【ガルパン】西「四号対空戦車?」 後期型【前編】
の続きです

147 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:29:54.12 9R9XbWYA0 141/281




【とあるカフェ】


ヴェニフーキ「先ほどぶりです。アールグレイ様」

アールグレイ「…ええ。服や持ち物は綺麗かしら?」

ヴェニフーキ「お出かけ前にしっかりチェックしました」

アールグレイ「そう。なら問題ないわね。…"絹代さん"」

西 / ヴェニフーキ「…」

アールグレイ「…」


西「…まだ、終わってないんですよね?」

アールグレイ「…ええ」



またここに来た。

ダージリンが強制退学されたと知り、アールグレイさんに相談し、そこから始まった悲しい思い出の喫茶店。

そして次に、内通者が誰かを特定するという名目で盗聴器や探知機を授かったのが二回目。


そして三度目となる今回は………。


昼間は学生や社会人が行き交う街中にあるお洒落な喫茶店も夜になれば閑古鳥が鳴いて不気味だ

雪はますます強くなって吹雪に変わっていく…。


148 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:32:40.41 9R9XbWYA0 142/281



アールグレイ「…あなたも随分と勘が鋭くなったわね。むしろ鋭くなり過ぎて少し厄介に思える」

西「皮肉な話ですよね。あんなことを続けていたせいで、見たくないものまで見えるようになってしまうのですから」

アールグレイ「…本題に入りましょう」

西「…」



アールグレイ「あなたの言う通り、"まだ終わってない"」




…でしょうな。

一件が終わってからアールグレイさんは何かを隠そうとしていた。そしてアールグレイさんらしからぬ不自然な振る舞いから読み取ることができた。


繰り返しになるけど、ダージリンを強制退学させるほどの"豪腕"が安々と現場に訪れるはずがない。

ましてやそれで御用になるなんて論外だ。そんな間抜けなはずがない。

もっと言えば聖グロ内にはペコという"内通者"がいた。わざわざ学園艦内に足を運ばずとも、彼女を顎で使えば良かった。

自ら手を汚しに行く理由はどこにもない…。


そういったことを鑑みるに、先ほど御用になったあの女は反・聖グロ派の中でも"下っ端"の可能性が高い。

主犯は別にいる。


149 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:34:17.94 9R9XbWYA0 143/281



アールグレイ「その通りよ。御用になったあの女性は末端も末端」

西「でしょうね」

アールグレイ「それどころか…」


アールグレイ「聖グロリアーナのOGですらない"赤の他人"よ」


西「なっ!?」

アールグレイ「おそらくは反体制派からお金で雇われた破落戸ね。警察の調べで多額の借金を抱えていたと供述したわ」

アールグレイ「けれども、犯行動機や誰に雇われたかについては黙秘」

西「………」

アールグレイ「付近にいたボディーガードも女とは無関係とのこと」

西「…そうですか」



聖グロやOGとは一切関係のない人物がカネ目当てに加担した事については驚きだが、自ら手を汚さず事を進める連中なら十分考えられる。

十分考えられるから、それについてはそこまで気にしていなかった。



私が気にしているのは…



150 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:37:52.36 9R9XbWYA0 144/281



西「何故、黙っていたんですか……?」


アールグレイ「…」

西「あのまま港で合流し、 "全部終わった。ご苦労様" と言わんばかりな態度でした」

西「…しかし、蓋を開けたら全部どころか薄皮を一枚剥いだだけに過ぎなかった」

アールグレイ「…」

西「………何故、隠していたんですか?」



アールグレイ「限界が来たからよ」



西「なッ!!」

アールグレイ「ここまでが、聖グロを知らないあなたに出来る"精一杯"なの」

西「そんなことはありません。また私が聖グロに潜り込めば…!」


アールグレイ「無駄よ」


西「何故ですかっ!!」

アールグレイ「考えてもみなさい。内通者を特定した、そして末端の反体制派を捕まえた」

アールグレイ「そんな状況で主犯がひょっこりと出て来ると思う?」

西「あっ…!」

アールグレイ「あなたが言ったように、相手は学園一の優等生を、真逆の不良生徒に仕立て上げ、OG会の賛同を獲得するほどの手練なのよ」

アールグレイ「この件でますます警戒心を強めることは確実よ」


アールグレイ「…予想外、だったわ」



151 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:39:58.44 9R9XbWYA0 145/281


西「で、では何故…私を聖グロ内部に送り込んだのですかッ………!」

アールグレイ「私も最初、内通者から芋づる式に反体制派の中枢まで引っ張り出せると考えていたわ」

アールグレイ「だけど…」

西「…?」



アールグレイ「甘かった………」



西「ぐ…が…ッ…!!」

アールグレイ「…やめなさい。ここはカフェよ。暴れたらあなたが逮捕されるわ」

西「ッ………」

アールグレイ「ここから先は私がやっていく。…どれくらいかかるかはわからないけど」

西「じゃぁダージリンはッ!!」

アールグレイ「…聖グロに戻れるかは分からないけど、幸いあの子は"西グロ"に在籍している」

アールグレイ「このまま留学から転校に変更すれば何とか高校は卒業出来るわ…」

西「っ………」


アールグレイ「それにね、あなたももう心身的に限界が来ているわ」

西「そんなことはない! 私はまだ…!」

アールグレイ「ええ。今はまだ元気よ。でも、この先はもう保証できない…」

西「っ!!」

アールグレイ「万が一、あなたの身に何かあったらそれこそ大問題よ」

アールグレイ「"聖グロへ短期留学したら廃人になった"…と」

西「………」


152 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:42:44.33 9R9XbWYA0 146/281



アールグレイ「だからここで、あなたの留学期間を満了とするわ。明日からは知波単学園に戻って普通に生活なさい」

西「………」

アールグレイ「あなたが不服なのはわかるわ。私だって同じですもの」

西「………」

アールグレイ「でも、これ以上被害を拡大しないために、あなたはもうこの問題には関与せず、元の学校で普通に生活を送って」

アールグレイ「…お願い。」


西「………」




虚しいお茶会は終わった。

私は叩きつけられた現実に打ちひしがれ、途方もなく彷徨った。


アールグレイさんから、『まだ終わってない』と言われることは予想できたから別に驚きはしなかった。

そしてそれをアールグレイさんが隠そうとしていたことも。

だって、犯人が別にいるなら同じように引きずり出せばいい。また聖グロに潜入して。

そう思っていたのに…帰ってきた言葉は…


…………"限界"。


内通者を特定して、反・聖グロ派の女を捕まえて万事解決と思いきや、それは奴らの『予防線』でしかなかった……。

そして、その『予防線』は奴らの警戒をより強めるものとなった。

今の今までやってきた事が、良かれと思ってやった事が、全部裏目に出た…。


ダージリンを復学させるために、私は何もかも捨てて戦ってきたのに

その戦いは逆に自分の首を絞める結果でしかなかった………。


私はまた失敗した


153 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:46:20.10 9R9XbWYA0 147/281



プルルルル プルルルル


「………」


プルルルル プルルルル


「…………」



何処かに行く宛もなく彷徨っていたらダージリンから電話が来た。

でも出られない。何をどう話せばいいのかわからない……。


私は失敗した。


ダージリンの為にって思ってやったことが全部ダージリンの首を絞めた。

私のせいでダージリンが強制退学させたことから始まって

私のせいで復学の可能性がゼロになって終わる。

ダージリンが聖グロに戻れないのに私が知波単に戻れるはずがない。


やがて電話は鳴り止んだ。

失敗した私を嘲るみたいにバチバチ当たる雪が痛い…。

このまま凍って二度と動かなくなってしまえば良いのに。

そうすればもう苦しまなくて済む………。



154 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:47:14.51 9R9XbWYA0 148/281




「絹代さん!」



電話の次は………



西「っ…!」

「…大丈夫ですよ。私です」

西「ノンナさん…」

ノンナ「お久しぶりです。絹代さん」

西「…」



― まぁいいわ。…そうそう

― ん?

― 聖グロへ向かう途中、プラウダ高校の学園艦を見つけたわよ

― プラウダ高校?



155 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:52:47.58 9R9XbWYA0 149/281



ノンナ「同志より、港に警察が殺到しているとの情報を入手しました」

ノンナ「そして、警察が向かう先にあるのが、聖グロリアーナ女学院の学園艦と…」

西「…」

ノンナ「もしや、と思いまして」

西「…そうですか。……今日も、カチューシャさんはいないんですね……」

ノンナ「ええ。他の同志は学園艦整備の指揮をしております。今後しばらく吹雪くとのことですから」

西「…確かに。前が見えないくらい吹雪いていますね。…こんな日に外を出歩く人は頭がどうかしてますよね……あはははは…」

ノンナ「プラウダではよくある光景です」

西「………」



何だよ…。

誰にも会いたくない時に限って誰かとばったり出会ってしまう。



西「…で、どういったご用件で?」

ノンナ「えっ…」

西「偶然にしては不自然な気がするんです」

ノンナ「どういうことでしょう?」

西「私の中では…あなたとカチューシャさんは "一心同体" と言っても良いほど親密な関係であると認識しております」

西「それだけに、彼女の元から離れて何かをするというのは不自然です」

ノンナ「…」

西「…」


ノンナ「あの時と同じです。"少し、あなたとお話がしたいと思いまして"」

西「奇遇ですね。私もあの時と同じです。"申し訳ありません。今は一人で居たい"」

ノンナ「…」

西「…私と何を話したいと仰るのです?」

ノンナ「不埒なのは重々承知ですが、あなたが何故身分を偽っていたのか、と」


156 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:56:44.83 9R9XbWYA0 150/281



西「…言ったはずですよね? 私の事は探らないでって………」

ノンナ「そうはいきません。聖グロリアーナ女学院は我が校とも交友関係にあります。あなたの目的によっては…」

西「でしたら私ではなく、聖グロの関係者にでも相談すれば良いのでは?」

ノンナ「それは…」

西「あなたの様な方が他人を個人情報を執拗に知ろうとするなんてどうかしていますよ…」

ノンナ「私も本当に、どうかしてしまったんだと思います……」


西「…」

ノンナ「今の今まで、カチューシャやプラウダの同志以外の人間に、これほど関心を持つことなどありませんでした」

西「…」

ノンナ「あなたが、聖グロリアーナ女学院に大勝利した時から、あなたから異変を感じるようになった」

西「…」

ノンナ「これも、"水飴"のせいでしょうか?」

西「"水飴"にそんな成分が含まれていては私達は入手出来ませんよ…」

ノンナ「ごもっともです。では…」

西「言ったはずです。私の事は


ノンナ「ダージリンさん、ですよね?」



157 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 12:58:12.14 9R9XbWYA0 151/281



西「………」

ノンナ「あれから、あなたが何故この様な事になったのか、考えました」

西「…」

ノンナ「先の練習試合でお邪魔した時、存在するはずのダージリンさんが不在でした」

ノンナ「そして、存在するはずのない知波単学園の隊長、絹代さんがいた」

ノンナ「名前も姿も偽って」

西「あはは。偵察ですよ。他校がやってるような」

ノンナ「偵察をする人が何故、ダージリンさんが貶された時に本気で怒るのでしょう?」



― ダージリンもバカね。風邪なんか引くなんて。おヘソでも出して寝てたのかしら。あっははははっ!

― ………何?


確かに、あの時はカチューシャさんに対し激昂した。

あろうことか、彼女とダージリンを葬った連中が重なって見えたから……。


158 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:02:26.43 9R9XbWYA0 152/281



西「そう演じないと、身内でないという事がバレてしまうからですよね?」

ノンナ「あなたの怒りは演技などではありませんでした」

西「…」

ノンナ「私にも幾つか心当たりがあります。それは本当に大切な人を罵られた時の怒りに似ている…」

西「そうですか」

ノンナ「そして、それが"核心"だろうと結論づけました」


西「きっと心得違いですよ」

ノンナ「確かに、これだけでは根拠に乏しいです」

西「もっと決定的なものがあれば話は別ですがね」

ノンナ「その決定的というのが、あの時私の前に立ちはだかったあの女です」


西「…あの女? 誰でしょう?」

ノンナ「彼女、"OG"って名乗ってましたね?」

西「そうでしたっけ?」

ノンナ「聖グロとOGの切っても切れない関係は有名です」


西「…確かに、聖グロはOG会から資金援助を受けています」

西「それら援助の代わりに、学園艦の運営方針もOGからの制約を受ける」

西「これはノンナさんは勿論、阿呆な私ですら知っているのだから相当有名な話ですよね?」

ノンナ「ダージリンさんが居ないこと」

ノンナ「あなたが"ヴェニフーキ"と名乗り聖グロに潜入したこと」

ノンナ「そしてOG会。これらをつなぎ合わせれば…」


西「もう結構です」


ノンナ「…!」



もういいや………。



159 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:07:57.98 9R9XbWYA0 153/281





西「ノンナさんの、予想通りですよ。あはははははははは」




ノンナ「絹代さん…!?」

西「はい。ええ。OG会によって"消されました"よ。あはははは」

ノンナ「っ!!」

西「あなた方の言い方をすれば、"粛清された"…とでも言うべきですかね?」

ノンナ「いくら我々でもそこまで残酷なことはしません…!」

西「ですよね。私も相当残酷だと思います」

ノンナ「全くです…」

西「そして、そいつらによって」



西「私も一緒に壊された」



ノンナ「そんな…!」

西「あの時、ダージリンが消されたと知って、私もダージリンと同じように発狂した」

ノンナ「っ!」

西「そして一時期、薬が無いと生きていけない身体になった。あははははは」

ノンナ「だ、大丈夫なのですか…!?」

西「今だって記憶が蘇って頭がおかしくなりそうな時があります」

ノンナ「っ…」


西「以前から見ていた悪夢に加えて、OG会に身体を引き裂かれる夢まで見るようになってしまった。あはははははは」

ノンナ「以前から見た悪夢…?」

西「大学選手権の時に私がしくじって惨敗して大洗が廃校になる夢ですよ。あははは」

ノンナ「そんな事はあり得ません! あの時私達は勝ちました。その証拠に大洗女子は今も健在です…!」

西「そうですね。大洗女子は今も生きてます」

ノンナ「でしたら悩むことは…!」

西「…でも、私の中では大洗も私自身の戦車道も」







西「もう生きてはいないんですよ。あはははははは!」




160 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:09:16.48 9R9XbWYA0 154/281



ノンナ「なッ!!」

西「未だ悪夢を見続けるのがその証拠です。とうとう私の中では解決できなかった…」

ノンナ「それは所詮夢です。気にすることではありません」

西「あははははは。もうそっちは気にしてませんよ。気にしたって仕方ない」

ノンナ「では…」

西「私の戦車道は…私は」


西「ヴェニフーキと名乗った時に死にました」


ノンナ「っ!!」

西「…もう、誰かが傷つく姿なんて見たくない」

西「私も傷付きたくない」

西「だから、」


西「私はもう死んだことにして、存在しなかったことにしたいんです」


161 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:11:52.02 9R9XbWYA0 155/281



