!



「はぁ…じゃあ始めよう!」


果南「よし、じゃあ並んで!」


善子「あ…あの、ごめんなさい。私、まだ補修が残ってて…」


鞠莉「オーマイゴッド…」


果南「あちゃー忘れてたわ…」


「千歌ちゃんは大丈夫だっけ?」


千歌「も、もう終わったよ!」


善子「わ、悪いわね…ソレイユが天頂の刻を告げるまでには戻るわ!!」タッタッタッタッタッ


花丸「……」



「そ、それじゃあ始め!!」

64 : 以下、名... - 2017/01/16 17:39:34.66 NMHIafx00 64/284



梨子「……」

ーー
ーーーー


ダイヤ『これは今までの…スクールアイドルの努力と、町の人たちの善意があっての成功ですわ!!勘違いしないように!!』



ダイヤ『ぶっぶー!!ですわ!!!』



ダイヤ『残念ですけど……ただ、あなたたちのその気持ちは嬉しく思いますわ。お互い頑張りましょう?』



ダイヤ『お帰りなさい…よく頑張ったわね』


ーーーー
ーー


梨子「……」ポタポタ




花丸「ここに居たずらね…」スッ


梨子「は、花丸ちゃん…どうしてここに…」


花丸「マルは図書委員でもあるずら」

65 : 以下、名... - 2017/01/16 17:40:29.33 NMHIafx00 65/284



花丸「…千歌さん達、もう帰っちゃったよ。終わってから梨子さんを探してたんだけど」


梨子「そう…いいわよ別に…ダイヤさんのことを忘れちゃう人たちなんて…」


花丸「忘れたわけじゃないよ」


梨子「え…?」


花丸「だから、千歌さんたちはダイヤさんのことを忘れたわけじゃないんだよ」


梨子「それってどういう…」


善子「ダメよズラ丸!補修抜け出して職員室の色んな名簿調べたけど、どこにもダイヤさんの名前がないわ!」ガラガラガラ


梨子「善子ちゃん!」


花丸「やっぱり…間違いないずら」


善子「嘘でしょ?こんなことが現実に起きるなんて…まだ夢を見てるんじゃないかしら…」


花丸「さっき何度もほっぺたつねったずら」グイッ


善子「いでででででで」ジタバタ



梨子「ちょ、ちょっと待って!一体どういうこと!?」


花丸「梨子さん。今日調べていくつか分かったことがあるよ。にわかに信じがたいかもしれないけど、よく聞いてね。」


梨子「う、うん…」ゴクリ


花丸「まず…」




花丸「ダイヤさんは元々この世界に存在しなかったことになってるずら」

66 : 以下、名... - 2017/01/16 17:41:05.54 NMHIafx00 66/284



梨子「!?!?!?」


梨子「なにそれ…」


花丸「昨日、ダイヤさんが失踪したことで内浦はかつてないくらい物騒だったよね?あちこちを警察関係者が駆け回って、静かな海には大量の船が浮かんで…Aqoursのメンバーだけじゃなくて町の人みんな悲しんで不安がっていたよ」


花丸「でも今日になって、その事件がまるで嘘みたいにみんなが元の生活に戻っている。ダイヤさんだけが欠けたまま…」


善子「最初は私も戸惑ったわ。でも、こんな不謹慎で薄情なことを堂々とやってのける程無神経な人はいないでしょ?無論警察ぐるみなんて考えられないし」


梨子「うん…」


善子「で、さっきも言ったけど名簿確かめてもダイヤさんの名前がどこにもないの。それに先生に聞いたりもしたけど満場一致で黒澤ダイヤという人物の存在を否定されたわ」


善子「それからここ見て」パサッ


梨子「これは昨日の朝刊…」


花丸「図書室には学校創立時代からの新聞を毎日保存してあるんだよ」


善子「で、ここなんだけど昨日はダイヤさん失踪事件について書いてあったところが綺麗さっぱり白紙になってるわ。勿論元々白紙だったなんて思い違いはないわよ。だってこの記事がある真ん中の部分だけポッカリ空いてるなんて、あまりにも不自然なレイアウトじゃない?」


梨子「確かに変ね…」ゴクリ


花丸「それでね、今日みんなと話しててもう一つ奇妙だと思ったのが、確かにダイヤさんの存在は無かったことになってるんだけど、行方不明者がいたって認識はあるみたい」


梨子「それってどういうこと!?」

67 : 以下、名... - 2017/01/16 17:41:42.42 NMHIafx00 67/284



ーー
ーーーー

『はい!十五分休憩入れた後、新曲練に移ります!!』


千歌『ふぅ…』ドサッ


果南『はぁ暑い…』ドサッ


鞠莉『ふふっ果南は常に濡れてないと干からびて死んじゃうからね』クスクス


果南『もう~それどういう意味?』


千歌『成る程…やっぱり果南ちゃんはカエルだからしょんべーー』


果南『むっ』ギロッ


千歌『ひっ』


花丸『あの~?』


四人『??』


『どうしたの花丸ちゃん?』


花丸『最近、内浦で行方不明者が出たって話知らないずら?』


果南『またその話~?』


千歌『あ、でもそんな事件あったような気がする!』


花丸『!!』


鞠莉『イェース!誰だかは分かりませんがあのビッグスピーカーで流れたような気がします』


『あれは広報だね』


果南『うーんいたような…いなかったような…』


千歌『多分いつものお年寄りがウロウロしていなくなった!ってやつじゃないかな?』


『まさかそれがその…ダイヤって人?』


鞠莉『ダイヤおばあちゃんデース!!』


『キラキラネームって今に始まったことじゃないんだね』


花丸『……』

ーーーー
ーー

68 : 以下、名... - 2017/01/16 17:42:35.79 NMHIafx00 68/284



花丸「自治会や市役所に確認したけど、ここ数日内浦で行方不明者はいなかったみたい」


梨子「つまり、ダイヤさんの失踪が匿名の誰かがいなくなったって事実に書き換えられてるのね?」


花丸「その認識で間違いない無いと思う」


梨子「!!」


ーー
ーーーー

『…ったくおっかねぇなぁ…またあんな事件があったのに…こんな時間に淡島に船を出せだなんて…小原さんとこは年寄りをなーんだと思ってるずら』ヨボヨボ

ーーーー
ーー


梨子「ねえ、あの時の操縦士のおじいちゃん
が言ってた事件!また…ってことは、やっぱり過去にも同じように行方不明者が出た事件があったんじゃない!?」


善子花丸「!!」


善子「成る程…不明者の存在だけは消え事件の存在だけは記憶になんとなく残るのね。なんとかしてその人に話聞けないの?」


花丸「いや…けん引は毎週火曜日だけだからそのおじいさんに会えるのはまた一週間後になっちゃうよ」


善子「くっ、一週間も待ってられないわ…」


花丸「あ、それなら!!」

69 : 以下、名... - 2017/01/16 17:43:04.08 NMHIafx00 69/284



チョロチョロチョロチョロ…カコーン!



善子梨子「おじゃましまーす!」


花丸「ちょっと待っててね!適当にくつろいでるずら」タッタッタッタッタッ


善子「はぁ…」ドサッ


梨子「ごめんね今日は…」


善子「何謝ってんのよ。梨子さんが先に怒鳴ってなければ私、手出してたかもしれなかったわ」


梨子「ううん。そうじゃなくて…私が図書室でいじけてる時も必死に調べてくれてたんでしょ?」


善子「あ、あれはその…ほらアレよ!天界堕天条令第445条に従って…その…えっと……」


梨子「ん?」


善子「あああもう!!早く原因を突き止めてまた九人揃って踊りたいってことよ!!別に梨子さんが悲しんでる顔見たくないとか…そういうことじゃないんだからね!!」プイッ


梨子「ふふっ…ありがとう」ニコッ


善子「言わせないでよ恥ずかしい…」

70 : 以下、名... - 2017/01/16 17:44:05.92 NMHIafx00 70/284



花丸「お待たせ!!」


「どうもこんばんは…」


善子梨子「こ、こんばんわ…」


花丸「マルのばあちゃんずら!」


「あぁ…確か昨日も来てくれてたずらねぇ…うちの花丸がお世話になっております」


梨子「いえいえそんな…」


花丸「ねえばあちゃん。昔、この辺で行方不明者が出たって事件知ってる?」


善子「……」ゴクリ


「あぁ知っとるよ…50年くらい前だったかねぇ。はっきりとは覚えとらんけど、確かちょうどあんたたちと同じくらいの子が忽然と姿を消してね?海女さんや警察さんが必死に探し回ったんだけど、結局死体すら出てこんかったよ…それからずっと内浦は神隠しが起きる神隠しが起きるって恐れられてたけど…結局その後は特に何も起きなかったからねぇ…次第にほとぼりが冷めていったよ…」


