利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」#1
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」#2
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」#3
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」#4

260 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 18:55:34.99 7SUR/2U5o 421/671

前スレ907からの分岐です。
金剛さんが正式に鎮守府の一員となる少し前に、甘くないスコーンを焼いていた辺りです。

投下していきますね。

261 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 18:56:11.45 7SUR/2U5o 422/671

金剛(……さて、そろそろ焼き上がる時間デス。オーブンから取り出しまショウ)スッ

金剛「ふむ……ふむふむ。見た目はグッドです。後は味の方デスが……」

金剛「…………」モグモグ

金剛「……甘味が無くて、私の口には合わないデス。メープルシロップを掛ければ美味しいと思いマスが……」

金剛「うーん……。テートクは美味しいと言って下さるでショウか……」

コツッ──コツッ──コツッ──

金剛(! テートクですかね?)ソワソワ

カチャッ……ガチャ──パタン

提督「調子はどうだ、金剛」

金剛「私は元気デス。テートクは……なんだか雰囲気が少し暗いデスね? 何かあったのデスか?」

提督「まあ……ちょっとした総司令部からの面倒事だ。段ボール箱三つ分の書類をいきなりドカンと送られてきた」

金剛「み、三つ……。大人の人でもスッポリ入れそうなアレですよね……?」

提督「そうだ」

金剛「……お疲れ様デス」ペコッ

提督「長年サボっていたツケだろう。──ところで、何か作っていたのか? スコーンを焼いているような匂いがするが」

金剛「!! 分かるのデスか?」

提督「多少はな」

提督(『金剛』がよく作っていたからな……)

金剛「ぁ……」

提督「ん? どうした」

金剛「い、いえ……」

金剛(…………きっと、テートクの『金剛』も同じようにスコーンを作っていたのデスね……。失敗しまシタ……)

提督(……ああ……この子はたぶん『金剛』の事を考えているんだな。さて……どうしようか……)

金剛「……………………」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「…………」ポン

金剛「…………?」

262 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 18:56:42.65 7SUR/2U5o 423/671

提督「……ありがとう」ナデナデ

金剛「……ごめんなさいデス」

提督「どうして謝る?」

金剛「私は、気を遣わせてしまっていマス……。本当でしタラ、テートクが喜べるようにするべきなのに……」

提督「その気持ちだけで充分だ」ナデナデ

金剛「でも──」

提督「充分だよ、金剛。そう思ってくれるだけで、私は嬉しい」ナデナデ

金剛「……ハイ」

提督「なあ金剛。そのスコーン、一つ貰っても良いか?」

金剛「え──。勿論デスけど……」

提督「けど?」

金剛「…………いえ、ぜひ召し上がって下サイ! とっても久し振りデスが、上手く出来まシタ!」

提督「ああ、頂く」ヒョイッ

金剛「…………」ドキドキ

提督「…………」モグ

金剛「……お口に合いマスか?」ドキドキ

提督「……うむ。良いな、これは。美味い」

金剛「リアリー!? やったデース!」

提督「金剛、確かに防音になっているとは言ったが、少し声を抑えてくれ」

金剛「あぅ……ソーリィ……」シュン

提督「だが……」

金剛「…………?」

提督「やっぱり、お前はそうやって明るい方が似合っている。正式にこの鎮守府に籍を置く事になった時は、素を出してくれ」

金剛「──ハイッ」

提督「うむ。良い返事だ」

263 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 18:57:17.06 7SUR/2U5o 424/671

提督(私としても、暗い金剛を見るのは辛いからな……)

金剛(……ああ……やっぱり、私を見ると思い出してしまうのデスね)

金剛「……………………」グッ

金剛(私は、テートクの為に何かしたいデス)

金剛「テートク」

提督「ん、どうした」

金剛「ご無理はしないで下サイ。……もし、どうしても私の姿を見るのが辛い時は、そのように言って下サイ」

提督「……何かするつもりなのか?」

金剛「ホラ、髪型を変えてみるとイメージが変わるかもしれないデス」ホドキホドキ

提督「髪型を?」

金剛「ハイ。……よいしょ…………今は手で支えているだけデスが、ポニーテールです。どうデスか?」スッ

提督「より活発なイメージになったな」

金剛「こうすれば、少しは意識を逸らせるかな……と思いまシテ」

提督「……なるほどな。だが、それは気持ちだけ受け取っておく。私の事を考えてくれるのは嬉しいが、金剛は自分の好きなようにやっていてくれ。いつもその髪型で居るという事は、その髪型が気に入っているんだろう?」

金剛「確かにそうデスけど……。それよりも私の好きなようにとは……?」

提督「島に居た時にも言ったかもしれんが、ずっと出撃続きで自分のやりたい事も何も出来なかったのだろう? この鎮守府で出来る範囲だったら好きな事をやっても良いんだぞ」

金剛「…………それでは、お言葉に甘えさせて頂きマス」

提督「ふむ。何がしたいんだ?」

金剛「──私は、テートクの為に何かをしたいデス」

提督「────────」

金剛「テートクが笑顔になれるようにしたい……。それが、今の私のやりたい事デス」

提督「……そうか」

金剛「ハイ」

265 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 18:58:16.79 7SUR/2U5o 425/671

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……そうだな。とりあえずは、今晩あたりで一緒にティータイムでもするか」

金剛「! ハイッ! お待ちしていマス!」

提督「金剛、何時まで起きていられる」

金剛「深夜でも問題ナッシングです。……流石に三時とかですと辛いデスが」

提督「ならば、零時にここへ来るとしよう」

金剛「ハイ! 楽しみにしていマス!」

提督「…………」ポン

金剛「?」

提督「ありがとう」ナデナデ

金剛「!」

提督「では、私は執務に戻る。また今夜に」

ガチャ──パタン

金剛「……テートクの顔、穏やかでシタ」

金剛「少しは、お役に立てているのでショウか……?」

…………………………………………。

266 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 18:58:43.24 7SUR/2U5o 426/671

提督「──さて、今日の執務はこれで終わりだ。ご苦労だった、飛龍」トントン

飛龍「お疲れ様です、提督」

提督「ああ。今日はもう休んで良いぞ」

飛龍「はい。──あ、そうだ。一つ良いですか?」

提督「ん?」

飛龍「これから何かご予定とかありますか?」

提督「……そうだな。一つ入っている」

飛龍「あら、そうですか……」

提督「何かあったのか?」

飛龍「ああいえ! 大した事ではありませんから」

提督「ふむ?」

飛龍「ええーっと……ただ、お酒に誘おうかなっと思っただけです。ほら、まだ日も跨いでいませんし」

飛龍(何より、なんだかいつもよりも誘いやすそうな雰囲気でしたしね)

提督「そういう事か。すまんが、それはまた今度にしてくれ」

飛龍「はい。また誘いますので、提督の都合が良い時に飲みましょう」

提督「ああ、そうしよう。──では飛龍、良い夢を見ろよ」

飛龍「はい! おやすみなさいませ」

ガチャ──パタン

提督(……さてと。約束の時間までかなり余裕があるな)

提督「……………………」チラ

提督「月夜に照らされた海、か……」

提督(そうだな。久し振りに夜の海でも眺めてみるか)

…………………………………………。

267 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 18:59:10.26 7SUR/2U5o 427/671

提督(……暗いな。月が昇っているとはいえ、半分だけの光では波くらいしか見えるものがない)スタスタ

提督(本当にどこまでも吸い込んでいきそうなほど黒い。……深海に沈むと、こんな風に暗くて黒いのだろうか)

「…………」ボー

提督「む、響?」

「! ……司令官? ビックリしたよ」

提督「私こそ驚いたぞ。こんな時間にどうしたんだ?」

「なんとなく部屋を抜け出したくなってね」

提督「……ふむ」

「向こうに帰りたいとかじゃないよ。それだけは先に言っておくね」

提督「ならば、他に思う所があるのか」

「ん、そうだね……。皆が優しい所が少し辛いかな」

提督「優しい所が?」

「うん。暁や雷、電が優しいんだ。私を相手に普通にしようと努力してくれてる」

提督「…………」

「私を見て、話して、一緒に居て、三人は辛いはずだよ。そうだっていうのに、三人は私と普通にしてくれてるんだ。……そんな三人の姿を見るのが、私は少し辛い」

提督「だから部屋を抜け出したのか」

「うん。ごめんよ、司令官」

提督「謝る事ではない。いずれ、三人も響も慣れる事だ」

(司令官みたいに……とは言わないでおこうかな)

提督「響」

「なんだい司令官?」

提督「お前には、目の前に広がる海がどう見える?」

268 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 18:59:45.07 7SUR/2U5o 428/671

「……………………なんだか、私や司令官みたいに見えるよ。誰かが見ている時は至って普通のようにしているのに、夜になって見る人が居なくなったら暗くて冷えてしまっている姿を見せるから」

提督「……そうか」

「…………」

提督「…………」

「金剛さんや瑞鶴さんも、同じなのかな……」

提督「……それは二人に聞いてみないと分からないかもな」

「うん……」

提督(…………ん?)チラ

長門「──二人してこんな所で何をしているんだ?」

「! ……海を見ていたんだよ」

長門「なぜまた夜の海なんかを……。暗くてほとんど何も見えないだろう?」

「なんとなく、かな」

提督「そうだな。なんとなくだ」

長門「……はぐらかしているように感じるが、まあ良いか」

提督「お前こそ、こんな夜中にどうしたんだ?」

長門「少し夜風に当たりたくなってな。時々だがこうやって夜、外に出ているんだ」

提督「そうか。意外だな」

長門「……意外か?」

提督「就寝と起床のどちらも規則正しくしていそうなイメージがある」

長門「なるほど。出来れば私もそうしたいものだな」

269 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/06 19:00:14.12 7SUR/2U5o 429/671

「長門さんも休みは不定期だったからね」

提督「それで体内時計が狂ってしまったのか?」

長門「そんな所だ。何も無いのにいきなり目が覚めてしまう事もある。そういう時はこうして夜風に当たっているぞ」

提督「…………」ポン

長門「……なぜ頭に手を置いた」

提督「やはり、お前も苦労していたんだなと思ってな」ナデナデ

長門「私を子供扱いか……」

提督「ただの労いだ。素直に受け取っておけ」スッ

長門「むぅ……」

提督「──さて、私はそろそろ中へ戻るとしよう」

「もう行っちゃうの?」

提督「金剛と約束をしていてな」

「私も行って良い?」

提督「そうだな。金剛も喜ぶだろう。──長門、お前はどうする」

長門「ふむ……。お邪魔させてもらおうか。その内、眠気もやってきてくれるだろう」

提督「決まりだな。では、行くか」

…………………………………………。

277 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/13 23:07:19.03 5gqbYN2eo 430/671

コツッ──コツッ──コツッ──

金剛「!」ソワソワ

カチャッ……ガチャ──パタン

提督「待たせた」

瑞鶴「お邪魔しまーす」

「やあ」

長門(……甘い匂い)

金剛「ワォ。皆、来てくれたのデスね」

提督「外では響と長門に、廊下を歩いている途中で瑞鶴と会ってな。事情を知っている者だから誘ったんだ」

金剛「なるほどデス。では、お湯も沸いているので、すぐに紅茶を淹れるネー」ソッ

長門「……本当、随分と元気になったな」

金剛「そうデスか?」

瑞鶴「うん。あそこに居た時とはもう全然違うわよ」

「枯れ掛けた花に水をあげたような感じだよね」

長門「うむ。確かにそのような感じだ」

金剛「枯れ掛けたって……まるでお婆ちゃんみたいな言い方デス……」

提督「流石に婆さんは無理がある。どんなに悪く見積もってもお姉さんだろう」

瑞鶴「提督さん的には今の金剛さんはどんな風に見えるの?」

提督「うら若き乙女」

金剛(……少し照れマスね)テレ

「私は?」

提督「頭の回る聡明な子、だな」

「ハラショー」

278 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/13 23:07:58.15 5gqbYN2eo 431/671

瑞鶴「じゃあ私や長門さんはどうなの?」

提督「瑞鶴は少女というのがピッタリと当て嵌まる。長門は……そうだな」

長門「…………」

提督「……プライドの高い女性だろうか」

長門「……なんだか私にだけ毒があるように聞こえるのは気のせいか?」

提督「まだ長門の事はよく分かっていないからどうもな。第一印象より少し踏み込んだ部分までしか判断できん」

長門「私はそんなにもプライドが高いように見えるのか……」

瑞鶴「うん」

金剛「…………」コクコク

提督「喋り方や仕草、自分の趣味を隠す所など特に」

長門「~~~~~~ッ」

提督「ついでに言うと、素直になれない不器用な子にも見える」

長門「……酷く、落ち込むなそれは…………」ズーン

「こればっかりは性格だから仕方が無いのかな」

長門「……なるべく早く直すよう善処しよう」

提督「私は無理に変えようとしなくても良いと思うが」

長門「気休めの言葉は受け取らんぞ……」

提督「変えるなとは言っていない。そういうのはゆっくりで良いんだ。周りに迷惑を掛けている訳でもないだろう? むしろ、急に変えようとするとストレスにもなる上、周りも心配する。そういうものは自分のペースで変えていく方が上手くいくものだ」

長門「……ああ、なるほど。そういう事か」

瑞鶴「…………? 何がそういう事なの?」

長門「いや、すまん。駆逐艦の子達が揃ってこの方の事をお父さんみたいだと言っていたのを思い出してな。それでなるほどと思ったんだ」

金剛「言われてみれば確かにそんな感じもするネ。──お待たせしました。アッサムですヨ」

279 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/13 23:08:24.29 5gqbYN2eo 432/671

瑞鶴「良い香りねー。どういう紅茶なの?」

金剛「深いコクと力強い味の紅茶デス。味が強いデスので私はミルクティーが一番合うと思いマス」

「じゃあ、私はミルクティーにするね」

瑞鶴「私もミルクティーにしてみる」

提督「私はストレートで頂く」

金剛「長門はどうしマスか?」

長門「では……ミルクティーで」

金剛「分かりまシタ。──まずは提督の分デス」ソッ

提督「ありがたい」

金剛「そして……ハイ、三人の分デス」ソッ

瑞鶴「ん? 金剛さん、なんで提督さんのと私達のでポットが違うの?」

金剛「ミルクティーにする時は茶葉の量を多くすると、とっても美味しくなるデース。飲み比べると分かるデスよ」

瑞鶴「へぇ……。あ、ミルクってどれくらい入れるの?」

金剛「お勧めは紅茶の半分くらいデス」

長門「半分……? そんなにも入れるのか」

金剛「イエス。ストレートティーに同じ量を入れるとミルクの味に負けてしまいますが、そうならないように茶葉を多く入れるのデス」

「そうなんだ。じゃあ早速」スッ

「……美味しい。紅茶って、こんなに美味しいんだ」

瑞鶴「何これ。支給品の紅茶と全然違う。砂糖も入ってないのに、淹れ方が違うだけでこんなにも美味しくなるんだ」

長門「これは……」パチクリ

金剛「長門も気に入ってくれたようデスね」ニコニコ

長門「ああ。こんなに美味い紅茶を飲んだのは初めてだ」

280 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/13 23:08:51.32 5gqbYN2eo 433/671

金剛「テートクはどうデスか?」

提督「ああ、美味いぞ。スコーンも頂こうか」スッ

瑞鶴「あっ私も」

金剛「瑞鶴、このスコーンはプレーンですからジャムやメープルシロップ、クリームを付けると良いデスよ」

「金剛さんのお勧めは?」

金剛「少し悩みマスが、私はクリームを付けるのが一番だと思うデース」

瑞鶴「クリームね。分かったわ」

金剛「たっぷりと付けるのが秘訣ネ」

瑞鶴「じゃあ……このくらい?」

提督「もう少し多くするくらいだ。──ああ、それくらいだな」

金剛「!」

瑞鶴「~~~~~~!! 最高……っ! こんなに美味しいお菓子を食べたのって初めてかもしれないわ……!!」

金剛(……確か、テートクは砂糖が苦手だったはずデス。という事は……)

提督「どうした金剛? お前も食べて良いんだぞ」

金剛「──アハ。皆の美味しそうに食べてくれる姿に気を取られちゃったデース」

長門「これほど美味い菓子を作ってくれたんだ。私も大満足だぞ」

金剛「ありがとうございマス!」

金剛(……このティータイムは、失敗だったかもしれまセン)

提督(ふむ……)

…………………………………………。

281 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/13 23:09:26.60 5gqbYN2eo 434/671

金剛「……………………」カチャ

金剛(よく考えれば、当たり前の事でシタ……。私達はテートクの事をよく知っていませんが、テートクは『私達』の事をよく知っているのデス……)

金剛(大体の好みも、どういう事が苦手なのかも、テートクは分かっているはずデス……。だから、私が手の込んだお菓子や紅茶を用意しても、それはテートクの『金剛』が既にやっている事のはずデス……)

金剛「……辛く、思い出させてしまっただけデス。本当、私はダメな艦娘デス……」

金剛(こんなだから、私は──)

コンコンコン──

金剛(────っ? ……誰デスか? 私を知っている人ならば、誰もこんなノックなんてしないはず……)

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「……え?」

提督「さっき振りだな。少し時間をくれないか?」

金剛「ええ……それは構わないのデスが……何かあったのデスか?」

提督「何かがあったのは金剛、お前だろう」

金剛「────────」

提督「今回のティータイム、失敗したと思っていないか?」

金剛「……は、い…………」

提督「やはりな。途中で様子がおかしかったから、そうだと思った」

金剛(怒られるのでショウか……)ビクビク

提督「今回、ティータイムを提案したのは私だというのを忘れていないか?」

金剛「…………? あ──」

提督「ようやく気付いたようだな。そういう事だ。私は、今回のティータイムは良い時間だったと思っていた。金剛や瑞鶴、響に長門が小さいながらも喜んでいただろう? ああいう時間がお前達には必要だと、改めて思ったくらいだ」

提督「金剛が何を思って罪悪感を覚えたのかまでは分からないが、その罪悪感は杞憂だから安心しろ。実際に、紅茶を飲む私は辛そうな顔をしていたか?」

金剛「…………」フルフル

提督「そうだろう? お前は頭が回る。そして少し臆病だ。自分が悪かったと思ってしまうのも過去を考えれば仕方が無いが、そんな事はないと伝えておく」

金剛「…………」

提督「…………」

金剛「……………………」

提督「……大丈夫だ」ソッ

金剛「っ……!」ピクン

提督「大丈夫だよ、金剛」ナデ

金剛「…………」ジワ

提督「また、機会があったら美味い紅茶を淹れてくれ。楽しみにしているから、な?」ナデナデ

金剛「……はい…………っ」ポロ

金剛「はい……! はいっ……!」ポロポロ

金剛「ありがとう、ございマス……! 本当に……本当に、不安だったのデス……! 迷惑しか掛けていないんじゃないかと……余計な事しかしていないんじゃないかと……!」ギュゥ

提督「……雨が止むまで、私は傘になっておこう。雨宿りくらいならば出来るはずだ」ナデナデ

金剛「うぁぁ……ひっく…………ぁぁ……」

…………………………………………。

289 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/21 01:42:19.62 Y/xJyOjdo 435/671

金剛「……もう、大丈夫デス」

提督「そうか」スッ

金剛「……えへ。なんとなくデスが、分かった気がしマス」

提督「何がだ?」

金剛「今はまだ秘密、デス」

提督「そうか……」

金剛「ハイ。この先どうなるかは分かりまセンが、もしかしたら言えるかもしれないデス」

提督「ふむ」

金剛(期待すると同時に、抑えておいた方が良いかもしれまセンけれどね……)

金剛「ところで、もうこんな時間デスけれど朝は大丈夫なのデスか?」

提督「すぐにでも寝れば問題無い。心配してくれてありがとな」

金剛「いえいえ。お身体は大事にして下サイね?」

提督「ああ。皆の心配する顔はあまり見たくはない」

金剛「もう……そっちデスか」

提督「こればっかりは性分だ。諦めろ」

金剛「むぅ……──!」ハッ

金剛「ほらほら、早くスリープして疲れを取って下サイ。でなければ明日辛いのはテートクですヨ」グイグイ

提督「そうしておくか。──では、良い夢を見ろよ、金剛」

金剛「ハイッ。テートクも良い夢を見て下サイね」

ガチャ──パタン

金剛「…………」トコトコ

カチン

金剛(……さて、鍵も掛けましたし片付けの続き──は、もうこれでお終いデスね)カチャ

金剛(であれば、私もそろそろお休みするとしまショウか)パチン

金剛(よいしょ……)コロン

フワッ

金剛「あ──……」

金剛(……なぜでショウか。たまにあるのデスが、こうして横になっていると誰かに護られているような気分になりマス……)

金剛(……この鎮守府は、本当に不思議な事で一杯デス)

金剛(艦娘をあんなにも大切に扱って下さるテートクに、深海棲艦の二人、そして本当は違う提督の艦娘の私達……。どれも普通ではありまセン)

金剛(このベッドもそうデス。こんなにも心が落ち着けるなんて、本当に不思議デス)

金剛(今日も、ぐっすりと眠れそうデスね──…………)

……………………
…………
……

290 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/21 01:42:54.62 Y/xJyOjdo 436/671

提督「──さて、今日の執務はこれで終わりだ。今日はよく最後まで起きていたな、利根」

利根「まあ、そういう事もあるのじゃ」

提督(……うん?)