ノンナ「ま、待って下さい! 早まらないで!!」

西「…私は腰抜けだから何もできやしない。何一つ実らない」

西「消えてしまいたいのに、消えるのが怖い……あははは…あはははははは…」

ノンナ「…でしたら」


ノンナ「私が、あなたの力になります」


西「…はい?」

ノンナ「…あなたは一人にしておくと碌なことにならないようです」

西「…」

ノンナ「ですから、私もあなたのサポートを」

西「…結構です」

ノンナ「нет!」

西「…」


ノンナ「目の前で溺れている人がいて、それに見向きもせず過ぎ去ろうとする」

ノンナ「それはあなたの言う"邪道"ですよね?」

西「溺れている人が邪道なら、私は見向きもせず、溺れて死んでしまえと念じます」

ノンナ「嘘です。優しいあなたがその様なことをするはずがありません」

西「どうしてそう言い切れるのです?」

ノンナ「私の本能がそう語りかけるのです」

西「本能ってあまり宛になりませんよ?」

ノンナ「とにかく私は」


西「あなたにはカチューシャさんがいらっしゃる」

ノンナ「っ…!」

西「私などに感けている暇など無いはず」

ノンナ「…」

西「本当に大切な人のために」


ノンナ「あなたも大切な人です」



162 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:15:37.32 9R9XbWYA0 156/281



西「………」


ノンナ「カチューシャは大切な同志です。それは未来永劫変わることはありません」

ノンナ「…ですが、あなたもまた同志、いや、それ以上の存在になりつつあります」

西「お友達は選んだ方が良いですよ?」

西「それに、どうひっくり返ったって私がカチューシャさんより上であるはずがない」

ノンナ「いえ…もしかしたら、あなたは私にとって…」



ノンナ「初めての人かもしれません」



西「………は?」

ノンナ「私と対等に接し、そして私を理解してくれる初めての人…」

西「意味がわかりません」

ノンナ「初めてです…。私がカチューシャではなく、プラウダ以外の人間にこんな形で関心をもつなんて」

西「それはどうも。…ですが私にはもう」

ノンナ「知ってますよ。ダージリンさんですね?」

西「…」

ノンナ「だから、"любовник"ではなく"близкий друг"です」

西「…」

ノンナ「………」

西「………」




西「…私が言うのも何ですが、抱えすぎは体に毒ですよ?」


163 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:20:37.51 9R9XbWYA0 157/281


ノンナ「!!」

西「………」

ノンナ「…やはり、あなたは…」

西「ダージリン以外の人を深く知りたいとは思わないですけど…」

ノンナ「…」

西「傷つけたり傷つくことを何よりも恐れるが故に、色んな物を溜め込んでしまう人なんだなぁ…と」



それは今の私も同じだよね。

正体がバレるのが怖いから無口で表情を変えないようにしている。

私に関わった人が悲しんだり傷ついたりするのが怖いから関係を持たないようにしている。

品は違えどノンナさんが言う"理解者"ってのはこの事を意味するのかもしれない。



ノンナ「…」

西「…皮肉ですよね。色んな人と良好な関係を築きたいと思っていた頃は、相手の事なぞこれっぽっちも理解出来ませんでした」

西「あの頃はよく怒られました。"少しは人の話を聞け"って…」

西「誰とも関わりたくないと思うようになってから、相手の本質を理解出来るようになってきた」

ノンナ「………」

西「以前の私でしたらまずこの様なことは感付けなかったようなことも…」

西「こういう薄汚い真似をしているから、疑心暗鬼に溺れるからこそ気付けた」

西「知らなかったことも知るようになったし、見たくないものも見えるようになった………」

ノンナ「………………」




ノンナ「……そう…ですか………」



164 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:22:55.32 9R9XbWYA0 158/281



西「…何も泣かなくても」

ノンナ「……私は…やっと"理解者"に出会えた………」

西「カチューシャさんが理解者なのでは?」

ノンナ「…こんな私なんて…カチューシャに知られたら………」

西「………」



確かに。ノンナさんが"折れる"姿なんて誰も想像出来ないだろう。

カチューシャさんとて"頼れる同志"としてのノンナさんを誰よりも信頼している。

だから己の本心が露わになることを何よりも恐れたんだろう…。

ノンナさんは口数は少ないし、表情の変化も乏しい。表情や言動から何かを判断するのが難しい。

だけど、そのせいで彼女は誰も知らないうちにどんどん傷を溜め込んでいる。

だから…


ずっと、探していたんだろうなぁ。

本当に自分を理解してくれる人を…。


そして"その人"に私が選ばれたんだ…。

本心がむき出しになることを恐れ、誰かを傷つけ誰かに傷つけられることを恐れる同じ動物として…。



165 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:25:15.78 9R9XbWYA0 159/281



西「…大丈夫ですよ」


ノンナ「えっ……?」

西「仮に、カチューシャさんがあなたの本心を目の当たりにしたとして」

西「その程度で落胆するような方じゃないですよ」

ノンナ「…!」

西「言動は見た目こそ小さな女の子のように見えますが、カチューシャさんは見るものはしっかり見ておられる」

西「そうでなければ黒森峰を打ち負かす強豪校の"最高指揮官"にはなれないでしょうし」

西「だからこそ、あなたはカチューシャさんの片腕を務めておられるわけですよね」

ノンナ「ええ………」



…ん?

じゃぁ何故、ノンナさんは…?


二人は家族とも恋人とも言えるくらいものすごく親密。

ノンナさんと、カチューシャさん

逸見さんと、西住まほさん



私とダージリン……………



………そっか…。




166 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:28:17.73 9R9XbWYA0 160/281



西「もうすぐ、卒業か……」


ノンナ「…はい」

ノンナ「だから、もうすぐ…」



ノンナ「……お別れです………」




………既視感?

おかしいな。ノンナさんの話を聞くのは初めてなのに、何処かでこんな感覚にぶち当たった気がする…。

何か、前にも…………



― …私は………あなたのように……王者にはなれない……私では…………

― ………何も無い………

― …私は………ここまでです…………




そうか…あいつだ。逸見さんの時と同じだ。

硬い硬い殻に包まれた彼女の柔らかい"本心"がむき出しになったあの時と。

外観からは想像もできないほど柔らかい本心を目の当たりにしたあの瞬間だ…。


ノンナさんも今、熱に耐えられず溶け出した氷の中にある本心がむき出しになっているんだ……


気付かなかった。

少女のように無邪気なカチューシャさんと、彼女の身辺を世話するノンナさんという構図故に、心得違いをしていた。


カチューシャさんがノンナさんに依存してるんじゃない

ノンナさんがカチューシャさんに依存しているんだ………。


ブリザードのノンナなどという、誰が付けたか分からない二つ名のせいで皆誤解しているけれど、本当に支えが必要なのはノンナさんの方なんだ…。


167 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:33:17.26 9R9XbWYA0 161/281



西「………」

ノンナ「…ふふっ……また、一人ぼっちですね………」

西「っ………」



はぁ…駄目だ…。

なんだって何もしたくない時に限って前に私と同じような人間ばかり現れるんだ。

なんで崩れて壊れる寸前の状態で私の前に出てくるんだ。

どうして私が一番見たくない姿になって私に関わろうとするんだ…………。



西「…ノンナさん」

ノンナ「………はい」

西「…その、私で良ければ…」

ノンナ「…えっ?」

西「誰だって一人ぼっちは寂しいですから」

西「私なんかで良ければ、友人になりますよ」

ノンナ「…」



…突発的とはいえ我ながら上から物を言うものだと自分でも呆れる。

仮にも相手は年上のノンナさんなのに。

"友達になてやっても良いぞ"などと言われ"はい喜んで!"と受け入れる者が何処にいるというんだ。


168 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:34:31.58 9R9XbWYA0 162/281



ノンナ「よ、喜んで…!!」

西「あ、ありがとうございます…?」



………ここにいた。

先ほどとは打って変わってすごく嬉しそうな顔をなさる。

まるで台風が過ぎ去ったあとの雲一つない晴れの日のように…。


実際の天気は猛吹雪だというのに。

…ん? ノンナさんはブリザードの異名を持つから"元気になるほど吹雪く"で合ってるのか???


ええい。もうなんでもいいわそんなこと。


169 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:38:41.54 9R9XbWYA0 163/281



ノンナ「で、では…お時間がある時にメールをお送りしても良いですか…?」

西「ええ。構いません」

ノンナ「動物やお料理の写真を送っても大丈夫でしょうか…!?」

西「空腹時でなければ大丈夫ですよ?」

ノンナ「あ、あの…"でこめ" というのもやってみたいのですが…!」

西「ど、どうぞ…?」

ノンナ「!」パァァァァ

西「…」

ノンナ「Это лучший день! Я рад, что был жив.....!!!」

西「あははは…」



なんか知らんが、物凄く嬉しそうだ。

ノンナさんがどれだけ不安を溜め込んでいたのかは知らないけれど、積年の不満も第三者の何気ない一言で簡単にふっ飛ばすことが出来るものなんだね…。

本当に数分前までの絶望的な表情とは裏腹に幸福感に満ちた顔をしておられる。

長い冬が終わり春が来たみたいに。ブリザードのノンナ改め、桜吹雪のノンナと改名してもいいほど。


…しかし、デコレーションメールとはまた渋い選択だ。使い方なんか知らんぞ。


170 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:43:08.12 9R9XbWYA0 164/281


「госпожа Нонна!」


ノンナ「…クラーラ? 学園艦の整備は終わったのですか?」

クラーラ「да. Катюша ждет. говорит, что она голодна.」

ノンナ「わかりました。戻りましょう」

西「…」

ノンナ「あの、絹代さん…」

西「はい」

ノンナ「本当に、ありがとうございました」

西「いえ。ノンナさんの憂鬱が解消されたようで感慨無量です」

ノンナ「メール、お送りしますね?」

西「ええ」

ノンナ「それでは、またお会いしましょう」ニコッ


クラーラ「поторопись!!」

ノンナ「шумно!! убью тебя!!」





そういってプラウダの学園艦に帰っていくノンナさんを見送った。

迎えに来た外国人に詰問されながら少しずつ小さくなっていく影をじっと見つめる。



― …ふふ……また、一人ぼっちです…



…うそつき。

ちゃんと"同志"がいるじゃないか。

帰る場所があるじゃないか。


私なんてもう何処にも帰る場所なんて無いのに…。


171 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:46:08.51 9R9XbWYA0 165/281



プルルルル プルルルル



西「カチューシャ…さん……?」


ピッ



西「…はい」

カチューシャ『もしもし! ヴェニーシャ?!』

西「…。…お久しぶりです。カチューシャさん」

カチューシャ『ええ! そんなことよりノンナを見かけなかったかしら?!』

西「ノンナさん…?」

カチューシャ『ちょっと出かけるって言ったきり戻ってこないのよ…!!』

西「…」



…なるほど。ノンナさんがなかなか帰ってこないから気を揉んでおられたのか。

実際お会いした時はこの世の終わりのような顔をしておられたから、それこそ世を儚んで…ってことも容易に想像出来る。



172 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:47:40.17 9R9XbWYA0 166/281



西「ノンナさんでしたら、先ほどお会いしましたよ」

カチューシャ『ふぇ? そ、そうなのっ?!』

西「ええ。偶然だったので驚きました」

カチューシャ『じゃ、じゃあノンナは…!?』

西「先ほど、プラウダ高校の制服を着た外国人の方と一緒に帰られましたよ」

カチューシャ『本当なのヴェニーシャ?!』

西「ええ。じき、戻られるでしょう」

カチューシャ『…ノンナ、落ち込んでなかった?』

西「…お会いした時は元気がありませんでしたが、お話をするうちに見る見る元気になりましたよ」

カチューシャ『! それ聞いて安心したわ。あー見えてノンナはナイーブなんだから…』



…やっぱり。

カチューシャさんもちゃんとノンナさんのこと理解して下さってるじゃないか。


173 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:50:22.12 9R9XbWYA0 167/281


西「ときに、ノンナさんとは仲良くしておられるのですか?」

カチューシャ『ええ。そこそこにやってるわよ?』

西「そこそこ…?」

カチューシャ『ええ。何か問題かしら?』

西「…」

カチューシャ『…どうしたのよ? ハッキリ言ってちょうだい』

西「いえ…変な言い方に、なるかもしれませんが…」

カチューシャ『構わないわよ。言ってごらんなさい』

西「私の中では、カチューシャさんとノンナさんは二人で一つというのが常識でした」

カチューシャ『…』

西「だから、ノンナさんのいないカチューシャさん、カチューシャさんのいないノンナさんに物凄く違和感を抱いてしまうのです」

カチューシャ『………』



174 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:52:08.81 9R9XbWYA0 168/281


カチューシャ『…確かに、ね』

西「…?」

カチューシャ『私はノンナと知り合ってからずーっと一緒だったわ』

カチューシャ『…だからきっと、ヴェニーシャみたいな考えは他の人も持ってるはずよ』

西「…」

カチューシャ『…でもね、このままだとダメだって思ったのよ』

西「えっ…?」

カチューシャ『私がこのままノンナにワガママを言い続けてノンナに依存しちゃったら』



カチューシャ『ノンナの人生を台無しにしちゃうもの』



西「!!」

カチューシャ『…だから、私はノンナと』

西『ち、違います…!!』

カチューシャ『な、何が違うのよ?!』

西「違うんです………!!!」

カチューシャ『だから何が違うのヴェニーシャ!!』



畜生………言えるわけ無いだろうこんなこと……。

カチューシャさんですら気付かないノンナさんの心の奥底に眠る本当の気持ちを…。

私なんかが言えるわけがない………


誰にも言うことが出来なかった

誰よりも愛する人にすら伝えられず気付かれないものを

私なんかが言えるわけ無い………。


言ったら今度こそノンナさんが壊れちまう…



「~~から聞いたわよ」じゃ駄目なんだ…

何十にも重なった装甲こじ開けて見つけないと駄目なんだよ………



175 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 13:54:28.38 9R9XbWYA0 169/281



西「っぐぅぅぅぅ………!!!」


カチューシャ『ち、ちょっと! 急にどうしたのよキヌーシャ!?』

西「お願いです……カチューシャさん…!!」

カチューシャ『な、何をどうお願いされればいいのよっ?!』


西「………ノンナさんを…………お願いします………」


カチューシャ『………………わかったわ』

西「…えっ……?」

カチューシャ『…前に言ったけれど、あなたとノンナって似てるところがあるじゃない?』

西「……どうでしょう…私にはわかりません…」

カチューシャ『似てるわよ。そんなあなたが言うのだから、きっとノンナも悩んでいるに違いないわ』

西「…!」


カチューシャ『ねぇ、ヴェニーシャ…』

西「はい…」


カチューシャ『私は、まだ…ノンナと一緒にいてもいいの?』


西「もちろんです………!!」

カチューシャ『わかったわ』

西「!!!」



176 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:07:55.90 9R9XbWYA0 170/281



カチューシャ『…それと、ヴェニーシャ、あなたも無理しちゃダメよ?』

西「私は…」

カチューシャ『このカチューシャ様にウソをつくつもりかしら? あなたがヘトヘトだなんてのは電話越しでもわかるんだからねっ!』

西「う…」

カチューシャ『何に困ってるのかわからないけど、自分でどうにもならない事なら誰かを頼りなさい』

西「誰か…?」

カチューシャ『そうね…あなたの場合、大人にでも頼ってみたたらどうかしら?』


西「大人…?」

カチューシャ『ええ。あなたが悩むほどなんだから、そんじょそこらの人じゃ解決できないような事でしょ?』

西「…そうかもしれません」

カチューシャ『そうに決まってるわよ! いーい? ガマンは身体に毒なんだから! あなたも8時までには布団に入って休みなさい!』

西「わかりました」

カチューシャ『わかれば良いのよ。また何かあったらこのカチューシャ様に相談なさい!』

西「はい。ありがとうございます」

カチューシャ『それじゃぁね。ヴェニーシャ…』





カチューシャ『いいえ、キヌーシャ』



177 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:12:55.47 9R9XbWYA0 171/281