梨子「やっぱり…」


「それくらいかねぇ…他にも私みたいな老いぼれがちょくちょく迷子になることはあっても次の日には大体見つかるから…あ、ちょっと待ってなさい」スッ



善子「…これで、過去にも同じような事件があったことは間違いないわね」


梨子「でも、どうしてこんなに長い年月が経ってからまた事件が起きたんだろう?」


花丸「50年前って言うと…今が2018年だから1968年…浦の星女学院が開講してすぐだよ」


梨子「確か図書室に当時の新聞があるのよね?明日調べてみましょう」


「ほい。おまたせ」ドサッ

71 : 以下、名... - 2017/01/16 17:45:00.39 NMHIafx00 71/284



「当時のアルバムだよ。まだ浦の星女学院が開講したばっかりの頃の…何か参考になるかと思ってな?」


花丸「ありがとうばあちゃん!」



ペラペラ…


善子「うわ…すごい。全部白黒写真よ」


梨子「この年はちょうどカラーに移り変わる前くらいじゃなかったかな?」


花丸「ほとんどが漁の写真だね」


花丸「あ!」


善子「どうしたのズラ丸!?」


花丸「この集合写真見て!」


善子梨子「!!」


梨子「ここだけぽっかり人が消えてる…」


善子「立ち位置的に不自然よね?ここに人が立たないって…」


花丸「あ!こっちにも!!」


善子「こ、これは…学校で撮ったやつじゃない!!」


梨子「まだ生徒が少なかったのね…1、2、3……20人しかいないわ」

72 : 以下、名... - 2017/01/16 17:45:36.27 NMHIafx00 72/284



梨子「そして明らかにおかしいのが真ん中。この先生の立ち方を見るに、この富士山の絵を左右から一緒に持ってるんだろうけど、もう片側に不自然に人がいない。つまりここに、50年前に失踪した人が立っていたんだよ」


花丸「ばあちゃん。分かる?」


「いんやぁ…全部分からんなぁ…ごめんな?力になれんくて…」


梨子「いえいえそんな…こんな貴重な資料を保管してくださっていて感謝しています」




善子「ところでさっきから気になってたんだけど、やけに富士山の絵が写ってる写真が多くない?」


梨子「ほんとだ…あっちにもこっちにも…この写真は何かの展覧会かな?」


「ああ、昔からこの内浦から眺めた富士を絵にして展覧会を開いたりしとってなぁ…学校の文化祭でも生徒が描いたものを飾ったりするのが伝統らしいなぁ…」


善子花丸「あ」

73 : 以下、名... - 2017/01/16 17:46:30.33 NMHIafx00 73/284



梨子「どうしたの二人とも?」


善子「文化祭までに富士山の絵仕上げなきゃいけなかったの忘れてた…」


花丸「マルも…」


梨子「あら…確か一年生は全員だったわね…私も元美術部だし描こうとしてたんだけどね…」


「この富士山を描く文化はもっと昔、葛飾北斎さんが伝えたって言われておってな?この周辺を通った時にあまりの美しさに驚いてそういった習慣を残していき次第にそれが内浦の伝統となったずら…だからお前さんたち、宿題はちゃんとやらんと北斎さんのバチが当たるぞい」ニシシ


善子「ひいっ…」


花丸「ば、ばあちゃん…」


梨子「とにかく、ありがとうございます。参考になりました」


「構わんよ…あ、そう言えば最近も行方不明者が出たってのを聞いたような…あれ?ボケたかのぅ?」

74 : 以下、名... - 2017/01/16 17:47:24.39 NMHIafx00 74/284



善子「ダイヤさんは淡島で神隠しにあったってことね」


梨子「ええ。そんな非現実的なこと信じがたいけど…現状、そんなことも言ってられないしそう考えるのが妥当ね」


花丸「神隠し…ってことは淡島の神様が異世界にさらったってこと?」


善子「そうなるわね。これで海に落ちた可能性や島内で死んでる可能性がゼロになったってことよ」


梨子「でも、逆に言えば普通に淡島内を探してダイヤさんが見つかる可能性もゼロになったってことよね?」


善子「うっ…まあそうね…」


花丸「これからは淡島はもちろん、内浦周辺の歴史も調べてダイヤさん救出の手がかりになりそうな情報を集めるずら」


花丸「それから、今は昨日と違ってみんなが普通に生活してるよ。ダイヤさんの存在が完全に消えた今、マル達がこの世界にいないはずのダイヤさんのことばかり話してると異常に思われるし色々面倒だから、とりあえず現状の7人Aqoursのステージ練や富士山の絵の完成に重きを置いて、本命は裏で活動するずら」



梨子「ええ。何としてでもダイヤさんを助けましょう!」



オーッ!!




善子梨子「おじゃましましたー」


花丸「また明日ずらー」


花丸「……」


花丸「さて、ダイヤさんの失踪以外で大きく変わったこと…これが鍵を握っているのかもしれないずら」スッ

75 : 以下、名... - 2017/01/16 17:48:28.73 NMHIafx00 75/284



ピーンポーン


「はい?どちらさま?」ガラガラガラ


花丸「夜分遅くにすみません。ルビィちゃんと同じクラスの国木田花丸と申します。あの…授業のノートを持ってきたんですけど…」


花丸(ルビィちゃんが不登校…ってのは聞いてたけどマルとの関係がどう改変されてるか全く分からないずら…一か八か……)



「まあ花丸ちゃん、いつもありがとうね。夏休みに入ってからは初めてかしら?ルビィ、とても会いたがってたから…ささ、上がってちょうだい」


花丸「はい、おじゃまします(ナイス、改変されたマル)」



花丸「……」ギシギシ


花丸(確かここがダイヤさんの部屋…物置になってるずら…)


ルビィ「花丸ちゃん」ヒョコ


花丸「ルビィちゃん!!」

76 : 以下、名... - 2017/01/16 17:49:12.83 NMHIafx00 76/284



ルビィ「スクールアイドルの活動…どう?」コトッ


花丸「!!」


花丸「た、楽しくやってるよ!文化祭でステージやるんだけど…ルビィちゃん見に来れる?」ズズッ…


ルビィ「……」


花丸「あ…ご、ごめん!別に無理に来てって言ってるわけじゃ…」


ルビィ「ううん。気にしてないよ…」


花丸「そう…」


花丸(困ったな…親しき仲にも礼儀ありと言うけれど、地雷がどこにあるか分からないずら)


ルビィ「あ、そうだ!花丸ちゃんに見せたいものがあるんだ!」ガサゴソ


花丸「見せたいもの?」


ルビィ「じゃん!」


花丸「!!」


ルビィ「えへへ…まだ描いてる途中なんだけど…どう?」


花丸「すごい!すごいよルビィちゃん!!ものすんごく上手ずら!!」


ルビィ「えへへ…それほどでも…///」


ルビィ「時々、お散歩がてら富士山の絵を描いてたんだよ。学校には行けないけど、せめてこの絵は文化祭で飾ってほしいなって…」


花丸「ルビィちゃん…」


花丸「そうだ!!」

77 : 以下、名... - 2017/01/16 17:49:59.44 NMHIafx00 77/284



ルビィ「?」


花丸「ねえルビィちゃん!明日から毎日富士山の絵を一緒に描かない?」


ルビィ「え!?いいの!?」


花丸「うん!マルはまだ全然できてないんだけど…できるならルビィちゃんと一緒に完成させたい!!」


ルビィ「ありがとう花丸ちゃん!頑張って完成させよう!!」


花丸「うん!じゃあ、今日はもう遅いからそろそろおいとまするずら。またLINEするね!」


ルビィ「え…」


花丸「?」




ルビィ「ルビィ…携帯持ってないよ?」

78 : 以下、名... - 2017/01/16 17:50:48.23 NMHIafx00 78/284



花丸「え!?」


花丸「そ、そうだっけ?」


ルビィ「う、うん…」


花丸(あれ?お揃いの携帯買ったのに…)


花丸「わ、分かったよ。ルビィちゃんの家に電話するね?」


ルビィ「ごめんね…お願い!」


花丸「じゃあまた明日、おやすみ」


ルビィ「おやすみ花丸ちゃん」


花丸「おじゃましましたー!」ガラガラガラ




花丸「よかった…学校に行けてないだけでルビィちゃんはルビィちゃんのままだ」ホッ


花丸「頑張ろう…がんばルビィずら」

79 : 以下、名... - 2017/01/16 17:51:36.97 NMHIafx00 79/284



ピピピピ
ピピピピ…


梨子「ううん…」ポチッ


梨子「…さて、起きなきゃ」ゴシゴシ



ザァァァァァァァァァァ…



梨子「この音…雨?」スッ


梨子「だとすると練習は無いのかな…」バサッ!