飛龍「それでは、私はそろそろ部屋に戻りますね」スッ

利根「む? なんじゃ。今日はやけに早く帰るのじゃな」

飛龍「加賀さんにお酒を誘われていましてね。提督と利根さんも一献どうですか? 良いお酒が入っていますよ」

利根「そうじゃのう。我輩は次に回すとするかの」

飛龍「ありゃ。用事でもありましたか」

利根「うむ。ちっとばかし厄介事がの」チラ

飛龍(ん……? 提督の方へ視線を……?)

提督(……私に関係する事か)

提督「すまんが飛龍、今ばっかりはタイミングが悪い。また今度誘ってくれるか?」

飛龍「……はい……分かりました」シュン…

提督「良い夢を見ろよ」

飛龍「はい……」

ガチャ──パタン

提督「──それで、何があったんだ利根? 今まで起きていたのもそれを伝える為か」

利根「うむ。些細じゃが気になる噂を耳にしての」

提督「噂?」

利根「なんでも、夜に幽霊が現れるらしいぞ」

提督「見間違いか寝惚けていたか、それとも誰かが面白がって流したという可能性は」

利根「無論、その可能性もあるじゃろうが、限りなく低いじゃろう。内容が内容じゃ。面白半分で流す奴なぞこの鎮守府に居らん」

提督「……何を見たと言うんだ」

291 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/21 01:43:22.06 Y/xJyOjdo 437/671

利根「……………………」

提督「…………」

利根「……金剛じゃ」

提督「なんだって……?」

利根「信じにくい話じゃが、あの金剛らしいぞ」

提督「それは、今隣に居る金剛を見掛けたという事ではないんだな?」

利根「うむ。我輩達のよく知る、我輩達が壊れる切欠となった金剛……。半分ほど透き通っており、おまけに艤装付きだったそうじゃ」

提督「…………」

利根「提督よ、我輩は幽霊というもの自体は信じておる。じゃが、金剛の幽霊となると話は別じゃ。……あやつは、沈んでしまったのじゃからな」

提督「……必ずとは言えないが、艦娘が沈めば深海棲艦となる。幽霊になるはずが無い……か」

利根「うむ。──ちなみにじゃが、その話をしておった者達にはこれ以上、話が広がぬよう口止めをしておいた」スッ

提督「良くやった。では、確かめに行くぞ」スッ

利根「うむ。……こればっかりは、真相を確かめねばならん」

ガチャ──

提督「……利根」

利根「うん? どうしたのじゃ?」

提督「もしも、その噂が本当だったらどうする」

利根「…………さあ、のう……。まずは見付けてみねば分からぬ」

利根「眺めるだけか、何をしておるのかと話し掛けるか、地に手と頭を擦り付けて謝るか……どうするのかは、分からぬ」

提督「……そうか」

利根「そう言うお主はどうするのじゃ、提督よ」

提督「…………さあ、な。私も分からん」

利根「やはりか……」

提督「……一先ず、幽霊とやらを見付けるぞ。色々と問題が起きるかもしれんからな」

利根「うむ」

──パタン

292 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/21 01:43:52.74 Y/xJyOjdo 438/671

利根「…………」キョロキョロ

利根「一応聞いておくが、この部屋に居る金剛に関する話はせぬ方が良いのじゃな?」

提督「ああ。こんな時間とはいえ、誰に聞かれるか分からん」

利根「了解じゃ。……ところで提督よ」トコトコ

提督「どうした」スタスタ

利根「なぜ、幽霊は現れたのじゃろうな」

提督「さあな……。心配で様子を見に来た……とかだったら可愛いものなんだが」

利根「……もしそうならば、提督は本当に慕われておるのう」

提督「提督冥利に尽きる」

利根「こうやって冗談を言えている内は、まだ問題無いのう」

提督「ああ……。──ちなみに、どこで見掛けたとかは言っていなかったのか?」

利根「む……すまぬ。それは聞いておらなんだ。用を足しに行った時に見付けたとは言うておったから、恐らくそれまでのどこかじゃろう」

提督「ふむ。一応、鎮守府を回って見てみるか。別の場所でも見掛ける可能性はある」

利根「うむ。そうするかの」

スタスタスタ──

────────。

??「……………………」

…………………………………………。

296 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/28 20:31:43.87 7Iq+mEEgo 439/671

利根「……居らぬのう」

提督「居ないな。噂は噂にしか過ぎんという事だろうか」

利根「もしくは、今日たまたま会わなかっただけかもしれぬ」

提督「その可能性も高い──が、今日はもう遅い。お前はそろそろ寝ておけ」

利根「無論、提督も寝るのじゃよな?」

提督「私の性格を知っているだろう」

利根「知っておるから念押ししておるんじゃろうが。我輩の体調を気遣うお主が、自分の体調を気遣わないとは説得力が無くなるぞ」

提督「……仕方が無いな。今日は切り上げだ。次の夜にまた探すとしよう」

利根「それがベストじゃろうな。……ところで提督よ」

提督「どうした」

利根「此度の幽霊騒動じゃが、金剛を表に出す事に影響は出ぬか?」

提督「丁度、私もその事について考えていた所だ。そろそろ金剛もこの鎮守府の一員として迎えようと思っていたが、少し難しくなった」

利根「やはりか」

提督「金剛の幽霊を見たのは利根が聞いた者だけとは限らん。その上、幽霊を見た者からすると、ここで金剛を迎え入れる事となれば不気味に思うだろう」

利根「そうなるのう。……という事は、見送りか」

提督「残念ながらな……。ほとぼりが冷めるまで、また金剛には我慢してもらうしかない」

利根「仕方が無いのう……」

提督「……もしかしたら、金剛の幽霊が現れたのには意味があるかもな」

利根「なんのじゃ?」

提督「さて。それは私にも分からない。そもそも、本当に意味があるのかすらも分からん」

利根「全ては予想でしかない、という事じゃな」

提督「そういう事だ」

利根「金剛の幽霊が現れた意味……か。何かありそうな気がするのう……」

提督「どんな意味があると、お前は考える?」

利根「漠然とありそうと思っただけじゃな」

提督「そうか」

利根「……しかし、残念じゃ」

提督「ああ……残念だ。あそこに押し込んでおくのは、金剛にとってもあまり良くない」

利根「深夜くらいは外出許可を出してみてはどうじゃ」

提督「一考しておこう」

提督(……金剛の幽霊が現れた意味、か。……私に愚痴の一つでも言いに来たのだろうか。それとも、ただ単に会いに来たくなっただけ……というのは夢を見過ぎか……)

…………………………………………。

297 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/28 20:32:23.49 7Iq+mEEgo 440/671

金剛「…………?」

瑞鶴「え、金剛さんは待機? なんで?」

「何があったんだい、司令官」

提督「昨日、ある問題が発生した。それが原因で金剛には悪いが、もう少しここに居て欲しいんだ」

瑞鶴「問題?」

提督「ああ。この鎮守府で、幽霊が目撃された」

瑞鶴「え……」ビクッ

金剛「ゴースト、デスか」

「……それだけ?」

瑞鶴(え、みんな怖くないの!?)

利根「ただの幽霊ならば無視して構わぬが、金剛の姿をしておるのが問題なのじゃ」

金剛「私……?」

提督「正確にはこの鎮守府に存在していた金剛だ」

「…………ッ」

金剛「────」

瑞鶴「…………!」ビクビク

提督「もしかしたら、私に文句の一つでも言いに来たのかもしれんな」

金剛「それは無いと思いマスけど……」

利根「うむ。想像も付かん」

「二人に同意かな。私も全然思いつかない」

瑞鶴「…………」コクコク

298 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/28 20:33:46.81 7Iq+mEEgo 441/671

提督「深く関われば相手の欠点や不満に思う部分などいくらでも出てくるものだ」

提督(無論、その部分も含めて愛おしいが)

瑞鶴「……えっと、つまり、提督さんはその金剛さんに不満とかってあったの?」

提督「ある事にはあったぞ」

瑞鶴「へぇ……どんな事?」

提督「まずは無理をしがちな所だな。しかもそれを隠そうとする。もう少しは私を頼ってくれても良いと思うのだが。それと、アイツは私に対して盲目だった。いや、盲目は言い過ぎか。並大抵の事であれば受け入れてしまうんだ。ハッキリと言う所は言うのが救いだったか。あと、私を悪くない意味で困らせる事も多々あったな」

金剛(ナゼだか私にも当て嵌まっている所があるような気がするデス……)

「喧嘩とかもしたの?」

提督「すぐに収拾は付いていたが、たまにしていたぞ」

利根「二人が喧嘩をすると怖いのじゃぞ。誰一人、あの加賀ですら近付こうとせんのじゃからな」

瑞鶴「うわぁ……それってよっぽどよね……」

「どっちが折れてたの?」

提督「どっちもだ。冷静に考えて、互いに自分の悪い部分を言って丸く収まっていた」

瑞鶴「何それ……すっごく羨ましい」

利根「そうなのかの?」

金剛「……私達は、あの方に逆らえまセンでシタから」

瑞鶴「…………」コクッ

(夫婦や主従関係どころか、奴隷って感じだったしね)フイッ

「それでも、やっぱり聞く限りじゃ文句なんて言いそうにないかな」

提督「ふむ。どうしてそう思ったんだ?」

「勘、かな。女の勘」

提督「……響が女の勘と言うと、妙に信じてしまうな」

利根「うむ……。しかし、そうとしても深海棲艦にならずに幽霊になったのかは分からず仕舞いじゃぞ」

299 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/28 20:34:30.44 7Iq+mEEgo 442/671

瑞鶴「──え? ちょ、ちょっと待ってよ!」

利根「む?」

「……利根さん、今の」

提督(……マズったな)

金剛「…………」

利根「む……すまぬ、提督」

提督「仕方が無い。空母棲姫やヲ級が居るんだ。いずれバレていただろう。……そういう事だ。あくまで可能性だが、艦娘は沈むと深海棲艦となる可能性が高い」

「……どうしてそう思ったんだい」

提督「三人も薄々気付いていたと思うが、二人──特に空母棲姫はどこかで見た事のある姿と言動をしていないか」

瑞鶴「それは……思った事はあるけど……」

提督「私の予測だが、空母棲姫は加賀が沈んだ姿ではないかと思っている。深海棲艦だというのにも関わらず艦娘に詳しいのも、そう考えれば納得がいく。ヲ級は……今の所分からん」

瑞鶴「で、でも! 沈んだら確実に深海棲艦になる訳じゃないのよね? それだったら、幽霊になる可能性だってあるんじゃないの……?」

提督「今まで艦娘の幽霊というのを聞いた事が無い。私も提督だ。もしそのような事例が他の鎮守府にあれば耳へ入ってくる」

提督「……それどころか、艦娘が沈んだ後はどうなるのか──それを知っている者は誰も居ない。帰って来たという話も無い。死体として浮き上がってきたという話も無い。こればっかりは流石におかしいと思わないか?」

「……仮にそうだったとしても、実際に金剛さんの幽霊が出ているんだよね。これはどういう事なのかな」

提督「それが分からない所だ。私の予想が外れているのか、それとも何か特別な理由があったのか……」

瑞鶴「……私は、予想が外れていて欲しいなって思う。だって、それってつまり過去の仲間を殺してるって事だし……」

提督「その点に関しては人間同様に死後、悪霊となった者が退治されるようなものだと思っていたのだが」

瑞鶴「……うん。そう思うようにするわ。……その方が、気が楽だもん」

提督「話を戻すが、最低でも幽霊騒ぎが解決するまではここに居て貰えないだろうか」

金剛「分かりまシタ」

利根「……即答じゃのう」

金剛「…………? えっと、何かおかしかったデスか?」

提督「……お前も、どことなく全てを受け入れようとする節があるな」

金剛「あれ……え……?」

300 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/28 20:35:25.07 7Iq+mEEgo 443/671

「もう少し不満を言ったり、代わりに何かを要求すれば司令官の気が楽になるって事?」

提督「それもある。……そうだな。直接訊くのは苦手だが……何か欲しい物はあるか?」

金剛「欲しい物……」

四人「……………………」

金剛「うーん……うー、ん……?」

利根「……些か無欲が過ぎぬか?」

瑞鶴(まあ……あんな暮らしと比べたら、ここでのんびり出来るだけでも天国だしねぇ……)

金剛「…………えっと、では……時々、ここで今みたいにティータイムをしまセンか? 長門や、空母棲姫にヲ級も交えてデス」

提督「……そんな事で良いのか?」

金剛「え。これでも結構無茶を言ったつもりなのデスけど……」

利根「……感覚が大いに違うのう」

提督「……一先ずはそれで手を打とう。また何かあったら言ってくれるか?」

金剛「ハイ」

金剛(……これ以上、望む物が無いって言ったら逆に困られてしまいそうデス)

…………………………………………。

301 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/02/28 20:35:54.32 7Iq+mEEgo 444/671

瑞鶴「それじゃ金剛さん、おやすみ」

「またね」

利根「温かくして寝るのじゃぞー」

提督「良い夢を見てくれ」

金剛「グッナイ、デース」

瑞鶴「……ねえ提督さん。迷惑かもしれないけど、部屋まで送ってもらって良い……? 怖くて……」

提督「そこまで苦手だったのか。分かった。送ろう」

瑞鶴「ありがと……」

ガチャ──パタン

金剛「…………」カチン

トコトコ……ポフッ

金剛「……私は、そんなにもおかしいのでショウか。……とは言っても、他にしたい事は…………」

金剛「…………テートクの為に何かをしたい……? うーん……」

金剛(……深くは考えないようにしまショウか。思い付いたものがテートクにとって困る事という可能性もありマスし)

金剛(それにしても……ゴースト、デスか……。テートクの金剛は数年前に沈んだと聞きましたが、なぜ今になって……? どんな意味があるのでショウか……)

金剛「本当にテートクへ文句を……? まさか。出会ってからまだ日は浅いデスが、とても魅力的な人だというのは分かるデス」

金剛「……それとも、こう思うのすらおかしいのでショウか。デスが、三人も文句を言いに来たとは思いにくいと言っていまシタし……」

金剛「いっそ、ゴーストと話す事が出来れば良いノニ……。そうすれば、どうしてゴーストとして現れたのかも聞けマスし……」

金剛「……寝てしまいまショウ。叶わない夢は望まない方が良いデス。……いえ、叶わないからこそ、夢というのかもしれまセンね」モゾ

金剛「……………………」スゥ

??「…………」スッ

金剛「……………………」スー

??「…………」ナデ

金剛「ん……?」パチッ

金剛(…………? 今、誰かに頭を撫でられたような……?)キョロ

金剛(……そんな訳ないデスよね。まどろみの中で、誰か優しい人が撫でてくれたのと勘違いしたのでショウ)

金剛(もう一度、さっきの夢を見たいデスね……。なんだか、凄く優しかったデス……)スゥ

??「……………………」

……………………
…………
……

305 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/06 19:00:22.66 YC7of8ero 445/671

提督「…………」サラサラ

利根「……うーむ? 飛龍よ、この部分はどうすれば良いのじゃ?」スッ

飛龍「どれですか? …………ああ、先月の書類にある資料を前提としていますので、それを参考にして──」ゴソゴソ

利根「ふむ。ふむふむ」

コンコンコン──。

提督「ん? 入れ」

ガチャ──パタン

長門「失礼する」

提督「長門か。どうしたんだ」

長門「一つ、報告せねばならん事がある」

提督「報告? もう就寝時間前だというのにか?」

長門「先程、幽霊を見たと言う子が居た」

提督利根「!」

長門「非常に怖がっていたので部屋まで送ったが、その時に私も幽霊とやらを見掛けたのでな」

飛龍「……この鎮守府に幽霊が出るなんて初めて聞きましたよ。大丈夫だったんですか?」

長門「ああ。まるでこっちが見えていないかのように廊下を歩いていたぞ」

提督「……長門」

長門「どうした」

提督「その幽霊は、どんな姿をしていた」

長門「艤装を着けた金剛だったが、それがどうした?」

提督「利根、飛龍。私は少し席を外す。そのまま執務を続けてくれ」スッ

飛龍「え? は、はい……」

利根「…………」

提督「長門、幽霊を見掛けた場所へ案内してくれないか」

長門「良いだろう。こっちだ」

ガチャ──パタン

飛龍「……幽霊ですかぁ。小さい子は怖がりそうですね」

利根「…………そうじゃの」

飛龍「? どうしたんですか利根さん? なんだか難しい顔をしていますけど」

利根「まあ、我輩にも色々とあるのじゃ」

飛龍「…………?」

…………………………………………。

306 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/06 19:00:49.00 YC7of8ero 446/671

長門「見失ったのはここだ」

提督「見失った?」

長門「ああ。どこへ行くのか少し気になったのでついて行ったのだが、ここで見失った。初めに見掛けた場所はこっちだ」スタスタ

提督「……ふむ」スタスタ

提督(こっちの方にあるのは……)

長門「この分かれ道の右で見掛けた。丁度、幽霊も曲がった所だったな」

提督「……なるほど」

長門「何か分かった事でもあったのか?」

提督「そうだな。幽霊の自室だった場所から提督室へ向かっているように思える」

長門「……その言い方をするという事は、幽霊の金剛というのは」

提督「ああ。……沈ませてしまった金剛だ」

長門「…………そうか。ならば、幽霊は何か目的があるのかもしれんな」

提督「何の目的かは分からんがな」

長門「……少し気になったのだが、貴方はまだ幽霊を見ていないのか」

提督「ああ。今回の件で提督室へ用がありそうという事は分かったが、それだったらまだ提督室付近で見ていない事から謎が深まるばかりだ」

長門「ふむ……」

提督「……………………」

長門「……それと、もう一つ気になる事があるのだが」

提督「なんだ?」

長門「その幽霊を見掛けたというのが睦月と弥生でな。酷く怖がっていた」

提督「幽霊に何かされたのか?」

長門「いや、幽霊という存在に怯えていた様子だった。まだ小さな子供だからな。幽霊が怖いのだろう」

307 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/06 19:01:16.20 YC7of8ero 447/671

提督「ふむ……。明日の演習に響いてしまいそうだな」

長門「うむ。そこで、明日の演習は二人の代わりとして私に任せてくれないだろうか。私ならば都合も簡単につけられるし、私自身がそろそろ身体を動かしたい」

提督「相手は下田鎮守府だぞ」

長門「ほう。それは良い事を聞いた。むしろ望む所だ。向こうの艦隊を教育し、尚且つあの馬鹿者の反応を窺いたい。私が演習に出る事を強く希望したと言っておいて貰えないだろうか」

提督「……お前、そんなに非道な事をする奴だったか?」

長門「指揮官があまりにも酷い事をしないのであれば、私も反発などせず従うのだと分からせたい。……気付いてくれなさそうなのが心配の種の一つだが」

提督「もしもお前の希望通りまともに指揮を執るようになるのならば、下田の艦娘の待遇も良くなるという考えか」

長門「そういう事だ。頼めるだろうか」

提督「良いだろう。この後、メンバー変更の連絡を入れておく」

長門「ありがたい。……本当、下田の提督が貴方であれば良かったのにな」

提督「代わりにこの横須賀へ下田の提督が着任していただけだ。何も変わらんよ」

長門「……それもそうだな。全ては、運命という事か……」

提督「そうだな……」

提督「ところで長門。お前はそろそろ部屋へ戻っておいた方が良い」

長門「む。どうしてだ?」

提督「明日の演習があるからだ。いつまで起きておくかは個人に任せているが、今のまま幽霊探しを続けていては部屋へ戻れるのはいつになるか分からん」

長門「ふむ、了解した。私は部屋へ戻っておこう」

提督「ああ。後は私に任せて明日への力を蓄えておけ」

長門「ふふっ……勿論だ。明日は必ず勝利へ導いてやろう」

提督「頼もしい言葉だ。──では、良い夢を見ろよ」

長門「おやすみだ」スタスタ

提督(……さて、私はもう少し探して回るか)スタスタ

提督(それとも金剛、もしかしていつものように困らせに来ただけなのか……?)

…………………………………………。

308 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/06 19:01:43.19 YC7of8ero 448/671

金剛『…………? ここは、どこデスか? 周りが真っ白で、何も見えないデス……』

金剛『なのに眩しくない……? ──ああ、これは夢デスね。こんな真っ白な空間は現実にあるはずがないデス。それに、私はテートクの隣の部屋に居るはずデス』

金剛「……………………」コツ

金剛『? ……貴女は…………』

金剛「…………」

金剛『私……? ……いえ、私ではない金剛なのデスね』

金剛「…………」コクッ

金剛『こんな事は初めてデス。ここはどこなのか、何の為にこうなっているのか、貴女は何か知っているのデスか?』

金剛「…………」コクッ

金剛『では、教えてくれマスか?』

金剛「…………」

金剛『…………?』

金剛「…………」

金剛『……あの、もしかして声が出ないのデスか?』

金剛「…………」コクン

金剛『困りまシタ……。どうしまショウ……』

金剛「…………」パクパク

金剛『……………………あ、えっと……すみまセン……。私は口の動きだけでは言葉は分からないデス……』

金剛「…………」ソッ

金剛『……あの? 私のおでこを触って、どうか──』

ズキン──!

金剛『あぅ……!?』

金剛「…………」ペコッ

金剛『い、今のは……ッ?』

ガバッ──!