西「えっ…!」

カチューシャ『言ったでしょう? カチューシャにはお見通しなんだから! あなたが西絹代であることもね!』

西「な、何故…?!」

カチューシャ『何度も言ったじゃない。あなたとノンナって似てるところがあるって』

西「で、ですが…」

カチューシャ『ノンナのことは誰よりも知ってるつもりよ? だからノンナにソックリなあなたの事が私にわからないわけ無いでしょ!』

西「!」

カチューシャ『…まぁ、何であんなことやってたのかは知らないけど』

西「…さ……さすがです…」

カチューシャ『…私はね、それだけノンナのことを見ているのよ』

西「ええ…」

カチューシャ『そういうことよ。じゃぁね。ピロシキ~』



…凄い。

いくら私とノンナさんの言動に何処かしらに似通ったものがあったとして、そこから私の正体まで読み取るなんて無理だ。

何故ならアッサムさんもGI6も、"私と似てる"と言うノンナさんですら最初は私が西絹代だなんて知らなかったのに…。

ノンナさんの本心が理解できた私でもそんなこと出来る自信がない。

本当に、家族のように常に一緒にいた人でないと見つけることが出来ない何かをカチューシャさんは見つめていたのかもしれない…。

なんだかちょっと悔しい。



そんな、戦車道仲間で"唯一"私の正体を見破ったカチューシャさんが、私に『大人に相談しろ』と言うのだ。

なーんだそんなことか。と一蹴するには早計だ。




だけど…頼れる大人なんて私には…………。






178 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:13:36.74 9R9XbWYA0 172/281





………ああ、いたか。






179 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:15:02.62 9R9XbWYA0 173/281





【数日後 とあるお座敷】



西「お忙しい中、お集まり頂き感謝致します」

「………」

「あなたの方からお誘いがあるからちょっと驚いたけど、説明して下さるかしら?」

西「…何からお話致しましょうか? 家元様」


千代「聞きたいことは山ほどあるわね。…突然、私を呼び出したこと。隣に西住流の家元さんがいらっしゃること」

千代「あなたの姿形が豹変したこと。何が原因でそんなに冷たい目をしてしまったか。ということ」

しほ「…」



入院中に貰った連絡先から西住流、島田流の家元様を呼び寄せた。

まさかこんな形でお二人と再会するとは思わなかった。

あの時は両家元の威圧感に怯えていたが、今はそんなことはどうでも良い。






180 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:16:33.48 9R9XbWYA0 174/281



西「西住様には先日、お話をさせて頂いたのですが…」

千代「あら。私は仲間はずれ? 寂しいわねぇ?」

しほ「茶々を入れるな」

西「申し訳ありません。…それで、話というのは」



私は、以前西住様に話した内容を島田様にも話した。




西「………以上です」

千代「あなた、なかなか面白いことを企んでいたのね?」

しほ「…それで、我々をここに呼んだという事は、もはや自分の手には負えないと判断したからということ?」

西「ええ。正直な話」



181 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:17:11.10 9R9XbWYA0 175/281













西「正直な話、聖グロリアーナ女学院のOGを一人残さずぶち殺したい気持ちで一杯です」









182 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:24:33.39 9R9XbWYA0 176/281



しほ「っ!」

千代「あらあら怖い」フフッ

西「あはははは…」


しほ「やめなさい! いくら何でも度を超えているっ!!」


千代「…!」

西「………」

千代「…あなた、一体を…?」

西「これまでも嫌なこと、辛いことは何度か体験しました。…しかし…」



西「大真面目に人を"殺したい"とまで至ったのはこれが初めてです…」



しほ「…ッ!」

千代「…」

西「………最善と思わしき策は全て出し尽くした。にも関わらず私は失敗した」

西「私の憎んだ連中はまた闇の中に消えていった」


西「…だったら、OGと呼ぶべきOGすべて一人残らず片っ端から消し去ってしまえばいい………」


西「この件に関わっているOGは勿論、この件について黙認している奴、見て見ぬ振りを通す奴も皆同罪だ………」


しほ「落ち着きなさい! そんなことが許されると思っているの?!」

千代「…」

西「…ただ、それを防ぎたいから、他に良い方法がないか、こうやって家元様に相談をした次第です」

しほ「…」

西「…けれど、無いというのなら………もう仕方ない………」

西「屑は屑が責任を持って処刑する…それだけのことです」


183 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:27:52.65 9R9XbWYA0 177/281



しほ「…あなたは、自ら邪道になろうって言うの?」

西「私はもうずっと前から邪道ですよ…それ以外であったことなどありません」

しほ「馬鹿をおっしゃい!」

千代「…」

西「誰よりも邪道を嫌う西住様なら、人がどんな時に邪道になるかは、おわかり頂けるかと思います」

しほ「…もう一度、説明しなさい」

西「いくらでも致しましょう」




引き続き、両家元様にあれからの事を話した。

一年生のオレンジペコがOG会に弱みを握られ、"内通者"とならざるを得なかったこと。

もしも約束を反故すれば、彼女の家庭が崩壊するということ。

そして、裏切り者の女がやってきて、捕縛することに成功したが、そいつは捨て駒で、主犯は別にいるということ。


私はここまでということ…。


184 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:30:18.59 9R9XbWYA0 178/281



しほ千代「…………」


西「大人って、本当に汚いですよね? 気に食わなければ権力だの金だのを使ってその人を潰す」

西「そして抵抗手段を持たない者の弱みを握り、その邪道の片棒を握らせる」

しほ「…」

西「本当に、超一流の邪道ですよね。一回りして尊敬に値するほどですよ。あはははははは」

千代「まるで、私達は"共犯者"だと言わんばかりね?」

西「お二人はそうでないと私は信じています」

千代「だけど、あなたの目、"お前も同類だろう"と言ってるわよ?」

西「もしそうだとしたら、視線ではなく、"別のものを"刺してたかもしれません」

千代「あら怖い」


185 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:33:39.27 9R9XbWYA0 179/281



西「…連中は私の大切な人を葬った」

西「私が可愛がった後輩まで利用した」

西「これが、かつて同じ学校に所属した"先輩"が、後輩たちにすべき行為なのでしょうかね?」

しほ千代「…」

西「私は、真の邪道を目の当たりにしました」

西「そして、その邪道には王道は通用しない…」

西「だから、邪道には邪道で対処すべきと」

西「ダージリンを守れるのなら…………仲間がまっとうな道を歩めるのならば………」





西「私はもう邪道で構わないッ!!!」





傷つくのが怖かった。

傷つけるのが怖かった。

でも、私の知らないところで私のせいで誰かが傷つく。

そして誰かが奈落の底に落ちていく。

どう足掻いたってそれだけは変えられない。

だったら、私が邪道と呼ぶ邪道を片っ端から潰していけばいい。

同じ邪道として。

たった、それだけのことだ。



186 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:36:02.16 9R9XbWYA0 180/281





しほ「………わかったわ」


西「…」

千代「そんな話だろうと思ったから、"お客様"をお呼びしておいた」

西「………お客さん?」

しほ「ええ」


千代「約束なさい」


西「…約束?」

千代「いかなる理由であれ、"お客様には牙を剥かない"と」

西「…?」

千代「聞こえた?」

西「…一体、誰なんです?」






千代「OG会よ」


187 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:40:17.33 9R9XbWYA0 181/281



西「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」





しほ「待ちなさい!!」

西「!! …は、離せっ!!!」

しほ「わからないの?! これまでのやり取りを経てここにOGを呼ぶという理由が!」

西「ぐっ………!」

千代「そうよ。お話は最後まで聞きなさい。学校で教わらなかったのかしら?」

西「なんで………あんたまで……!!」


千代「あなたが憎んでいるのはOG会の"裏切り者"でしょう?」

西「っ…!!」

しほ「OG会とはいえ、その方々はあなたが考えるような邪道ではない」

しほ「私や島田流も大変世話になった人たち。いわば…"恩師"よ」

西「…恩師………?」

千代「誓うわ。この方達はあなたの敵ではないと」

西「…」


千代「だから、あなたも誓いなさいな。無礼な真似はしないと」

西「………」

千代「聞こえたかしら?」

西「………わかりました」

千代「そう。………お待たせ致しました。どうぞお入りください」



188 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:46:53.80 9R9XbWYA0 182/281





襖が開き、三名の和服姿の女性たちが座敷へ入ってきた。

いずれも、古稀は超えているであろう年配の女性だ。

OG会に対して私がイメージしていた、"お嬢様"や"玉の輿"といったものとは程遠く、老いてなお家元様たちのような鋭い目を残す人たちだった…。

その方たちが入ると同時に家元様たちは深々と一礼をする。

合わせて私も形だけの一礼をしてやった。




189 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:49:38.15 9R9XbWYA0 183/281



しほ「お久しぶりです」

「大きくなったね。家元さんはまだ元気でやっているかい?」

しほ「ええ。母は今も元気です。先日、西住流の次期家元として襲名を致しました」

「そう。もうそんな年になったのだね」

しほ「これも偏に先生方のご指導ご鞭撻の賜物です。厚く御礼申し上げます」


「…それで、そちらのお嬢さんは?」

しほ「ご紹介が遅れました。知波単学園の隊長を務める、西です」

西「…西絹代と申します。本日はお忙しい中、お越し頂き誠に有難うございます」

「そうかい。あなたがあの西さんねぇ…」

「貴女の噂は私達にも届いているよ。他校ながら大変立派な方だと」

西「とんでもございません。姿を偽りあなた方の母校へ潜り込んだ破落戸です」

「ご謙遜を。話は聞かせてもらったよ」

西「恐縮です。…」

しほ「紹介します。左から、」



しほ「マチルダ会、クルセイダー会、チャーチル会、会長です」



西「なッ!!?」

千代「…ふふ」




190 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:52:35.31 9R9XbWYA0 184/281



マチルダ会「驚いたかね?」

西「ええ…。OG会の方がいらっしゃるとはお聞きましたが、まさか会長が来て下さるとは…」

チャーチル会「なにせ教え子が来いと煩いものだからね」

千代「無理を言って申し訳ありません。"教え子"の頼みでして」

西「う………」

チャーチル会「我々の母校の危機と来たものだからね」

千代「恐縮です」


マチルダ会「にしても他校の生徒が聖グロリアーナの生徒に扮して活動をするとはね…」

西「こ、これら一連の行動は聖グロリアーナは一切関係なく、私個人の行動です…!」

西「ですので、全ての責任は…」

マチルダ会「…そうかい」

西「…」




マチルダ会「…ありがとうね」


191 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:54:28.27 9R9XbWYA0 185/281




西「えっ…………?」

マチルダ会「いいや、"申し訳なかった"と言うべきか…」

マチルダ会「他校の生徒であるにも関わらず、聖グロリアーナの為に、心身を擦り減らす事をさせてしまって」

西「…」

チャーチル会「本来ならば、我々がすべきことなのに、申し訳ないね」

西「…」

クルセイダー会「心からお詫びをするよ」



会長たちは言い終わると、私に頭を下げた。

聖グロの生徒たちが畏敬の念を払うOG会の会長たちが他校である私なんかに…

私はそれに対し、どう返答すればいいか迷った…。



西「ど、どうか…頭を上げてください…!」

西「若輩者の私の考えに共感頂けるのであれば…私が皆様に何をお願いしたいかもお分かり頂けることと存じます……」

西「ダージリンさんの復学、生徒へ脅迫するOGの処分、そして…」




マチルダ会「それは出来ない」


192 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:57:07.82 9R9XbWYA0 186/281



西「な、何故ですッ!?」


マチルダ会「旧隊長の更迭は、OG会の満場一致によるもの」

マチルダ会「一度決定したものを覆す行為は、学園および会への不満と混乱を招く」

西「…」

チャーチル会「彼女のやってきた行為は、我々の流儀に反するもの」

チャーチル会「その結果、会の人間の反感を買った」

チャーチル会「己を律せず、責任から目を背けた者への当然の報い」

西「………その、行為とは?」

クルセイダー会「反社会的な人物との接触」

クルセイダー会「および、成績不振による、聖グロリアーナの社会的地位の喪失」


西「…その反社会的な人物の名前は?」

クルセイダー会「その者の名前は聞いていないが、相当な荒くれ者だと聞く」

西「………。では、その判断を固めたのはいつ頃でしょう?」

チャーチル会「あなたがた知波単学園との試合が終わって一週間ほどが経過した頃でしょう」

西「そうですか…」

西「ダージリンさんが接触した反社会的な人物というのは、私、西絹代でございます」


三会派「…」


193 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 14:59:17.96 9R9XbWYA0 187/281



チャーチル会「…それはどういうことかね?」

西「ダージリンさんは、私の敢闘を讃えて下さり、私が試合で負傷し入院した後も献身的に私を支えて下さった…」

西「いえ、私が入院する以前より、ダージリンさんは私に多くのことを教えて下さった!」

チャーチル会「…」

西「また、私が入院している間、OGの方がいらっしゃって仰りました」



― クルセイダー会はあなたを聖グロの"脅威"と言い

― また、チャーチル会は聖グロの"好敵手"と言い

― そしてマチルダ会は"騎士道精神に則り西絹代の思想を戦車道に取り組むべき"なんて言い出す程



西「如何なる理由かは存じませぬが、OG会の皆様は私をこの様に高く評価して下さっているとのことです…」

西「しかし、これら身分不相応な評価は、ダージリンさんがいなければ、まず起き得なかったものです」

西「つまり、私だけでなく、ダージリンさんの評価でもあります。いえ、ダージリンさんの評価そのものです…!!!!」

三会派「…」




マチルダ会「………そうかい。あの子がね………」




194 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:00:29.68 9R9XbWYA0 188/281


西「!」

マチルダ会「どうやら、もう一度、あの子と話をしないといけないみたいです」

西「!!! …で、でしたら、ここにお呼びしましょうか? そのOGの方と一緒に!」

マチルダ会「出来るのかい?」

西「誤解を解消出来るのなら喜んでお呼びしましょう!」



一旦席を外し、ダージリンとアールグレイさんに電話をかけ、今すぐ来るようにと伝えた。

案の定ふたりとも「すぐには無理だ」と即答する。各々スケジュールがあるのだろう。

しかし、「OG会の会長と話をしている」と言ったら血相を変えて「すぐに行く!!」と言った。


…聖グロにとってOG会の会長というのはそれほどまで凄い存在なのか。


195 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:02:46.26 9R9XbWYA0 189/281