千歌梨子「あ」バッタリ


千歌「お、おはよう梨子ちゃん…」


梨子「千歌ちゃん…」



【8月6日:黒澤ダイヤ失踪から3日】

80 : 以下、名... - 2017/01/16 17:52:34.85 NMHIafx00 80/284



プップー
ブ ロ ロ ロ…


梨子「昨日はごめんなさい!」バッ


千歌「い、いやそんな謝らないで!私の方こそごめんね…」


梨子「ううん。千歌ちゃん達は悪く無いの…私ちょっと疲れてたみたいで…」


千歌「もう大丈夫なの?」


梨子「ええ、学校着いたらみんなにも謝らないとね…」


千歌「無理しないでね梨子ちゃん?」


梨子「大丈夫よ!早くダンスの遅れをとり戻さないと…」



ーー花丸宅

ザァァァァァァァァァァ…


花丸「うん…ごめんね、こんな天気だし今日は…うん。また晴れたら…じゃあね」ガチャ


花丸「はぁ…」


花丸「せっかく約束したのに……」ガクッ

81 : 以下、名... - 2017/01/16 17:53:11.80 NMHIafx00 81/284



ーー部室

ザァァァァァァァァァァ…


果南「…でね、連絡船が終わって帰るバタ足がなくなった三人をこっそり陸まで送ったんだよ」


「出た!果南ちゃんジョーク!帰るバタ足!!」フフッ


果南「もう~曜ったら、出た!…って、私がいつもそんなこと言ってるみたいじゃん」


「ごめんごめん♪」


アハハハハ…



善子「……」


善子(あの日私たちは普通に果南さんの家に遊びに行っていたことになってる…ほんと、上手く改変されてるのね…ダイヤさんの事は省いた上で)



千歌「おっはー!!」ガラガラガラガラ


花丸「おはなまる!」


梨子「おはようございます…」


「あ!来た来た。おはヨーソロー!」ビシッ


果南「おはよー。足元の悪い中ご苦労さま」クスッ


梨子「あの…」


「あ、梨子ちゃん!気にしないで!」

82 : 以下、名... - 2017/01/16 17:54:08.27 NMHIafx00 82/284



梨子「へ?」


果南「私たちも梨子の気持ち分かってあげられなくて悪かったよ…昨日のことは忘れて、また今日から頑張ろう。ね?…と、言っても雨だけど」


梨子「ほんとにごめんなさい…」


千歌「一日経ったら仲直りだよ!」



鞠莉「グッモーニン!!」


善子「!!」


「鞠莉さん!おはヨーソロー!」ビシッ


果南「鞠莉、あいにくだけどこの雨じゃとても練習できそうにないよ。それに、みんなクラスの方の準備もあるだろうから今日は中止にしない?」


鞠莉「OK!じゃ、そうしましょう!果南、先に教室行ってるわ」ガラガラガラ


ピシャ…



六人「……」

83 : 以下、名... - 2017/01/16 17:54:38.89 NMHIafx00 83/284



花丸「顔出してから立ち去るまで十秒も無かったずら…」


千歌「やっぱ生徒会長兼理事長って秒刻みのスケジュールなのかな…」ゴクリ


果南「サバサバすべきところと、くよくよすべきところがごっちゃになってるのよねあの子」


「果南さんがそれ言う?」


梨子「……」


果南「大丈夫、鞠莉も怒ってなんかないから」


梨子「はい…」


千歌「あ、そういえば梨子ちゃんって富士山の絵描くんだよね?」


梨子「うん…でもこの雨じゃ見えないからな…今日はクラスの手伝いに行くよ」


千歌「じゃあさ、雨雲に隠れてる富士山描いて【隠遁 雲隠れの富士】ってのにしたらいいじゃん!忍者みたいでカッコいいし!!」


梨子「テーマが富士山なのに富士山がどこにも無い絵を提出するの?」


「はぁ…ほんとやな季節だなぁ…」ショボン


果南「当日何もなければいいけど…」


「うん…今のうちにてるてる坊主でも作ろうかな…」


善子「……」

84 : 以下、名... - 2017/01/16 17:55:11.35 NMHIafx00 84/284



ザァァァァァァァァァァ…



善子「……」カキカキ


花丸「……」ヌリヌリ


善子「……」ペタペタ


花丸「……」スラスラ


善子「いいわ。いい感じよ…漆黒に淀む富士が出来上がって行くわ。全く、我ながら絶景のスポットを見つけたわね…」ウヒヒ


花丸「見つけたのはマルずら」


花丸(まあ、一昨日一つだけ不自然に窓が開いてたこの棟の隅っちょをたまたま覚えてただけだけどね)


花丸「ていうか善子ちゃん、結局千歌ちゃんの案丸パクリしてるずら」


善子「何よ!ズラ丸だって描いてるじゃない!」


花丸「マルは富士山以外のところを描いてるずら。ルビィちゃんに遅れをとらないように少し進めておくんだよ」


善子「へぇ…ルビィに会ってきたのね。どうだった?」


花丸「みんなの知ってるルビィちゃんだったよ」


善子「そう…」


花丸「みんなは知らないけどね…」


善子「……」


善子「そうね…」

85 : 以下、名... - 2017/01/16 17:55:48.69 NMHIafx00 85/284



花丸「……」ヌリヌリ


善子「……」ペタペタ


花丸「善子ちゃん」ヌリヌリ


善子「何よ」ペタペタ


花丸「何か分かったの?」


善子「!!」


花丸「さっきもずっと黙ってたし、らしくないずら」


善子「わ、私だって己の沈黙に浸ることくらいあるわよ」


花丸「ふーん…」


善子「……」


善子「状況が状況でも、言ったらダメなことってあるのよ…」


花丸「……」


花丸「…分かった。聞かないでおくよ」


善子「ごめん…」


花丸(なんとなく分かったけどね…言いたいこと)


花丸(全く…善子ちゃんは優しすぎるよ…)

86 : 以下、名... - 2017/01/16 17:56:18.22 NMHIafx00 86/284



ザァァァァァァァァァァ…



千歌「お昼過ぎても」ドドン


「止む気配無し」ドドン


梨子「ほら、サボってないで…二人ともそっち抑えてて、ガムテープ張るから」ペリッ


千歌「雨よ~雨よ止め~」ナムナム


「体感天気予報よ~外れろ外れろ~予報だとこの後もずっと雨だけど奇跡的に外れろ~」ナムナム


ペタペタッ!