金剛「はっ──! はっ──!」

金剛「……さっきの夢は一体──ッ」ズキッ

金剛「──え、これって…………まさか……?」

金剛「…………良いデスよ。お貸ししマス。でも、無理だけはしないで下サイね?」

…………………………………………。

323 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/14 19:53:33.99 623KBLNVo 449/671

大佐「……いやはや驚きました。あの長門が言う事を聞いているとは。どのような手段で大人しくさせたのですか?」

提督「私は特別な事などしておらんよ。逆に、どういう問題があったのか私には分からなかったくらいだ」

大佐「…………」

提督「大佐、君の鎮守府の話は聞いている。もう少し艦娘を大切にしてみてはどうだろうか。長門は大佐への愛想が尽きたとは言っていたが、まだ待っているようだったぞ」

大佐「……………………」

提督「艦娘が心を開いてくれれば、必ず大佐の良き戦力となろう。騙されたと思っても良い。まずはやってみないか?」

大佐「……考慮しておきます」

提督「そうか。……む?」

大佐「…………!」

提督(……下田の艦隊は二隻目の戦艦が大破か。残る有効的な攻撃手段は空母のみで、こちらの艦隊は損傷軽微。これは勝敗が決したか)

大佐「…………」

提督(制空権もこちらが完全に確保した。これで詰みだ。──ああ、とうとう降参したか)

大佐「…………」イラ

提督「大佐、君がどういう指示を彼女達に出したのか私は知らない。だが、数年前と今回の演習を見れば分かる。出来れば細かな指示を出してやってくれ」

提督「そうでなければ、勝てる戦も勝てなくなってしまうぞ」スタスタ

大佐(あの馬鹿共が……! こいつに勝てないのはいつもの事だが、降参するとは何を考えているんだ……!! まったくもって不愉快だ!)ツカツカ

大佐(大体こいつもこいつだ。長い間、提督の椅子から退いていたというのに、いきなり帰ってきたと思えばまた中将の椅子に座っていやがる。なんの嫌がらせだ)

大佐(ああクソが……。向こうの駆逐艦共が嬉しそうにアイツに手ぇ振っているのを見ると虫唾が走る)

大佐(はー……壊してぇ)

大佐(俺は安全な場所から姿も声も見せずにこいつらが苦しんでもがいて抗っているのを淡々と見ていたい)

大佐(はー……そんな方法でもありゃ良いのに……)

長門「…………」ジッ

大佐(……あ? 何見てんだあいつ)

長門「……………………」フイッ

大佐(クソが……。たかが兵器の分際で哀れんだ視線を送ってきやがって……。…………あー、そうか。長門は待っているとか言っていたな。俺の様子を見ていたって所か。まあ、今ので完全に愛想も尽きただろうし、もうどうでも良いわ)

大佐(はー……壊してぇ……)

…………………………………………。

324 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/14 19:55:06.94 623KBLNVo 450/671

長門「…………」トコトコ

提督「どうした長門。下田の大佐と話していたが、何かあったのか」

長門「ん……ああ、まあ……少しな……」

提督(……長門の望んだ通りにはならなかったのだろうか)

長門「……予想外だった」

提督「ん?」

長門「まさか、この鎮守府に移籍したいのならば中将と話をしてから決めろと言われるとは思わなかった」

提督「……ふむ」

長門「どういう訳かを聞いてみたが、答えずだ。貴方の許可を貰い、私が移籍を希望するのならば提督も移籍申請書を上に通すと言っていたよ」

長門「……結局、アレは何も変わらないのだな。どうして私が貴方の指示に従っているのか、まったく分かっていない。……困ったよ、本当に」

提督「お前はどうするんだ?」

長門「どうするも何も、ここへ移籍の希望を出すという手しか私には残っておらんよ。……向こうの鎮守府へ戻っても、流れ作業のように解体されるのがオチだ」

長門「……尤も、貴方が私の移籍を認めてくれるかどうかから始まるのだがな」

提督「言わずもがな認める。解体されなければ、またいつか向こうの艦娘達と顔を合わせる事もあるだろう」

長門「ありがたい……」

提督「何はともかく、演習をしてどうだった」

長門「……そうだな。本当に、何も変わらないんだなと思ったよ。まともな作戦指示を与えず、個々の力でなんとかさせているやり方は、か弱い」

提督「いや、お前自身がどう思ったかについてだ」

長門「私か? ……どうだった、か。ふむ……………………久々に戦闘が出来て良かった、だろうか」

提督「そうか。ここへ移籍となった際には出撃もしてもらうようになる。その時を楽しみにすると良い」

長門「……ああ。楽しみにしておこう」ニコ

提督「無理をして笑顔を作らなくても構わん」ポン

長門「……まったく。そうやって艦娘の頭を撫でるのは癖なのか?」

提督「私個人が好んでいるだけだ」ナデナデ

長門「……本当、不思議な人だ」

…………………………………………。

325 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/14 19:55:33.43 623KBLNVo 451/671

ヲ級「♪」パクパク

瑞鶴「ほら、口に欠片がくっついてるわよ」ソッ

ヲ級「ん、ありがと!」ニパッ

瑞鶴(……可愛いなぁ)ナデナデ

「また美味しくなってるよ、金剛さん」モグモグ

金剛「喜んで下さったようで何よりデス」ニコニコ

空母棲姫「……どうしてこうなったんだ」

利根「何がじゃ? そんなに不思議な事かの?」

長門「……まあ、普通ではないのは確かだろう」

提督「そうだな。そこは否定しない。利根がこんな時間まで起きているのもかなり珍しい」

利根「何か目が冴えてのう」

空母棲姫「……………………。……しかし、本当に私達を呼んでも良かったのですか? 移動している途中で私達が見付からないとは限りません」

提督「なるべく見付からないよう手配している。もし見付かっても私の子達ならば理解してくれるだろう。……流石に一度に大勢へ見付かると混乱はすると思うが」

空母棲姫「もう……またそうやって楽観的に……」

利根「む? むむむ?」モグ

瑞鶴「? どうかしたの、利根さん?」

利根「いやなに。このクッキーが何かどことなく懐かしいような気がしてのう」モグモグ

「懐かしい?」

利根「うむ。どこかで食べたような気がするのじゃが……うーむ?」

瑞鶴「提督さんも食べたら分かるのかしら」

提督「……すまないが、私は甘い物が苦手でな」

瑞鶴「あ、そうだった……」

「こっちの甘くないのはどうかな?」

提督「ふむ。そっちはまだ口にしていないから食べてみよう」

長門「…………」

空母棲姫「どうした。今日はやけに静かだな」

長門「……まあ、私もそういう日くらいある」

空母棲姫(……何かあったのでしょうね。けれど、あまり言いたくない事なのかもしれないから、ひっそりとしておきましょうか)

利根「どうじゃ、提督よ?」

提督「……確かにどことなく懐かしいような気はするが、いまいち分からん」

利根「ふうむ……そうか……」

…………………………………………。

326 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/14 19:56:00.28 623KBLNVo 452/671

利根「では、我輩もそろそろ寝るのじゃー」

提督「ああ。良い夢を見ろよ」

金剛「おやすみなさいませ」

ガチャ──パタン

提督「──さて。全員が帰った事だし、私ももう少しすれば部屋へ戻るとしようか」

金剛「あ、少し待って下サイ」

提督「うん?」

金剛「実は、テートクに相談がありまシテ……良いデスか?」

提督「ああ構わんぞ。どうしたんだ?」

金剛「……テートクの金剛についてデス」

提督「…………ふむ」

金剛「テートクは、出来るのならば会いたいと思いマスか?」

提督「無論、そうだ。そう思わない理由など無い」

金剛「分かりまシタ。……少しだけ待っていて下サイね」スッ

提督「……む?」

提督(目なんて閉じてどうしたんだ……?)

金剛「…………」パチ

提督(……雰囲気が少し変わった? しかし、これは……)

金剛「……………………」ニコ

提督「…………」

金剛「提督、分かりますか?」

提督「────────」

金剛「あは。流石テートクです。今ので分かってくださったようデスね」

提督「まさか……こんな事が……」









金剛「第一艦隊旗艦金剛、ただいま帰投しまシタ」

331 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/21 18:59:20.71 lFglZpsro 453/671

提督「……本当に、お前なのか?」

金剛「ハイ。テートクとの秘密も全部覚えているデスよ」

提督「……ペンダントはどちらを貰った」

金剛「左デス。……今は海の底に沈んでしまっているので心底悔やんでいマス」

提督「…………」

金剛「テートクは、まだ持っていマスか?」

提督「引き出しの奥へしまってある。……見るか?」

金剛「……いえ。片方が無いのは寂しいデスから……」

提督「……そうか」

提督「……ところで金剛。お前は、どうしてここへ居るんだ?」

金剛「それは分かりまセン。気付いたら海の上で立っていて……色々と悩みまシタが、鎮守府へ戻る事にシタのデス。……デスが、皆さん私の事が見えていないようでシテ。私も最近まで皆の声が聴こえなかったので、少し寂しかったデス……。おまけに、テートクもしばらく居ませんでシタし……」

金剛「デモ、最近になって声が聴こえまシタ。私と同じ声の、この子の声デス。初めは幻聴かと思いまシタがやっぱり聴こえたのデス。そして今日、身体を貸して下さいまシタ」

提督「身体を借りた理由は、私へ文句を言う為か?」

金剛「それも一つデスけど、一番はもっと別デス」

金剛「──テートクと、またお話がしたかった。私が沈む前に思った事が、今叶いました」

提督「……そうか」

金剛「……むー。テートク、なんだか反応が薄くありまセンか? 正直、今にでも抱き付こうかと思っていたデスよ?」

提督「今まで幾度と無く夢に見た、絶対に叶わないと思っていた光景なんだ。少し混乱している。あと、その身体は借り物だから抱き付くのはやめておけ」

金剛「ウー……。デハ、髪を梳いてくれマスか?」

提督「まあ……そのくらいならば許してくれるかな。ブラシを取ってくる」スッ

金剛「ハイ。待っているデース」

ガチャ──パタン

332 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/21 18:59:49.63 lFglZpsro 454/671

金剛「……………………」

金剛(……別に、抱き締めても問題無かったりするんですよね。まだ小さいですが、この子も──)

金剛(…………どうなるのでしょうかね、これから)

ズキッ──

金剛「──っう! ……やっぱり、長くは保たないデスか。無理はしない約束デス。名残惜しいデスが、お返ししマスね……」スッ

金剛「ありがとうございました──」

金剛「……………………」パチッ

ガチャ──パタン

提督「…………」

金剛「!」

提督「……………………」

金剛「……えっと」

提督「……逝ってしまったか」

金剛「い、いえ! まだ私の中に残って寝ているデス。慣れない事でシタので、お互いに耐えられなくなって……」

提督「……そうか。無理をさせてしまってすまない」

金剛「謝るのは私デス……楽しくお話させてあげたかったのデスが……」

提督「お前は何も悪い事なんてしていない。むしろ私達の為に協力してくれて、ありがとう」ポン

金剛(あ……頭、撫でて……)

金剛「……………………またっ!」

提督「うん?」

金剛「また、お話しをしてあげて下サイ。私も、お二人が気の済むまで協力しマス」

333 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/21 19:00:30.38 lFglZpsro 455/671

提督「だが、それはお前たち二人の負担になる」

金剛「私の事ならば問題ナッシン、デス。──いえ、協力させて下サイ。私も何かの役に立ちたいデス」

提督「…………」

金剛「……ダメ、デスか?」

提督「……あいつが許可を出すならば、私は止めない。だが、無理だけはするなよ?」

金剛「──ハイッ!」

提督「すまんな」

金剛「今はこれが私のやりたい事デスから」

提督「そうか。──では金剛、一つ訊ねる。お前は髪を触られるのをどう思う?」

金剛「髪、デスか? ンー……」

金剛「!」

金剛「知らない人に触られるのはディスライクですが、テートクならば別デス」

提督「……そうか。ならば、椅子に座って後ろを向いてくれるか? 今回の礼として髪を梳きたい」

金剛「リアリー? ありがとうございマスっ」チョコン

提督(……金剛もこういう反応をしていたな。ただ、こんな儚げな笑顔はしていなかったが)スッ

金剛(……嬉しくて即答してしまいまシタが、目の前で別の女性と仲良くするのって良くない事デスよね)

提督(こうして見ると、何もかも同じという訳ではなく小さな違いはあるものなんだな)

金剛(あ……とっても優しくて気持ち良いデス……。…………ごめんなサイ。今回だけ、許して下サイ……)

…………………………………………。

334 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/21 19:00:58.15 lFglZpsro 456/671

提督「…………」サラサラ

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「おはようございます」

利根「おはようなのじゃ提督よ」

飛龍「……あれ?」

利根「ぬ?」

提督「おはよう。どうした、何かあったのか?」

飛龍「ああいえ、なんとなく提督の雰囲気がいつもと少し違うなって思いまして」

利根「飛龍もそう思うたか。どことなく別次元に居るような雰囲気じゃのう」

提督「ふむ、そうか」

提督(昨晩の事が顔に出ていたか。……後で利根にだけは金剛の事を言っておくとしよう。利根も金剛と話して心の内にある壊れた部分を直した方が良い)

利根「何かあったのかの?」

提督(……だが、今は誤魔化しておくか。実際に見た夢を話して、飛龍にも悟られないようにしなければならんな)

提督「単純に妙な夢を見ただけだから安心してくれ。私が艦娘と同じく海の上を滑って作戦指示をしている内容だったんだ」

飛龍「なんですかその危険な夢は……」

提督「私としては状況を自分の目で見れる上、随時作戦命令を伝えられて素晴らしいと思ったのだが」

利根「被弾どころか至近弾ですら身体が弾け飛ぶじゃろ。何を言うておるのじゃ」

提督「ダメか」

利根「当たり前じゃ。そんな事が出来れば人間でなく艦娘かそれに近い何かじゃぞ」

提督「残念だ。……まあ、そんな夢を見たからいつもと雰囲気が違うのだろう」

335 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/21 19:01:43.62 lFglZpsro 457/671

提督「ところで、今日は手早く仕事を終わらせるぞ。やるべき事がある」

飛龍「やるべき事ですか?」

提督「ああ。利根は覚悟しておけ」

利根「か、覚悟じゃと!? 我輩、何かやってしもうたのか!?」ビクッ

提督「その時になれば分かる」

利根「う、うぅ……怖いのじゃ……」ビクビク

飛龍「あ、あはは……。頑張って下さい……」

利根「提督よ、飛龍はどうなのじゃ!?」

提督「お前だけだ」

利根「ひぃ……。絶対に我輩が何かをやったパターンじゃ……」ビクビク

提督「まあ、そんなに怖がるな」

利根「無理じゃ……」

飛龍「て、提督……お手柔らかにお願いしますね」

提督「善処しよう」

利根「善処ってなんじゃぁあああっ!!?」

提督「利根、煩くするのならば今から吊るすぞ」

利根「…………っ!」ピシッ

提督「よろしい。──では、朝礼が始まる前に少しでも執務を片付けておこうか」

利根飛龍「は、はい!」

…………………………………………。

340 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/28 21:04:24.98 Ugy7wxb8o 458/671

ガチャ──パタン

提督(さて、執務を進めるとするか)スッ

提督「……………………」サラ

提督「む……」

提督(……手が進まん。昼食後の軽い休憩時間はいつも執務に当てていたというのに)

提督「…………」チラ

提督(そうだな。少し金剛と話をしようか。金剛も一人で暇をしているかもしれない)スッ

ガチャ──パタン

提督(今までこんな事は無かったというのに……自分の事ながら自分の事が分からん……。…………良し。周りに誰も居ないな)

コツッ──コツッ──コツッ──

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「! テートク? どうシタのデスか?」

提督「執務に手が付かなくてな……。すまないが、話し相手になってくれないか?」

金剛「ハイっ。喜んで」

金剛「! ……えーっと、中でスリープしているので起こしマスね」

提督「いや、そういう意味ではない。必要以上の無理はしてくれるな」

金剛「デスが……」

提督「それは夜に頼む。その時に利根も連れて来て二人に話をさせたいんだ」

金剛「利根とデスか?」

提督「ああ。あいつも『金剛』と話をして、少しでも心を癒すべきだ」

金剛「……大丈夫でショウか」

提督「利根ならば大丈夫だ。話す事で改善されると信じれる」

金剛「そうなのデスか……?」

341 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/28 21:05:11.60 Ugy7wxb8o 459/671

提督「ああ。死者は何も口にする事が出来ない。故に残された者は死者が何を思っているのか、想像をするしか出来ないんだ。利根はあの三人が自分を責めているかもしれないと思っていて申し訳ないという気持ちが強いのだろう。それを癒せるのは、沈んでしまったあの三人の内の誰かだ」

金剛「なるほど……」

提督「頼めるか?」

金剛「勿論デス。協力させて下サイ。それが、今私が出来る事デス」

提督「ありがとう、金剛」ナデ

金剛「…………♪ ────!!」パッ

提督「どうした?」

金剛「ノー、デスよテートク。私の中にはテートクの大事な人が居るデス。頭を撫でるのは私ではなくその人の為にやるべきネ」

提督「……そうか」

金剛「…………」ズキッ

金剛(……ナゼ、胸が痛むのでショウか)

提督「すまなかった」

金剛「い、いえ。私の方こそすみまセン……」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……そろそろ執務に戻らるべきか。時間を取らせてしまってすまん」スッ

金剛「い、いつでも!」

提督「…………」

金剛「……いつでも、待っていマス。デスので、また来てくれマスか……?」

提督「……ああ。また来よう」

ガチャ──パタン

金剛「…………どうして私は、上手く言えないのでショウか。もっと、別の言い方があったはずなのに……」

金剛「私の中に居る人ならば、テートクを傷つけずに出来るのでショウか……」

…………………………………………。

342 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/28 21:05:41.66 Ugy7wxb8o 460/671

利根「……テートクよ? 覚悟をしろと言うておったというのに、なぜ金剛の居る部屋へ行くのじゃ?」トコトコ

提督「直に分かる」

利根「むぅ……?」

コツッ──コツッ──コツッ──

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「いらっしゃいデス」

提督「調子はどうだ、金剛?」

金剛「バッチリです。いつでも大丈夫デスよ」

利根「む? むむむ? 何の話じゃ?」

金剛「……テートク、良いデスか?」

提督「頼む」

金剛「はい──」スッ

利根「…………?」

金剛「…………」パチッ

金剛「──久し振りデスね、利根」

利根「んんんん? 久し振り……?」

金剛「現場の判断で私が提案シタ輪形陣。瑞鶴を中心として、先頭に私、左舷に響、右舷に利根。気を紛らわす為のお菓子の雑談」

利根「!!」

金剛「陣形はともかくとして、雑談の内容まではテートクに報告していないデスよね、利根?」

利根「……なぜお主が知っているのじゃ、金剛よ」

金剛「つまり、そういう事デスよ」ニコ

利根「……………………」

金剛「…………」ニコニコ

利根「っ!」ガバッ

金剛「ワォ!?」

利根「うぅ~~~~!!」ギュゥゥ

金剛「ふふ……。ただいまデス、利根」ナデナデ

利根「~~~~~~ッ!!」ギュゥ

金剛「しばらくそっとしておいた方が良いデスね」

提督「そうみたいだが……大丈夫なのか?」

金剛「あれから実は少しずつ練習をしていまシテ、慣れてきたので昨日より長く出られるデス」

提督「……ありがとう」ナデ

金剛「んー……♪」

…………………………………………。

343 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/03/28 21:06:08.02 Ugy7wxb8o 461/671

大佐「……はーつまらねぇ。世の中クソだな。この海みたいに真っ黒で面白い事なんてほとんどありやしねぇ……」

大佐「提督業も楽じゃねえし……。好きに出来る女に囲まれて暮らせる点については良い事だけどよぉ……中には反抗的な奴も居やがるし」

大佐「どーすっかなぁ……。また瑞鳳あたりにでも首絞めとかしてみるか? あん時の泣き顔は癒されるし。でも後が面倒だしなぁ……」

レ級「──へぇ。面白い人間じゃん」

大佐「あ? ────ッ!!?」

レ級「やあやあ人間クン。私が誰か分かるよねぇ? 君達の敵である深海棲艦! その一人だよぉ?」

レ級「実はさぁ、君がとある所の鎮守府から帰ってきた時から、ずーっと目を付けていたんだよねぇ。君、素質あるよ」

大佐「……何が言いたい」

レ級「君が大敗北しちゃったあの鎮守府……あれ、壊してみない?」

大佐「……おい」

レ級「んんー? 何かなぁ?」

大佐「その話、詳しく聞かせろ」

レ級「…………」ニヤァ

…………………………………………。

348 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/07 18:30:23.84 FqZl1Y2ko 462/671

利根「……………………」

提督「落ち着いたか?」

利根「……それなりには落ち着いたのじゃ」

金剛「まるでスカードな夢でも見た子供のようでシタ」

利根「こうなるのも仕方がなかろう……。まさか、お主とまたこうして話せるなどとは夢でしか出来ぬと思うておったのじゃぞ」

金剛「私もお話できて嬉しいデス。お二人が帰ってきてから伝えたい事もありマスしね」

提督「伝えたい事?」

利根(……恨み言か何かじゃろうか)

金剛「ハイ。──まず言わなければならない事として、私……いえ、瑞鶴も響も、二人の事を恨んでなんていないデス。沈んだ私が言うのデスから確実ネ」

利根「────」

金剛「二人とも、私達の事を引き摺らずに立ち直って欲しいデス」

提督(──その言葉は……)

金剛「二人なら必ず立ち直れマス。私はそう信じているネ。……ただ──」

金剛「──私達の事、忘れないで下さいね?」

提督「────────」

金剛「これが、私の伝えたい言葉デス。きっと、瑞鶴や響も同じ事を思っているはずデス」

提督「……金剛」

金剛「ハイ、どうかしまシタか?」

提督「すまん……」ギュゥ

金剛「ん……。あったかいデス……」ソッ

提督「少しだけ……このままで……」

金剛「ハイ。喜んで」

利根(……ああ、なるほどのう。これには敵わぬ。敵うはずがないのじゃ)

利根(やはり、提督には金剛が必要なのじゃな。……うむ。良い雰囲気じゃ)

349 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/07 18:30:58.86 FqZl1Y2ko 463/671

金剛「…………」スリ

提督「……ありがとう、金剛」スッ

金剛「私も久々にテートクを堪能できたデース」ニコニコ

提督「二人とも、みっともない姿を見せてすまない」

利根「何を謝っておるのじゃ。そうなるのも無理はなかろう?」

金剛「私はお二人に会えただけで胸が嬉しい気持ちで一杯デス」ニコニコ

利根「まあしかし、あんなに弱々しい背中の提督を見れたのはラッキーかもしれぬのう」ニヤ

提督「まったくこいつときたら……」

利根「しかし、一番は金剛とまたこうして話す事が出来た事じゃな。不安が一気に無くなったぞ」

金剛「不安、デスか?」

利根「うむ。金剛達は我輩を恨んだり妬んだりしておるのではないかと不安になっていての。いくら状況が仕方が無かったとはいえ、我輩だけ生き残ったのじゃ。そう思われても不思議ではない。それ故に我輩も沈むべきではなかろうかと思った事もあった」

利根「じゃが、金剛はそんな事がないと言うてくれた。……我輩は、その言葉だけでも救われた気分じゃよ」

金剛「なるほど……。帰ってきた利根の様子がおかしかったのはそれが原因だったのデスね」

提督(…………ん?)