【店の外】



一体どこで何をしていたのか知らないが、30分足らずで二人は飛んで来た。

ダージリンはアールグレイさんに同行する形で合流したらしい。

そして、ふたりとも露骨に顔に焦りが出ている。

ダージリンはともかく、あのアールグレイさんがこんなに焦るなんて…。




西「お待ちしておりました」

アールグレイ「……電話の話は本当なんでしょうね? 嘘だったら許さないわよ?」

西「OG会・会長の皆様を前に嘘などつけないですよ」

アールグレイ「み、皆様って…?!」

西「マチルダ会、クルセイダー会、チャーチル会のそれぞれの会長様ですよ?」

アールグレイ「なんですって!?」

ダージリン「あ、あなた…一体何をしでかしたの…!?」

西「とにかく、お待たせしているので、続きは中で」

アールグレイ「い、胃が痛くなってきたわ…」

ダージリン「私もですの…あぁ…こんな事になるなんて………」



アールグレイさんもダージリンも相当おろおろしている。




~~~



196 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:05:30.35 9R9XbWYA0 190/281



西「大変お待たせ致しました」フカブカ

アールグレイ「お忙しい中、お時間頂き有難うございます。聖グロリアーナ女学院・先々代隊長のアールグレイこと-----と申します」

ダージリン「元・聖グロリアーナ女学院・隊長のダージリンこと-----です」



二人とも大ポカをやらかして取引先に謝罪する営業マンみたいにカチカチになって挨拶をなさっている。

まるで入院中にやってきた家元様たちに萎縮していた私のように。


…二人とも本名を名乗ったが聞き取れなかった。



マチルダ会「来て早々悪いけど、本題に入ります」

アールグレイダージリン「はい…!」

マチルダ会「先程、知波単学園の絹代さんよりお話を伺った」

マチルダ会「そして、我々OG会は考えを改める必要性が浮上した」

ダージリン「!!」

アールグレイ「それは…」

チャーチル会「我々OG会には、ダージリンは反社会的勢力との接触をした」

ダージリン「っ…!!」

チャーチル会「それに伴い、成績不振に陥り、聖グロリアーナの者として不適格だと」

チャーチル会「…そのような情報が流れ、明確な調査をすることなく退学という措置を取った」


197 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:08:35.53 9R9XbWYA0 191/281



ダージリン「………」


マチルダ会「…しかし、絹代さんよりお話をお伺いしたところ、どうやらそれは違うということです」

マチルダ会「故に、我々はもう一度、あなたに話を聞こうと思った」

ダージリン「釈明の機会を与えて下さったこと、心より感謝致します…!」



ダージリンはこれまで受けてきた仕打ちを涙混じりに説明した。

ありもしない風説をでっち上げられた挙句、それを根拠に強制退学させられたこと。

ダージリンが語るたびにあの日の光景が浮かび上がる。


隊長を降格された

それどころか退学させられた

いわれのない屈辱を受けた

頭の中が真っ白になった

怒りのあまり頭がおかしくなってしまった

そして………。


私は泣くのを必死に堪らえようとしたが、無駄だった。

ダージリンが涙を流せば私も流す。

ダージリンが語れば私もその状況を鮮明に思い出す。

俯いて歯を食いしばるのが精一杯だった。


198 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:11:11.42 9R9XbWYA0 192/281




ダージリン「………以上です」

三会派「………」



クルセイダー会「絹代さん、そして、アールグレイ」

アールグレイ「はい」

西「何でしょう…?」

クルセイダー会「今の話、事実ですか?」

アールグレイ「間違いありません」

西「…ダージリンさんの…仰る通りです……」

クルセイダー会「そうかい」

アールグレイ「…この件について、私の見識を述べても宜しいでしょうか?」

マチルダ会「どうぞ」


アールグレイ「今回の件、意図的に"学園の衰退"を目論む者の行動と当方は判断しました」

アールグレイ「組織規模までは特定出来ませんでしたが、OG会に潜む反体制派による、学院の内部崩壊を目的とした破壊工作が行われています」

チャーチル会「その子の退学が、工作とやらの一つと?」

アールグレイ「はい。現在の聖グロにおいて、最も優秀な生徒であるダージリンを追放することで、統制および秩序の崩壊を謀ったものと判断」

西「………」



199 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:14:52.69 9R9XbWYA0 193/281



チャーチル会「…それで、あなたは他校の生徒に"偽装"をさせて、それを調査するよう命じたと?」

アールグレイ「それは…」

西「私が自らの意志で、"ヴェニフーキ"と名乗り、生徒として調査を致しました」

西「確かに、アールグレイさんによる提案ですが、それに私は首を横に振ることも出来ました」

西「…ですが、私は今回の件について、"恩人"を最大級に侮辱する行為に対し、見て見ぬふりは出来ず、諸手を挙げて賛同、協力させて頂いた次第です」

三会派「…」

西「そして、私が"ヴェニフーキ"として掴んだ情報として、その反体制派と連絡を取り合う"内通者"および、その加担者と思われる人物の特定が出来ました」

ダージリン「!!」


マチルダ会「その生徒は?」

西「チャーチル歩兵戦車、つまり隊長車に乗る1年生です」

ダージリン「!! …うそ…どうしてペコが!! どうしてっ!!?」



そっか。まだダージリンには何も言ってなかったね…。


201 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:24:11.12 9R9XbWYA0 194/281



西「ただし!!」

ダージリン「ぅ…!」

西「彼女が内通者として、反・聖グロ派と共謀したのには事情があります」

西「それは、彼女が"裏切れば父親の会社を潰す"と脅迫されていたからです」

西「つまり、彼女は否応なしに反体制派に従わざるを得なかった」


ダージリン「絹代さん!! それ本当なの!? ペコは違うの!!?」

アールグレイ「落ち着きなさいダージリン!」

ダージリン「っ…!」

西「これは彼女の本意ではありません。家族を人質にされたがために、絶対服従を余儀なくされていました…」

西「他の生徒に疑われぬよう、平静を保ち続けることを強制され…」



西「誰かに悟られることなく、心で泣きながら生きてた…」





202 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:29:03.25 9R9XbWYA0 195/281



アールグレイ「彼女の功績により、内通者および、連絡係の正体が判明し、うち連絡係は逮捕されました」

アールグレイ「…しかし、連絡係は聖グロリアーナおよびOGとは一切の関連のない者で、恐らく金銭で雇われた者と判断しました」

アールグレイ「これによって、主犯と思われる反体制派が再び雲隠れしてしまいました」

アールグレイ「…そこで、各会派の会長様の権限で、本件が完全な冤罪であることの証明」

アールグレイ「および、OG会の中に潜み我が校の腐敗を目論む反体制派の特定・逮捕のためにご協力頂きたいのです…!」


三会派「………」



長い沈黙だった。

時間としてはほんの数秒の間だったかもしれないけれど、私、いや私達にとっては一生ともいえるくらい、長く感じた。


203 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:29:47.35 9R9XbWYA0 196/281






チャーチル会「わかりました」


「…!」














チャーチル会「ダージリン退学の撤回と復学を」


クルセイダー「私もその意に賛同しよう」


マチルダ会「同じく。これで満場一致」






204 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:34:51.08 9R9XbWYA0 197/281








私の役目は終わった……今度こそ、本当に………。





205 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:36:24.73 9R9XbWYA0 198/281




西「っ!!!」


西「あ…あぁぁ………」





西「ありがとうございます!! ありがとうございますッッッ!!!!!」






ダージリン「わ…私は…また聖グロに…戻れるのですか…………?」

チャーチル会「ええ。いつでも帰って来ると良い」

マチルダ会「済まなかったね。我々が至らなかったせいで」

ダージリン「…ありがとうございます……っ………っっ……ぅぅぅ………」

西「…ありがどうございまず……ありがどうございまず……………」

アールグレイ「会長皆様の…良識ある判断、心より…感謝いたします…!」



ダージリンの退学はOG三会派会長の満場一致によってここに撤回された。

頭がおかしくなりそうだ。いや、もう頭がおかしくなってもいい。

やっと私の、私達の苦労はここに報われた………。

涙と鼻水でグチャグチャになりながら、OGの長たちにこれ以上はないというくらいの感謝の意を伝えた。


206 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:40:40.75 9R9XbWYA0 199/281



チャーチル会「おやおや。皆して泣くとは」

アールグレイ「申し訳ありません……ようやく私達の……結果が実を結んだもので………」

クルセイダー会「辛い思いをさせてすまなかったね…」


マチルダ会「アールグレイ、あんたは歴代隊長の中でも群を抜いて優秀だった」

アールグレイ「身に余るお言葉です……!」

マチルダ会「あなたの育てた後輩、ダージリンもまた優秀だ」

チャーチル会「そしてその後輩、ダージリンが助けたという絹代さんもまた」

チャーチル会「意思は受け継がれるものだね」

ダージリン「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……!」

クルセイダー会「私の孫も操縦手をやってるが、何しろぐうたらでねぇ。あんたたちの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだよ」

チャーチル会「あんたのお孫さんも聖グロリアーナへ入れてあげれば良かったのに」

クルセイダー会「冗談じゃないよ。私の頃と違って今は学費がべらぼうに高すぎる。それにあの子は今の学校で楽しくやっている」

クルセイダー会「そうかい。そりゃ良い事だ」



~~~~



207 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:44:30.15 9R9XbWYA0 200/281





千代「本日は貴重なお時間を頂き、誠に有難うございました」



島田様の挨拶に合わせて一同が深く礼をする。

まさか、今日だけで問題が解決するとは思わなかった。

あのOG会のトップ三名が同じ場所に集まり、私のような小娘相手に交渉の場を提供してくれて


そして、満場一致でダージリンの退学の撤回、そして復学を約束してくれた…!







◆3 エピローグ




208 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:56:17.39 9R9XbWYA0 201/281



千代「これで満足してくれたかしら?」

西「ええ。ありがとうございます。…しかし」

千代「ん?」

西「なぜ会長様をお招きしたのでしょう?」

千代「どういうことかしら?」

西「私が家元様たちと対面するまで、何を話すかは知らなかったはずですよね?」

西「ひょっとしたら世間話でもするつもりだったかもしれないですし」

千代「世間話の為にあなたが私達を呼び出すとは思えないわ」


西「…。そんな中で、家元様達は私がこれから何をやるか"知っていた"かのように、会長様たちを呼んだ」

しほ「あなたのやろうとすることは、前回会った時にはすでに予期出来ていた」

しほ「聖グロのOGとて馬鹿の集まりではない。卒業後も戦車道や多方面にかけて経験を積んでる人たちよ」

千代「ええ。そんなものをたかだか10年ちょっと生きた子が単身で出来ることなんてせいぜい知れてるわ」

西「ぐっ……」

しほ「これしきの予期が出来ないのであれば、家元を語る資格など無いわよ?」

しほ「それに…」



しほ「邪道に染まる者がいれば、それを叩き直すのが王道の流儀」



209 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 15:58:05.67 9R9XbWYA0 202/281


西「!!!」

千代「王道からでも邪道を阻止することは可能なのよ? …西住流が王道かはさておいてね」

しほ「余計なお世話よ」

千代「だからあなたも目指すなら"王道だけ"をただひたすらに目指しなさいな」

西「ですが…私は…」

千代「邪道と戦うために邪道になった、とでも言うのなら」





千代「邪道と戦えさえすれば王道でも何ら問題ない。…違うかしら?」


210 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:00:04.80 9R9XbWYA0 203/281


西「!!!」

しほ「先日、西住流に一人、門下生が来ました。…その者曰く」


しほ「"邪道になりかかってるヤツをどうにかしたい"」


しほ「…という理由で」

西「………」

千代「西住流にしては素敵な話ね」

しほ「"にしては"は余分だ」

千代「ふふふ。その子が西住流なら、あなたはウチに来たらどうかしら?」

千代「どちら邪道でどちらが王道かを知るいい機会よ?」フフッ

西「は、はぁ……」



そしてまたバチバチと火花を散らす家元様たち。仲がいいのか悪いのか…。


"王道からでも邪道は助けられる"…か。


実際に私は"王道"の家元様たちに救われた。

二人は王道が邪道を助けることが可能だと私の前で証明して下さった。


私はまた、王道を目指せるのかな…?


211 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:02:12.30 9R9XbWYA0 204/281