千歌「ひうっ!?」


梨子「そっち、抑えてくれる?」ニコッ


千歌「は、はい…」


梨子(ひと段落したらトイレ行くフリして図書室行こ)

87 : 以下、名... - 2017/01/16 17:56:44.32 NMHIafx00 87/284



ザァァァァァァァ…


梨子「うーん、ないなぁ…」ペラペラ


梨子「50年前のこの時期で不自然な空白になってる記事は…」ペラペラ


果南「あれ梨子?何してるの?」ヒョイ


梨子「ひいっ!?!?」ビクゥ


果南「あ、ごめん。驚かせる気はなかったんだけど…」


梨子「驚かせる気しかなかったですよね?」


果南「あはは…」


梨子(ここで例の話を持ち出すのはよくないな。ならば…)


梨子「富士山を描こうとしてたんですけど、雨ですし、そもそもどういう風に描いたらいいか分からなくて…昔の記事とか見れば何か参考になるんじゃないかなーって」


果南「……」


梨子(ちょっと苦しかったな…さすがに果南さんは騙せーー)


果南「成る程ね。だったら奥の倉庫に昔飾られてた絵の一部があったからそっちを見ればいいんじゃない?」


梨子「あ、ありがとうございます(あら?)」


果南「勉強熱心なのはいいけど、サボると千歌たちに怒られるぞ?」フフッ


梨子「そ、それは果南さんだって!」


果南「あ、そうだったそうだった。梨子、鞠莉知らない?さっきから姿が見えなくて探してたんだけど…」


梨子「鞠莉さんですか?いえ、見てませんけど…」


果南「はぁ…おかしいな。生徒会室にも理事長室にもいないし…」


梨子(まさか鞠莉さんまで…そんな……)

88 : 以下、名... - 2017/01/16 17:57:29.15 NMHIafx00 88/284



サァァァァァァァァ…


梨子「あれ?雲が晴れてるのにまだ雨が降ってる?」


果南「とにかく、見つけたらすぐ教えてね!」タッタッタッタッ…


梨子「……」


梨子「ほっ…」


梨子「いつもならダイヤさんが鞠莉さんを追っかけ回してるのにね…」ペラ


梨子「!!」


梨子「あった…50年前の8月4日の新聞…つまり前日の8月3日に起きた事件の記事…日にちまで私たちと同じなのね。ここがぽっかりと消えてる。しかもこの大きさ…新聞の一面を飾る程よ……」


梨子「他のもそうだけど…この時代はこういった事件が大きく取り上げられてるのね…」ペラ


梨子「そして、次の日以降は全く取り上げられてない。他の事件は捜査状況を逐一更新してるのに…」ペラペラ


梨子「ん?」


梨子「これは8月12日の記事…つまり8月11日の出来事ね。この写真、花丸ちゃんちで見た白黒写真と同じだ。学校の…」


梨子「成る程ね、これは歩学祭の写真だったんだわ。少ない人数でも当時なりの催し方があったのね」ペラ


梨子「あら?13日の記事にも学校の写真…」

89 : 以下、名... - 2017/01/16 17:58:08.20 NMHIafx00 89/284



梨子「…これは歩学祭を終えて翌日の12日に祝賀会をやったって記事ね。グラウンドでキャンプファイヤーなんて素敵ね。今に比べて平和だったのかしら?こういう小さな催しも記事にしてーー」




梨子「あれ?」


梨子「1、2、3……19人…」


梨子「減ってる。前の記事までは20人…失踪した子を入れると21人いるはずなのに…」


梨子「……」


梨子「新聞より当時の学校のアルバムないかな…」パタン


梨子「探してみよう…」スッ

90 : 以下、名... - 2017/01/16 17:58:54.36 NMHIafx00 90/284



サァァァァァァァァ…


善子「そんな…」


花丸「善子ちゃんは相変わらずマヌケずら」


善子「だって…まさか途中で雲が晴れるなんて思わないでしょ!?どうせ雨が降るならちゃんと雲かかっててよぉ…」グデッ


花丸「それはともかく、夕陽で景色が真っ赤になるのくらい想像できたでしょ?」



善子「い、いいわよ!残りは想像で描くから!!」



鞠莉「ハァイ!」


善子花丸「!?!?」


鞠莉「どう?絵は進んでる?」


善子「……」ゴクリ…


花丸「ううん!途中まで描いてあとはルビィちゃんと一緒に描くずら!」


鞠莉「Oh!ルビィと会ったのデスね!」


花丸「うん!元気だったよ!ルビィちゃん、学校には来れないけど富士山の絵を文化祭に出したいって言ってたんだよ!!」


鞠莉「そうデースか…」


鞠莉「…昨日はごめんなさいね?私ったら酷いことを言ったわ。きっと梨子も悲しんでる…」


花丸「気にしないで。梨子さんも大丈夫だから!」


鞠莉「そう…」


花丸「鞠莉さんは何してたんですか?」


鞠莉「え?」


鞠莉「ふふっ。ただのおさんぽよ♪」


花丸「そうですか…」


鞠莉「じゃあね!」タッタッタッ

91 : 以下、名... - 2017/01/16 18:00:12.11 NMHIafx00 91/284



花丸「ふぅ……」


善子「……」ドキドキ


花丸「善子ちゃん?」


善子「……」ドキドキ


花丸「よーしーこーちゃん?」


善子「ひうっ!?」


花丸「まったく…」


善子「だ、だって…しょうがないじゃない」


花丸「はぁ……」スッ



ガラガラガラ!!



善子「!?」


善子「な、なによ急に窓全開にして!!」


花丸「しんみりしてても仕方ないずら!」


花丸「校歌斉唱!!」


善子「はぁ?」


花丸「校歌斉唱!ずら!!」


善子「わ、分かったわよ…」バッ

92 : 以下、名... - 2017/01/16 18:00:44.51 NMHIafx00 92/284



善子花丸「スゥ……」


黄昏迫る 港町♪
津々浦々を 紅く染めん♪
眠りにつかん 風と波♪
静か穏やかの 安らぎ破り♪
顔を覗かせよ 妖百鬼♪


善子花丸「吹き荒れーー」



果南「善子ー!花丸ー!」タッタッタッ


善子「よ、ヨハネよ!!」


花丸「果南さん!?」


果南「はぁ…はぁ…鞠莉を……鞠莉を見なかった?」


善子「鞠莉さんならついさっきそこの階段降りてったわよ」


果南「ありがとう!もう全然捕まんなくてさ…クラスの準備はサボるし…もう!!」タッタッタッタッ


善子「……」


花丸「……」


善子花丸「恥ずかしい…」チーン


善子「やめよ。今日はもうやめにしましょう」


花丸「うん。じゃあ、図書室に行こう。多分梨子さんがいると思う!」

93 : 以下、名... - 2017/01/16 18:01:14.93 NMHIafx00 93/284



ーー図書室


梨子「くっ…届かない……」ググッ


梨子「もう少しで……」グググッ


パシッ!


梨子「取れた!」


ツルッ!


梨子「きゃああああああああ!!」ドンガラガッシャーン!



梨子「いたたたた…」


善子「アーメン…」ジャラ


花丸「ナンマンダブ ナンマンダブ…」ジャラ


梨子「見てないで助けて…」チーン

94 : 以下、名... - 2017/01/16 18:02:04.65 NMHIafx00 94/284



花丸「なるほど…」


梨子「やっぱり…8月12日以降今までいたおかっぱの女の子がどこにも写ってない」


善子「まさかもう一人神隠しにあった人がいるっていうの?」


花丸「それは違うと思うよ」


善子「どうして?」


花丸「ほら、もっと前のページ見て」パラパラ


善子「!!」


梨子「いるわね…おかっぱの子、あちこちに写ってるわ」


花丸「神隠しにあったのならほら、元々の存在がなかったことになるからここみたいに不自然な空白になるんだよ。でもこの子は違う。それまでは写真に写ってる。12日からはどこにもいないけどその子の分の不自然な空白もない」


善子「転校も考えにくいわね。一人一人の誕生日会までやってるみたいだし、お別れ会の写真が無いってのは…」


花丸「なんでこの子はいなくなったんだろう…」




梨子「ねえ…」

95 : 以下、名... - 2017/01/16 18:02:35.02 NMHIafx00 95/284



善子花丸「?」


善子「どうしたの?」


梨子「見て…このおかっぱの子…アルバムの最初は空白のある位置から離れたところにいるのに、8月3日に近づくにつれてどんどん距離が縮まってる…」


善子花丸「!!!」


梨子「そして事件の直前の写真は…どれも…どれも空白…つまり神隠しにあった子の真横にいるの…」


花丸「ホントだ…そして事件から11日までは中心を避けるように写ってる…」



善子「これって……」


梨子「ええ…考えたくはないけど……」


花丸「つまりこういうことずら」




花丸「このおかっぱの子が神隠しの主犯。3日の夜に実行し、12日に変わる前にその姿を消す」


梨子「そして同じ事件が起きている今…」


花丸「ダイヤさんを神隠ししたこの犯人がマルたちの近くに潜んでいる」

96 : 以下、名... - 2017/01/16 18:03:52.47 NMHIafx00 96/284



ガラガラガラ!!!


