1 : このSS... - 2017/12/16 01:44:03 q7BHq6/.0 1/18※微百合
※地の文
※初投稿です。
書き溜めありです
元スレ
[ミリマス]歩「お気に召すまま」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17836/1513356243/
くるりと巻いた特徴的な緑色の髪の毛。大きな水玉模様のリボンに、ファンシーなファッション。「なのです」という独特の語尾に、「ほ?」という便利な言葉。
名前からもしかして末裔なのかと思い、出身が愛知って聞いていよいよそうかと思ったら、「姫は姫なのです」ってはぐらかされて、蛇みたいな目で見られたからそこでやめた。まあ、誰だってひとつやふたつ隠しておきたいことはある。アタシにだってある。
そんなわけで、いつだってプロ意識に溢れていて、姫であり続けているアイドル。それが徳川まつり。
だから、オフだと言うのにいつもどおりの緑髪に、赤いリボン。ふりふりの衣装を身にまとって待ち合わせ場所に立っていたまつりがファンに気づかれて即席握手会となってしまったのは当然といえば当然なわけで…。
「遅れてくる歩ちゃんがいけないのですよ?」
「だぁーっ、それはごめんって言ってるじゃんさー」
カフェの奥の席に向かい合って座るまつりはわざとらしいツーンとした表情を浮かべている。
まつりの前にはふわふわで美味しそうなシフォンケーキ。角の立った生クリームに、数種のベリーが添えられて“びゅーりほー”さは完璧だ。対してアタシの前にはカップ一杯のコーヒー。角砂糖は2個入り。どっちもアタシの支払い。待ち合わせに遅刻したアタシが悪いから仕方ない。でもそれ以上に電池切れで鳴らなかった目覚まし時計が悪い。だから罰として、当分電池は入れてやらない。
決して、買い忘れるであろうことを誤魔化そうというわけではない。
「でもさ、そんな目立つ格好で待ってなくてもさ」
「姫はいつでも姫なのです。それに、歩ちゃんには『目立つ』って注意されたくないのです」
上手にケーキとクリームとベリーを一緒に口に運びながら、まつりがアタシの髪をちらりと見た。
アタシの髪は強めのピンク。確かに凄い目立つ。落ち着いた雰囲気のカフェで、ピンク髪と緑髪が向かい合って座っている。よく考えたらすごい目立ってる!
「大丈夫なのです、歩ちゃん。ここなら騒ぎになることはないのです」
きょろきょろと周りを見回したアタシに、まつりが言った。「そうだよな」とアタシもコーヒーを口に運んだ。
このカフェはふたりで偶然見つけた隠れ家的なもので、大抵は無口なマスターと、いつも新聞を読んでいる常連の口髭さんしかいない。だから、重なったオフの日はここでその日の予定を立てながら、結局時間を潰していることが多い。今日はアタシが見たい映画があったから待ち合わせ場所を変えたというのに、あれやこれがあって、ここに逃げてきている。
「で、どうするのです?」
「うーん、もう映画館まで戻ろうって気分じゃないなぁ」
まつりがあーんしてきたシフォンケーキを頬張る。甘くて美味しい。
「ならショッピングに行くのです。欲しかった服があるのです。」
「えぇ、それアタシが荷物持ちになる奴じゃん」
「大丈夫なのです。歩ちゃんが好きそうなお店にもちゃんと寄るのです」
「荷物持ちは否定しないってことだな」
「姫にはナイト様が必要なのです。うるうる」
その涙目はもう効かない。効かないけど、今日は迷惑かけた責任もあるから、仕方ない。伝票を持ってアタシは立ち上がった。
「買った、買った。なのです」
まつりは編み込みのブーツを手際よく脱いで、行儀よく端に揃えて置いてからアタシの家に上がった。リビングの扉も開けてくれたので、乱暴に靴を脱いで両手にたくさんの荷物を抱えたまま入って行く。
「歩ちゃんお疲れ様でした、なのです」
ふいーっと息を吐いてリビングの床に買い物袋を置いたアタシに、まつりが簡単な部屋の片付けをしながらお礼を言った。
まさかまさかで、寝坊で飛び起きたアタシは財布を家に忘れてきていた。カフェのマスターは、レジ前で財布がないと慌てるアタシに苦笑いしていたっけ。
結局、代金はまつりが払ってくれた。申し訳ないアタシは、ショッピングでは荷物持ちに徹するはずだったのに、偶然やってた薬味フェアで安曇野と静岡の最上級ワサビが売ってたから、まつりに頭を下げてお金を借りる始末。
「ごめん!埋め合わせに今度なんでもするから」
「ほ?なんでもいいのです?」
両手一杯に買い物袋を提げながらお願いを言うと、まつりが口元に笑みを浮かべながらアタシの目をじっと見つめてきた。この目はまずい。いつもの無茶振りをしてくるときの目だ。逃げようとしても有無を言わせなくさせるあの目だ。
「じゃあ、今日はこの後、歩ちゃんの家にいきたいのです」