西「ところで、OG会の会長様とはどういったご関係で?」

千代「先生よ」

西「先生?」

しほ「私や島田がまだ"見習い"だった頃に多くのことを教えて下さった」

西「そうなんですか…」

千代「流派を受け継ぐ者は、優秀な選手というだけでは務まらないわ」

千代「人の上に立つ者の心得、人脈、色んなことを教えて下さったわね」

しほ「聖グロの生徒にとっては神のような存在であると同時に、私達にとってもまた神様のような存在だった…」

西「そうなんですね…」




私たち学生が西住流や島田流を師と仰ぐように、家元様たちもまた会長様たちを仰いでおられたのかもしれない…。

そうして、次の世代にその意志を引き継いでいく。




~~~


212 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:08:54.71 9R9XbWYA0 205/281



アールグレイ「…あなた、すごいわね」

西「え?」

ダージリン「会長様は、聖グロの生徒にとって女王様のような存在なのよ?」

西「聖グロどころか、戦車乗りにとって神様と言っても良いかもしれません」

アールグレイ「ええ。…寿命が縮みそうだったわ」



聖グロのOG会・会長は家元様たちも拝むほどの存在だった。

しかし、それはOG会の会長たちだけなのだろうか?

もしかしたら他にも我々戦車乗りにとって神様のような存在がいるのかもしれないな。

…たとえば知波単学園の卒業生にも?



西「まぁ確かに…威圧感は家元様より凄かったですけど…」

西「あの方々は、弱みを握ったり、権力を行使して誰かを葬るような邪な真似はしないでしょう」

西「私たちの主張を苦言を申すことなく受け入れて下さった事が何よりの証拠です」

アールグレイ「あの方々は西住流や島田流以上に己に厳格な人たちですもの」

西「ええ。私が想像していた"薄汚いOG会"とは違うんだなって…」

西「だから私は、こんな私でも、腹を割って話す事が出来たんだと思います」

アールグレイ「失礼ね。薄汚いのは反体制派だけよ。それ以外のOG会は高貴で優雅な騎士道精神を尊ぶ方々よ」

西「…」ジトッ

アールグレイ「…なによ」

西「なんでもありません」

ダージリン「あなた、どんどん肝が太くなっていくわね…」

アールグレイ「全くよ。肝だけでなく態度もデカくなってきてるわ」

西「あはは…」


213 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:10:47.45 9R9XbWYA0 206/281



ダージリン「それにしても、会長様だけでなく、西住流や島田流の家元とも交流があるのって、あなたくらいじゃないかしら?」

アールグレイ「ええ。まったく羨ましい人脈ですこと」

西「実を言うと、そこがちょっと怖いんですよね…」

ダージリン「怖い…?」

西「前にも話しましたが、私がやってきた事といえば下衆なことばかり」

ダージリン「…」

西「…にも関わらず、家元様や会長様はどういうわけか私を高く評価して下さる。本当なら汚物を見るような視線を受けてもおかしくないのに…」

アールグレイ「簡単なことよ」

西「ん?」

アールグレイ「あなたは自分のことを邪道邪道って言うけれど」



アールグレイ「結局邪道に染まることなく、迷いつつも王道への道を目指してただけ」



西「…」

アールグレイ「あなたは本当の邪道を知っているでしょう?」

西「ええ、まあ…」

アールグレイ「あんなのに比べたら、あなたのやってる事なんて邪道の"じゃ"の字ですらない」

西「そうですかね…」

アールグレイ「ええ、そうよ」

ダージリン「あなたが邪道になろうなんて寝ぼけたことを言うのなら、私が止めるわ」

西「ダージリン…」


214 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:12:51.73 9R9XbWYA0 207/281



アールグレイ「ひとまず、帰りましょう?」

西「どちらへ?」

アールグレイ「決まってるじゃない。聖グロよ?」

ダージリン「…」

アールグレイ「あなたもよ? ダージリン」

ダージリン「えっ、私も…!?」

アールグレイ「はい、これ」


[聖グロリアーナ女学院 制服]


西「いつの間に?」

アールグレイ「いつ戻っても良いように」フフッ


ダージリン「ですが私はまだ…」

アールグレイ「何か言われたら"OG会長から同意を得た"と言えば良いわよ」

アールグレイ「それに歯向かうのなら、それこそ"OG会を敵に回すこと"になるわね?」フフッ

ダージリン「そ、そうですわね…!」

アールグレイ「だから私達の学園に戻りましょう」

ダージリン「はい…!」

西「あ、ちょっと待って下さい。ちゃんとヴェニフーキになりますので」ゴソゴソ

アールグレイ「…まるでスーパーマンの変身ね」フフッ



215 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:15:23.11 9R9XbWYA0 208/281




【聖グロリアーナ女学院】



オレンジペコ「あっ、ヴェニフーキ様…!」

アッサム「ヴェニフーキ!? 今の今まで何処へ行ってたのですか?!」

ヴェニフーキ「申し訳ございません。少し予定が入っていたもので」

アッサム「警察が押しかけてきたと思えばあなやは消えてしまうし! あなたは一体どこで何をしていたのですか!!」

ヴェニフーキ「お客様をお連れ致しまして」

アッサム「…お客様?」

ダージリン「御機嫌よう。…アッサム」

アッサム「あ…あ…」


アッサム「ダージリンっ!!!」


ダージリン「色々迷惑をかけてごめんなさい。アッサム、そしてペコ…」

オレンジペコ「だ、ダージリン様ぁ………!」

アッサム「だ、ダージリン! よ、よく戻ってきて…ぅぅぅっ…!」

ダージリン「…私は大丈夫よ。泣かないで」クスッ

アッサム「…だ、だって…あなたが…あんなことに……うぅぅぅ…!」

ヴェニフーキ「…」



アッサムさんも急にダージリンがいなくなったせいで、自分に隊長の椅子が回ってきて不安だらけだっただろう。

だから、こうやってダージリンが帰ってきて、その緊張や不安が一気に解けた。

もっともそれは私も同じだけどね。ようやく不安から解消される…。


…っておいこら、私のダージリンにいつまでも抱きついてんじゃない。さっさと離れんかい。


216 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:16:31.78 9R9XbWYA0 209/281



オレンジペコ「………」

ダージリン「ペコ」

オレンジペコ「…はい」

ダージリン「ただいま」

オレンジペコ「…おかえりなさい、ダージリン様」

ダージリン「ちゃんと良い子にしてた?」

ヴェニフーキ「…」


オレンジペコ「…ごめんなさい。私は悪い子です…」

オレンジペコ「ダージリン様にどれだけ謝っても許されないことを………」

ダージリン「…ペコ。こんな格言をしっているかしら?」

ダージリン「"イギリスはすべての戦いに敗れるであろう、最後の一戦を除いては。"」

オレンジペコ「チャーチルの言葉…ですよね…」



もう何度も聞いた言葉だ。

そして、その言葉に何度も助けられた。


217 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:18:37.34 9R9XbWYA0 210/281



ダージリン「あなたは最後の最後で、本当のことを打ち明けてくれた。そして、そのお蔭で、私はここに戻ることが出来た」

ダージリン「ありがとう。ペコ」

オレンジペコ「だ、ダージリン様ぁ…!」

ダージリン「ふふっ」



アッサムさんに続いてペコまでダージリンに抱きつく。

良かった。ダージリンはチーム皆から愛されている。


少しずつ、歪んだ時間が元に戻っていく。



ヴェニフーキ「……グリーンさんですか?」

アッサム「えっ?」

ヴェニフーキ「先程からずっと誰かに見られているような気が」

アッサム「何のことですの?」

ヴェニフーキ「グリーンさんでなければ、モームさんでしょうか。それともフレミングさんか、ランサムさんか…」

アッサム「…」

アールグレイ「アッサム」


アッサム「げぇっ! アールグレイ様!!?」


アールグレイ「あらあら、"げぇっ!"だなんて随分なご挨拶ね?」

アッサム「え、あ、あの…いえ、これには…」

アールグレイ「わかったから。部下をコソコソさせるのはおやめなさいな?」

アッサム「わ…わかりました。グリーン、ご苦労様です。出て来なさい」



アッサムさんの合図とともに、部長のグリーンさんを先頭にGI6の皆が出て来る。


218 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:20:53.69 9R9XbWYA0 211/281



グリーン「お許しを。先日ご乱心なさった事やその後の警察沙汰騒動もありましたので」

ヴェニフーキ「その件はご迷惑をおかけしました。今はもう元通りですのでご安心下さい」

グリーン「まったく。あなたは厄介ですよ本当に…」

ヴェニフーキ「恐縮です…」チラッ

アールグレイ「どうしたのかしら。ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「何でもございません」

アールグレイ「そう」



『本当に聖グロには助平しかいないんだな!』と目で語ってやった。



アールグレイ「私は違うわよ?」

ヴェニフーキ「何のことでしょう?」

アールグレイ「自分の胸に手を当てて確かめなさいな」

ヴェニフーキ「…助平」ボソッ

アールグレイ「あとで覚えてなさい」ニコニコ

グリーン「先代部長までいらしたのですか…」

アールグレイ「ふふ。お久しぶりね」



アールグレイさんに深々と一礼をするGI6の面々。

何かしら関係があるのだろうか?



219 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:22:17.30 9R9XbWYA0 212/281



ヴェニフーキ「ダージリン様」ボソッ

ダージリン「なにかしら?」ボソッ

ヴェニフーキ「アールグレイさんとGI6ってどんな関係なんです?」ヒソヒソ

ダージリン「アールグレイ様は元・GI6部長よ」コソコソ

ヴェニフーキ「…そうなんですか。だから助平なんですね」

アールグレイ「聞こえてるわよ。ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「失礼。つい本音が」

アッサム「こ、こらヴェニフーキ! 口を慎みなさい!」


ヴェニフーキ「ところでアッサム様」

アッサム「な、何ですの?」

ヴェニフーキ「グリーン様たちと対面してからというもの、ジャケットの中に変なものを入れられたり、監視されたりしていたのですが…」シレッ

ペコアッサム「うっ…」

グリーン「…そ、それは…」


アールグレイ「ええっ!? あなたそんな事していたの?!」



アールグレイさんが大げさな反応をする。

白々しいな。あなたも知ってただろうに…。



220 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:24:04.49 9R9XbWYA0 213/281



アッサム「…申し訳ありませんでした」フカブカ

グリーン「これは私の失態です。大変ご迷惑をおかけしました」

ダージリン「ヴェニフーキ、アッサム達を虐めないで頂戴」

ヴェニフーキ「私はアッサム様をはじめ、GI6の皆様に虐められていたわけですが。ねぇモームさん?」

モーム「………」



『ワシに言われても…』って顔をするモームさん。

諸々あって彼女の言いたいことも何となく分かるようになってきた。

…ん? 『"ワシ"なんて言わない』だって?



ダージリン「そう言わないの。アッサム達は死に物狂いで聖グロリアーナを立て直そうとしていたですから」

アッサム「ダージリン…!」

ヴェニフーキ「責めるつもりは一切ありません」

アッサム「…本当ですの?」

ヴェニフーキ「ええ」



アッサムさんもまた、かつてのダージリンと同じように聖グロを守り抜いた一人だ。

それに対して部外者である私は敬意を払えど罵る理由がどこにある。

…ただし盗聴器を仕込もうとしたことは別だ。

あのまま気付かずに自慰でもしてたら大変なことになっていたんだぞ。


221 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:26:28.97 9R9XbWYA0 214/281



「ダージリンさーん!」



ダージリン「みほさん…?」

みほ「お久しぶりです!」

ダージリン「御機嫌よう。そして優勝おめでとう。素敵な試合でしたわ」

みほ「えへへ。ありがとうございます」

優花里「ダージリン殿もすっかり体調が良くなったようで安心しました!」

ダージリン「ええ。ご心配をおかけしました」



本当だ。全く心配ばかりかけやがって。この人は。

そう思っていたら背中をツネられた。痛いですやめて下さい。


222 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:31:02.12 9R9XbWYA0 215/281



ヴェニフーキ「私が居ない間に試合でもなされてたのですか?」

アッサム「ええ。あなたが居ないおかげで散々でしたわ」

ヴェニフーキ「散々?」

「僭越ながら、ブラックプリンスを…」

ヴェニフーキ「…」チラッ


[E-100 対空戦車]


ヴェニフーキ「…なるほど」

グリーン「酷い目に遭いました」

ランサム「履帯を外されて動けなくさせられました」

フレミング「アウトレンジからガンガンとぶつけられました」

モーム「…」



『ワシはあんなの狙えん』とモームさんは言う。どうやらGI6の面々はコテンパンに打ちのめされていたようだ。

そりゃそうだよなぁ…。E-100対空戦車に比べたらブラックプリンスなんて屁でもない。こちらの射程距離の外から当たり前のように撃ってくるもんな。

…五十鈴さんが。


大洗の祝賀会はを数日前にやったのは覚えている。

その日のうちに私は聖グロ学園艦から去ったから知らなかったけれど、大洗の学園艦もメンテナンスをするとかで滞在して暇だったそうだ。

だからこうやって練習試合をやっていたらしい。


となると毎日あのデカブツの的になってたのか…。ご愁傷様です。





ヴェニフーキ「情けないですね。GI6なら返り討ちにしてやるべきでしょうに」



GI6「え゛っ…」

グリーン「随分と無茶をおっしゃる…!」

アッサム「あなた鬼ですの?」



ええ、鬼ですよ? 鬼のように何度も狂いましたが?

それはもう人間ここまで怒り狂うことが出来るものかと思うほどに。

本当に人間を超越して鬼か何かに化けてしまうんじゃないかというくらいに。



…西絹代あらため、西"鬼怒"代でございます。


223 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:33:22.89 9R9XbWYA0 216/281



ヴェニフーキ「その、五十鈴さん、武部さんは…」

「沙織さんでしたら向こうで一年生の特訓をされてます」

ヴェニフーキ「そうですか。…その節は本当に申し訳ありません」

「大丈夫です。元気になりましたので」

ヴェニフーキ「そうだと良いのですが…」

「復帰は早い方ですから」

みほ「えっ? 沙織さんに何かあったのですか?」

ダージリン「ヴェニフーキ、一体何をしたのかしら?」

アッサム「私も初耳です」


ヴェニフーキ「私の口からお答えすることは出来ません」

ヴェニフーキ「たとえGI6の皆様によって拷問にかけられても」

グリーン「拷問なんてしませんよ…」

ダージリン「そう…」

「………」


みほ「…」

ヴェニフーキ「武部さんの尊厳を守るためですので、ご了承の程を」

みほ「わかりました」







みほ「西さん」


224 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:39:33.17 9R9XbWYA0 217/281



ヴェニフーキ「!」

優花里「えっ?」

アッサム「えっ……?」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「今、西さんって…?」

みほ「はい。知波単学園の西さん…ですよね?」

ヴェニフーキ「何のことでしょう?」

みほ「あの、黒森峰のエリ…逸見さんから電話がありまして」

ヴェニフーキ「…」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


エリカ『そうそう。いい忘れてたわ』

みほ「うん?」

エリカ『聖グロに"ダージリン"が戻ってきたら、ヴェニフーキとかいう邪道の皮、ひん剥いて丸裸にしてやって』

みほ「えっ、どういうこと…?」

エリカ『あいつ、知波単学園の西絹代よ』

みほ「ええええっ!?」

エリカ『良い? この事はゼッタイに内緒よ?』

みほ「う、うん…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みほ「…って」


ヴェニフーキ「………」

「それってつまり……!?」

アッサム「えっ…!?」

ダージリン「…」

アールグレイ「…」






西 / ヴェニフーキ「今の今まで、黙っていてすみません」



225 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:41:35.92 9R9XbWYA0 218/281



アッサム「え…え………うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

優花里「ちょ、ちょっと待って下さいよ! ヴェニフーキ殿が西殿ってどういうことですかぁ!?」

西「言葉通りです。不逞を承知で"ヴェニフーキ"と身分を偽ってた次第であります」

アッサム「そんな…そんな………」

優花里「全然気付きませんでした…」

アールグレイ「…良いのかしら? 白状しちゃって」

西「ええ。OG会の件は一段落ついたので、もう偽る必要は無いかと思います」

アールグレイ「そうね。本当にお疲れ様」


アッサム「う、嘘ですの! あなたが知波単学園の絹代さんだなんて…絶対嘘です!」

ダージリン「本当よ。残念ながら」

西「残念ってどういうことですか…」

アッサム「嘘おっしゃいダージリン! 全然人相が違うじゃないですか!」

西「正体がバレぬようにと必死に己を偽っておりましたので」

アッサム「で、では…あなたが絹代さんである証拠を出しなさい!」


226 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:43:06.73 9R9XbWYA0 219/281


西「証拠と言われましても…」

ダージリン「…」コホン


ダージリン「"増援は私たち全部で22輌だって言ったでしょう?"」

西「お…?」

ダージリン「"あなたのところは6輌"」


西「"すみません! 心得違いをしておりましたぁ!"」



全員「!!」

みほ「…確かに西さんです」

優花里「紛うことなき西殿です。…だからこそ今この目の前にある現実が信じがたいですけど」

アッサム「た、確かにこのポカっぷりは絹代さんですの……!」

ダージリン「懐かしいわね」

西「ええ…本当に懐かしいです………」



もうずっと前のことのように思える

大学選抜チームとの戦いの日が私とダージリンとの最初のやりとりだった。

あのやり取りから紆余曲折を経て、ダージリンと現在のような関係に至るのだから運命というものはわからない。


でも、今だけはそんな運命とやらに感謝したい…。


227 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:44:49.76 9R9XbWYA0 220/281



オレンジペコ「あの…絹代様…」

西「ん?」

オレンジペコ「その………」

西「ああ…安心して下さい。あの件は何とかなりますから」

オレンジペコ「本当ですか?!」

西「ええ。なにせOG会の会長様と話をつけたのですから」

オレンジペコ「わぁぁ…! ありがとうございます!!」

アッサム「よくそんなホラを…」

ダージリン「本当よ」

アッサム「え」

アールグレイ「ついさっきまで三会の会長様とお話をしてたわよ?」

アッサム「え゛っ!?」

西「あの場には西住様や島田様もいましたね」


みほ「え」


西「色々お世話になりましたので、今度お礼をせねば…」

みほ「い、いいよお礼なんて! お、母さんそういうの大丈夫だからっ!」アセアセ

西「いいえ、家元様には大きな恩があります。これを返さぬと宣う方が邪道というものです」

みほ「そんなことないよ! お母さん鈍感だからそういうの大丈夫だよ!」

西「いえ、西住さんが許しても私は許せません」

みほ「じ、じゃぁ適当にそこら辺にある石ころでも送れば良いと思うよっ!!」

西「ええ…」

みほ「大丈夫大丈夫。お母さん鈍感だからきっと喜んでくれる」

西「でも一目見てヴェニフーキが私だと見破りましたよ?」

みほ「き、きっとカンで言たんだよ!」

西「ええ…」


228 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:45:52.13 9R9XbWYA0 221/281



オレンジペコ「絹代様…」

西「はは。その…ごめんなさい。ペコ太郎」

オレンジペコ「えっ…?」

西「あの日からずっと、牙を向けたままでした」

西「…だから、ごめんなさい」

オレンジペコ「………辛かったです」

西「…」

オレンジペコ「絹代様にあんなこと言われるなんて思いもしませんでした…」

西「…」

オレンジペコ「だから……責任取ってください…」

ダージリン「…」

西「私に可能であれば何なりと」

オレンジペコ「そうですね…」







オレンジペコ「肩もみ100万回で許してやりましょう」



229 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:48:14.60 9R9XbWYA0 222/281



西「ぐぎっ…足元見やがって…!」グヌヌ

ダージリン「あらペコ。100万回だけで良いの?」

西「なっ、ダージリン!?」

オレンジペコ「うーん…そうですね。では1000万回で」

西「ちょっ! 桁が一つ増えたではないですかっ!!」

オレンジペコ「それだけ私に酷いことをしたんですから」

西「はいぃ?!」

ダージリン「…あなた、一体何をしたのよ?」


オレンジペコ「キズモノにされました」


西「は? はぁぁぁぁ!?」

「まぁ…武部さんに飽き足らず………」ワナワナ

西「ち、違います! 誤解です誤解ですぞっ!!」

ダージリン「あなた…」ワナワナ

西「ちょっと待って! おいペコ太郎!!」

オレンジペコ「しぃらない」フフッ


ガシッ


西「え? あ、ちょっ!? ダージリン…さん?」

ダージリン「ふふ。キズモノとはどういうことか、私にも理解できるよう、ご説明頂けるかしら?」


230 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:48:48.94 9R9XbWYA0 223/281






ダージリン「絹 代 さ ん ?」ギロリ






232 : >>231はミスです忘れて  ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 16:53:23.80 9R9XbWYA0 224/281



西「た、助けてアッサムさん!!」

アッサム「私は戻って練習の指揮をせねばなりませんので」

西「に、西住さぁん!」

みほ「あはは、私はダージリンさんに一度も勝ったこと無いから…」

西「あーr

アールグレイ「私は卒業生だから」

西「いや関係な


グギリ ゴキッ


西「いだいっ!!! か、関節技はやめ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ダージリン「あなたは私が責任持ってキズモノにして差し上げるからご安心なさい」


ゴキッ バキッ!


西「ふぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

アールグレイ「あらあらうふふ。本当に仲が良いのね」

ダージリン「ええ。何しろ一心同体ですので。ねぇ 絹 代 さ ん?」

西「おかしいです! 一心同体なら痛みわかるはずです! これは所謂"でぃーぶい"ですぞ! ダージリン・バイオレンス <ミシッ!> あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

みほ「あはは。西さんはきっと尻に敷かれるタイプだね」

優花里「間違いありません」アハハ

「ヴェニフーキさんの姿であられもないことになってますね」フフフ

オレンジペコ「姿とのギャップが凄いです…」


ギャァァァァァァァァ!!!!




…こうして、私の聖グロでのスパイ大作戦は、ダージリンの復学という形で幕を閉じた。

時間がかかったせいでダージリンが聖グロにいられる時間は少ないけれど、それでも聖グロ生として卒業することが出来て嬉しいとダージリンは言う。

もうすぐクリスマスだなとか考えながらダージリンの関節技に身悶える。

…いつの間にそんなの会得したんだ。そして私を実験台にしないでおくれ…。



233 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:08:26.80 9R9XbWYA0 225/281






後でわかったことだが、反・聖グロ派は諸々の行為によって全員"逮捕"された。

反・聖グロ派の正体は、聖グロ在籍時には"貴族派"と呼ばれていた富豪のご令嬢たち。


貴族派の連中は聖グロを唯一無二のお嬢様学校にすべく、"賤民の排除"という目的を掲げていた。

確かに聖グロにはローズヒップやルクリリさんといった"庶民"の生徒も多く在籍する。

連中にとってそういった庶民生まれの生徒が目障りだったという。

その中でも特に、貴族でも庶民でもなく、叩き上げで隊長になったダージリンの存在は目の上のたんこぶだったらしい…。


また、アールグレイさんによると、反・聖グロ派はOG会の会費や学園艦の運営資金の一部を横領し、反社会勢力への活動資金に流していた疑いがあり、以前より公安の監視対象だったそうだ…。

それに加え、ダージリンの強制退学、ペコに対する脅迫、様々な余罪があるため、当分戻ってこないらしい。

アールグレイさんはOGの一人でありながら、OG内部に蔓延る汚職を取り締まるため、公安から捜査協力を依頼されていた身とのこと。

お借りした盗聴器など諸々も道具はそういった所から来ている。

彼女もまたOGでありながらOGに送り込まれた諜報員だったわけだ…。





234 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:10:20.90 9R9XbWYA0 226/281




…まぁ、どうであれダージリンは無事に復学した。

OG会の会長様たちの後ろ盾もあり、このような悲劇は二度と起こらないだろう。

他の聖グロの生徒は誰一人痛手を負うことは無かった。内通者をせざるを得なかったペコも以前と変わらぬように皆と接している。


対して反・聖グロ派連中の作戦は大失敗。一人残らずブタ箱行き。

私の…いいや我々の完全勝利だ。


やつらは私達の手の届かない場所で、微笑みながら私達を葬る邪道だった。

けれども、そんな邪道を私達は地べたを這いずり回りながら反撃の機会を伺っていた

そして来る時、ついに奴らを叩き落とすことに成功した。





それは無人機に抗う対空戦車の如く………。








                                        おしまい。

235 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:15:54.42 9R9XbWYA0 227/281



…と思ったけど、怒られても良いからおまけ的なこと書こう。



236 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:17:00.99 9R9XbWYA0 228/281



◆ おまけ その後の西と仲間たち






「…さて。私達も戻って練習の続きをいたしましょう」

GI6「!!」

アッサム「あの…」

「はい?」

アッサム「やっぱり…あの"大きいの"を…?」

「ええ。遠く離れた場所にいる戦車に砲弾を当てるのは凄く気持ち良いですから」ウフフッ

GI6「」

「それに、"ヴェニフーキさん"が戻られたのですから…ね?」

西「私は疲れたので少々休息を…」

「"ヴェニフーキさん"無しでは物足りませんわ」

西「…」

「…」



私たちの仕事は終わったが、私個人の問題はまだ解決していない。

五十鈴さん、やっぱり武部さんの件で。

無理もないよね。武部さんを傷つけたんだから…。




237 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:18:52.26 9R9XbWYA0 229/281




ヴェニフーキ / 西「…わかりました。五十鈴さんがご満足頂けるまでお相手致しましょう」



優花里「…!」

「…その言葉、お待ちしておりました。ヴェニフーキさん」

優花里「本当に同一人物とは思えない切り替わり様ですね…」

アッサム「未だに信じられませんわ…」

アールグレイ「当たり前よ。あなたやGI6を騙す必要がある以上、中途半端な変装では無意味ですもの?」

アッサム「…見抜けなかった自分が憎らしいですの」

グリーン「さすが前部長。まだまだ勉強不足です」

アールグレイ「ふふっ」

優花里「アールグレイ殿の変装ノウハウがあれば偵察任務も捗りそうです」

みほ「うん。そうだね」

ヴェニフーキ「…」



なかなか怖い会話をしている。

アールグレイさんによる"変装"は聖グロの参謀であるアッサムさんや、偵察・諜報を専門としているGI6までをも騙した。

いや、それどころかナオミさんやノンナさんですら見抜けなかった。私の正体を唯一見抜いたのは西住様とカチューシャさんだけだった…。

それほどまでに"完璧"な変装を、この人はいとも簡単に施した。


西絹代という実在人物をこの世から消し、

その瞬間ヴェニフーキという全く別の人物を生み出したのだから…!


西住さんや優花里さんは笑い話のように語るが、これは当事者からすれば身の毛のよだつ話だ。

OG会よりもアールグレイさんを敵に回す方が危険なのかもしれないと思うほどに………。


238 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:19:54.21 9R9XbWYA0 230/281



ヴェニフーキ「………」



ダージリン「五十鈴さん」

「何でしょう?」

ダージリン「この子は無茶をするから本当に倒れてしまいますわ。今はそっとしておいて下さるかしら?」

「あら…」

ダージリン「ごめんなさいね。この子を七面鳥にするのはまた別の機会に」

「それは仕方ありません。また次の機会にどうかお手合わせ願います」

ヴェニフーキ「恐縮です。体調が回復したら是非」

ダージリン「私も久々の"帰郷"で疲れてしまいましたわ。お部屋まで案内して下さるかしら?」

ヴェニフーキ「かしこまりました」


ギュッ







「………」


239 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:20:29.28 9R9XbWYA0 231/281


ヴェニフーキ「…ん?」

「…」

ダージリン「あら?」

「…」

みほ「宇津木さん? どうしたのかな?」

優季「…」

「宇津木さん…?」





優季「沙織先輩をフって、ペコちゃん弄んで、次はその人ですかぁ?」




240 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:21:02.94 9R9XbWYA0 232/281



ヴェニフーキ「!!」

ダージリン「………」

オレンジペコ「う、宇津木さん? 私は別に

優季「色んな人をその気にさせておいて…」

ヴェニフーキ「っ…」

ダージリン「…」

優季「私、そのヒト許せない……最っ低…」

みほ「や、やめよう…? 宇津木さ


優季「沙織先輩がどんな気持ちだったのかも知らないでッ!!!」



一同「!!!」



宇津木さんの言う通りだ。

武部さんの想いを踏みにじって、ペコも傷つけた。

それらは私が"最低な人間"であるという烙印を彼女に押させるには十分すぎた。



241 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:25:52.30 9R9XbWYA0 233/281




ダージリン「あなた、誤解をなさっているわね」



ヴェニフーキ「ダージリン…様?」

優季「な、何ですかぁ…?」

ダージリン「彼女、"ヴェニフーキ"が誰か知ってる?」

優季「誰って…ヴェニフーキさんですよねぇ?」

ダージリン「違います。知波単学園の西絹代さんですの」

優季「はぁ…?」

ダージリン「ヴェニフーキというのは架空の人物でしてよ?」

優季「えっ…?」

西「………」

「宇津木さん、ダージリンさんの仰ることは事実です」

優季「えっ………?」

みほ「私達も最初、驚きました」

優季「ど、どうして知波単の隊長さんがここにいるんですかぁ?!」

ダージリン「アールグレイ様、宜しいですわね?」

アールグレイ「私は構わないわ」

ダージリン「絹代さんも、もう良いわよね?」

西「ええ…」



ダージリンは宇津木さんや西住さん達に私が姿を偽った理由を打ち明けた。



ダージリン「以上です。この話はどうかご内密に」

優季「そんな………」

ダージリン「信じ難いのは無理もありませんわ」

みほ「………」

優花里「ダージリン殿が退学だなんて…」

アールグレイ「これらはOGの中にいた"裏切り者"たちによる内部崩壊の1つ」

「でも、今ここにいらっしゃるということは?」

アールグレイ「そして、その"裏切り者"は無事に全員逮捕されました」

オレンジペコ「………」

ダージリン「絹代さんがいなかったら、私はどうなっていたわからなかった………」

優季「…」

みほ「ダージリンさんは…」

優花里「西住殿?」

みほ「ダージリンさんはあの時、私達を助けて下さった。…なのに…」

みほ「私は何もできなかった…って……」

ダージリン「ありがとう。そのお気持だけでも嬉しいですわ」


242 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:31:01.06 9R9XbWYA0 234/281




優季「あ、あの…」


西「…はい」

優季「ごめんなさい…私……思いっきり勘違いしちゃった……」

西「まぁ…あの様に思われるのは無理もありませんよ」

優季「で、でもぉ…私、西さんに酷いこと言っちゃった…」

西「私が宇津木さんの立場だったとしても、恐らく同じ事をしていでしょう」

優季「ホントですか…?」

西「だから…宇津木さんでしたっけ? あなたの判断は正しいのであります」

西「…あ、ただ、この事はできれば内緒にして頂きたいのです。私だけでなくダージリンも関わってきますので」

みほ「確かに…」

優季「う、うん…!」

「西さんの功労に免じましょう」

ダージリン「ご理解とご協力、誠に感謝いたします」



本物のスパイにはこんなハッピーエンドなんて訪れたりしない。

スパイは仕事が終わったあともスパイであり続けないといけないから、どれだけ汚れても誰にも正体を明かせない。事情を話すこともできない。


だから私は恵まれている。こうやって事情を打ち明けることができて居場所も残されているのだから。


243 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:31:45.49 9R9XbWYA0 235/281





西「……あ……れ………?」

ダージリン「っ!! 絹代さん!!」

西「………!」




「っ! 救急車を! 」



…体に…力が……


「き、絹代さん! しっかりして!!」


……………眠い………………



244 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:36:12.60 9R9XbWYA0 236/281




【数日後 西絹代の病室】



ダージリン「…懐かしいわね」ズズ…

西「………」

ダージリン「あの時もこうやってあなたの横で紅茶を飲んでいたわ」

西「………」

ダージリン「そうしたら、あなたは目を覚めて、そこから始まった………」

西「………」


スッ...

ダージリン「やっぱり、あなたの手はとっても温かい…」

西「………」

ダージリン「願わくば、ずっと握っていたいわね…」

西「………」

ダージリン「お互い、白髪になっても、腰が曲がっても、ずっと…」

西「………」












西「……ぅ…」



245 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:40:40.06 9R9XbWYA0 237/281



ダージリン「! 絹代さん!」

西「………だーじりん……」

ダージリン「ええ私よ!!」

西「……っ………ぅぅ…………」

ダージリン「ど、どうしたの?! どこか痛いの!?」

西「怖い…夢を………」

ダージリン「! …大丈夫よ。あなたのそばには私がいるから…」

西「ありがと………」



246 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:43:50.54 9R9XbWYA0 238/281