善子梨子花丸「!!!!」




よしみ「り、梨子ちゃん!」


梨子「よしみちゃん…それにいつきちゃんむつちゃん!」


いつき「びっくりしたよ…さっき図書室から凄い音が聞こえたから…大丈夫?」


梨子「え、ええ…まあ…」


むつ「それより梨子ちゃん、千歌と曜知らない?」


梨子「え?」


よしみ「梨子ちゃんが出て行ってしばらくしてあの二人、ジャージに着替えて雨の中ランニングに出かけてったんだけど帰って来ないの…あれから数時間は経つしもうすぐ下校時間なのに…」


梨子「!!」


花丸「それって…!」ガタン


善子「また神隠し…!?」バッ


いつき「今先生達が全力で探してる。私達も探そう!」



梨子「私のせいだ…」

97 : 以下、名... - 2017/01/16 18:04:29.00 NMHIafx00 97/284



善子花丸「!!」


梨子「私が千歌ちゃん達の側にいてあげなかったから…だからこんなことに……」


善子「ち、違う!」


花丸「梨子さんのせいじゃ…」


梨子「どうしよう…どうしよう……」


ガシッ!


梨子「!?」


むつ「大丈夫!あの二人なら絶対無事だから!!」


梨子「むつちゃん…」


よしみ「きっと千歌も曜もどこかで梨子ちゃんのこと信じてるよ!」


いつき「だから梨子ちゃんも千歌と曜を…それから、自分のことを信じて!!」


花丸「そうずら!一番千歌さん曜さんの側にいたのは梨子さんなんだよ!」



梨子「みんな……ありがとう…私…」ジワッ


善子「時間がないわ。とにかく千歌さんの家に行ってみましょう!」

98 : 以下、名... - 2017/01/16 18:05:01.91 NMHIafx00 98/284



梨子「そんな……」


善子「まだ帰ってない…って…」


美渡「警察にも連絡した!志満ねえにも町の人に呼びかけてる!!」


善子「くっ…どういうことよ!神隠しが二度起きたってこと!?」


梨子「淡島よ…淡島にいるんだわ!」


美渡「とにかくここで待っててくれ!絶対一人になるなよ!行くぞしいたけ!!」ダッ!


しいたけ「わんわん!」ダッ!


花丸「…もしもし果南さん!淡島の様子はどう!?」


果南『もしもし!今みんなで島中を探してるよ!!』


花丸「鞠莉さんは!?」


果南『それが連絡取れないんだよ!こんな時に…』


花丸「そんな…」


果南『大丈夫、今淡島神社に向かってるところだから何か分かったらまた連絡する!それじゃ!』プツン


花丸「あっ…」


善子「やっぱり……」



梨子「千歌ちゃん…曜ちゃん…」ギュッ

99 : 以下、名... - 2017/01/16 18:05:46.56 NMHIafx00 99/284



千歌「ん……」


千歌「夜……」


千歌「ここは……」


千歌「淡島神社……」


千歌「そうだ私…曜ちゃんとランニングしてて…」


千歌「!!」


千歌「曜ちゃん!!」バッ


「うぅ……」


千歌「曜ちゃん!曜ちゃん起きて!!」


「う…ん…千歌……ちゃん?」


「はっ!?」


「こ、ここは…」


千歌「淡島神社だよ。私たちランニングしてて…」


「でもなんで拝殿の裏で寝てるんだろう…」




クォォォォォォォン…




千歌「!?!?」

100 : 以下、名... - 2017/01/16 18:06:55.30 NMHIafx00 100/284



千歌「な…何今の鳴き声…」


「し…知らない……犬じゃないかな?」




クォォォ"ォォォォォ"ォ"ォン……




千歌「い、犬にしては変じゃない?」


「そんな…」


「!!」


「ち、千歌ちゃん…上…」


千歌「!!」


千歌「月が…真っ赤……」


「ぜ、絶対おかしい…おかしいよ……こんなとこ淡島じゃない……」ガクガク

101 : 以下、名... - 2017/01/16 18:07:36.72 NMHIafx00 101/284



クォォォ"ォォォォォ"ォ"ォン!!




千歌「な、なんだかさっきより近づいてる気がする…」ビクビク


「そ…そんな…気のせい…気のせいだよ」ブルブル




クォォ"ォ"ォ"ォォ"ォ"ォ"ォォ"ォ"ォォン"…



千歌「!!?」



千歌「表側にいる…!?」ヒソヒソ


「お願い…あっち行って…」ギュッ


千歌「……」ゴクリ


「……」ドキドキ

102 : 以下、名... - 2017/01/16 18:08:20.27 NMHIafx00 102/284



クォォォォォォォン…



千歌「……」


「……」


千歌「行った…?」


「みたい…だね」


千歌「ほっ…」



千歌「一体どうなってるの…」


「ほら、千歌ちゃんが休憩がてら拝殿の裏から富士山眺めたいって言ってさ、裏に回った時雨粒で光ってたこのロザリオ?に気付いて拾って…」


千歌「気が付いたらこうなってた…」


千歌「そうだ…!早く戻らないと!!」

103 : 以下、名... - 2017/01/16 18:09:01.84 NMHIafx00 103/284



「うん、またさっきの化け物がいつ来るか分かんないよ」


千歌「…」ドキドキ


ギュッ!


千歌「…!」


千歌「…曜ちゃん?」


「大丈夫、怖がらないで…この渡辺曜、千歌ちゃんを全力でお守りします」ビシッ


千歌「曜ちゃん…!」


「当たり前だよ!だって…」


千歌「?」


「だって千歌ちゃんのこと…」








「食 ベ チャ イ "ダ イ ク" ラ イ ダ ー イ ス" キ ダ ガラ」ゴキゴキ

104 : 以下、名... - 2017/01/16 18:10:00.89 NMHIafx00 104/284



千歌「あっ…ああ……」



「ク"ォォ"オ"ォォ"ォオ"ォォォォォ!!」ゴキゴキ!



千歌「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」タッタッタッタッタッタ



ベチョ!!!




千歌「ひっ!?地面が血で……」ビチャビチャ



「人間ガイ"ル"ゾォ"ォ"ォ"ォ"!!!」ゴキゴキ!



千歌「なんで…なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!?」タッタッタッタッタッタ



キュォォォ"ォ"ォォン… クォォォォォンォォ"ォォン
クォォォォォンォォ"ォォン…グォォ"ォォ"ォン…
グォォ"ォォ"ォン… キュォォォ"ォ"ォォン…
クォォォォォンォォ"ォォン ゴォ"ォ"ォォォォォ



千歌「早く早く!!早く!!!早く!!!早ぐ!!早ぐぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"!!!!!」タッタッタッタッタッタ



千歌「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ!!!!!」タッタッタッタッタッタ



千歌「!!」タッタッタッタッタッタ


千歌「海だぁぁ!!海ぃ"!!早ぐ!!!」タッタッタッタッタッタ


ギュ"ォ"ォォ"ォ"ォォ"ォォ"ォォ"ォ"ォ"ン"!!!!


千歌「ひいいいいいいいいいい!!!」タッタッタッタッタッタ

105 : 以下、名... - 2017/01/16 18:10:28.73 NMHIafx00 105/284



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!




千歌「!!!!」



果南「千歌ぁぁぁ!!!」ザッパァ!



千歌「助げでぇ"え"え"え"え"!!!」ダダダダダダ!



美渡「ジャンプだぁぁ!!捕まれぇぇ!!!!」



千歌「」バッ…



ドンッ!ザパァァッ!!



美渡「よし!捕まえたぞ!頼んだ!!!」



果南「しっかり掴まっててください!!!」ブルルン!!!