金剛「テートクも少しおかしい様子デスが、利根のように何か不安があるのデスか?」

提督「いや、また別の事だ。……ところで金剛。もしかすると、この鎮守府へ戻って来たのは最近の事なのか?」

金剛「んー……二年くらい前デス。少なくとも、私が帰ってきた時はテートクと利根は居なかったデス」

提督「……そうか」

金剛「…………」

利根「?」

提督「……つまり」

金剛「うぅ……そうデス……迷っていまシタ……」

350 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/07 18:31:41.81 FqZl1Y2ko 464/671

利根「ま、迷った?」

提督「やはりか」

金剛「だってだって! 方位も何も分からなかったのデスよ!? どこかの鎮守府の艦娘を見付けるまでウロウロと海を彷徨っていたデース……」

利根「なんと……。羅針盤はどうしたのじゃ?」

金剛「妖精が居ないのでクルクル回るだけでシタ……」

利根「……羅針盤は妖精が居らぬと壊れるのか」

提督「そうらしいな……」

金剛「陸へ着いても知らない場所でシタので、この鎮守府に戻るまで苦労したネ……」

提督「…………」ナデナデ

金剛「ん……♪ その苦労も、これで癒されるデス……」ホッコリ

利根「……変わらぬのう、金剛よ」

金剛「イエース! 私はいつまでも私デース!」

利根「くくくっ……。うむ。やはり金剛は金剛じゃな」

金剛「今の利根もいつもの利根っぽかったデー……ス?」フラ

提督「!」ソッ

利根「む……。大丈夫か、金剛よ」

金剛「……ソーリィ。もう……タイムアップみたい、デス……」

利根「何を謝っておるのじゃ。お主らはこんなにも頑張ってくれておるではないか」

金剛「……サン、キュゥ…………」カクン

提督利根「…………」

金剛「…………っ」ピクン

金剛「ん……」スッ

351 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/07 18:32:08.97 FqZl1Y2ko 465/671

提督「……大丈夫か?」

金剛「!!」ビクンッ

金剛「……ごめんなサイ」

提督「どうやら寝惚けているようだ」

金剛「え……?」

利根「うむ。寝惚けておるようじゃの」

金剛「え、えっと……」

提督「特訓をしていたと聞いたぞ。ありがとう」

金剛「そ、それは……その……」

利根「我輩からも礼を言うぞ。話させてくれて、本当にありがたかった」ニパッ

金剛「!」

金剛(……利根がこんなに無邪気で明るい笑顔をしたの……初めて見たデス)

利根「うん? どうしたのじゃ金剛? そんな不思議なモノでも見たような顔をして」

金剛「あ、いえ、その……利根がそんな風に笑ったの、初めて見たので……」

利根「ふむ?」

提督「自覚無しか。利根、お前は今、私から見ても懐かしい笑みを浮かべていたぞ」

利根「む? むむ? そうなのかの?」

提督「ああ。昔見た良い笑顔だった」

金剛(という事は、さっきの笑顔が利根の本来の笑顔なのデスね)

金剛「少しでもお役に立てたのでしたら嬉しいデス」ニコ

提督「ああ。とても良い仕事をしてくれた」ソッ

352 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/07 18:43:09.55 FqZl1Y2ko 466/671

金剛「! 頭を撫でるのはノーですよ、テートク」

提督「む。そうだったな……」スッ

利根「むぅ? なぜ頭を撫でるのはダメなのじゃ?」

金剛「私の中にテートクの金剛が居るからデス。その手は、私ではなくこの方の為にあると思うデス」

利根「……ううむ」

金剛「だって、お二人は愛し合っていたのデスよ? それなのに、目の前で私がとっても優しくされるのはいけない事デス」

利根「とっても……?」

提督「…………」

金剛「……あの、もしかして」

利根「うーむ。流石に頭を撫でるのを『とても優しく』と言うのは少し大袈裟じゃよのう?」

提督「ああ」

金剛「…………」シュン…

提督「だが」ポン

金剛「…………?」

提督「私達の事を考えてくれて嬉しいぞ」ポンポン

金剛「……あの、頭は」

提督「撫でてはいない」

金剛「デスが……」

利根「このくらいならば、お主の中に居る金剛も文句は言わぬよ」

金剛「うぅ……」

利根「! のう提督よ。今夜は三人──いや、四人で寝るのはどうじゃ?」

提督「却下だ。だが、私抜きならば構わんぞ」

利根「むう……それだと意味がほとんど失うのじゃが……」

提督「諦めろ。風紀を乱し過ぎるのは良くない」

金剛「…………」

金剛(あれ……? 私、残念に思ってるデス……? …………やっぱり、なのデスか……?)

金剛(でも……それは……)

利根「むうぅ……全くもって残念じゃ……」

金剛(ひっそりと……ひっそりと、仕舞いまショウ……)

……………………
…………
……

356 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/16 22:18:54.72 aWpC+zuEo 467/671

提督(──さて、皆が来る前に仕事をするか。珍しく書類の数が少ないが、やっておく事に越したことはない)スッ

提督(最近は段々と幽霊騒ぎも収まってきていて、そろそろ金剛をあの部屋から出せるかもしれん。金剛もいい加減、自由に歩き回りたいだろう)

提督「……む? 一時的な出撃の待機命令?」

提督「……………………」

提督(……本人の希望と実績による下田鎮守府提督の担当海域拡大? その能力の審査の為、一時的に横須賀鎮守府は哨戒と、昨日までに予定されていた遠征以外の出撃待機を命ずる……。あんな戦術を取っていた者が、希望と実績による担当海域の拡大?)

提督(妙な胸騒ぎがする。あんな指揮の執り方をしていて、急に変わる訳が無い。……あの四人に大佐の事を訊いてみるとするか)

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「おはようございます、提督」

利根「今日も良い天気で執務のやり甲斐があるぞ!」

提督「おはよう二人とも。……その執務だが、今日ばかりはさっさと終わらせるぞ」

利根「む? 何かあったのかの?」

提督「そんな所だ。どうしても調べたい事が出来た」スッ

飛龍「……また総司令部から無茶な注文でもされたんですか?」スッ

利根「ふぅむ、なになに?」

利根飛龍「……………………」

利根「…………むぅ?」

飛龍「確かに下田の提督は強大な戦力となる艦娘自体は持っていましたけれど、指揮能力の方は……」

利根「良くないのか?」

提督「今まで『敵を倒してこい』『必ず勝て』といったようなモノがほとんどだと耳にしている」

357 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/16 22:19:22.64 aWpC+zuEo 468/671

利根「……まさかとは思うが、激励ではなく作戦内容なのか?」

提督「そうだ」

利根「例え我輩が指揮を執る事となっても、そんな指示は出さぬぞ……」

提督「そんな、利根でもしないやり方をしていたのが下田の提督だ。これは明らかに怪しい」

利根「自分で言うたのは確かじゃが、真正面から同じ事を言われると心にくるものがあるぞ!?」

提督「利根のように作戦指揮に関する知識がほとんど無い者でもしないであろう事をしてきていたのが下田の提督だ、という意味だ。お前に戦術や戦略の事を教えた事など無いから、出来なくて当然だろう」

利根「それはそうじゃが……」

提督「ちなみに、九割はお前が自分から言ったから便乗しただけだったりする」

利根「やはり悪意しかないではないか!?」

提督「私がイヂワルだというのは知っているだろう?」

利根「むー……。嫌なのに嫌な気分になれぬ……」

提督「そんなに私の事を嫌いになりたかったのか」

利根「……我輩とてそろそろ拗ねるぞ」

提督「では、拗ねられる前に真面目な話に戻ろうか」ポンポン

利根(ううむ……こうして優しくされると許してしまうのが困りものじゃ……)

提督「私は四人に大佐の事を訊こうと思っている。大佐が普段、どのような指揮を執っていたのかを詳しく調べ、その上で本当に成果を挙げられるような人物なのかどうかを判断しよう」

飛龍「では、長門さんに瑞鶴さんや響ちゃんをお呼びした方が良いですか?」

提督「いや、表立って行動に出すと他の子に何があったのかを聞かれるだろう。世間話を装って調べようと思っている」

飛龍「なるほど。普段から皆と会話している提督だからこそ怪しまれないという訳ですか」

提督「そういう事だ」

利根「ふむ。では我輩達に出来る事は、このやたらと少ない書類を片付ける事くらいなのじゃな?」

提督「ああ。待機命令が解除されるまでは哨戒以外にまともな行動も出来ん。終わり次第、自由行動に入って良いぞ」

…………………………………………。

358 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/16 22:19:54.05 aWpC+zuEo 469/671

「いっくわよー! それっトス!」パスッ

「チャーンス!! 暁アターック!!」バシィッ

「……明後日の方向に飛んでいったね」

如月「あらあらぁ……」

「こ、こういう事もあるのです!」

「…………」

睦月「あ、長門さーん! ボール取って下さいますかぁー!」

長門「ん? ──ああ、これの事か。ほら」ポーン

睦月「ありがとうですよー!」ブンブン

長門「…………」フリフリ

(あ、なんだかすっごく優しい笑顔)

提督「長門」

長門「!!」ビクンッ

提督「む? 驚かせてしまったか」

長門「……提督か。まあ……そういう事にしておいてくれ……」

提督「ふむ。ところで今、時間はあるか?」

長門「あるが、どうかしたのか?」

提督「今から話す事は世間話をしているような風体で話して欲しいのだが、下田の大佐に関して質問がある」

長門「……何か問題を起こしたのか?」

提督「逆だ。異常なほど優秀な戦果を挙げ始めた」

長門「優秀な戦果? そんなバカな」

359 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/16 22:20:20.21 aWpC+zuEo 470/671

提督「だが、事実だ。朝礼の時に話した待機命令も大佐の担当海域拡大の審査の為だ。そこで長門、お前に訊きたい。大佐はやれば出来るような人物なのか?」

長門「…………いや、難しいな。しっかりとやれば並の成果を得られるかもしれんが、あくまで並だ。私が知る限りでは尤も意欲的に執った作戦でさえ中の下といった成果だったぞ」

提督「中の下と評価したが、最近では最上と言っても過言ではない戦果だそうだ。何があればそうなると考えられる?」

長門「指揮を執っている者が変わったとしか考えられないな。それ以外でと言われれば、私が夢を見ているという可能性しか残らない」

提督「という事は『敵を倒してこい』『必ず勝て』といった命令が多かったのも事実か」

長門「ああ。それに加えて罵詈雑言もあった。……本当、よくそれで今までやってこれたと逆に感心してしまいそうだ」

長門(……それと比べるのも失礼なほど、ここは温かく優しい空気で満ちている。本当……どうしてここまで違いがあるのだろうな……)

提督「他に詳しい指示などは無かったのか?」

長門「ん、そうだな……。総司令部から送られてくる資料は毎回渡され、頭に叩き込めと言っていたくらいだ。たまに作戦指示を出す事もあったが、大抵はその資料の内容とほぼ同じだったぞ。結局は現場の判断でほぼ全て決めていた」

提督「……そうか。教えてくれて助かった」

長門「なに。このくらいお安い御用だ。……だが、私もどうやってあの愚か者が戦果を挙げているのか気になる。下田鎮守府では何か人事異動があったりはしていないのか? 提督を補佐する役が新しく作られたりとか」

提督「そういう話は今の所耳に入ってきていない。そもそも、部外者は鎮守府に近付く事すら許されていないから人手不足の現状では補佐役も居ないだろう」

長門「そうなのか。……ん?」

提督「どうした」

長門「いや、ふと気になった事があってな。国を護る為だというのに、どうしてそんなにも人手不足なのだ? 人を集めるくらいならば徴兵でもなんでもあるだろう? そこから訓練を重ねていけば──」

提督「長門」ジッ

長門「っ!」ゾクッ

提督「その話には足を踏み入れるな。そして、決して誰にも言うな。絶対にだ。もし今後も踏み入ってくる場合は……あまり使いたくない手を使わざるを得なくなる」

長門「……了解した」

提督「……すまんな。こればっかりはどうしても言えない機密なんだ」ポン

長門「いや、私の方こそすまない……。今後気を付ける。あと、頭を撫でるのは……その……」

提督「この癖は直さんぞ」

長門「むう……」

…………………………………………。

363 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/24 17:30:38.28 byy5ee08o 471/671

提督「ふむ……」

提督(四人に聞いてみた所、初めに聞いた長門と同じ答えが返ってきた……。やはり、下田の提督が戦果を挙げるのは異様か)

提督(ならば、どうやってそんな戦果を上げられるようになる? ただの偶然か? ……いや、偶然などという不安定で不確定なもので戦果が何回も続く訳が無い。根本に何かがあるはずだ)

提督「…………参ったな。本当に何をすればいきなり戦果が挙がるようになったんだ? それとも私へ情報が届いていないだけで、本当に補佐か何かでも来たのだろうか……。今度、足を運んでみるか……」

コンコンコン──

提督「ん? こんな時間に誰だ……? ──入れ」

ガチャ──パタン

ヲ級「てーとく、さん! こんばんは!」

空母棲姫「……すみません」

提督「……なるほど。理解した」

空母棲姫「どうしても会いたいと仰っていまして……」

提督「空母棲姫も居る事だ。誰にも見付かっていないのだろう? それならば構わんよ。だが、こんな時間に来るのは珍しいな?」

ヲ級「なんだか、嫌な予感、するの」

提督「嫌な予感?」

ヲ級「うん!」

提督「どんな嫌な予感なんだ?」

ヲ級「えーと……んーと……。良く、わかんない」

提督「……………………」

空母棲姫「……この調子なんです。けれど、ここまで頑なに言うのも初めてなので、何か分かればと思って来てみました」

提督「ふむ……。嫌な予感か」

空母棲姫「何か心当たりがあるのですか?」

提督「……結びつきそうにもない、こじ付けならば一つある」

ヲ級「こじ付け? なんだろ?」

364 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/24 17:31:05.76 byy5ee08o 472/671

提督「最近、ここの鎮守府に一番近い鎮守府が異様な戦果を挙げているらしい。そこの提督はとてもそんな戦果を挙げられる者ではなく、その鎮守府で何かあったと思えるくらいだ」

空母棲姫「人事異動があったとかではなくて?」

提督「そういう話も耳にしていない。一応、そこの鎮守府とここはそれなりに繋がりがあってな。お互いの状態を確認し合う為にそれなりの情報交換は行われている」

空母棲姫「……差し出がましい事だけれど、私達をここへ置いておくのは非常に危険ではないかしら。もし私達が見付かったら大変よ」

提督「その点に関してはこちらから止めているから安心して良いぞ。流石に大勢へ見付かるとどうしようもなくなるが……」

空母棲姫「では、今後より一層気を付ける事にします」

提督「ありがたい。──話を戻すが、そこの鎮守府の動きが妙な事から、何か関係しているのかもしれないと思っている。通常の手段とは思えない戦果はただただ不気味だ」

空母棲姫「通常の手段ではない……」

提督「…………」

ヲ級「偵察、してみる?」

提督「偵察? どのようにだ?」

ヲ級「ほら、私達の、艦載機を、造ってから、使って」

空母棲姫「……何を馬鹿な事を言っているの、貴女は」

ヲ級「すっごく遠くから、見えるよ! 気付かれないくらい、遠くから!」

空母棲姫「そういう事を言っているんじゃありません。私達に兵装を持たせる事に問題があると言っているのよ。私達は深海棲艦。本来は提督やここの皆とも敵なのよ。そんな相手に武器を渡すのは良くないでしょう?」

ヲ級「あ……そっか……」

提督「ふむ、悪くないな」

空母棲姫「ええ。悪く……なんですって?」

提督「二人の偵察機を使って、その鎮守府を遠くから偵察。深海棲艦の技術は我々の技術を遥かに超えている事から、気付かれないように異変が起きていないかを調べるのに打ってつけだ」

空母棲姫「却下よ。いくらなんでもそこまで許可を与えるのは、目の前の敵に刃物を渡して殺しても構わないといっているのと変わりません」

提督「お前たち二人はそんな事をしないと私は信用している。私の中では、二人はもう他の艦娘の子達と同じく仲間だ」

空母棲姫「それでもダメです。他の方々が不安に思うはずよ」

提督「ふむ。ならば皆が不安に思わなければ良いんだな?」

空母棲姫「……………………」

提督「どうだ?」

空母棲姫「……良いでしょう。必ず貴方を説得してみせます」

…………………………………………。

365 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/24 17:31:34.55 byy5ee08o 473/671

開発妖精建造妖精「出来たよー」

空母棲姫「馬鹿ですか貴女達は」ツネー

開発妖精「いひゃいいひゃい!? な、なんでぇぇえ!?」

空母棲姫「敵の兵装を造ってしまうだなんて何をやっているんですか。わざと失敗させるという手もあったでしょう」ジィー

開発妖精建造妖精「勿体無いし……提督さんが信頼してるし……」

空母棲姫「……はぁ。どうしてこうもお人好ししか居ないんですか……」

提督「諦めろ。お前が今まで私へ築き上げた信頼の賜物だ」

空母棲姫「私は常識的にしていただけだというのに……」

利根「それが信頼を生んだのじゃよ」

飛龍「そうですよ。少しずつ、他の皆にも存在を打ち明けて良いと私は思います」

ヲ級「!! そうすると、自由に、お散歩、できる?」キラキラ

提督「範囲は限られているが、出来るようになるぞ」

ヲ級「やった! 姫、その時は、一緒にお散歩、しよ?」ニパッ

空母棲姫「……はぁ。どうしてこうなったのでしょうか……」

瑞鶴「まあ……なんとなく予想できたけど」

「そうだね。二人なら間違っても襲ってこないって信用できるよ」

空母棲姫「……本当、どうしてこうなったのかしら」

提督「だが、常に警戒されていて監視されるのも気分が悪いだろう?」

空母棲姫「…………それは……そうですが……」

提督「そういう事だと思っておくと少しは気が楽になるんじゃないか?」

366 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/04/24 17:31:52.34 byy5ee08o 474/671

空母棲姫「……納得はしたくないけれど、そう思っておく事にするわ。本当は私達に気遣いはしなくても良いというのは忘れないで頂戴ね?」

提督「頭の片隅の外に置いておく」

空母棲姫「もう……」

利根「……ふーむ。なんだか振り回す旦那と、それを受け入れる嫁という風に見えるぞ」

「なるほど。確かにそう見えるね」

空母棲姫「よ、め……?」

提督「…………」

ヲ級「姫、お嫁さんに、なるの?」

空母棲姫「……利根? ちょっとこっちで話をしましょう」ニッコリ

利根「な、なんじゃその満面の笑顔は!? 酷く怖いぞ!?」ビクッ

空母棲姫「それはそうでしょうね。私は今、怒っているもの」ガシッ

利根「ひっ!?」

空母棲姫「提督。少し教育してきますので、偵察機の発艦は後でお願いします。──そうですね。ロープもお借りします」ズルズル

利根「な、なぜ怒るのじゃああああああああ!!?」ズルズル

飛龍「……連れていかれちゃいましたね」

提督「……まったく利根の奴め。空母棲姫にあんなことを言ったらああなるくらい分かっていただろうに」

瑞鶴「でも……正直、私もそんな風に見えたかも」

ヲ級「ねー」

提督「……二人とも、空母棲姫の前で言うと吊るされるぞ」

瑞鶴「そ、それは嫌かなぁ……」

ヲ級「口は、災いの元……」

開発妖精建造妖精(……なんだかんだで提督に染められちゃってるなー)

…………………………………………。

373 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/04 21:41:03.31 AlRXC7gio 475/671