~~~~


ダージリン「…落ち着いた?」

西「ええ…嫌な夢でしたよ…」

ダージリン「…前にも嫌な夢を見るって言ってたわね…一体どんな夢だったの?」

西「…今までやってきたことが全部夢だったという夢です」

ダージリン「…」


ツネッ


西「いたっ……」

ダージリン「ほら。大丈夫でしょう? あなたがやってきたことは夢なんかじゃないわ。紛れもない事実よ」

西「そう、ですよね…あはは」

ダージリン「そうよ。ご安心あそばせ」

西「…?」

ダージリン「どうしたの?」

西「いえ、何処かで見たことがあるなと思ったら、ここ病院じゃないですか…」



247 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:52:34.38 9R9XbWYA0 239/281



ダージリン「そうよ。あなたってば急に気絶してそのまま病院送りだったのよ?」

西「あははは…」

ダージリン「まぁ…でも、お医者様によると疲れてただけで身体に異常は無いって言うから安心したわ」

西「恐縮です。またダージリンにご迷惑をおかけしました」

ダージリン「良いわよ。私があなたにしてくれたことに比べたらこんなのお茶の子さいさいですわ」

西「あははは。…懐かしいですね」

ダージリン「そうね…」

西「あの時もこうやって病院のベッドで目がさめたら、横にダージリンがいましたね」

ダージリン「ええ」


西「そして色々ツネられたり叩かれたりして」

ダージリン「あらあら。随分と思い出を美化してくださるわね?」ワキワキ

西「なっ! 病人相手に攻撃は反則ですぞ!!」

ダージリン「それだけ元気があればもう大丈夫ね。何しろ2日も眠りこけていたのだから」

西「えっ…2日も?」

ダージリン「ええ。そうよ」

西「…大洗の皆さんは?」

ダージリン「帰っちゃったわよ?」

西「う…」

ダージリン「う?」


248 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 17:57:14.81 9R9XbWYA0 240/281



西「うわぁぁぁぁぁぁん!! 練習試合したかったのにぃぃぃ!!」


ダージリン「あんな身体では練習試合どころか指相撲も無理よ。今はしっかり体を休めることに専念なさい」

西「むぅ…かしこまりでございます…」シクシク

ダージリン「それに、大洗の学園艦は近隣の港に停泊しているから、日程さえ合えばいつだってお誘いできるわ」

西「ほ、本当ですか!?」

ダージリン「ええ。何故かプラウダ高校も近くに浮かんでいたから、またエキシビジョンマッチ戦も出来るんじゃないかしら?」

西「しますします! 是非ともやりましょうぞ!!」

ダージリン「今度はみほさんの足を引っ張らないようにするのよ?」

西「え?」

ダージリン「…何かしら?」

西「ダージリンはまたそっち側なのです?」

ダージリン「…味方がいいの?」

西「はい」

ダージリン「そう。ならば私の足を引っ張らないように頑張って頂戴」

西「ダージリンこそ私の背中撃たないで下さいよ? なにせ先の戦いで」


ツネッ!!