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

106 : 以下、名... - 2017/01/16 18:11:22.15 NMHIafx00 106/284



…………
……


千歌「は…は……」


梨子「千歌ちゃん!!」


善子「目が覚めた!!」


花丸「大丈夫千歌さん!?」


千歌「うっ…うう……」


千歌「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」ギュッ


梨子「わっ!?」


千歌「怖かったよぉぉぉ怖かったよぉぉぉぉぉ!!!」ブワッ


梨子「もう…千歌ちゃんたら…」グスッ


よしみ「千歌!!」ガラガラガラ


いつき「大丈夫!?」


むつ「よかった…目が覚めた…」


千歌「みんなぁ…」グスッ


花丸「待っててね。今志満お姉さんが暖かい料理持ってきてくれるから」


善子「ほんとリトルデーモン騒がせなんだから…」


千歌「ふふっ…」グスッ


志満「おまたせ~!」


千歌「志満ねぇ!!」


志満「さあ、食べましょ?」


善子「何の料理かしら!」


花丸「わくわく!」


志満「ふふっ…慌てない慌てない♪」


志満「じゃん!」パカッ




千歌「え」

107 : 以下、名... - 2017/01/16 18:12:15.56 NMHIafx00 107/284



千歌「なに…これ……」



志満「何って…包丁じゃない」ペロッ



よしみ「……」


いつき「……」


むつ「……」


善子「……」


花丸「……」


梨子「……」



千歌「なんで…なんでぇ……」



志満「さア、今夜"の"夕飯に手ヲ"合"わぜデ」ゴキゴキ



千歌「あは……あはははは…」ポロッ



志満「イ ダダ ギ マズ!!!」ゴキゴキ


よしみ「グォ"ォォォ"ォォォオ"ォ"!!!」ゴキゴキ


いつき「ギォォオォォォ"オォォォ"ォ!!!」ゴキゴキ


むつ「ゴギョォ"ォォォ"ォォ"ォ"ォ"!!!!」ゴキゴキ


善子「グォォ"ォグォォ"ォォ"ォン…ォ"ォン!!!」ゴキゴキ


花丸「ギュ"ォ"ォォ"ォ"ォォ"ォォ"ォォ"ォ"」ゴキゴキ


梨子「ギィギャォ"ォォ"ォ"ォォ"ォ"ォォオ!」ゴキゴキ



グチュ……

108 : 以下、名... - 2017/01/16 18:12:59.54 NMHIafx00 108/284



パッ!


千歌「う…うぅ……」グッタリ


「はぁ……はぁ……」グッタリ



果南「いました!!こっちです!!!」


「おーい!いたぞー!!」


「急いで運ぶぞ!船用意しとけ!!」

109 : 以下、名... - 2017/01/16 18:14:14.07 NMHIafx00 109/284




…………
……


コチッ…コチッ…コチッ…


梨子「……」


善子「……」


花丸「……」


美渡「……」ガラガラ


善子梨子花丸「!!」


美渡「…もう大丈夫。さっきまでうなされてたけど今は熱も下がって静かに寝てる」


梨子「よかった…」ガクッ


花丸「ほっ…」


善子「もう…心配したんだから…」グスッ


志満「ごめんなさいね心配かけてしまって…」スッ


梨子「いえ…二人が無事で何よりです…」


志満「今日はもう遅いから二人とも送っていくね」


善子花丸「ありがとうございます…」


志満「それから梨子ちゃん」


梨子「はい」


志満「悪いけど今晩は千歌ちゃんと曜ちゃんの側にいてくれる?」


梨子「ええ。もちろんです」


志満「ありがとう。お布団用意しておくね」スッ


善子「それじゃ…頼んだわよ」スッ


花丸「また明日ね、梨子さん」スッ


梨子「うん…」

110 : 以下、名... - 2017/01/16 18:15:31.53 NMHIafx00 110/284



千歌「すぅすぅ……」


「くーくー…」


梨子「……」


梨子「怖かったよね…でも、もう大丈夫だからね」ギュッ


梨子「?」


梨子「これは…」


梨子「!!」


梨子「善子ちゃんのロザリオ…なんで千歌ちゃんが…」


梨子「善子ちゃんのは果南さんが拾ってたし、花丸ちゃんは私がアルバムの山に潰されてた時に取り出してたのを見た…」


梨子「!!」


梨子「無い…ということはこれは私の……」


梨子「でもどうして千歌ちゃんがこれを…」


梨子「…こんなに汗まみれの手で握りしめて…相当怖い思いをしたのね……」


梨子「いいわ。それは千歌ちゃんが持ってて。私は側にいるから…」ギュッ


千歌「うぅ…」


梨子「!!」


梨子「千歌ちゃん!」



千歌「きつ…ね……狐が……」


梨子「!?!?」


梨子「狐…狐がどうかしたの!?」


千歌「………」スゥスゥ


梨子「……」


梨子「狐…どういうこと…」

111 : 以下、名... - 2017/01/16 18:16:02.25 NMHIafx00 111/284



ピピピピ
ピピピピッ


梨子「ん…」


梨子「ここは…そうだ、千歌ちゃんちに泊まったんだったわね…」ポチッ


梨子「げっ…もうお昼過ぎてるし…」


梨子「……」チラッ


千歌「……」スゥスゥ


「……」クゥクゥ


梨子「そもそもなんで二人が…」



善子「起きた…?」ススッ


梨子「善子ちゃん…!」



【8月7日:黒澤ダイヤ失踪から4日】

112 : 以下、名... - 2017/01/16 18:17:27.00 NMHIafx00 112/284



ザザーン…


ルビィ「え!中止!?」


花丸「9日と10日のステージはね…千歌さんと曜さんがちょっと体調悪くしちゃって…」ヌリヌリ


ルビィ「そうなんだ…」カキカキ


花丸「でも三日目は必ずやるよ!せっかく頑張ってきたんだもん!」


花丸「それに千歌さんと曜さんなら無理してでもやりたいって言うだろうし…」


ルビィ「花丸ちゃん」


花丸「ん?」


ルビィ「花丸ちゃんは、ステージやりたいの?」


花丸「え?」


ルビィ「花丸ちゃん…Aqoursのステージ、楽しみにしてる?心からやりたいって思ってる?」


花丸「そ…それは…」


花丸(思ってない…だって、ルビィちゃんもダイヤさんもいないんだよ?7人のAqoursなんてAqoursじゃない……そんなステージに立つ意味なんて…)


花丸「……」


ルビィ「はっ…!」

113 : 以下、名... - 2017/01/16 18:18:01.58 NMHIafx00 113/284



ルビィ「ご、ごめん花丸ちゃん!責めるつもりはなかったんだけど…なんか花丸ちゃん、スクールアイドルの話するときあまり楽しそうじゃないからさ…」


花丸「う、ううん!楽しみだよ!ただ、緊張しちゃって…大勢の人が見に来るし、マルそういうの慣れてないから…」


ルビィ「そうなんだ…」


花丸(ごめんねルビィちゃん…)


ルビィ「でも、すごいよ花丸ちゃんは」


花丸「え?」


ルビィ「だって花丸ちゃん、ずっと人の前に立つのが苦手だったのに…今はスクールアイドルになってみんなの前で歌って踊って…すごくキラキラしてる」


ルビィ「それに比べてルビィは学校にも行けない……」


花丸「ううん!そんなことないよ!そんなに自分を責めないで!マルがこうやって頑張れるのはルビィちゃんがいるからずら!」


ルビィ「ルビィが…?」


花丸「う、うん!辛いことや嫌なことがあっても練習が大変でも、毎日ルビィちゃんの家にノートを届けに行くとすっっごく元気になるんだよ!それが、マルの元気の源ずら!」


ルビィ「!!」


ルビィ「る…ルビィも!いつも一人ぼっち
で心細いけど、夕方花丸ちゃんが来てくれるのを毎日楽しみにしてたんだよ!今日はどんなお話してくれるんだろう。今日はどんな世界を見せてくれるんだろう!…って」


花丸「ルビィちゃん…」


ルビィ「えへへ…なんだかルビィ甘えてばっかだな…」





ルビィ「だって花丸ちゃん、ルビィのお姉ちゃんみたいだから…」

114 : 以下、名... - 2017/01/16 18:18:35.94 NMHIafx00 114/284



花丸「!?!?!?!?」


ルビィ「いつもありがとう。ルビィを支えてーー」


花丸「違う」


ルビィ「…え?」


花丸「マルはルビィちゃんのお姉ちゃんなんかじゃない」


ルビィ「花丸…ちゃん?」


花丸「!!」


花丸「ご、ごめん…なんでもないずら!」


ルビィ「う、うん…」


花丸「マル、そろそろ帰るね!梨子さんと約束があるし…」スッ


ルビィ「わ、分かった!バイバイ!練習頑張って!」


花丸「バイバイ!!」


ルビィ「明日、絵完成させようね!」


花丸「うん!」タッタッタッタッ…


花丸(本当にごめんね…ルビィちゃん…)