「それは…ちょっと…。部屋散らかってるし…」
「ほ?なんでもって言ったのですよ?」
じっと目を見つめながら、じりじりと顔を近づけてくる。これはどうも断れそうにないな。別に来させたくないわけじゃないけど、本当に散らかってるんだよなぁ。でも、まぁ、お金を返すのにもちょうどいいし、それに今日は迷惑かけっぱなしだから、姫様のお気に召すまま従いますか。
そうして、今ふたりでアタシの部屋にいるわけだけど、
「歩ちゃん、コーヒーもらうのですよ」
「いいよー。あ、アタシの分もお願い」
「当然なのです」
まつりが自分の部屋かというほど慣れた手際でコーヒーを入れてくれている間、アタシは部屋の片付けをなんとか終えた。まあ麗花の部屋よりは断然綺麗だからそこまで時間かからなかったけど。
「綺麗になっているのです」
色違いの赤と緑のマグカップをふたつ持って、まつりがゆっくりと歩いてきた。アタシはソファの右側に座って、赤のマグカップを受け取る。湯気の立つ黒いコーヒーはほのかな砂糖の甘みがあって、アタシのお気に入りの味。
「ありがとう」と言ってまつりを見ると、まつりは緑のマグカップをソファの前の机に置くと鞄を持ってアタシのベッドの方へ歩いていた。そして、アタシのベッドに腰掛けると、鞄から電池を二本取り出して目覚まし時計にセットした。
「ドジなご主人様を持つと大変なのです」
そう言いながら、時計の時刻を合わせるまつり。すっかり目覚まし時計のことを忘れていたアタシ。
「これで良しなのです」
目覚まし時計をベッドサイドに置いてそいつの頭を撫でてから、まつりはアタシの横に座って緑マグカップを手に取った。
「ありがとうね、まつり。なんか今日は色々と…」
「気にすることはないのです」
そう言って、まつりはコーヒーを口に運んだ。その味が砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒーであることをアタシは知っている。
「歩ちゃんのドジは今に始まったことじゃないのです。それに愛されるようなドジならどんどんすべきなのです」
「でもさ、ドジするのとしないのだったら、しない方がいいと思うじゃん?」
「歩ちゃんはそのままでいいのです」
「いや、同じ19歳の律子やまつりがしっかりしているのに、アタシだけおっちょこちょいのままってのも」
「ほ?姫もしっかりなどしてないのですよ?姫はわがままで世間知らずなお姫様なのですから」
まつりが静かに言って、アタシも返す言葉に詰まってしまった。目覚まし時計の秒針がやけに耳につく。アメリカで買った真っ赤なアナログ式のホームドラマで見るような目覚まし時計。ドラマだったらここで鳴って、このぎこちない空気を取り去ってくれるはず。
「そろそろお邪魔するのです。歩ちゃん、今日はありがとうなのです」
「う、うん」
違うんだよなぁ。今日の予定はこんなはずじゃなかったんだよなぁ。久しぶりに被ったオフの日、最近まつりはずっと忙しくて、たぶんずっと“みんなの姫”のままで。だから、今日はアタシがエスコートするはずだったもに見たかった映画も、ショッピングの付き添いも何も上手く行ってない。急に家に来たいって言ったまつりの気持ちもきっと汲み取れてない。だから、
「待って」
そう、手を取った。振り向いたまつりの顔はきょとんとしていて、いつもとは少し違う。アタシはまつりの手を引いてソファーに座り直させる。替わりに立ち上がって窓辺に行ってカーテンを引く。夕闇の空が消え去って、蛍光灯の下にふたりの影。
「い、今はさ、その、ふたりだけなんだからさ、そのさ、姫を少し休んでも、いいんじゃないかなってさ」
ああ、上手く言えない。いつものまつりが無理をしているとか、そういうことを言いたいわけじゃないんだ。ただ、たださ。なんか違うんだよ。
「歩ちゃん、姫は姫なのですよ」
もやもやした気持ちのまま、突っ立ってたアタシにまつりがとても優しい声で言う。言いながら、彼女はソファの右側をぽんぽんと叩く。アタシは望まれるがままにそこに座る。
左肩に、まつりの頭が寄せられる。リボンが耳をくすぐるけど我慢できるし、むしろなんだか心地よい。
「ありがとう歩ちゃん。少しだけ、少しだけこのままで」
「いいよ、まつりの気がすむまで」
左手をまつりの右手に伸ばす。指が触れ合って、自然と手を繋ぐ。机の上にはふたつのマグカップ。赤と緑で、取っ手が触れ合って置かれている。カーテンには夕日が差していて、クリーム色がほんのり橙に染まっている。
ナイトになるにはもう少し時間がかかりそうだ。
18 : このSS... - 2017/12/16 02:01:09 q7BHq6/.0 18/18終わりです。ミリシタの歩で爆死した勢いのまま書きました。
お目汚し失礼しました。
HTML依頼出してきます