西「あいたぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!」

ダージリン「一回勝ったぐらいで調子に乗らない!」

西「つぅぅぅ…」ヒリヒリ

ダージリン「全く。こういうお馬鹿なところは今も昔も変わらないのだから…」

西「ダージリンも暴力的なところは」

ダージリン「なにかしら?」

西「ナンデモゴザイマヘン」


249 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:00:44.28 9R9XbWYA0 241/281



ダージリン「やれやれですわね。…そろそろ私は行くけど、一人でお留守番出来る?」

西「む。子供扱いしないで下さい」

ダージリン「あなたは手のかかる子供よ。私が責任持ってお世話するから安心して頂戴」

西「むぅ…」

ダージリン「お医者様は目がさめたら退院しても大丈夫って言ってたけれど、無理はしちゃ駄目よ?」

西「え? もう退院しても大丈夫なのですか?」

ダージリン「ええ。もともと疲れが原因なのだから、それが回復すれば明日にでもここを出れるわ」

西「そ、そうですか…」

ダージリン「そうよ。退院したらちゃんと連絡するのよ?」

西「はーい」



250 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:01:51.21 9R9XbWYA0 242/281




【翌朝】



プルルルルル プルルルルル



西「…モケ………」zzzz....



プルルルルル プルルルルル



西「……にんにく……とかしちゃだめ……」スピー



プルルルルル プルルルルル



西「…麺に乗っけて……海苔と一緒に………?」パチッ



西「……電話…?」


ピッ



251 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:02:43.53 9R9XbWYA0 243/281



『もしもし』


西「…ぁぃ」ネボケー

『…アンタまだ寝てたの?』

西「…?」

『もしもし? 聞いてるの?』

西「……だれ」ポケー


『エリカよ』


西「………ペリカ?」

『エリカよ! エ・リ・カ! 逸見エリカ!!』

西「ケツ見ぃ…?」

エリカ『い・つ・みィ!!!』


西「…もっと静かに話さないと周りの人に迷惑ですよ?」




252 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:03:22.23 9R9XbWYA0 244/281



エリカ『いい根性してるわねアンタ…』ワナワナ

西「どうも…」

エリカ『こっちはアンタの茶番に付き合っているほど暇じゃないわよ』

西「それで、どういったご用件で…?」

エリカ『何処かに遊びに行くわよ』

西(………暇じゃん)





 :||― ・・・・・




253 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:05:07.96 9R9XbWYA0 245/281



【街】



西「珍しいですね。逸見さんからお誘いがくるなんて」

エリカ「いけなかったかしら?」

西「悪いとは一言も言ってませんよ?」

エリカ「…」

エリカ「…前より良くなったじゃない」

西「ん?」

エリカ「顔色。少し前まで顔は土気色で目充血してクマが出来てたでしょ」

西「あぁ。…まぁ、問題が何とか解決してくれましたので」

エリカ「そう。突撃バカのアンタをあそこまでさせるなんて、ホントにどんな問題なのかしらねぇ」

西「泳げない人を引き揚げる問題です」シレッ

エリカ「なっ! うるっさいわね!!」

西「あははは」



ピロリロリン


254 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:12:59.10 9R9XbWYA0 246/281



西「お、メールだ。ノンナさんからだ」

エリカ「ノンナ…ってプラウダ高校の?」

西「ええ」

ピッ




-------------------------------

件名 : Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Fw:Здравствуйте.


[本文]


ノンナです。

体調を崩されたとのことですが、大丈夫なのでしょうか?

まだまだこれから寒くなる一方ですので、暖かい格好をしてゆっくり休んでください。



追伸: 最近、顔文字を入力するのが楽しいです


(^ω^(⊃*⊂) 


↑この顔文字、何かを持っているみたいですけど

なんだか可愛いですよね。


-------------------------------




西「そうだ。ノンナさんにはまだ報告してないし、せっかくだからお誘いするか」

エリカ「えっ? ここに呼ぶの?」

西「駄目ですか?」

エリカ「べ、別に良いけど…」





-------------------------------

件名 : Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Fw:Здравствуйте.


[本文]


絹代です

おかげさまで無事に問題が解決し、ぐっすり休むことができたので元気になりました。

ところで、今、黒森峰の犬と遊んでいるのですが、ノンナさんもご一緒しませんか?


-------------------------------



ピッ


西「送信完了!」



255 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:14:56.47 9R9XbWYA0 247/281



プルルルル プルルルル


エリカ「反応早っ!」

西「あっはっは。早速ですな」ピッ



ノンナ『Здравствуйте. 絹代さん』

西「こんにちはノンナさん」

ノンナ『いかがですか? その、お身体の方は』

西「問題が片付いたおかげで何とか元気になりましたよ」

ノンナ『! хорошо...отлично...!』

西「あはは。ノンナさんにも色々ご心配おかけしました」

ノンナ『いえ、とんでもない…! …それで、用件なのですが』

西「ええ。今ちょうど、黒森峰のアレと遊びに行こうとしてたんですが、ノンナさんもご一緒にと思いまして」

エリカ「ちょっと! "アレ"って何よ!!」

ノンナ『(…"アレ"?)よろしいのですか?』

西「ええ。歓迎しますよ」



~~~~~


256 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:16:27.92 9R9XbWYA0 248/281



ノンナ「こんにちは。絹代さん…と」

エリカ「エリカ。逸見エリカよ。黒森峰の」

ノンナ「こうやって対面するのは初めてですね。プラウダ高校のノンナと申します」

エリカ「知ってるわよ。プラウダの <ツネッ!> いだぁっ!!?」

西「ノンナさんに失礼な態度取らないで下さい。怒りますよ?」

エリカ「わ、悪かったわよ…!」ヒリヒリ

ノンナ「恐縮です」

西「…ところで、私達はこれからどこへ向かおうと?」

エリカ「決めてなかったの?」

西「あんたが誘ったんじゃないかっ!」

エリカ「あぁ…そうだったわね」

西「まったく…」

エリカ「そうね…」




エリカ「ゲームセンターにでも行こうかしら?」


257 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:18:29.75 9R9XbWYA0 249/281


西「え」

エリカ「なによ…」

西「いやぁ、逸見さんもそういうところ行くんだなーって」

エリカ「まるで私はゲームセンターに行かないとでも」


西(エリカ真似)「ゲームセンターぁ? ハッ! お子様じゃあるまい」


西「…とでも言そうですし」

エリカ「なっ…!」

ノンナ「そっくりですね」

エリカ「言うわけないじゃない! 第一全ッ然似てないわよ!」


ノンナ「ふふっ」

西「おろ?」

ノンナ「お二人はとても仲が良いのですね」

エリカ「…犬猿の仲ってヤツよ」

西「イヌと飼い主の関係です。あ、もちろんコッチが犬です」

エリカ「はぁ?!」

西「あ、もちろん私とノンナさんは仲の良いお友達ですよ」

ノンナ「ふふっ。お友達です」

西「ロシア語でお友達って何と言うんでしょうか? "アミーゴ"でしたっけ?」

ノンナ「Ваш другです」

エリカ「アミーゴはスペイン語よ」

西「ドルグ…? 覚えました。忘れたらまた教えてください」

エリカ「覚えたと言うのかしらそれ…」



258 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:19:44.17 9R9XbWYA0 250/281



【ゲームセンター】



西「こういうところに来るのは初めてですね」

ノンナ「同じく。このような騒がしい所には行きません」

エリカ「私もよ」

西「え」

ノンナ「え」

エリカ「えっ」

西「初めてなのにゲームセンターへ?」

エリカ「い、良いじゃない! 高校生なんだからこういうところに行ってみたって!」

西「高校生じゃなくても行っても良いかと」

エリカ「うるさいわよ! とにかく行ってみたかったのよ」

ノンナ「確かに、今時の高校生はこういう場所を好むかもしれません」

西「ええ。私達には想像出来ませんな」

エリカ「…仮にも高校生よ? あなたたち」


259 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:21:16.68 9R9XbWYA0 251/281


ノンナ「ゲームセンターといえば」

エリカ「ん?」

ノンナ「"ぷりきゅあ"というものをニーナ達がやったとのことで…」

エリカ「ぷりきゅあ?」

ノンナ「ええ。同志たちと写真を撮影する」

西「昔練習試合をした時、"ぷりきゅあ ぷりきゅあ" とアンツィオ高校の皆さんが歌ってましたな」

エリカ「プリクラでしょ。あとアンタの言いたいのはフニクリ・フニクラよ」

ノンナ「それです」

西「それです」


エリカ「…まったく。女子高生とは思えないわね」

ノンナ「逸見さんは女子高生らしいですね」

西「このツンツンしてチクチクしてるところ、紛うことなき女子高生ですな」

エリカ「どう見たって女子高生でしょーがっ!」

西「確かに。戦車道やってなかったら一日中ゲームセンターとかカンオケに入り浸ってそうですな」

エリカ「カンオケじゃなくカラオケよ。勝手に殺さないで頂戴」

西「お、あっちの機械は空っぽのようですぞ。行きませう!」

ノンナ「だー」

エリカ「ちょっと聞いてんの!?」



~~~


260 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:22:22.17 9R9XbWYA0 252/281




『お金をいれるんだぞ!』




西「…随分と高圧的ですな」

ノンナ「さすがに我が校もここまで強引では…」

エリカ「そういう仕様なのよ」チャリン



『画面に向かってポーズをとるんだぞ!』


西「ポーズってお寺で修行する人ですよね」

ノンナ「…両手を合わせて黙想をすれば良いのでしょうかか…」

西「プリクラというより寺子屋ですな…」

エリカ「…突っ込まないわよ」ハァ...




『3…2…1…パシャッ!!』


261 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:26:51.20 9R9XbWYA0 253/281



西「…」

ノンナ「…」

エリカ「…」



___________________
|         |
|  (´ ゚д゚`)  |
| ( ゚д゚ )( ゚д゚ ) |
|_________|




西「なんと申しますか…」

ノンナ「思っていたものと違います。今の学生はこのようなものに青春や娯楽を感じているのでしょうか…」

エリカ「そりゃこんな無表情じゃそうなるでしょ! これじゃ履歴書に貼る写真じゃない!」

ノンナ「申し訳ありません。こういう時どんな顔をすれば良いのか…」

エリカ「笑えばいいのよ」

西「画面の向こうにカチューシャさんがいると思って」

ノンナ「なるほど…!」ニコッ

西「私も向こうにダージリンがいると思って」ニコッ

エリカ「じ、じゃぁ…隊長が…」ニッ


パシャァァァァァァァ!!!!!


262 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:28:41.83 9R9XbWYA0 254/281



西「お、逸見さんが笑っておられる?」

エリカ「何よ。私だって笑う時くらいあるわよ」

ノンナ「良い笑顔です」

エリカ「そ、そう…?」←ちょっとうれしい

西「笑顔は良いんですが、如何せん中身がアレでして…」ウーム

エリカ「失礼ね! 中身だって良いに決まってるでしょ!!」


西「…で、写真を撮影した後は如何なさるのですか?」

エリカ「外に出てタッチペン使って落書きするのよ」

西「落書き…歴史の教科書とかにやるヤツですかな?」

エリカ「まぁそんな感じよ。多分…」

ノンナ「落書きといえば、同志レーニンに毛髪を描いて差し上げた事なら…」

西「お、奇遇ですな。私も東條閣下に。やることは皆同じですな」タハハ

エリカ「授業中に何やってんのよ…」

ノンナ「逸見さんはご経験無いのですか?」

エリカ「………アドルフのヒゲを増やすくらいなら」


263 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:47:51.45 9R9XbWYA0 255/281




『写真をデコレーションしやがれ!』



エリカ「はい、タッチペン」

西「恐縮です。…で、こやつでどうすれば?」

エリカ「そいつで画面タッチして、ペンの色や太さ、スタンプとかを選択するの」

西「ほうほう。"はいてく"ですなぁ」

ノンナ「革命的です」

エリカ「そうよ。例えばこんな感じに」カキカキ

西「ぬぁっ?! どうして私にヒゲつけるんですか!」

ノンナ「意外に似合いますね」

エリカ「あはは、よく似合ってるわよ」

西「じゃぁこうします」ペケ

エリカ「ちょっと! なんで私にバッテン描くのよ!?」

西「わっはっは! これで邪魔者は消えた! あとは私とノンナさんで仲良く西ノンを楽しみませう!」

ノンナ「ふふっ。まるでスターリン政権時のトロツキーですね」

エリカ「物騒な話ね…」ケシケシ

西「あ゛っ! バッテン消された!」

エリカ「却下よ却下」



264 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:49:14.65 9R9XbWYA0 256/281




エリカ「なかなか悪くないわね」

ノンナ「…」

西「この写真って皆さんどうされるんでしょうか」

エリカ「好きなところに貼ればいいんじゃない? 携帯電話とか手帳とか」

西「なるほど」

ノンナ「…」

西「ノンナさん…?」


ノンナ「これが…プリクラなのですね…!」シンミリ

西「ものすごく嬉しそうですね」

ノンナ「ええ。とても嬉しいです」ホッコリ

エリカ「良かったじゃない」

ノンナ「ありがとうございます。一生の宝にします」

エリカ「そ、そこまで…」アハハ

西「では私も墓場に入れましょう。いや、いっそ遺影に…!」

エリカ「遺影にプリクラ使うバカがどこにいるのよ」


265 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:50:28.88 9R9XbWYA0 257/281



西「おや? あちらにも何やら面白そうなのがありますね?」



エリカ「ああ。あれはバッティングセンターね」

西「おお、これが噂の…」

ノンナ「テレビでは見たことありますが、実物は初めてです」

エリカ「あなたたち、野球知ってるの?」

西「ええ。一応。暇なときは見てます。軍神ティーガースが今年は不調で残念ですが」

ノンナ「カチューシャがよく見てます。大新井という選手が好きとのことで」

エリカ「…そう」


エリカ「じゃぁ、一発やってみようかしらね」チャリン



266 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:53:52.82 9R9XbWYA0 258/281



テーレッテレー


『ワイノ ゴーソッキュー オマエニ ウテルカ!!』


西「ずいぶんやかましい機械ですな」

ノンナ「品性を疑います」

エリカ「そういうものよ」


ガコン!