提督「──それで、1編隊には少しばかり多いが、この髑髏型偵察機を誰が使うかだが」

空母棲姫「飛龍がするべきです」

ヲ級「久し振りの、艦載機……!」ワクワク

飛龍「空母棲姫さんが一番だと思います」

利根「我輩は水上機しか分からぬからパスじゃ」

提督「……見事に意見が分かれてしまった」

空母棲姫「飛龍……なぜ私を候補に挙げたのかしら?」ジィ

飛龍「だって、この中で艦載機運用能力が一番高いのって空母棲姫さんだからですよ。……悔しいですけど、私では同じ条件で勝てそうにありません」

利根「……まあ確かに、制空権を確保されているのにも関わらず的確に相手へ攻撃を仕掛けるなどという芸当が出来るのはお主くらいじゃのう」

ヲ級「んー、そうだよね。姫、やろ?」

空母棲姫「…………」

提督「だそうだが、どうする空母棲姫?」

空母棲姫「……悩みます」

ヲ級「どうして?」

空母棲姫「敵である私に兵装を本当に与える直前にまで来てしまった事と、提督を説得出来るという自信がほとんど無くなってしまって私が折れてしまいそうだからよ……」

提督「よし。そのまま折ってしまおう」

空母棲姫「軽々しく言わないで下さい……」

提督「ふむ……。──空母棲姫、私に力を貸してくれないだろうか。今の私には、お前の力が必要だ」

空母棲姫「……その言い方はズルいです。断れないじゃないですか……」

提督「私はズルい人間だよ。──そして飛龍にも頼みがある」

飛龍「? なんですか?」

374 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/04 21:41:39.78 AlRXC7gio 476/671

提督「この髑髏艦載機を取り扱えるか試してみて欲しい。もし可能であれば、その技術を取り入れて飛龍たち空母の強化にも繋がる。……もしかすると、下田鎮守府と全面戦争する可能性だってゼロではないからな。備えはあればあるほど良い」

利根「全面戦争とは怖い単語じゃのう……」

提督「その他にも、あのレ級がいつ来るかも分からん。飛龍と加賀の二人でも制空権を確保できなかった事を考えると、あいつ自身も艦載機運用能力は高い。こちらも強化が出来るのならばするべきだ。……恐らく、あのレ級は狙った獲物を逃さない」

飛龍「……なるほど。あれ一隻であの制空力は確かに脅威です。どんな手を使ってでも、私達は提督をお守りします!」

提督「こら飛龍。『どんな手でも』なんて軽々しく言うんじゃない。お前達が私を大事にしてくれるのは分かっているが、それも限度を考えろ。まずは自分の身を守れ。他人の事を気にするのはそれからだ」

飛龍「ぅ……はい……」シュン…

瑞鶴「…………」ジー

(どうしたんだい、瑞鶴さん)ヒソ

瑞鶴(ん……良いなって思ってね)ヒソ

(……うん。私もそう思うよ)ヒソ

提督「では二人とも、頼んだぞ。──まずは空母棲姫。発艦後、海面ギリギリの高度を維持しつつ沖へ向かえ。それから下田鎮守府へ向かわせろ」

空母棲姫「分かりました」

提督「次に飛龍。同じく発艦後、海面ギリギリの高度を維持しつつ沖へ向かい、そのまま旋回や最高加速、最高速度、その他諸々を覚えろ」

飛龍「了解です!」

提督「では、やれ!」

空母棲姫飛龍「はい!」

ヒュパッ──!

空母棲姫「──ん、私の方は少し動きが重いけれど大丈夫よ」

飛龍「……あの、私の方はうんともすんとも言いません」

提督「む?」

飛龍「というより、意識の連結が出来ません……。これ、艦載機ですよね……?」

提督「……すまん。私は艦娘や深海棲艦ではないから分からん。空母棲姫、何か心当たりはあるか?」

375 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/04 21:42:14.82 AlRXC7gio 477/671

空母棲姫「……もしかすると、艦娘は深海棲艦の装備を使う事が出来ないのかもしれないわね」

提督「識別信号でもあるのか?」

空母棲姫「いいえ、そんなものは無いわ。……ただ、私もこればかりは感覚で使っているものだから説明が難しいわね。飛龍もそうでしょう? 艦載機をどうやって自在に操っているかなんて、考えた事無いわよね?」

飛龍「えっと、はい」

提督「ふむ……。開発妖精、深海棲艦の技術を艦娘用の艦載機に移転できるか?」

開発妖精「それはちょっと難しいっていうか無理かも……何もかも違い過ぎて……。提督の持ってたサンプルも分解して理解するのに苦労したよー……」

提督「そうか……残念だ……」

利根「……しかし、どこからそんなサンプルを手に入れたんじゃ?」

提督「お前と一緒に釣ったアレだ」

利根「なんでそんなもの持って帰ってきたのじゃ……」

提督「何かに使えるかもしれんと思ってな」

瑞鶴「ま、まあ……それで今回はこうして空母棲姫さんの艦載機を作れた訳だし、ね?」

「……少し気になったんだけど、良いかな」

提督「どうした」

「確か横須賀から下田まで直線距離でも100kmくらいはあったよね? そんなに燃料は保つの?」

空母棲姫「私達の兵装に燃料は必要無いわ。強いて言うならば、後悔の念や怒りなど、負の感情が燃料であり、全てのエネルギー源よ」

利根「という事は、今もお主は何か負の感情を持っているという事かの?」

空母棲姫「そうなるわね。貴方達に対しては無いけれど、深海棲艦としての私の中にある蓄積された負の感情を使っているわ。──ああ、なるほど。だから艦娘は深海棲艦の兵装が使えないのね」チラ

飛龍「えーっと……私だって悔しいって思ったり悲しい気持ちになったりしますよ?」

空母棲姫「その度合いが違うのでしょうね、きっと」

376 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/04 21:42:44.87 AlRXC7gio 478/671

「……でも、ヲ級さんは負の感情があるように見えないけれど」

ヲ級「ね、ね。何か、遊ぶ道具って、無い?」

建造妖精「んー……ここは遊び場じゃなくて工廠だからねー……」

ヲ級「ぁぅー……」

開発妖精(この子、暇なんだろうなぁ……)

空母棲姫「あの子もあの子で何か抱えているのだと思うわ。私は怒りと後悔がほとんどだけれど、全員が全員同じとは思えないもの」

提督「深海棲艦にも色々とあるのだな」

空母棲姫「そうよ。……ただ、私達は例外だと思うけれど」

利根「人間や艦娘に心を開いてくれる深海棲艦など滅多に居らんじゃろうなぁ」

空母棲姫「利根、もう一度吊るしてあげようかしら?」ニッコリ

利根「ひっ……!」ビクンッ

提督「だが、そうしてくれたからこそ今の私達が居る。お前も、あの時に様子を見るという事をしてくれたからここに居るんだ」

空母棲姫「…………確かに、嫌いではありませんが……」

提督「素直になっても良いんだぞ。私は勿論、ここに居る者達はお前達を仲間だと認めている」

空母棲姫「……そうやって篭絡した子は何人居るのかしら」

提督「さて。篭絡しようと思ってやっている訳ではないから分からん」

利根「この鎮守府に居る全員が篭絡されておるようなものではないか」

提督「空母棲姫、後で利根を吊るそうか」

空母棲姫「良いですね。二人で合わせて時間も倍という事でどうでしょう」

提督「良い案だ」

利根「さっきから我輩の扱いが酷くないか!?」

提督「こうやってお前をイヂるのはとても心地良い」ワシャワシャ

377 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/04 21:43:29.64 AlRXC7gio 479/671

利根「むぅー……。いい加減にせぬと拗ねるぞ……」

提督「それは困るから、ここらで止めておこう。拗ねられてしまったら愛でるの範疇を超えてしまう」

利根「もう半分拗ねておるわ。……後で背中にのしかからせてくれたら許すのじゃ」

提督「その程度で良いのならば」

利根「うむ! 約束じゃぞ!」

提督「ああ、約束だ」

空母棲姫「……………………」

空母棲姫(……本当、仲が良いわね。少し……少しだけ、羨ましいです)

提督「ふむ」

空母棲姫「…………? 何かしら。私の顔に何か付いていて?」

提督「よく観察するとお前は分かりやすい──いや、分かりやすくなってきた、と思ってな」

空母棲姫「……………………なんですって?」

提督「そのままの意味だ。怒っている時など顕著に。今のように哀愁を感じている時も弱々しい表情をするようになっている。嬉しい時も口元は笑っているしな」

空母棲姫「……貴方達が悪いのよ、貴方達が」

提督「良い悪事だ。これからもいつも通り接するとしよう」

空母棲姫「もう……」

飛龍(あ、嬉しそうな顔ですね)

利根(なるほど。確かに分かりやすいのう)

瑞鶴(……なんだか、ここの加賀さんに似てる?)

(旦那さんとお嫁さん……うん。やっぱりそう見えるね)

空母棲姫「──沖へ出たわ。これから周囲を警戒しつつ下田へ向かいます」

提督「ああ。任せた」

…………………………………………。

385 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/12 01:55:14.23 Jqc775X6o 480/671

空母棲姫「……妙ですね」

提督「妙? 何かあったのか」

空母棲姫「何かが『あった』というよりも、あるべきモノが『無い』と言った方が正しいです」

利根「あるべきモノ……?」

空母棲姫「海と空、その両方の哨戒が無いわ。所謂がら空きの状態よ」

瑞鶴「がら空きって……おかしいわね。最低でも偵察機で哨戒はしていたわよ。私も何回かはやった事があるし……」

「鎮守府近海の警備も駆逐艦四隻で随時やっていたよ」

空母棲姫「……そのどちらも見当たらないわ。もう鎮守府全体が見えている距離なのに……どういう事なのでしょうか……」

飛龍「……防衛に回すべき戦力すら使って深海棲艦を倒しているのでしょうか」

提督「流石にそこまでおかしい事をするとは思えんが……。一体どうなっているんだ。空母棲姫、ギリギリまで近付けるか?」

空母棲姫「分かりました。山を背にしつつ建物内部の様子を調べます」

空母棲姫「…………やけに艦娘の姿が少ないわね。本当に防衛に回すべき戦力すら戦闘に駆り出しているのかしら」

瑞鶴「えっと……数が少ないように見えるのは、ほとんどの艦娘が自分の部屋で休んでるからだと思う。休める時に休まないと、いつ無理を言われるか分からなかったから……」

空母棲姫「なるほどね。……それにしても、嫌な雰囲気の漂う鎮守府ですね。まるで、悪魔でも住んでいるかのようです」

瑞鶴「……………………」

空母棲姫「貴女達の想像している意味とは違うわ。もっと別の、何か異質な雰囲気よ」

瑞鶴「……異質?」

空母棲姫「ええ。言葉で表現しにくいけれど、化け物が潜んでいるかのような……そんな異質さよ」

提督「二人とも、心当たりはあるか?」

「……私は無いかな。あの司令官は化け物っていうより権力と暴力で捻じ伏せる人だったしね」

瑞鶴「私も響ちゃんと同じ。心当たり所か見当すらつかないわ」

提督「そうか……。空母棲姫、撃墜されても構わん。隠密に調べられるだけ調べてくれ」

空母棲姫「分かりました」

…………………………………………。

386 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/12 01:55:40.73 Jqc775X6o 481/671

ヲ級「!」ピクン

提督「む。どうした?」

利根「何かあったのか?」

ヲ級「ご飯の仕込み、そろそろ、しなきゃ!」

空母棲姫「…………」

利根「ほう、もうそんな時間か。通りで腹が空いておる訳じゃ」

提督「……そうだな。行ってきて良いぞ。瑞鶴、利根、見付からないように先行を頼む。そして、空母棲姫は任務中だと伝えてくれ」

利根「うむ、心得た」

瑞鶴「うん、分かったわ」

ヲ級「いってきまーす!」タタタ

瑞鶴「ああ、こら! 走らないの!」タタタッ

利根「ヲ級は元気じゃのう」タタッ

「いってらっしゃい」フリフリ

空母棲姫「……あの、提督」

提督「そうだな……空母棲姫は機体を回収してからなら良いぞ。恐らく配膳の頃になると思うが──」

空母棲姫「待って下さい。機体を回収と言いましたか?」

提督「ああ、そう言ったぞ」

空母棲姫「……もう突っ込みません。お前なら問題無い、と仰るのでしょう?」

提督「よく分かっているじゃないか」

空母棲姫「いい加減、慣れます。……貴方はお人好し過ぎます。いつか、足元を掬われるわよ」

提督「それくらいの見分けは出来ているつもりだ」

387 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/12 01:56:17.87 Jqc775X6o 482/671

空母棲姫「またそうやっ──偵察機が艦娘に見付かりました」

提督「む、見付かってしまったか。仕方が無い。もっと沖の方へ逃げるように動け。もし残れば低空飛行で戻らせよう」

空母棲姫「分かりました。…………? おかしいですね。撃墜しようとしてきません」

提督「対空兵装をまともに装備していないのか?」

空母棲姫「いえ、駆逐艦四隻ですが対空砲は装備しています。……まるで、偵察機を確認しているかのようですね」

提督「……ふむ」

空母棲姫「……………………何の冗談かしら。何もしてこなかったわ」

提督「……無駄な戦闘を避けたかったという訳でもないのか? 傷を負っていたりはしていたか?」

空母棲姫「少なくとも無傷でした。砲を向けてくるという事もしてきませんでしたので、本当にどういう事か……」

「……ねえ、駆逐艦が四隻って言ってたよね。艦名まで分かるかい?」

空母棲姫「艦は暁型が三隻と不明の艦が一隻よ。……そうね、貴女を白くしたような艦娘だったわ」

「装備は全員、両脇に高射装置付きの高角砲と水上電探だったのかな?」

空母棲姫「……なぜ分かったの?」

「やっぱり」

提督「……なるほど。その駆逐艦たちは下田鎮守府の近海警備という訳か」

「うん。この辺りでその編成、その装備なら下田鎮守府で間違いないと思う」

空母棲姫「でも、敵の偵察機を見過ごすなんて、どういう事なのかしら……。戦果を挙げているという話だったけれど、こんな事をしていたら戦果なんてとても──」

空母棲姫「…………」

提督「もしかしたら、そういう事かもしれんぞ」

空母棲姫「いえ、でもそれは……」

「? どういう事なんだい?」

388 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/12 01:56:44.55 Jqc775X6o 483/671

提督「空母棲姫やヲ級以外にも人間へ協力している深海棲艦が居る、という可能性があるという事だ。そして、その深海棲艦には艦載機を扱う者が居る」

「……確かに居てもおかしくないと思うけれど、どっちかって言うと鹵獲して利用しているって言った方がまだ信じられるかな」

提督「これは提督と総司令部にだけ言われている事だが、鹵獲は禁忌とされている」

「禁忌? なぜなんだい?」

提督「鹵獲した鎮守府は、必ずその深海棲艦によって破壊されてきている。一体何をしたのかは分からんが、どの深海棲艦も異常な強さになったとの事だ。無論、鹵獲された深海棲艦も協力なんてしていない」

「……じゃあ、下田に居る深海棲艦は自らの意思で協力しているって事?」

提督「そうなる。……あくまで下田鎮守府に深海棲艦が居れば、の話だが」

空母棲姫「……本当に居るかもしれませんね」

提督「ほう」

空母棲姫「あの鎮守府から感じる化け物のような雰囲気は、凶悪な深海棲艦のモノだと言われると納得できます。恐らくですが、あの島で会った戦艦と同等かと思われます」

提督「だが、なぜ深海棲艦が仲間を大量に沈めるなどという事をするんだ? その理由が思い付かん」

空母棲姫「それは……私も分かりません。そんな事をして何があるのか……」

提督「……担当海域を広げさせ、大きな権力を手に入れてから総司令部を乗っ取るつもりか?」

空母棲姫「少し無理があります。非常に難しく時間も掛かる上、事を知った者達が蜂起してしまえば簡単に叩き潰されてしまいます」

提督「そうなるな。……一体、何を考えているんだ?」

空母棲姫「分かりません……。ですが、用心するに越した事はないかと」

提督「ああ。気を付けておくとしよう。──気を付けるにあたってだが、やはり空母棲姫の偵察機は回収しておきたい。これからも下田鎮守府を偵察する際にはその機体を使っていこう」

空母棲姫「分かりました。必ず帰還させます」

389 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/12 01:57:11.01 Jqc775X6o 484/671

「…………」ジー

空母棲姫「? 何かしら」

「なんだか嬉しくなったから、つい」

空母棲姫「嬉しく?」

「うん。そうやって空母棲姫さんが協力してくれていると、凄く心強いからね」

空母棲姫「……煽てても何も出ないわよ」

「私の正直な感想さ。空母棲姫さんは信頼できる。それが、より一層強く思えたよ」

空母棲姫「……まったくもう。貴女も提督に影響されてしまったのね」

「きっと、空母棲姫さんの事を知った人ならばそう思うさ。──司令官、今度、暁たちに会わせてみないかい?」

提督「ふむ……そうだな。悪くない。まずは暁と雷、電の三人に紹介してみるか」

空母棲姫「本当に大丈夫かしら……」

提督「私を信じろ」

空母棲姫「……良いですね。提督の言葉なら、少しだけ安心できます」ニコ

提督「ほう」

空母棲姫「!!」ハッ

空母棲姫「…………」フイッ

(照れてる)

提督「…………」ポン

空母棲姫「……なぜ、頭に手を?」

提督「ゆっくりで良い。ゆっくりと、歩くような早さで」

空母棲姫「……………………」コクリ

(……なるほど。これは確かに『篭絡』かもしれない。随分と優しくて、相手に任せた篭絡だけどね)

…………………………………………。

396 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/23 19:19:49.63 kMfYaA4Ao 485/671

金剛「──二日後に、私をデスか?」

提督「ああ。幽霊騒ぎもほとんど収まってきている。そろそろ金剛をこの部屋から出しても良いだろう」

金剛「……大丈夫でショウか」

提督「……正直に言うと、初めは一悶着があるだろう。だが、大きな問題にはならないと信じている」

金剛「ならないではなく『信じている』なのデスか?」

提督「そうだ。確実だとは私も自信を持って言えない……だが、私はあの子達を信じる。きっと理解してくれる、と」

金剛「──ハイ。私も、テートクとこの鎮守府に居る皆さんを信じマス」ニコ

提督「ああ。きっと大丈夫だ」

金剛「……ところでテートク。そろそろもう一人の私とお話ししマスか?」

提督「嬉しい申し出だが、無理はしていないか?」

金剛「ハイ。今日も調子はベリーファイン、デス!」

提督「…………」

金剛「……あの、テートク? どうかしまシタか?」

提督「いや、一つ気になった事があってな」

金剛「気になった事、デスか?」

提督「うむ。意識を引っ込めた方とも会話が出来るのか、とな」

金剛「えーと……?」

提督「つまり、お前と中に居る金剛と同時に話す事は可能かどうか、という疑問だ」

金剛「んー……似たような事ならば出来ると思うデス」

提督「というと?」

金剛「表に出ている方が、中に居る方の言葉を代弁するという方法デス」

397 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/23 19:20:17.04 kMfYaA4Ao 486/671

提督「なるほど。それは負担が少ないのか?」

金剛「どうでショウか……やってみマスね」

提督「頼む」

金剛「では──」スッ

提督「む?」

金剛「…………」パチッ

提督金剛「…………?」

金剛「えーっと、少し聞いてみるデス」

提督「お前もそう思ったか。聞いてみてくれ」

金剛「ハイ。……………………どうやら、まずは私とテートクを会わせたかったらしいデス。……気を遣い過ぎデース」

提督「なるほど、そういう事か。……なんだか申し訳ないな」

金剛「イエス……」

提督「……しかし、間接的にとはいえ三人で会話をする事も出来るのは良い発見だ」

金剛「良い発見、デスか?」

提督「ああ。今までは表に出ている方としか会話をしていなかっただろう? つまり、部屋の中に三人居るのに一人だけ除け者にしているような状態だった。それが解消できると分かったのは良い事だ」

金剛「なるほど。確かにそれはグッドな発見デース!」

提督「それで、負担の方はどうだ? やけに疲れるとか違和感とかはあるか? 中に居る金剛も答えてくれ」

金剛「……………………この子に負担は無いようデス。違和感は声を出そうとしているのに声が出ていない事くらいだそうデス」

提督「ふむ、そうか。お前はどうなんだ?」

金剛「んー……なんと言いマスか、変な違和感はあるデス」

提督「変な違和感?」

398 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/23 19:20:43.29 kMfYaA4Ao 487/671

金剛「イエス。抽象的デスが、ぽわーっとしているような、ふわふわとしているような……そんな、寝起きでまどろんでいるような感じネ」

提督「ふむ……。あまり良くない事なのだろうか」

金剛「そうなのデスか?」

提督「いや、私の勝手な推測だ。根拠も何も無い」

金剛「……そう言っている時のテートクの言葉は当たっている事が多かったデス。何かあるかもしれまセンね」

提督「そう不安にさせるんじゃない。中に居る金剛も不安に思うだろう。──中に居る金剛も違和感などはあるか?」

金剛「……………………特には無いそうデス。強いて言うならば、心の中で会話しているみたいなこの状態が不思議な感覚だそうデス」

提督「ふむ、そうか。二人とも、何か異常があればすぐに言うんだぞ」

金剛「分かりまシタ。この子も頷いてくれたデース」

提督「うむ。……しかし、一つ疑問に思った事があるんだが」

金剛「? どうかしまシタか?」

提督「今表に出ている金剛が姉で、中に居る金剛が妹のような立ち位置になっていると思ってな。何かあったのか?」

金剛「いえ、特に何かがあったという事は無いデス。自然とこうなりまシタ」

提督「ふむ。そうか」

金剛「……………………」ホッコリ

提督「? どうした? そんな優しい笑顔を浮かべて」

金剛「この子から小動物のようにシスターと呼ばれたので、庇護欲が掻き立てられまシテ」

金剛「ん……?」

提督「! どうした金剛」

金剛「……ソーリィ。そろそろ限界のようデス。頭がボーっとしてきまシタ……」

提督「そうか……。ゆっくり休んでくれ」ナデ

399 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/23 19:21:09.78 kMfYaA4Ao 488/671