115 : 以下、名... - 2017/01/16 18:19:21.88 NMHIafx00 115/284



カァカァカァ…


しいたけ「わん!わんわん!!」


花丸「……」


花丸「夕方になっちゃったずら」


花丸「お、お邪魔しまーす」ガラガラガラガラ


志満「まあ、いらっしゃい」


花丸「千歌さんと曜さんは…」


志満「それが…まだ目が覚めないの…」


花丸「そうですか…」


志満「さっき果南ちゃんがお見舞いに来てくれたんだけど入れ違いだったわね…梨子ちゃんと善子ちゃん、二階にいるから上がって?」



「すみません。本日予約していた者ですが…」ガラガラガラ…


志満「あら、いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました…」


花丸「!!!」


花丸「あなた達は……!!」


梨子「あ、花丸ちゃん来たんだね!」スッ


善子「もう。遅いわよズラ丸」スッ


善子梨子「!!」


梨子「あ…あなた達は…」




聖良「お久しぶりです。Aqoursの桜内梨子さん、津島善子さん、国木田花丸さん」


理亞「げっ…」

116 : 以下、名... - 2017/01/16 18:20:49.59 NMHIafx00 116/284



聖良「まさかここが千歌さんのご自宅だったなんて…世界は狭いものですね」ズズッ


聖良「これが静岡の緑茶ですか…こんな美味しいお茶初めて飲みました」


花丸「でも、なんでSaint Snowのお二人がこんなところに?」


理亞「せっかくだからお盆前に何日か旅行に行こうと計画を企てていたんだけど、姉様がどうしても内浦に行きたいと聞かなかった」ズズッ


理亞「熱っ!?」ビクッ


聖良「いいじゃないか理亞。せっかくAqoursのみなさんとお会いできるのだから。それに、どうやら週末には浦の星女学院で文化祭もあるようだし」


理亞「ふん…本当は姉様の趣味の小汚い歴史書漁りが目的でしょ?そうでもなきゃこんなバスもロクに通ってないド田舎に来ようなんて言わないし」


善子「ド田舎?」イラッ


花丸「善子ちゃん抑えて」


梨子「え、えっと、歴史書漁りって?」


聖良「内浦に、私の敬愛する太宰治が1947年頃、【斜陽】という本の一部を執筆した際に宿泊していた旅館があるというのを聞いて…ここには当時の資料がいくつも置かれていると聞いて興味を持ったのです」


聖良「あ、でも勿論そっちはついでですよ。本当にAqoursの皆さんにお会いするのが第一目的だったんですから。文化祭でもステージを披露するのでしょう?楽しみにしていたんですよ」


理亞「どうだか…」ボソッ

117 : 以下、名... - 2017/01/16 18:22:03.13 NMHIafx00 117/284



聖良「ところでその千歌さんの姿が見えないのですが…」


梨子「……」


花丸「……」


善子「……」


聖良「…何かあったようですね。私達でよければ力になりますよ。どうぞお話をお聞かせください」ズズッ


梨子「実は…」


…………
……



聖良「成る程。神隠しですか…」


梨子「信じてもらえないかもしれませんが実際に起きていることなんです」


善子「それで千歌さんも曜さんもあんな風になったのよ…」


花丸「確認ですけど聖良さん。マル達Aqoursは何人グループずら?」


聖良「それは……」


善子「それは…?」


聖良「……」


善子梨子花丸「……」ゴクリ




聖良「7人です」

118 : 以下、名... - 2017/01/16 18:22:51.97 NMHIafx00 118/284



善子梨子花丸「あぁ…」ガクッ


梨子「そうよね…」


善子「分かってはいたけど…」


花丸「ずらぁ…」


理亞「バカバカしい。くだらないテレビの見過ぎよ」


善子「…」イラッ


聖良「まあまあ理亞。確かに、にわかに信じがたいことではあるよ。私の記憶ではAqoursに黒澤ダイヤ、及び黒澤ルビィという人物は存在しない。それに行方不明者が出たという事件も耳にしていない」


聖良「でもこの三人が嘘をついているとは思えない。非現実的とはいえ一応筋は通っている」


梨子「聖良さん…!」


善子「信じてくれるの!?」


花丸「頼もしいずら!!」



聖良「いえ、あなた方は『嘘をついている』のでは無く、『嘘を真実だと思い込んでいる』のです」

119 : 以下、名... - 2017/01/16 18:24:15.80 NMHIafx00 119/284



善子梨子花丸「!?!?」


善子「ちょ…ちょっとどういうことよ!?さっきまで信じてますよー話聞いてますよー力になりますよーって空気醸しといて…それであんたーー」バッ


花丸「善子ちゃん!落ち着いて!!」ググッ


善子「落ち着いてなんかいられないわよ散々バカにして!それに私はヨハネよ!!」ジタバタ


梨子「聖良さん…私たちは本当にーー」


聖良「よくそこまでのフィクションを創り上げたものですね。その創作意欲は評価します。ですがそれをフィクションに留めておかず域を越えて現実に持ち出すのはどうかと思いますよ?あなた達は傍から見たら異常者です」


梨子「そんな…」


聖良「そういった愚かな行為で他の誰かを驚かせたり傷つけたりしたんじゃないですか?間接的とは言え千歌さんと曜さんがああなったのもあなた達が原因なのでは?」


梨子「!!」


梨子「それは…」


聖良「思い当たる節があるようですね。恐らく他のAqoursメンバーもあなたたちのことを異常認識していますよ。口では大丈夫、気にしてないと言いつつも心の中では酷く軽蔑しています」


善子「こんの!!」ジタバタ


花丸「ダメ…善子ちゃん…」グッ


理亞「姉様、言い過ぎよ」


聖良「そんな状態でAqoursのステージは成り立つのですか?そういったチームワークの欠如が文化祭という公の舞台で恥をかく原因になるんですよ?他のメンバーの足を引っ張りたくないのなら目を覚ましてください。でないとまた東京で晒した醜態を繰り返すことになりますよ?
いいですか?Aqoursは7人です。7です。7。ラッキーセブン。黒澤なんとかいう姉妹など…そうだ。忘れてしまいなさい。最初っからいなかった。なんなら死ーー」


善子「いい加減にして!!」バッ


花丸「あっ!!善子ちゃーーー」



パチーン!!!

120 : 以下、名... - 2017/01/16 18:24:48.50 NMHIafx00 120/284



善子花丸「!?!?」


理亞「なっ……」




梨子「……」


聖良「…梨子さん。この平手打ちはどちらですか?自分の思い通りにならないからと赤子のように駄々を捏ねた結果から生まれたものか、我に返り自らの虚言とそれを指摘された恥ずかしさを醜い怒りに還元して形にしたかそれとも…」


梨子「まだ言うかぁぁぁぁぁぁ!!!」ブンッ!



パシッ!



梨子「!?!?」



聖良「自分達の大切な…大切な仲間が忽然と姿を消し、ただでさえ不安と悲しみで胸が張り裂けそうだっていうのに、追い打ちをかけるように周りや肩を寄せ合う仲間も皆そのことを忘れてしまって完全に三人で孤立してしまい絶望的な運命に立たされるもなんとかして仲間を救いたい また九人で笑いたい泣きたい歌いたい踊りたい馬鹿やりたいたくさんたくさん思い出を作りたいそんな思いを胸に五里霧中を必死に…必死に手探りで進んでいるというありのままの事実を全否定されたことに対する…」スッ




聖良「本心からの怒りですか?」


梨子「なんで…」


聖良「だって…」




善子「うっ、うぅ…」ポロポロ


花丸「ぐずっ…ひっく……」ポタポタ




聖良「じゃなければ出ませんよ。そんな涙」



梨子「え…」ボロボロ

121 : 以下、名... - 2017/01/16 18:25:31.35 NMHIafx00 121/284



聖良「…試すようなことをして申し訳ありません。あなたたちの気持ちは痛い程分かりました」ギュッ


梨子「ぁぁ…」ボロボロ


聖良「叫んでも叫んでも誰にも声は届かなくて…下手したら助けたいはずの仲間を傷つけてしまうから、ずっと心の奥にその張り裂けそうな気持ちをしまい込んでいたんですよね。全く…本当に優しくて強くて…そして脆いのですね」


梨子「あぁぁ…」ボロボロ



聖良「人間は不幸のどん底に突き落とされ、ころげ廻りながらも、いつかしら一縷の希望の糸を手探りで探し当てているものだ」


聖良「…と、これは太宰治の名言の一つです」


聖良「自分で言うのもなんですが、今日ここでこうして再会できたのも何かの運。私たちも一縷の希望の糸となれるようその黒澤ダイヤさんの救出に全面協力させていただきます。だってAqoursは…」