金剛「んー……♪ グッナイ、テートク……。また、こうや……て……」スッ

提督「……おやすみ」ナデナデ

金剛「!」ピクン

提督「おかえり、金剛」ナデ

提督「気を遣ってくれてありがとう」スッ

金剛「いえ、私はこのくらいしか役に立てないデスから……」

金剛(……最後の一撫では、わざとだったのでショウか? ……嬉しいと思うのは、良くないのに)

提督「そんな事はないから安心しろ。そして、些か気にし過ぎだ。もっとお前のやりたいようにやっても良いんだぞ」

金剛「えっと……ハイ」

提督「うむ。──ところで、体調は大丈夫か?」

金剛「ハイ。それに関してはノープロブレム、デス」

提督「ふむ」ジッ

金剛「…………? あ、あの、テートク? どうかしたデスか?」

提督「少しずつだが、お前の事が分かってきたからな。さっきの言い方から察するに、気にしなくても良いくらいの何かがあるのだろう?」

金剛「! うぅ……ハイ……」

提督「どういう状態なんだ?」

金剛「……ほんの少しデスが、頭がポーっとしマス。重力が半分になったような、軽い浮遊感もあるデス」

提督「そうか。時間も時間だ。今日はもう寝てしまおう」

金剛「ハイ。分かりまシタ」

提督「それと、二日後に備えて心の準備はしておいてくれ」

金剛「心の準備デスか?」

400 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/05/23 19:21:36.81 kMfYaA4Ao 489/671

提督「ああ。あくまでその時の金剛と私は初対面だ。それを忘れないでくれ」

金剛「なるほど。本来ならば知らない事を知っていたりしているとおかしい、という事デスね」

提督「そういう事だ。頼むぞ」ポンポン

金剛「あ、また……」

提督「このくらいならば良いだろう?」

金剛「むー……」

提督「不安ならば姉に聞いてみると良い。きっと笑われるぞ」

金剛「……本当にそうなりそうデース」

提督「それと、二日後は私がこうしても困った顔をしないでくれ」

金剛「う……が、頑張りマス!」

提督「よろしい。──では、また明日な、金剛」スッ

金剛「ハイ。おやすみデス」

提督「おやすみだ」

ガチャ──パタン

金剛「……………………」

金剛「シスター……本当にこれで良いのデスか……?」

……………………
…………
……

407 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/02 10:00:30.04 4Y1+l+d4o 490/671

「私達に特別な用事って何かしら?」トテトテ

「きっと、とっても大事なコトよ! 司令官が特定の艦娘を呼ぶだなんて滅多に無いもの!」トコトコ

「はわわ……! 一体どんな事なのでしょうか……!」トコトコ

(……さて、大丈夫だとは思うけど、暁がちょっと不安かな)トコトコ

「着いたわ! ノックするわね!」スッ

「あ! 私! 私がする!」

「ちゃんと三回ノックするのよ?」

「ぅ、バカにしないでよね。そのくらい分かってるわよ」

(これは知らなかったと見た)

コン……コン……コン……

提督「入れ」

ガチャ──パタン

「司令官、言われた通り来たよ」

「それで、特別な用事って何? 何なのかしらっ?」キラキラ

「…………!」ワクワク

「…………っ」ソワソワ

提督「その事なんだが、まずは約束して欲しい事がある」

「約束?」

提督「ああ。今日の事は非常にランクの高い機密だ。この事は誰に何を聞かれようと、鎮守府から漏らさないと約束してくれ」

「ハ、ハイなのです!」ピシッ

「わ、分かったわ!」ピシッ

「はいっ!」ピシッ

「了解だよ、司令官」ピシッ

408 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/02 10:01:02.91 4Y1+l+d4o 491/671

提督「それともう一つ。絶対に大声を出さないでくれ。良いな?」

四人「!」コクリ

提督「よろしい。──二人とも、出てきて良いぞ」

ヲ級「はーい!」ヒョコッ

空母棲姫「…………」スッ

三人「────ッ!!?」ビクッ

「ピ──!?」

「はい、静かにね暁」ムギュ

「んぎゅーっっ!!?」モゴモゴ

「…………」

(二人は顔が真っ青になって声も出ない、か。やっぱりそうなるよね)

提督「見ての通り、二人は深海棲艦だ。だが、この二人は私や利根の命の恩人でもある」

「……え?」

空母棲姫「またそうやって誤解を招くような……」

提督「事実だろう? あの時、食糧を確保できるという保証なぞ無かった。そんな中で大量の魚や貝、海草を採ってきてくれたのは誰だったかな?」

空母棲姫「それは……」

提督「私ならばなんとか出来るだろう──と思うのは間違いだ。どうにもならん時なんていくらでもあるし、判断のミスもある。あの時はどうにもならない状況だったのはお前も分かっているんじゃないのか?」

空母棲姫「…………」

提督「それに、私の悩みを解消してくれた事も忘れんぞ」

空母棲姫「あれは──……いえ、貴方には何を言っても勝てそうにないわ……」

ヲ級「私、あの時の、魚が一番、好き! 今度、採ってきて、良いっ?」キラキラ

409 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/02 10:01:29.92 4Y1+l+d4o 492/671

提督「もう少し状況が落ち着いてからならば良いぞ。きっと、間宮や伊良湖だけでなく皆が喜ぶだろう」

ヲ級「わーい!」ピョンピョン

三人「……………………」パチクリ

(なんとなく、こうなるのは予想できたよ)

「……あの、司令官さん」

提督「どうした、電」

「……私の勘違いでなければ、二人は敵……ですよね? 空母ヲ級と空母棲姫ですよね……?」

提督「間違ってはいないが、大きく違う点がある」

「違うところ……?」

提督「そうだ。見ての通り二人は敵対していない。むしろ、協力してくれているくらいだ。さっきも言ったが、私と利根がこの鎮守府を離れて島暮らしをしている際にも生きる手助けをしてくれた。私にとって、この二人は皆と同じく仲間だ」

三人「…………」ジー

ヲ級「?」ニパー

「……司令官、二人が敵じゃないっていうのは司令官を見て分かったわ。けど、どうして私達にそれを教えたの?」

提督「簡単だ。二人は深海棲艦である以上、身を隠しながら行動しなければならない。それをなんとかしてやりたいと思ったからだ」

「えっと……皆が受け入れてくれれば、鎮守府の中を自由に歩けるようになるから……なのです?」

提督「そういう事だ。それでまずは電たちに紹介する事にした」

「……でも、流石にちょっと怖いわ」

「まあ、そうなるよね」トコトコ

「ひ、響……?」

「二人とも、調子はどうだい?」

ヲ級「今日も、元気、だよ!」

空母棲姫「……悪くはない」

「それは良いって事なのかな?」

410 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/02 10:01:56.77 4Y1+l+d4o 493/671

空母棲姫「む…………はぁ……そういう事ね」

「…………」ニヤ

空母棲姫「本当、貴女はこの方に影響されているわね?」

「されるなっていう方が無理だと思うよ」チラ

空母棲姫「それもそうね」チラ

提督「褒め言葉として受け取っておこう」

空母棲姫「もう……これなんだから……」

三人「…………」

(あれ……? なんだか普通なのです……)

(なんか深海棲艦とか敵って感じがしないわ……。深海棲艦なのに……)

(…………)

「……思ったんだけど、どうして響はその二人と仲が良いの?」

提督「簡単な話だ。教える前に響にバレてしまった。それで三人よりも先に交流していたって所だな」

「……そうなのね」

提督「ああ。良かったら響と同じく仲良くしてやってくれ」

「……私はもう少し様子を見るわ」

「じゃあ、私はこれからちょっとだけお話ししてみようかしら」

「わ、私もなのです」

「私はいつも通りかな」

「う……わ、分かったわよ! 私も一緒に居るわ!」

提督「お姉さんは辛いな」

「うぅー……」

空母棲姫「無理はしなくても良いのよ?」

「この人に言われると、なんか複雑な気分……」

提督「まあ、直に慣れるだろう」

「ううぅー……」

…………………………………………。

415 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/12 01:06:10.10 dCKzIXvTo 494/671

提督「──とまあ、今言ったように暁たちは空母棲姫たちと打ち解けたと言って良いだろう」

金剛「やっぱりデスね。あの二人ならばすぐに仲良くなれると思いまシタ」

提督「そして、お前もすぐに皆の中に溶け込めるだろう」

金剛「それは……どうデスかね? 皆さんにとって、私はやっぱり──」

提督「大丈夫だ。初めこそ動揺されるだろうが、すぐに受け入れてくれるさ。瑞鶴と響の時もそうだった。心配する事はないぞ」ポンポン

金剛「……ハイっ」ニコ

利根「うむうむ。そうじゃぞ」ニコニコ

利根(──うむ。良い雰囲気じゃのう。やはり提督はこの笑顔が一番じゃ。きっと、この笑顔を引き出せるのは金剛だけじゃろうなぁ)

利根(いや……『金剛』だから、なのかのう? 金剛であり『金剛』でもあるから、この笑顔に出来るのじゃろうか)

利根「うーむ」

金剛「? どうシタですか、利根?」

利根「なんだか今日は眠くなるのが早くてのう。すまぬが、我輩は先に寝るのじゃ。眠気には逆らえぬ」スッ

提督「……ふむ」

金剛「珍しいデスね?」

利根「こういう事もあるじゃろうて。──では、おやすみなのじゃー」

利根(しっかりと堪能しておくのじゃぞ、提督よ)ニヤ

ガチャ──パタン

金剛「グッナ……もう行ってしまいまシタ。なんだか今日の利根、不思議な感じでシタね?」

提督(……あいつめ、変な気を回したな)

提督「まったく……」

金剛「?」

416 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/12 01:06:42.60 dCKzIXvTo 495/671

提督「まあ、あいつが深読みをしたという所だ」

金剛「深読み、デスか?」

金剛「──あ、なるほど」

提督「教えて貰ったのか」

金剛「ハイ。けど、本当にシスターは皆さんの事をよく分かっているデスね。私にはどういう事なのか検討もつかなかったデス」

提督「何年も一緒に居るから分かる事だ。そうでなかったら分からないのが普通だろう?」

金剛「……………………」

提督「うん?」

金剛「ぁ……い、いえ。なんでもないデス」

提督「……そうか」

提督(……下田の仲間達の事を、よく分かっていなかったのだろうか)

金剛「! ……あ、あの…………」

提督「どうした?」

金剛「私が何を考えていたのか、分かってしまったデスか……?」

提督「いや、分からんよ。出来るのは憶測くらいだ」

金剛「……なんだか、テートクならば私の考えていた事を言い当てそうデス」

提督「さて、それは分からんな」

金剛「…………? えっと、それはどういう…………あぅ……分かりまシタ……」

提督「……金剛、この子に何かを吹き込んでいるな?」

金剛「……………………テートクはこういう時に頑固になるから、何を考えていたのかも教えてくれなくなると言っていまシタ」

提督「…………」フイッ

金剛(顔を背けた……という事は、当たっているのデスかね?)

提督「ところで話は変わるが、明日の準備は出来ているか?」

金剛「正式に私が在籍するお話デスね。ハイ。ちゃんと頭の中でイメージトレーニングも出来ていマス」

提督「よろしい。ならば、最終確認として私と会話をしてみよう。明日の予行演習だ。──金剛、これからよろしく頼む」

金剛「ハイ。こちらこそよろしくデス」ペコ

提督「……ふむ。硬いな」

金剛「あう……硬いデスか」

提督「そうだな。硬い。もっと素直に自分を曝け出して構わんのだぞ?」

金剛「それは失礼のような……」

提督「……ふうむ。ならば──」

金剛「えっと、それでしタラ──」

提督「────────」

金剛「────? ────────!」

…………………………………………。

417 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/12 01:07:13.32 dCKzIXvTo 496/671

利根「…………」ボー

利根「……綺麗な月じゃのう。星々も自己主張するかのように強く輝いていて良い夜空じゃ」

利根「…………」モグモグ

利根「うむ。うむうむ! ヲ級に空母棲姫め、また腕を上げおったな? 美味い饅頭なのじゃ。……まあ我輩一人じゃから、ちと寂しいがの」

利根「うーむ。誰かを呼んでみるかの? 筑摩……はまだ鎮守府に居らなんだな。まったく。一体いつになったらこの鎮守府にやってくるのじゃ。姉不幸者め」

利根「まず駆逐艦の皆はもう寝ておるじゃろうなぁ。軽巡の者もそろそろ寝る頃のはずじゃ。重巡は……たしか今日、軽空母の皆と酒を飲み交わしておるんじゃったか。我輩は酒が飲めぬから邪魔をする訳にもいかぬな」

利根「となると戦艦や空母の者たちじゃな」

利根「加賀や赤城はどうじゃろうか? ……無理じゃな。会話が続かずに饅頭を食い尽くされるだけじゃ。飛龍と蒼龍も今日は何か予定があると話をしておったのう。鶴姉妹は……なんだか寝ておりそうじゃから止めておくかの」

利根「戦艦は……正直、金剛型の三人とは特別仲が良いという訳でもないからのう……。簡単に話をする程度じゃし。それに、四人ではこの饅頭の量は少な過ぎる」

利根「という事で残るは長門じゃな。……む。いかん。長門の部屋はどこじゃったかの……?」

利根「……うーむ。仕方が無い。今日は一人で居る事にするかのう。流石にヲ級と空母棲姫の二人を呼ぶ訳にはいかぬしのう」

川内「──あれ? 利根さん?」

利根「うん?」クルッ

川内「やっぱり利根さんだー! どうしたの、こんな夜に? 夜戦?」

利根「どこに敵が見えるというのじゃ、どこに。そういう川内こそこんな夜にどうしたのじゃ? また夜戦病でも発症したのかの?」

川内「さ、流石にそれはもう無いかな。もう提督に吊るされたくないから……」

利根「クックッ。この鎮守府で一番吊るされておるからのう。──まあ、なんじゃ。これも何かの縁。一緒に饅頭でも食わぬか?」

川内「え、お饅頭!? 良いの!? やったー!」チョコン

利根「うむ。月を肴に饅頭を食べておったのじゃが、そろそろ一人は寂しくなってのう」

川内「あれ、提督と一緒じゃなかったの?」

利根「提督はちと用事があってのう。邪魔をせぬよう抜け出したのじゃ」

418 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/12 01:07:38.80 dCKzIXvTo 497/671

川内「ふーん? 提督も忙しいよねー。あ、いっただきまーす!」パク

利根「どうじゃ? 塩味のある饅頭も美味いものじゃろう」

川内「本当だ、おいしー!! これ利根さんが作ったの?」

利根「我輩は料理なぞ出来ぬよ。これはお裾分けしてもらったものなのじゃ」

川内「という事は間宮さん達かな? へぇー、お饅頭にお塩っていけるものなんだねー」モグモグ

利根「たしか、塩味で甘さが引き立つとか言うておったぞ。不思議な話じゃよのう」

川内「あ! それ聞いた事がある! 西瓜に塩を掛けるってやつだ!」

利根「それと同じじゃな。──ところで川内よ、こんな時間に外に出てどうしたのじゃ?」

川内「ん? やっぱ夜が恋しくなってさー。部屋の中だと静かにしないといけないから外に出てきたんだー」モグモグ

利根「なるほどのう。本当に川内は夜が好きじゃなぁ」

川内「そりゃもうね! だって夜だよ! こう、血沸き肉躍るって言えば良いのかな? そんな感じだよ!」

利根「……やはり夜戦病が発症したのではないのか?」

川内「いやいや、本当にただ歩き回ってるだけだよ。前みたいに騒いだり海へ出ようとしたりしないって」

利根「クックッ。あの時の提督と川内の様子はまだ憶えておるぞ。あれは辛かったじゃろうなぁ」

川内「そ、その話はやめよ? ね? あの時の提督を思い出したくないからさ……?」ビクビク

利根「さて、それはどうしようかのう?」ニヤ

川内「利根さんも提督みたいにイヂワルしないで!? ……ん?」チラ

利根「む?」チラ

利根(ぬ……あれはヲ級と空母棲──あ、気付いて隠れたか)

川内「……ね、ねえ利根さん。今何か見えなかった?」

利根「うん? 何かって何じゃ?」

419 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/12 01:08:08.05 dCKzIXvTo 498/671

川内「いや、ほら……さっき誰かがあそこに……」

利根「何を言うておるのじゃ川内よ。夜戦病の中毒症状で見えない敵でも見たのかの?」

川内「いやいやいやいや!! 絶対に誰か居たって! こっち見てたってば!!」

利根「じゃが、今は居らぬのじゃろ?」

川内「そ、そうだけどさぁ……。もし敵とかだったら危ないよ」

利根「深海棲艦がこんな所に居る訳なかろうて。それに、深海棲艦ならば一瞬見ただけでも深海棲艦と分かるじゃろう?」

川内「あ、それもそっか。……うーん。でも、なんだか敵っぽく見えたんだよね」

利根「ほれ川内。饅頭じゃ」スッ

川内「え? えーっと……あむ」パク

利根「食って少し落ち着くが良いぞ。それに、もし敵ならば我輩が見逃しておらん」

川内「うーん……? まあ、利根さんがそう言うのなら……」モグモグ

利根「ところで川内よ、お主は星の事が分かるか?」

川内「星? ……全然わかんない」

利根「では、提督から聞いた星の話をしてやろう。北極星というのは知っておるか?」

川内「えっと、確か常に北にある星だっけ?」

利根「うむ。そんなものじゃ。その北極星じゃが、実は我輩たちが見ている北極星は四百年前の姿らしいぞ」

川内「四百……? えーっと、どういう事?」

利根「北極星の光が地球へ届くまで四百年の時間が掛かるという話じゃ。つまり、北極星が今この瞬間に消えて無くなっても、地球では四百年後まで北極星が見えておるという事なのじゃ」

川内「……え!? 光ってあの光だよね!? パッて光ってパッて消える光だよね!? あれって一瞬で向こう側に届くんじゃないの!?」

利根「どうやら光にも速さがあるらしいのじゃ。なんでも、一秒で地球を七周半するらしいぞ」

川内「七周半!? って、そんなに速いのに四百年も掛かるってどれだけ遠いの!?」

420 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/12 01:09:55.85 dCKzIXvTo 499/671

利根「途方もない遠さじゃなぁ。前に教えて貰ったが、何千兆キロだとか言っておったのう」

川内「うっわー……もうすっごく遠いってくらいしか分からないや……」

利根「ちなみに一番近所の銀河は何千京キロだそうじゃ」

川内「京って兆の一つ上だったよね!? なにその遠さ!?」

利根「他にも色々と聞いたぞー。そんな遠くからやってくる星の光でも影が出来るとか──」

川内「新月の夜って真っ暗で何も見えないのに、影って──」

利根「それが、綺麗な空気の場所じゃと──」

川内「見てみたいなぁ──」

利根「そして──」

川内「うんうん! ────!」

利根「────」

川内「────!」

…………………………………………。

ヲ級「危なかったね、姫」

空母棲姫「油断していたわ……。これからはもっと気を付けましょうか」

ヲ級「はーい。私も、もっと気を付けるね」

空母棲姫「ええ。後で利根にお礼を言いましょう。逸らかしてくれたみたいだもの」

ヲ級「うん! 次は、あのお饅頭よりも、もっと美味しいの、作る!」

空母棲姫「きっと利根も喜んでくれるわ」

……………………
…………
……

428 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/23 21:19:06.74 QDsZQ4q2o 500/671

提督「──本日の任務は以上だ。加えて、この鎮守府に新しくやってきた艦娘を紹介する。……入ってきてくれ」

比叡「ッ──!!」

榛名「────────」

霧島「…………」

金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! よろし……」

全員「……………………」

金剛「…………く……」

金剛(……やっぱり、こうなりマスよね)

金剛「えーと、私、どこかおかしかったデス?」チラ

提督「いや、どこもおかしくはない」

長門(……こうなるのも無理はないだろう)

比叡「……司令、一つよろしいですか」

提督「……許可する」

比叡「嫌な予感はしていましたけど、これは一体どういう事ですか?」

提督「……………………」

比叡「……………………」

飛龍(……あれ? なんだか……?)

利根(提督も辛そうじゃな……)

提督「……見ての通りだ」

比叡「…………………………………………」

榛名「…………」ハラハラ

霧島(大丈夫かしら……)

429 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/23 21:19:33.43 QDsZQ4q2o 501/671

金剛「……比叡?」

比叡「っ!」ハッ

比叡「……いえ、ごめんなさい。司令が何も考えていない訳なんてないのに……」

提督「辛い思いをさせてすまない……」

比叡「…………」

金剛(……えっと、一応ひっそりとしておく方が良いデスよね?)