善子「うっ、うぅぅ…」ポロポロ


花丸「ぐずっ…ひっく……」ポタポタ





聖良「9人で1つなんですから」ニコッ



梨子「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」ブワッ



理亞「はぁ…こんなところに5日間も…」ガクッ

122 : 以下、名... - 2017/01/16 18:27:02.51 NMHIafx00 122/284



…………
……


梨子「すみませんさっきは…ほっぺた大丈夫ですか?涙とかで服も汚しちゃって…その……」


聖良「気にしないでください」


理亞「…それで、その神隠しとやらの犯人がいるんでしょ?当てはあるの?」


善子「……」


花丸「ここに写ってるおかっぱの子で間違いないずら」


聖良「成る程この子が…確かにこの空白との距離の変化が奇妙ですね…」


聖良「どう?理亞。信じる気になった?」


理亞「…!」


理亞「まあ…確かにこの写真を見ればあながち嘘ってワケでもなさそうね」


善子「素直じゃないわね…」


聖良「とりあえず、状況を整理してみましょう。ペン、お借りしますね」

123 : 以下、名... - 2017/01/16 18:28:14.99 NMHIafx00 123/284



ーー
ーーーー


8月3日 ・黒澤ダイヤ失踪
8月4日 ・事件として扱われる
・三人が淡島に侵入
・鞠莉さんと思しき足音と声(?)
ーーーーーーー記憶操作ーーーーーーーー

8月5日 ・黒澤ダイヤの存在の抹消、
・黒澤ルビィ不登校化、
・上記に基づく記録改ざんが発覚
・50年前の神隠しについて知る

8月6日 ・神隠しが人に化けると知る
・高海千歌、渡部曜 一時行方不明
・淡島神社拝殿裏で発見


8月7日(現在)・上記二名、意識戻らず


8月9日 ・歩学祭(初日)

8月10日 ・歩学祭(二日目)

8月11日 ・歩学祭(最終日)
・神隠しが最後に姿を見せた日

ーーーー
ーー

124 : 以下、名... - 2017/01/16 18:29:53.72 NMHIafx00 124/284



聖良「まず、何故ダイヤさんが淡島へ向かいそして消えたのか?」


善子「これは淡島に異世界の扉があると考えるのが妥当ね」


聖良「そうですね。信じがたいですがおそらくそれは間違いないでしょう。ただ一つ気になったのが、ダイヤさんが淡島へ一人で向かったという点」


聖良「神隠しがいるのなら普通にさらってしまえばいい話。しかしダイヤさんは自らの意思で淡島へ向かったんですよね?」


善子「ええ。目撃情報や連絡船の船長曰くね」


聖良「こう考えるのはどうでしょう?ダイヤさんは元々淡島に向かうつもりなどなかった。しかし、偶然にも異世界の扉が開くスイッチがトリガーしてしまい同時にそれがダイヤさんが淡島へ行く引き金となった」


花丸「異世界の扉が開く誘発条件があるってことずらね」


聖良「はい。その証拠に50年前にはなかった事件が起きた」


聖良「第二、第三の被害者の出現」


善子「つまり、千歌さんと曜さんね」

125 : 以下、名... - 2017/01/16 18:31:22.24 NMHIafx00 125/284



聖良「そうです。話を聞いて、初めはランニング中に熱中症にでもあって、神社で休んだまま意識を失ったのかと思いました。しかし、雨で気温が下がった後で、あの活発な千歌さんと曜さんが、しかも二人同時に…考えにくいです…」


聖良「恐らくこれは神隠しにとって誤算だったはずです。さらうのは一人で十分なはずなのに、ダイヤさんに続き千歌さんと曜さんもたまたまその扉を開いてしまった…」


聖良「しかし、二人は消えませんでした。果南さん達により救助され確かにここにいます。本来なら今頃警察が駆け回って…明日には二人の存在も記憶も記録も綺麗さっぱり無くなっていたでしょう」


花丸「つまり異世界に行く条件が中途半端に達成されたってこと!?」


聖良「そうですね。だから失踪はしなかったものの二人はダメージを受けてしまった…」


聖良「ところで、淡島にはそういった噂が普段からあるのですか?それか悪霊を封印してある祠があるとか…」


花丸「淡島神社に祀られているのは弁天様だから、悪い霊ってことはないと思うずら」


聖良「成る程…ここはもっと調査する必要がありそうですね…」



梨子「狐…」

126 : 以下、名... - 2017/01/16 18:32:14.86 NMHIafx00 126/284



聖良「狐?」


梨子「千歌ちゃんがうなされてたんです。きつね…きつね…って…もしかしたら狐が関係あるかもしれない」


善子「ズラ丸。淡島神社に狐なんているの?」


花丸「ううん。イノシシが出たって話は聞いたことあるけど狐は無いよ…それに稲荷神社も無いし…」


聖良「狐…一応視野に入れておきましょうか」


聖良「次に、神隠しの犯人についてですが…そろそろマズいかもしれません」


梨子「え!?」


善子「どういうことよ!」


聖良「写真を見るにこのおかっぱの子は8月11日を最後に消えています。事件の起きた日時、状況変化がそのまま今回に反映されているを見るに、その犯人を見つけるタイムリミットは8月11日で間違いないと思います」


梨子「11日を越えたらダイヤさんはもう救えないってことですか!?」


聖良「おそらくですが…」


花丸「11日、文化祭の最終日だよ!」


聖良「文化祭は多くの人が集います。その神隠しが姿を見せる可能性が非常に高いです。当時もこれだけ写真に写っているのですから…」


善子「そこを見つけて捕らえようってワケね」


聖良「いえ、相手が人外なのは明白です。下手に刺激すると何が起こるか分かりません」



聖良「そこで一つ、私に考えがあります」

127 : 以下、名... - 2017/01/16 18:33:01.79 NMHIafx00 127/284



聖良「まず明日8日、私たちはもう少しこの辺りの歴史について調べ参考になりそうな情報を集めたい思います。梨子さんたちは文化祭前日なため準備に向かっていただき夜から調査に合流してください」


梨子「分かりました」


聖良「そして9日、10日…文化祭初日と二日目ですが、旅館での調査組と学校での張り込み役に別れたいと思います」


花丸「張り込み役?」


聖良「おそらく最終日以外は大丈夫かもしれませんが、一応文化祭に来た来場者をくまなくチェックして怪しい人物を逐一報告する担当はいた方がいいと思います」


聖良「最終日は全員総出で文化祭へ向かいます。また、淡島を訪れる不審者にも警戒しましょう」


善子梨子花丸「はい!」


花丸「マル達が不用意にこの話をして神隠しの耳にでも入ると厄介ずら。図書室の作業も諦めてこれからはここで作戦を練ろう」


梨子「うん。できるだけ千歌ちゃん達の側にいてあげたいし…」


善子「そうね…」


理亞「はぁ…」ゴロン


聖良「……」

128 : 以下、名... - 2017/01/16 18:33:34.63 NMHIafx00 128/284



花丸「じゃあ明日、いつも通り学校で!」タッタッタッ


梨子「うん!ばいばい!」タッタッタッ


善子「さよなら…」トボトボ



ヒュォォォォォォ…


善子「……」


聖良「善子さん」


善子「ひっ!?」


聖良「どうも」


善子「な、なんだ…驚かさないでよ」


聖良「申し訳ありません。そんなつもりは無かったんです」


善子「はぁ……」


善子「一体バス停まで何しに来ーー」




聖良「何か隠していませんか?」

129 : 以下、名... - 2017/01/16 18:34:07.84 NMHIafx00 129/284



善子「!?!?!?」


善子「そ、そんなワケ…」


聖良「目が嘘をついてます」


善子「はぁ!?」


聖良「それはとても大切なこと。今回の事件に大きく関わる…大切過ぎる故、二人には話すことができない。違いますか?」


善子「はぁ…あなたメンタリストにでもなったらどう?」


聖良「ふふっ。私はそういうのあまり興味ないんです」


聖良「でも、あなたたちには興味があります」


善子「!!」


聖良「まだバスまで時間ありますよね?よかったら聞かせてくれませんか?」


善子「……」


善子「分かったわ」


ダイヤ「狐の嫁入り」【後編】

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