提督「そして金剛。来て早々に見苦しい姿を見せてしまった」

金剛「! ノープロブレム! 気にしないで下サーイ!」

提督「ありがたい。──そして、金剛に鎮守府の案内を誰かに任せようと思っている。希望者は居るか?」

加賀「私がします」スッ

提督「そうか。加賀ならば分かりやすく教えられるだろう。頼む」

加賀「ええ、お任せ下さい」

提督「ああ。……比叡」

比叡「……はい」

提督「この後、提督室へ来るように。……ちゃんと説明をする」

比叡「…………はい」

提督「以上だ。何か質問のある者は居るか?」

「司令官、比叡さんにする説明を私達が聞いても良いのかな」スッ

提督「比叡にだけは聞かせる言葉もあるから、一緒にというのは諦めてくれ。その後ならば聞きたい者だけに教える。比叡が拒否しなければ比叡から聞いて貰っても構わない」

「うん、分かったよ」

提督「……………………さて、他に質問のある者は居ないようだな。解散」

…………………………………………。

430 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/23 21:20:03.97 QDsZQ4q2o 502/671

コンコンコン──

榛名「はい、どうぞ」

ガチャ──パタン

金剛「……ただいまデース、マイシスターズ!」

霧島「! おかえりなさい、金剛お姉様」

榛名「おかえりなさいませ。加賀さんの案内は終わったのですか?」

金剛「イエス! とっても分かりやすい説明でシタ! ──ところで、比叡はまだ戻っていないデスか?」

霧島「まだですね。……比叡にだけするお話とは、一体なんでしょうか」

榛名「どういうお話なのでしょうか……」

金剛「…………」

金剛(こういう時は、どう声を掛ければ良いのでショウ……)

コンコンコン──ガチャ──パタン

比叡「ただい──! おかえりなさいませ、お姉様」

金剛「比叡こそおかえりデース!」

霧島「……司令とのお話は、どうだったの?」

比叡「司令に泣かされました」

金剛「!? ど、どういう事デスか比叡!?」オロオロ

比叡「あ、えっとですね……司令がどうして金剛お姉さまを再び受け入れたのかを聞いて、その後に私の頭を優しく撫でてくれたんです。それでなんだか涙が出てきて、司令に泣き顔を見られてしまいました」

金剛「そうだったのデスね、どういう事なのかと思ってビックリしたデス……」ホッ

三人「!」

榛名(……少しだけですが『金剛お姉様』と違います。私の知っている『金剛お姉様』は、苦笑いでもこんなにも弱々しい笑顔ではなかったはずです)

霧島(まったく同じという訳ではないようですね。……別の『金剛お姉様』……ですか。なんだか、妙な気分です……)

比叡(…………)

431 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/23 21:20:30.42 QDsZQ4q2o 503/671

金剛「? どうかしまシタか、三人とも?」

榛名「い、いえ……榛名は大丈夫です」

霧島「答えになっていないわよ、榛名」

榛名「ええと、それは……」

金剛(──やっぱり、ここの榛名も大人しい子のようデスね。ただ、向こうの榛名と違って目が据わっていないからか、なんだか普通の大人しい子に見えるデス)

霧島「もう……。『大丈夫です』って口癖は直すようにと司令からも言われているでしょう?」

榛名「うぅ……」

比叡「…………」

金剛「まあまあ霧島。榛名もきっと、つい出てしまっただけデスよ。ネ、榛名?」

榛名「……はい」コクン

金剛「ゆっくりと直していきまショウ。出来ないなんて事は無いはずネ」ナデ

榛名「……はい!」

霧島(……ふむ。『金剛お姉様』よりも少し甘いようですね。……ですが、それと同時に優しさももっと柔らかく感じます)

比叡「……………………」

金剛「? 比叡?」

比叡「!! は、はい! なんでしょうか」

金剛「いえ、ボーっとしていたようでシタので……。疲れているデス?」

比叡「…………かも、しれないです。もしかしたら、司令に泣かされたから疲れてしまったのかもしれません」

金剛「……もし良かったら、テートクがどんな話をしていたのかを聞いても良いデスか?」

比叡「それは……」チラ

霧島「……私は聞きたいと思っています。司令が何を思っているのか、どう想って受け入れたのかを知りたいです」

432 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/23 21:20:59.97 QDsZQ4q2o 504/671

榛名「私も、知りたいです。どういう理由なのか、とても気になっています」

比叡「……分かりました。司令もこうなるのを予想していたでしょうし、どんな話をしていたのかを話しますね」

比叡(ただ……金剛お姉様が別の鎮守府の捨てられた艦娘とかそういう部分は言わないようにしないと……)チラ

金剛(確認をするような目……。きっと、比叡は口裏合わせの準備はオーケーなのかと聞いているのでショウね。大丈夫デス。私はテートクの事をほとんど知らない、ここへ来たばかりの『金剛』と思って話しマス)

金剛「私の準備はオーケーです。比叡、話してくれマスか?」

比叡「はい。──司令はウェーク島で何年も三人の事を考えながら暮らしていて、とある事に気付いたそうなんです。『今の自分を、三人が見たらどう思うか』と。それで────────」

霧島(…………ああ……その言葉は金剛お姉様が言いそうな言葉ですね)

榛名(だから提督は戻ってきて、そしてこちらの金剛お姉様を受け入れたのですね)

比叡「その時に言った事なんだけれど、私達も気を付けないといけないと思います。司令ならば私達を沈ませないと妄信してはいけないと。総司令部からの伝達でも毎月、何人もの艦娘が────────」

金剛『……ええ。私達も、その事をすっかりと忘れてしまっていまシタ。比叡と同じく、心のどこかで安心していたのでショウね』

金剛(! 起きていたのデスか?)

金剛『今さっき起きたばっかりデース。──どうデスか、私の自慢のシスターズは?』

金剛(良い子たちデス。本当、こうして見ると姉妹というのはこれがノーマリティだと思えマス)

金剛『ノーマリティかどうかは分かりまセンが、この子達はこれが普通デス。仲良くして下サイね、マイシスター?』

金剛(──ハイッ! マイシスター!)

比叡「──って、あれ? お姉様、話聞いてますか……?」

金剛「……ソーリィ。ちょっと感傷的になってて聞いてなかったデス」

比叡「もー……」

……………………
…………
……

433 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/23 21:21:45.48 QDsZQ4q2o 505/671

レ級「──さぁて、そろそろ準備とか良いんじゃないかな、大佐クン?」

大佐「その前に戦力の方を聞かせろ。集まった深海棲艦の数はどれくらいなんだ?」

レ級「ざっと七百ってところかなぁ? まっ、あの鎮守府の十倍くらいは居るんじゃない?」

大佐「十倍か。くっ……くくくっ……如何に奴が優秀でも、これだけの戦力差があるなら余裕だ!」

大佐「くく……感謝してやるレ級。お前のおかげで奴をブッ潰す事が出来そうだ」

レ級「これだけ戦力を用意したんだからさぁ、ちゃーんとこっちの計画も忘れないでよぉ? じゃないと……ゴミムシらしく地べたを這いずり回るだろうからさっ」ニヤァ

大佐「分かってる分かってる。あの鎮守府に裏切り者の深海棲艦が居るんだろ? そいつはちゃーんと逃がさないようにすっからよ」

レ級「じゃあ聞くけど、陸に逃げられそうになったらどうするのかな?」

大佐「奴の鎮守府にプレゼントを送っておいた。それを奴が読めば、陸へ逃げようとしないだろうよ」

レ級「へぇ……? じゃあそっちは任せよう!」

大佐「お前こそ艦隊の指揮をミスすんじゃねえぞ」

レ級「だーいじょうぶだって! ……あの蝙蝠どもは殺さなければならんからな」

大佐「…………!」ゾワッ

レ級「そんじゃ! 強襲する日程を決めよう! なんだったら今からでも──」

瑞鳳「──あ、提督……こんな所に居た、の……で……ッ!?」ヒョコ

レ級「って……あーらら。見付かっちゃった」

大佐「ちっ……面倒な……」

瑞鳳「ぇ……え……? し、深海……棲艦が……な、なんで……?」カタカタ

レ級「はーい動かないでねぇ。ついでに喋らないように」ジャキッ

瑞鳳「っ!」ビクッ

レ級「うぅーん、良い子だ。……でさぁ? 今ここで起きている事は全部忘れてくんない? ロケットスタートを決めようとしたのに邪魔をされるのは御免だからさぁ?」

434 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/06/23 21:22:12.58 QDsZQ4q2o 506/671

瑞鳳(で、でも、それって……)チラ

大佐「…………」

瑞鳳(提督……どういう事なの……? 助けて……助けて……っ!)カタカタ

大佐「良い事を考えた。レ級、強襲する日はこいつを徹底的に口止めしてからにしよう」

瑞鳳「────ぇ……?」

レ級「ううん? 何する気なのかな?」

大佐「こいつは色々と具合が良いから処分するのは勿体無い。だから絶対にこの事を漏らさないよう、その身に教え込ませるんだよ。そう……色々な手段を使って、なぁ?」ニヤ

瑞鳳「……………………う……そ……」ペタン

レ級「へぇ……随分と高尚な趣味を持っているんだねぇ。お姉さんドン引きしちゃうかも」ニヤ

大佐「口をそんな楽しそうに歪ませていたら説得力の欠片も無いな」

レ級「あ、バレた? ギャハハハハ!」

瑞鳳(提督が……深海棲艦と……)

大佐「じゃあ……早速『教育』するかぁ」グイッ

瑞鳳「ぁ……」

大佐「運が悪かったなぁ瑞鳳。大丈夫だって。絶対にこの事を言えないようにするだけだからよぉ」ニヤァ

瑞鳳「ヒッ──!」

……………………
…………
……

441 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/02 03:26:55.88 /ahWj/2No 507/671

ヲ級「こっんだってひょー♪ こっんだってひょー♪」ペタペタ

空母棲姫「ああほら、右側が高くなっているわよ。献立表は皆が見る物なんだから綺麗に張りましょう?」

ヲ級「!! ホントだ! 姫、ありがと!」ニパー

空母棲姫「……本当にこの子ったら。ほら、貼り終えたのだから食堂へ戻るわよ」ナデナデ

ヲ級「はーいっ」ニコニコ

天龍「──ん? おお、姫にヲ級じゃねえか。何してんだ、こんな所で」

ヲ級「てんりゅー! 献立表、張りに来てた!」

天龍「お、マジか! んじゃあ早速チェックしねえとな!」トコトコ

龍田「天龍ちゃんったら本当にご飯が好きよね~」スタスタ

天龍「なーに言ってんだよ龍田! 飯が嫌いな奴なんて」

ヲ級「居ない!」

天龍「なー?」ニカッ

ヲ級「ねー♪」ニパー

空母棲姫「……いつの間にこんなに仲良くなったのかしら」

天龍「ん? いやー、こいつって人懐っこいだろ? ちょっと遊んだらこうなったぜ」

ヲ級「てんりゅー、優しい!」

空母棲姫「そうなのね。良かったわ」ニコ

龍田「貴女も、だ~いぶ馴染んできたみたいね~」ニコニコ

空母棲姫「段々と肩肘を張るのが馬鹿らしくなってきたの」

空母棲姫「そして……全員がお前のように警戒をしてくれると、私も自分の立場を忘れずに済むのだがな」

龍田「あらあらぁ~。何の事かしら~?」

空母棲姫「では、私もとぼけるとしましょうか」

龍田「それが良いわよ~。……私は貴女から残り香が消えるまで、このままだもの」

空母棲姫「……残り香?」

龍田「さあね~? これ以上は言えないわ~」

空母棲姫「…………?」

空母棲姫(残り香……? 一体なんの話だ? ……………………今朝、潜ったせいで磯臭いのでしょうか……? いえ、お風呂はしっかりと頂いていますし……)

龍田「…………」ニコニコ

空母棲姫(……提督と同じくらい読めないわね、この艦娘は)

…………………………………………。

442 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/02 03:27:22.09 /ahWj/2No 508/671

提督「──さて……執務が終わってしまった」

利根「終わったのじゃー!」

飛龍「量が少ないですからね。……本当、私達は待機していて大丈夫なのでしょうか。こう何日も待機ばかりですと不安で仕方がありません」

提督「安全に関しては、よっぽどの事でもない限り問題無いだろう。だが、こうも一部の遠征と演習以外やる事がないと暇を持て余してしまう。それをどうしようか」

利根「我輩にとってはそっちの方が問題じゃぞ」

提督「まったくだ。鎮守府内の大掃除でもしようかと本気で思っているくらいだぞ」

コンコンコン──

提督「む? 入れ」

ガチャ──パタン

金剛「失礼しマス」

提督「金剛か。どうした?」

金剛「空母棲姫とヲ級からのお届け物デース。チーズを練りこんだタルトだそうデスよ。おやつにして下サイと言っていたデス」

利根「おお! 新作か! 丁度執務も終わった事じゃし、お茶にしようぞ! ……──って、うん? 当の二人は居らぬのか?」

金剛「夕飯を腕によりを掛けて作ると張り切っていまして、手が離せなかったみたいデス。間宮と伊良湖も忙しそうにしていまシタ」

利根「ほほう。何か良い事でもあったのかのう?」

金剛「どうなのでショウかね……?」

飛龍「そういえば今朝方、空母棲姫さんとヲ級ちゃんが張り切って海へ出ていましたけれど、何か関係があるんですかね?」

提督(なるほど、そういう事か)

利根「む。何やら一人だけ理解したようじゃぞ」

提督「何の事やら」

飛龍「……これは完全に分かっていますね」

443 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/02 03:27:57.19 /ahWj/2No 509/671

金剛「テートク、どういう事なのデスか?」

提督「さて、どういう事なんだろうな」

飛龍「金剛さん、提督はこうなったらテコでも動きませんよ。なにせ、頑固者ですから」チラ

金剛「むぅ……」

利根「ほー、これは珍しいのう。金剛が不満そうな顔をしておる」

飛龍「本当です。初めて見たかもしれませんね」

金剛「!! ご、ごめんなさい……」

提督「何を謝っているんだ。むしろ良い事だと思ったぞ」

金剛「…………? あの……どういう事デスか……?」

提督「金剛は自分を抑え過ぎている所があった。ならば、不満を露に出来るほど心を開き始めてくれているという事だろう?」

金剛「…………」パチクリ

利根「ほほう。これは言っている言葉の意味は分かるが理解が追いついていないようじゃのう」

金剛「…………」

提督「……そんなに予想外だったのか? ほら、深呼吸だ。まずは吸って」

金剛「……すぅ」

提督「そのまま吸い続けて」

金剛「…………!」

提督「まだまだ」

金剛「…………!」プルプル

提督「…………」

金剛「…………!!」プルプルプル

飛龍「あ、あの……?」

444 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/02 03:28:23.60 /ahWj/2No 510/671

提督「よし、吐いて良いぞ」

金剛「はぁぁ……! …………うぅ……テートク、酷いデス……」

提督「すまない。──少しは落ち着いたか?」

金剛(あ……本当デス。なぜか冷静になっているデス)

金剛「そういう事だったのデスね。ありがとうございマス」ペコ

利根(……人というものは思考が麻痺すると言われた事を忠実に行うんじゃなぁ)

提督「しかし、そんなになるまで意外だったのか?」

金剛「……今まではそんな事は出来ませんでシタので。なので混乱してしまいまシタ。でも、もう大丈夫デス」

金剛「──だって、テートクですから」ニコ

提督「そう思ってくれて嬉しいぞ」ポンポン

金剛「うぅー……また……」

提督「諦めろ。こればっかりは譲らんぞ」

金剛「この間までは少し遠慮して下さっていたノニ……」

提督「嫌か?」

金剛「……その問い掛けは卑怯デス」フイッ

利根「卑怯じゃな」

飛龍「えーっと……」

提督「どうやら私に味方は居ないようだ……」

利根「いやぁ。流石にそれで庇うのは無理があるぞ?」

提督「…………」

金剛「えっと、その……」

提督「…………」

445 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/02 03:28:54.34 /ahWj/2No 511/671

金剛「……………………たまになら、良いデス……よ?」

利根「ほれ、金剛が折れてしまったではないか」

提督「ではそれに甘えるとしよう」

利根「まったく……」

金剛「ええと……あの、私は紅茶を淹れてきますね?」スッ

提督「頼む」

金剛「ハイ! 任せて下サーイ!」

飛龍「……それにしても、タルトを作ったお二人は何を作っているんでしょうかね?」

利根「気になるよのう。……一人だけ気付いておるのはズルいのじゃ」チラ

提督「違っているという可能性もあるんだぞ?」

利根「ならば言ってくれても良いではないかー」

提督「合っている可能性もあるからな」

飛龍「では、お茶の時間はお二人が何を作っているのかを予想してみましょう」

利根「うむ! 提督よ、お主と同じ結論だった場合は同じじゃと言うのじゃぞ?」

提督「同じ結論だった場合はな」

利根「絶対に当ててみせるぞー!!」

…………………………………………。

455 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/19 01:14:49.09 FYyqU5wUo 512/671

天龍「うおおおおっ!!! なんだこれ!? なんだこれ!!?」キラキラ

島風「海の食べ物がいっぱーい!!」キラキラ

比叡「ひえぇー……」

川内「良いじゃーん!! 良いよね、こういうの! 好きだなぁ!」キラキラ

赤城「あれは……鯛……!? アワビにサザエ……!! 鮪やカツオまで……!!!」キラン

加賀「素晴らしいです」キラキラ

間宮「今日はいつも頑張って下さっている皆さんへの労いとして、私たち四人が腕を振るってみました。食材の調達は空母棲姫さんとヲ級ちゃんの二人です」

ヲ級「いっぱい、獲ってきた!」

空母棲姫「生態系を壊さない程度にしていますので連続ではできませんが、たまになら出来ると思います」

川内「おおー!!」キラキラ

那珂「川内ちゃんが夜戦以外でこんなに目を輝かせるのも珍しいねー」

神通「気持ちは分かりますよ」ワクワク

那珂(あ、神通ちゃんも楽しみにしてる)

利根「──ふむ。当たったようじゃ」

飛龍「提督の予想って本当に当たりますよね」ワクワク

提督「二人に海へ出る許可を出したのは私だからな」

利根「なんじゃ。それでは最初から知っておったのではないか」

提督「魚を取りに行きたいから海へ出る許可が欲しい、としか言われておらんよ。後の事は全て想像だ」

利根「それがあるのと無いのとでは大違いじゃろうに」

提督「さて、早速夕食としようか」

利根「あ、逃げおったな。──まあ、我輩もそんな事より早く食べたいのじゃ!」トコトコ

提督「そうだな。海産物は新鮮な内に食べるのが一番だ」

456 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/19 01:15:19.91 FYyqU5wUo 513/671

川内「ほらー! 提督も早く席に着いて着いて! 早くご飯にしようよー!」

空母棲姫「後は提督だけですよ」

提督「分かった分かった。すぐに座る」スタスタ

提督「──さて、全員居るようだ。間宮、伊良湖、空母棲姫にヲ級も席に着いてくれ」

間宮「え? 私達もですか?」

提督「ああ。これだけ豪勢な夕食なんだ。今日は全員が一緒に楽しもう。もし食べる順番があるのならば食べながら教えてくれるか?」

伊良湖「…………」チラ

空母棲姫「諦めましょう。提督は頑固なので折れてくれないわ。──それに」

川内「…………!!」ワクワク

赤城「…………」ソワソワ

加賀「…………」ヂー

空母棲姫「一秒でも速く食べたがっている子が居るのだから、そうしましょう?」

間宮「もう……。ご飯は各自でよそって頂きますよ?」

全員「はーい!」

間宮「では、五つある羽釜にちゃんと列で並んでよそって下さいね。勿論、喧嘩はメッですよ」ニコ

天龍「おっしゃあ!!! 天龍様が一番だぁ!!」ダッ

島風「おっそーい!」ヒョイッ

天龍「あっ!? ちっくしょ!!」

島風「へへーん! 私には誰も追いつけないんだからねー!」

加賀「頂きました」スッ

赤城「一番近い羽釜でしたので、楽で良かったですね」ニコニコ

457 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/19 01:15:56.05 FYyqU5wUo 514/671

長門「本当、皆して元気だな」スタスタ

「長門さんはゆっくり後ろに並ぶんだね」

長門「急ぐ必要もあるまい。余裕を持つのは大事だぞ」

(レディだ……!!)

「暁が何を考えているのか丸分かりね!」

「なのです」

川内「まだかなーまだかなー」ヒョコ

神通「姉さん、列から乱れないで下さい」

川内「だってー。気になるしー」

熊野「あまり列から乱れすぎると、提督から叱られますわよ」

川内「!!!」サッ

鈴谷「あっははー! やっぱり提督が怖いんじゃーん!」

川内「……そういう鈴谷さんは怖くないの?」

鈴谷「……ごめん。怖い、怒らせたくない……」ビクッ

川内「だよねー……」

加賀「鯛のお吸い物が最高です」ズズー

赤城「お刺身もぷりぷりとしていて赤身もトロも何もかも美味しいですねっ」モグモグモグ

那珂「はやっ!? もう食べてる!!?」

川内「おぉーい!! 早くご飯を取らないと全部無くなっちゃうよー!!」

天龍「うおおおおおおおおッッ!!! 急いで飯をつぐぞおおおおおお!!」

伊良湖「み、みなさーん! そんなに急がなくても大丈夫ですからぁー!!」

458 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/19 01:16:22.46 FYyqU5wUo 515/671

飛龍「ふふ。皆さん、本当に元気ですよね」ニコニコ

利根「まったくじゃのう」ニマッ

金剛「アハ。見ているだけで楽しくなるデス。──はい、テートクの分デスよ」ニコ

提督「む? ついでによそってくれたのか。ありがたい」

金剛「いえいえー」ニコニコ

比叡「お姉様ー!! どこですかー!!?」

金剛「あ、比叡が呼んでいますので行ってきマス。──今行くデース!」タタッ

蒼龍「飛龍も負けていられないわよー。そのまま提督と一緒に食べてきなさい。今は皆、ご飯に夢中だからさ?」

飛龍「えっ!? え、えーっと……………………うん……」テレ

蒼龍「もう本っ当に可愛いなぁ飛龍はー! 頑張っておいでー!」

空母棲姫「それにしても……今日は一段と騒がしいわね。海の食べ物でこんなにも変わるだなんて思わなかったわ」

ヲ級「魚! 貝! 焼いたり、煮たり、刺身、美味しい!!」

空母棲姫「ええ、本当にね。これだけ喜んでくれると、作った甲斐があったというものです」ニコ

提督「良い顔だ。似合っているぞ」

空母棲姫「……恥ずかしいです」フイッ

ヲ級「姫、素直に、なってきてる!」ニコニコ

空母棲姫「……私をからかう口は、この口かしら?」ツネー

ヲ級「えふぇふぇー」ニコニコ

空母棲姫「でも……良い気分ですね。とても胸の奥が温かくなります」

ヲ級「うん!」

提督「ああ、本当に良い喧騒だ。ここは元気と希望が満ち溢れている」

ヲ級「提督も、笑ってて、良い顔!」

提督「お前もだぞ」ナデナデ

ヲ級「えへー」ニコニコ

提督(……願わくば、こういう時間が続いて欲しいものだ)

…………………………………………。

459 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/19 01:16:48.95 FYyqU5wUo 516/671

川内「いやぁー。堪能したねぇー」キラキラ

神通「とても良かったです」ホクホク

那珂「二人ともすっごく良い笑顔だよー」ニコニコ

川内「そういう那珂も満面の笑みでしょー?」

那珂「あんなの美味しくない訳ないじゃん! もう那珂ちゃん、体重の事を忘れて食べちゃいそうだったよ!」

神通「あら。食べたら食べた分だけ訓練をすれば消費されますよ」

川内「おっそろしい事を言わないでよ……。流石にあれだけ食べた後だとキツいってー……」

神通「けれど、本当に美味しかったですよね。私は鯛のお吸い物が一番良かったです」

川内「私は蛸の刺身かな? あの歯応えと引き締まった味は最高だったなぁ」

那珂「天ぷらが一番だったけど、油物だから那珂ちゃんは控えめにしなきゃだったのが辛かったよー! カロリー高いのに、あの味は反則だって!!」

川内「あ、確かに天ぷらも美味しかったね! 赤城さんなんて目ぇキラキラさせてたし!」

那珂「赤城さんは美味しいものなら何でもキラキラさせてるじゃん!?」

川内「いやまあ、そうなんだけどさ。なんだか特に天ぷらを気に入ってなかった?」

神通「言われてみるとそうでしたね。天ぷらを手に取ってからしばらくは天ぷらを口にしていました」

川内「ほーんと、今日のご飯は美味しかったねー」

那珂「またあったら良いよねー」

神通「生態系は壊さない程度に……と仰っていましたから、次はいつになるかは分かりませんね」

川内「だねー。で、ところでさー。二人は空母棲姫さんとヲ級ちゃんの二人をどう思ってる?」

神通「……難しい質問ですね」

那珂「そう? 那珂ちゃんはもう仲間の一人かなって思ってるよ」

川内「やっぱり? 私もそんな感じかな。ヲ級ちゃんなんて人懐っこいし、空母棲姫さんなんてお母さんみたいだしさ」

460 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/19 01:17:15.23 FYyqU5wUo 517/671

神通「それは……そうですけれど……」

川内「神通は何か不安要素があるの?」

神通「……ええ。いつか、私達が深海棲艦と戦うのを躊躇う日が来るのでは──という不安があります」

川内「んー……。あるのかなぁ、そういうのって」

神通「姉さんは、そうはならないと仰るのですか?」

川内「だってさ、なんだかあの二人だけは別じゃん? 上手く説明は出来ないんだけど、敵って感じがほとんどしないっていうか……むしろ、私達とあんまり変わらないっていうか……?」

那珂「あ、それ分かる! 隣に居ても怖くないよね!」

神通「ですが……」

川内「たしかに神通の言ってる事も分かるよ。けど、不思議じゃない?」

神通「不思議、ですか?」

川内「うん。深海棲艦ってさ、一目で『敵』って分かるよね? だけど、あの二人は敵って感じがほとんどしない。これって、何かがあるって思わない?」

神通「何か……」

那珂「例えばどんなの?」

川内「まあそれは分かんないんだけどさ……」

那珂「分からずに言ってたの!? 何かあるって那珂ちゃん思っちゃったよ!!」

川内「だって本当に感覚なんだからさー」

神通(……本当、あの二人には何があるのでしょうか)

……………………
…………
……

466 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/23 00:56:32.40 2Rmk4WMMo 518/671

ちょっとだけ内容がエグいかもしれないので、耐性の無い方は次の行間が埋まっている1レスを読み飛ばす事を推奨します。内容的には『づほがグロ的にもエロ的にも酷い目にあった』ってものです。
ちなみにエロ描写は欠片もありません。

以上、注意文でした。

467 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/23 00:57:06.91 2Rmk4WMMo 519/671

 ──誰も助けは来ない部屋で、私は床をボーっと眺めていた。
 いや、眺める他ないと言った方が正しいのかもしれない。なにせ私は今、手に鎖を巻かれて逃げられないようにされている。それに……これから起こる事への準備として、体力は欠片も使いたくなかった。
 急造された地下の一室──。天井にぶら下がった何個かの電球と床に放り置かれたいくつかの『道具』の数々、そして壁や床に残った夥しい血の跡。それが、今の私の世界。
 今まで辛い事なんて沢山あった。無理難題な指示を必死にこなそうとして疲れ切った身体を無理矢理に動かし、たまに提督の情欲を受け止めるのが前の私の日常だった。提督が使えないと言った子には轟沈命令を出す事さえあった。
『もうこんな毎日はヤダ……』
 泣きそうになりながらそう思っていた私だけど、今はこう言える。そんな毎日の方が遥かに良かった──と。
 だって、肉を削がれる事も無ければお腹に大穴を空けられる事も無いんだから。泣き喚けば喜ばれ、無反応でいようとすれば悲鳴をあげさせるような事をされる。
 そして、四肢を千切られて悲鳴で喉が潰ようと、頭を強く殴られて視力を失っても終わる事なんて無い。私は艦娘であり、生きてさえいれば高速修復材で大抵の状態であれば、その場で直ってしまう。背骨は竜骨みたいなものだから傷つける訳にはいかないと言っていたから、それ以外の事はされるのだろう。
 そんな生活が、少なくとも一週間は続いている。時間の感覚がもう無くなってしまっているから正確じゃないけれど、それでも一週間以上は経っていると思う。
 初日は首を絞めた状態のまま何度も何度も殴られた。意識が薄れてほとんど何も考えられなくなったのが最後だったと思う。
 二日目も同じだったけれど、反応が悪くなったと言って釘を身体に打ち込まれた。お腹に十数本くらい打ち込まれた時に吐血したら、提督とレ級は満足そうな顔をしていたっけ……。
 三日目は骨を折られた。指や腕、足の骨を余す所なく折って、私の悲鳴を楽しんでた。変に折られて骨が皮膚を突き破った時は心底痛かった。身体の内側から壊されているような感覚で、自分の足が有り得ない曲がり方をして、千切れたような痛みが全身を襲ってきた。ここから、私は死ぬ方が良いと思い出した。
 次の日は、出来るだけ二人の興味が無くなるように努めた。出来る限り反応をしないようにすれば、さっさと殺してくれると思ったからだ。──それは、甘い考えだったと今は思う。反応しないのならば反応するようにされる。当然の事だ。今までのやり方でダメだったら、別のアプローチをするに決まっている。それを、私は分かっていなかった。
 用意されたのは、何百キロあるのか分からない真っ赤に燃える鉄の塊。流石に奥歯がガチガチと鳴って、自分が今までで一番怖がっているのが分かった。提督が私を床に押し倒し、右腕を真っ直ぐ伸ばすようにと命令した。もちろん腕は震えていて、身体は腕を伸ばすのを拒否していた。何をされるのか分かっているからこそ、身体が恐怖で固まっていた。
 提督はそんな私の腕を取って、まるでエスコートでもするかのように優しく伸ばさせてきた。その状態で動くな──と命令された私は、覚悟する他無かった。
 提督が離れ、レ級が赤い鉄の塊を私の右腕に落とす。骨が砕けて肉を内側から裂き、鉄の重みで潰された肉はその熱で焼かれる事となった。
 我慢なんて出来る訳もなく、私は悲鳴と共に残った腕で鉄の塊をどかそうとした。左手が焼けて激痛が走ったので、ほとんど反射的に手を離した。その間も私の右腕は焼かれ続け、嫌な臭いが部屋に充満していたと思う。
 結局、私は痛みで失神した。起きた時には身体がなんともなっていなかったから夢かと思ったけれど、肉の焦げた臭いが現実だと教えてくれる。そして……次もまた、焼けた鉄が用意されていたっけ。
 ただ違ったのは、痛みで悲鳴をあげる私を見ながら劣情を解消してきた事だろうか。
 今日は、どうなるんだろう……。

 コツン──。

「……ああ…………」

 休憩は終わりらしい。また、今日も痛みに耐える時間がやってきた。
 できれば、痛くも苦しくもないのが良いな……。

……………………
…………
……

468 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/23 00:57:35.33 2Rmk4WMMo 520/671

利根「暇じゃぁ……」

飛龍「お仕事も終わっちゃいましたしね……。それにしても、下田の審査っていつまで続くのでしょうか」

提督「審査はあと一週間もあれば終わるはずだ。そろそろ事が起きるだろうから覚悟しておけ」

利根「む? どういう事なのじゃ?」

提督「下田から機密文書が送られてきていてな」スッ

──我、如何ナル時モ総司令部ヘの連絡可──

飛龍「……えーっと…………? なんですか、これ?」

提督「簡単に言えば脅迫状だ」

利根「……これのどこが脅迫なのじゃ?」

提督「字面だけでは分からないが、今朝の偵察で分かった事がある。向こうはこちらに空母棲姫とヲ級が居ると確信している──そう見て間違いないだろう」

飛龍「何かあったんですか?」

提督「──レ級が居た」

二人「!!」

提督「あの鎮守府には、私達の因縁の相手であるレ級が居る。こちらが相手に気付かれないよう索敵できているように、向こうも気付かれないように索敵している可能性が充分にあるだろう」

提督「それを踏まえてこの文書の意味を読み取るならば『おかしな行動を見せれば、総司令部へ即座に横須賀は危険分子だと報告する』という事だ」

飛龍「でも、それって向こうも同じじゃないですか? 向こうもレ級を置いていますし」

提督「条件が違う。向こうは出撃が自由に出来るが、こっちは出来ない。総司令部から視察が来たという理由で同じように海へ逃げても、空母棲姫とヲ級は下田によって沈められてしまうだろう。そんな事、私には出来ん」

利根「むう……では、どうすれば良いのじゃ?」

提督「正直に言って、詰みに近い。打破をしたいのならば見付からないようにこの鎮守府を抜けて下田に潜入して暗殺するか、馬鹿正直に相手するしかない」

飛龍「暗殺なんて無茶ですから、相手をしなければならないという事ですか……」

提督「ああ……。まず間違いなく使ってくる駒は深海棲艦のみだ。向こうは痛手ゼロというのが腹立たしい」

469 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/23 00:58:02.19 2Rmk4WMMo 521/671

利根「…………む? そもそも、どうして下田はここを狙うのじゃ?」

提督「そこは分からんから予想しか出来ないが、私怨があるのかもしれんぞ」

利根「私怨……? どうしてまた」

提督「この間の演習の時、長門をアッサリとこちらへ移籍させた事が引っ掛かっている。向こうからすれば、アッサリと言う事を聞いている長門が面白くないはずだ」

飛龍「そんな事で……」

提督「後で下田の事を知っている四人にも聞いてみる。……私の予想が外れていて、レ級も空母棲姫たちと同じく良い意味で協力しているのならば良いのだが」

利根「夢物語じゃのう……」

提督「ああ……」

飛龍「……空は、こんなにも蒼くて平和なのに」

提督「所詮、人間の本当の敵はまた別の人間という事だ。深海棲艦を相手にするよりもずっと性質が悪い」

利根「……どうして、同じ種族で争わねばならんのじゃろうなぁ」

提督「人間がそれだけ汚れているという事だろう……。私もまた、その内の一人だ」

飛龍「提督が、ですか……?」

提督「私も、だ。私にとって絶対に許せない事をしていれば、私は障害の全てを排除して目的を達成するだろう」

利根「まあ、どうせ提督の事じゃ。その時は我輩たちも許せぬような内容なのじゃろうな」

提督「さあな。そればっかりはどうなるか分からん」

利根「道を踏み外しそうになったら、しっかりと戻してやるからの」

飛龍「それは、提督の艦娘にしか出来ない事ですからね」

提督「ああ。頼りにしているぞ、二人とも」

…………………………………………。

470 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/07/23 00:58:31.27 2Rmk4WMMo 522/671

瑞鳳「ぁ…………ぅ……」ビクンッ

下田提督「ふぅー……スッキリした」

レ級「あーあー。こんなにしちゃって……可哀想に」

下田提督「今回、肉体的に壊したのはお前だろうが」

レ級「そうだけど、精神的に壊したのは君じゃないかなぁ?」

下田提督「そもそも可哀想だなんて欠片も思っていないだろ。流石に手足を挽き肉にするとは思わなかったぞ俺は」

レ級「平然と見ている所か、この状態で犯した癖に……。もしかして、私よりも残虐なんじゃない?」

下田提督「さあなぁ? ま、楽しんだ事は楽しんだんだ。そろそろ、あの鎮守府を壊しに掛かろうか」

レ級「おっ! 良いね良いねぇ! 私もそろそろ頃合いだと思っていたんだよねぇ!」

下田提督「ククク。とことんお前とは気が合う」

レ級「そうだねぇ。もうさ、艦娘じゃなくて深海棲艦の提督になっちゃえば良いんじゃない?」

下田提督「自由に艦娘を犯せなくなるだろ。却下だ」

レ級「ギャハハハハ!! そんな理由で提督やってるなんてねぇ! 本当、面白い人間だわ!」

レ級「んじゃまあ、楽しく殺して殺されよっかぁ!!」

…………………………………………。

477 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/08/02 10:01:24.01 Hk1ZnPxgo 523/671

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「こんばんはデス」

提督「金剛か。そっちから来るとは珍しいな。どうした?」

金剛「変な話しデスが……なんだか会いたくなっちゃいまシテ」

提督「……そうか」

金剛「呆れちゃいまシタか……?」

提督「いや、少し意外だっただけだ。だが、本当に珍しい。ただ会いたくなっただけとは」

金剛「迷惑だったら言って下サイね?」

提督「迷惑なものか。気が向いたらいつでも来て良いぞ」

金剛「! ありがとうございマス!」

利根(……のう、飛龍よ。これはもうアレじゃよな?)ヒソ

飛龍(そうっぽいですよね。良い事……なんでしょうか? 提督のお気持ち次第だとは思うんですけれど……)ヒソ

利根(ちなみにじゃが、我輩は受け入れる準備は出来ておるぞ)ヒソ

飛龍(!! ……強いなぁ、利根さん)

提督(一体どんな内緒話をしているのやら……)チラ

提督「さて、三人ともここに居るだけでは暇だろう。特定のメンバーを集めて小さなお茶会でも開くか? 少し聞きたい事もある」

金剛「聞きたい事デスか?」

提督「ああ。それは全員が集まってから話そう。少し待っていてくれ。瑞鶴と響、そして長門を呼んでくる」スッ

金剛「……なるほど。──では、私はお茶を用意しマスね」

提督「ああ。頼んだ」

…………………………………………。

478 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/08/02 10:01:50.04 Hk1ZnPxgo 524/671

瑞鶴「──それで、下田鎮守府に何があったの? あ、この紅茶も美味しい」チビチビ

提督「ほう、察しが良いな」

瑞鶴「この面子よ? もう何かがあったっていうのは分かるわ」

長門「そうだな。とうとうあの愚か者が首にでもなったか?」

「……むしろ、嫌な予感がするんだけど」

提督「その通りだ。下田鎮守府でレ級を確認した」

四人「!!!」

長門「待て!! なんだそれは!? 一体どういう事なんだ!!」バンッ

提督「言葉通りの意味だ」

「……つまり、あの人は深海棲艦と手を組んだって事で良いのかな」

提督「状況的に見てそう考えても良いだろう。レ級の話は聞いているが、とてもこちら側に協力をするような奴だとは思えん」

金剛「……………………」

瑞鶴「……やっぱり、辛い?」

金剛「……ハイ」

長門(深く関わった者だからなのか、それとも未練が残っているからなのか……。金剛の事だ。恐らく前者だろう。……心優しいのか、それとも私がドライなだけなのか)

「それで司令官、私達に何か聞きたい事があるのかな」

提督「ああ。下田の提督が深海棲艦と組む理由を考えて欲しいんだ。恐らくレ級から下田の提督へ誘いがあったと思うのだが、それを受け入れた理由がいまいち不明瞭だ」

瑞鶴「……ん? 考えるのは良いんだけどさ、提督さんはそれを聞いてどうするの?」

提督「対応を変えなければならない。脅されているのか、それとも率先してやっているのか……。もし脅されているのならば、いずれ艦娘を相手にする事も考えなければならない」

「率先してやっていても同じじゃないのかな?」

提督「それは無いだろう。艦娘を使ってしまえば足が付く。そうすると後で総司令部に言い訳が出来なくなってしまう」

479 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/08/02 10:02:19.65 Hk1ZnPxgo 525/671

瑞鶴「なるほどね……。それで、受け入れたっていうより……たぶん自分から進んでやっていると思うわよ」

「そうだね」

長門「間違いなくそうだな」

提督「……金剛もそう思うか?」

金剛「…………」コクン

提督「そうか……。では、どうして自ら進んでやっていると思った?」

瑞鶴「だって、なんか妬んでいそうだもん」

「うん」

長門「ああ。間違いなくそうだろうな」

提督「ふむ……。妬むというのは私に対してだよな?」

瑞鶴「そうね。こっちに演習に来た時に、なんかそんな感じがしたし。提督さんを妬んで襲ってくるっていうのは考えられるわね」

提督「そうか。……しかし、妬みだけでこんなリスクの高い行動に出るのか?」

金剛「……あの方は、自分の思い通りにいかないと周りが見えなくなってしまいマスから」

提督「ふむ……では、本当に感情に任せた行動なのか」

長門「充分に有り得る……というよりも、それ以外に思いつかんな。あの愚か者は後先を考えない」

提督「ならば、基本的に向こうは我々に危害を加えるべく動いているという前提で対応しよう。ただ……そうではないという意思が見えた場合は救出するぞ」

瑞鶴「救出ねぇ……。なんだかすっごく不思議な感じ」

提督「不満か?」

瑞鶴「不満っていうか……似合ってない? あの人の場合は自業自得っていう感じが強くて……」

提督「……変わるものだな、瑞鶴」

瑞鶴「そこは艦娘も人も同じなのかもね。……まあそれに今は私、提督さんの色に染められちゃってるし?」

瑞鶴「……でも、本当はちょっと自己嫌悪してるんだけどね」

480 : 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A - 2016/08/02 10:03:01.27 Hk1ZnPxgo 526/671

提督「……すまなかった」

瑞鶴「良いわよ良いわよ。たぶん、私もどこかで吐き出したかったんだと思う。むしろ、言わせてくれてありがとね」

提督「……そうか」

長門「…………それで、これからどうするのだ?」

提督「鎮守府内全員に招集を掛けて近い内に大規模な戦闘がある可能性を連絡する。幸い、装備は充実しているから後は心構えだけだろう」

飛龍「……………………」

飛龍(でも、なんだか嫌な予感がするんですよね……。なんだろう、この嫌な感じ……)

利根「防衛戦は好きではないのう……。海と違っていくらでも物資はあるが……こう、なんとも言えぬ感覚が──」

ドンドンドンッ──ガチャッ!

大淀「提督! 大変です!!」

提督「敵か」スッ

大淀「え──? は、はい!! 深海棲艦の軍勢が近くに来ています!」

提督「数はどれほどだ」

大淀「暗いので断定できませんが……最低でも五百は居るようです」

利根「五百じゃと!? 一人で七人相手にしなければならぬではないか!!」

提督「大淀、電信室で鎮守府内全域に緊急出撃命令を出せ。全員、兵装を確認した上で外へ出すんだ。そして周辺の灯台を全て使い、海へ向けて照らせ。この夜の中ではまともに戦えん」

大淀「畏まりました。……提督、ご無理だけはなさらないようお願いします」

提督「勿論だ。行け、大淀」

大淀「ハイッ!!」

タタタタッ──!

利根「では、我輩たちも行くとするかの。事は一刻を争う」スッ

提督「ああ。そうしよう」

金剛(……覚悟を、決めまショウ)グッ

…………………………………………。


続き
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」#6

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