シュッ

ビュルルル!!



スカッ..



西「すとらぁーいく!」

ノンナ「おおお…!」キラキラ

エリカ「チッ…」




シュッ

ククッ!!

カキーン!




西「あ、今度はファールですな」

エリカ「変化球はタイミングが狂うのよ! もう一回!!」


 ・

 ・

 ・



267 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:56:09.24 9R9XbWYA0 259/281




エリカ「…フン。初めてやった割には上出来ね」

西「凡打が多かったですけどね」

エリカ「…大新井が悪いのよ。アイツ変化球ばっか使うんだから」

ノンナ「次は、私にやらせて頂けないでしょうか…!」

西「どうぞどうぞ」




『キミ達にボクのボールが打てるかな? まぁ、キミ達には無理だろうね』




エリカ「如何にも"お坊ちゃま"という風貌の投手ね」

西「まるで逸見さんみたいです」

エリカ「どういう意味よ…」

ノンナ「…」


268 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 18:57:33.39 9R9XbWYA0 260/281



シュッ グォーン

ブンッ!


エリカ「…空振りね」

西「なかなか手ごわいですな…」


ノンナ「Нонна Успокойся...анализ атаки противника....」ブツブツ


西「…ノンナさんは何と仰ってるのです?」

エリカ「わからないわよ。ドイツ語ならまだしもロシア語なんて…」


シュッ ククッ!


ノンナ「Моя победа!」


カキーーーーーーン!!!


西エリ「おおっ!」


『弟よ…帰って特訓だ………』ガクッ



西「流石ですぞノンナさん! 見事な一撃でした!」

エリカ「なかなかやるじゃない…」

ノンナ「この感触、癖になりそうです」ウットリ



このあと西も挑戦したが、ファールチップがエリカに命中して終わった。



269 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:03:29.82 9R9XbWYA0 261/281



西「しかし、あのように誇示されると負けん気の血が騒ぎますね」

エリカ「気持ちはわかるけど、のめり込み過ぎると血は騒いでも財布が静になるわよ?」

西「むむ…」

ノンナ「次回お相手する時までに鍛えなければなりませんね」

西「そうですね。帰ったら特訓しましょう」

エリカ「…バッティングセンターじゃなく戦車道の特訓をなさい」

西「勿論。実を言うと、聖グロにいる間に一度だけ知波単に戻りまして」

ノンナエリカ「えっ?」

西「聖グロと知波単の練習試合が終わって数日後にコッソリと」

エリカ「そんなの聞いてないわよ」

西「まぁ、聞かれなかったので」

エリカ「ぐぬ…」



270 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:07:03.02 9R9XbWYA0 262/281



西「まぁ、聖グロにいながらもやっぱり母校が気になったもので…」




~~~~~~


【回想 知波単学園に戻った西さん】


西「ただいま諸君。ちゃんと元気にしていたか!?」

玉田「西隊長殿! お帰りなさいでありますっ!」

細見「細見、日夜鍛錬に励んでおりました!」

福田「福田! 一生懸命練習しました!!」

西「そうかそうか。良いことだお前たち!」


西「ところで、聖グロの"ぶえにふうき"さんとやらから話を聞いたぞ?」

玉田「ん?」

細見「何をですかな?」


西「 "英語どころか数学も赤点ギリギリですし、世界史も"間一髪だった"と申しておりまして…" 」


細見「お゛っ!?」


西「 "勉強に関しては"からっきし"なのであります。困ったものです…" 」


玉田「え゛っ!!」


西「 "まさに弁慶の泣き所であります…" 」


福田「げっ!!」


西「…とのことだ」ニコニコ



271 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:09:28.30 9R9XbWYA0 263/281



玉田「あ、あのですね…!」

細見「これには深~いワケがございましてですな!」

福田「やむにやまれぬ事情があったのでありますっ!」

西「お、そうか」ニコニコ

玉田「ええ。まさにその通りであります!」

西「ならば仕方あるまいなぁ。あっはっはっはー」

三人「わっはっはっは!!」



西「」ギロッ



三人「え」





西「お前らの練習態度はなんだァァァァァ!!」


西「本ッ当に強くなろうって気があんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


西「私が根性を叩き直してやるッ!! 今すぐ練習場に集合ォォォォォ!!!!」


「ひぃぃ!!!」





272 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:10:39.93 9R9XbWYA0 264/281



西「まずはランニング!」


西「次はダッシュ100本!」


西「次は腕立て伏せ500回!」


西「次! 腹筋1000回!!」


西「次ィ! 手押し車100回!!」


西「次は全員着ているものを脱げっ!」

西「向こうに見える埠頭まで泳げっ! そして戻って来い!!」

全員「!!?」

細見「い、いくらなんでも無茶ですぞ!!」

玉田「埠頭がすごく遠いでありますっ!!」

福田「埠頭というより不当ですぞ西隊長殿!!」

女仙「ノー! ノー!」


ガヤガヤ ワーワー!

アーダコーダソーダプラウダ



西「ゴチャゴチャ文句言うなァァァァァァ!!!!!」



「ひィィィィ!!!」


ザッパーン!!


~~~~~~~



273 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:12:16.64 9R9XbWYA0 265/281




【そして再びゲームセンター】



西「…という感じですな。いやーなかなか良いストレス発散になりましたよ」ワッハッハッハ

エリカ「…アンタ…自分に出来ないこと部下に指示するのどうかと思うわよ……」

西「いや、私も一緒にやりましたよ?」

エリカ「え」

西「命令しといて自分がやらんのもどうかと思ったので」

エリカ「…ちゃんと最後までやれたの?」

西「泳いだあとはヘトヘトでしたね。晩御飯が美味しかったのであります」

ノンナ「…」

エリカ「私ですらそんな鬼畜な練習はさせないわよ」

西「私が一年の頃はこの手の訓練はよくやってましたけどね」

エリカ「体よりも頭鍛えなさい」


ノンナ「…」

エリカ「あなたはあなたで何企んでんのよ…」

ノンナ「いえ、ニーナやクラーラの練習に良いかと思いまして。特に最後の水泳は」

エリカ「死人出るわよ?」

西「むしろ逸見さんこそやった方が良いのでは?」

エリカ「何でよ!」

西「泳げないから」

エリカ「っぐ…」


274 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:13:05.79 9R9XbWYA0 266/281



「っしゃぁぁぁぁ!!! 取ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



ノンナ「おや?」

エリカ「随分とやかましいわね」

西「…この声」


「やったやった! ついにマジノカード全種類コンプしたっ!」

「あっはっはっはー! 今日は最高の日だなぁ~!」

「やったぁ~やったぁ~ ららりらりりらぁ~りぃ~りぃ~るぅぅ~♪」クルクル



西「………ルクリリさん?」


ルクリリ「え」ピタ...


西「…」

エリカ「…」

ノンナ「…」


ルクリリ「」



275 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:14:50.13 9R9XbWYA0 267/281




ルクリリ「…私、ルクリリという人じゃありません。西呉王子グローナ学園のマリルリという者です。初めまして」



西「嘘おっしゃい! 聖グロのルクリリさんじゃないですかっ!」

ルクリリ「うわぁぁぁ見られたぁぁぁぁ!!」

エリカ「何というか…ブザマね………」

ルクリリ「ふぇぇぇん……聖グロではクールビューティーな女で通してたのにぃ………」シクシク

西「…それはないと思います」

ルクリリ「こんな小っ恥ずかしいところ見られたら私もう生きていけない…」メソメソ

ノンナ「そんなに自分を責めないでください。誰にだって過ちはあります」

ルクリリ「一発の過ちが大きすぎるよぉ………」ズーン

西(聖グロにいた時はこれ以上に恥ずかしいルクリリさんをいくらでも見たことありますけどね。お召し物丸出しで爆睡してたりとか)


276 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:16:06.99 9R9XbWYA0 268/281



ルクリリ「ぅぅ…今日は厄日だ………」


エリカ「…で、あなた一体誰なのよ」

ノンナ「確か聖グロの……フグリリさんだったでしょうか…?」

エリカ「ふぐ…!」

西「聖グロのルクリリさんですよ」

エリカ「へぇ。聖グロの…ね」


ルクリリ「…」ショボン


ノンナ「すっかり意気消沈しておられます」

エリカ「そりゃあんな姿を人様に見られたら…ね」

西「黒歴史というか聖グロ歴史というか…」

エリカ「…面白くないわよ」


277 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:17:38.30 9R9XbWYA0 269/281


エリカ「…あなたも2年生なのかしら?」

ルクリリ「そうだよ…来年3年生…」シュン

ノンナ「聖グロの2年生といえば…」

西「僭越ながら、ルクリリさん以外の方は知らないです」

エリカ「…ということは」

ルクリリ「うん…聖グロの隊長…」

西「…」

ノンナ「何かお悩み事でも?」

ルクリリ「だって…私って隊長ってガラじゃないもん…」

西「そうですか?」

ルクリリ「そうですよっ! 私よりも"ヴェニフーキさん"っていうもの凄ーく強い人がいるのに…」


エリカ「…」チラッ

ノンナ「…」チラッ


西「ぐっ…!」


278 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:28:35.84 9R9XbWYA0 270/281



ルクリリ「いつの間にかいなくなっちゃうから、ダージリン様やアッサム様は私を選ぶんだもん…」シクシク

エリカ「…」

ノンナ「…」

西「………」

ルクリリ「え…なに? どうしたの…???」

西「…すみません」

ルクリリ「へ?」


エリカ「その、ヴェニフーキっての、聖グロではどんなヤツだったの?」

西「なっ!」

ノンナ「実に興味深いです。同じ砲手として、ぜひ知っておきたいです」

西「の、ノンナさんまで?!」


ルクリリ「んー…そうだなぁ。戦車道に関しては間違い無く聖グロ一だと思うなぁ。アッサム様も認めていたし」

ノンナエリカ「ほう…」チラッ

西「」


279 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:34:53.57 9R9XbWYA0 271/281



ルクリリ「…ただ、性格がちょっとアレで、頑固と思ったら意外に自由人なところもあって、そのせいでよくアッサム様に怒られたかな?」

ノンナ「そうなのですか」チラッ

エリカ「ヴェニフーキってヤツ、意外にやんちゃ娘なのね」チラッ

西「」


ルクリリ「だけどその反面、後輩からすごくウケが良くて、"ブラックプリンスに乗った白騎士"とか"胸のあるイケメン"って密かにファンクラブまで出来てたね」

ノンナ「まぁ。素敵な話ですね」

エリカ「リア充ってやつね」

西「」


ルクリリ「うん。他校の生徒からも好評で、話によると告白した人もいるって話だよ? …本当かなぁ」

ノンナ「本当なのでしょうか?」チラッ

エリカ「本当なのかしらねぇ…?」チラッ

西「」


西「…あー、ルクリリさん?」


ルクリリ「ん?」

西「私、その"ぶえにふうき"殿とやらから言伝を預かっております」

ルクリリ「ふぇ? ことづて?」


西(ヴェニフーキ真似)「我が校にはやたら口達者な小娘がいる」

西(ヴェニフーキ真似)「そいつが良からぬ事を喋るようなら、その口を針と糸で縫い付けろ」


西「…と」

ルクリリ「」

ノンナ「ふふ。ヴェニフーキさんそっくりです」

エリカ「本当よね。近くにアイツがいるかと思わず身構えたほどよ」

西「…やれやれ」


280 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:37:24.82 9R9XbWYA0 272/281



西「まぁ…その、戦車道に関してはダージリンやアッサムさんから指南を受けるとして、あとはお上品な振る舞いをすれば大方大丈夫なのでは?」

ルクリリ「わ、私に上品な振る舞いだなんて…!」

エリカ「出来る出来ないじゃなく"やる"のよ」

ノンナ「数をこなせば必ず身につきますよ」

ルクリリ「そ、そうだけど…うぅ…」

西「何か、悩み事でも?」


ルクリリ「ヴェニフーキさんに丸投げして悠々自適な学園生活を送る私の計画がぁ…」


西「…」ピキッ

エリカ「良いじゃない。その"ヴェ何とか"よりアナタの方が人望があると思えば」

ルクリリ「! そ、そうだよねっ! ヴェニフーキさんなんかよりも私の方が

ゲシッ!!

ルクリリ「あいたっ!? な、なんで今足踏んだの?!」ヒリヒリ

西「…なんか癪に障ったのでつい」イライラ

ルクリリ「うぇぇ…」ヒリヒリ

エリカ「…アンタだんだん暴力的になってない?」

西「気の所為ですよ。そんなことより、ルクリリさん」

ルクリリ「な、何でしょう!」オロオロ




281 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:39:19.84 9R9XbWYA0 273/281


西「こんな格言、知ってますか?」


ルクリリ「えっ…?」

西「"予ハ常ニ諸子ノ先頭ニ在リ"」

ノンナ「陸軍中将の栗林忠道の言葉ですね」

エリカ「ダージリンの真似してるつもり?」

西「"さん"をつけろデコスケ野郎」


ルクリリ「…その格言が一体?」

西「適度な厳しさと優しさがあれば自ずと人はついていきますよ」

ルクリリ「そう…かな?」

ノンナ「ええ。絹代さんの仰ることは至極真っ当な意見です」

エリカ「腐っても知波単学園の隊長だからね」

西「腐ってもは余分です」

ルクリリ「そ、そっか…絹代様も隊長だもんね!」


ノンナ「同い年なのに絹代"様"って呼ばれてるんですね?」

西「ええ…どういうわけか」

ルクリリ「色々あったんですよ。あ、そういえばウチのローズヒップやオレンジペコも"絹代様"って呼んでますよね。他校の人には"さん"付けなのに」

エリカ「…意外に人望あるのね、あなた」

西「…恐縮です」


282 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:40:44.91 9R9XbWYA0 274/281


ルクリリ「よ、よーし! 私も隊長として頑張るぞい!!」オーッ

ノンナ「ライバル校ながら応援しています」

エリカ「試合になったら手加減しないわよ?」

ルクリリ「へへん。ヴェニフーキさんが見たら発狂するくらい立派にまとめあg


ツネッ!


ルクリリ「痛い痛い痛い痛いいだぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

西「調子に乗らない」

ルクリリ「な、なんで絹代様が怒るんですかっ!?」

西「なんとなく癪に障ったものですから、その"ぶえにふうき"殿とやらの気持ちを代弁してみた次第です」

ルクリリ「り、理不尽だぁ…」

エリカ「やっぱりアンタ、確実に暴力的になってるわよ…」

西「気のせいです」

ノンナ「ふふっ」


283 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:46:35.70 9R9XbWYA0 275/281



♪~Расцветали яблони и груши,Поплыли туманы над рекой.....


ノンナ「すみません。同志から連絡です」

ピッ

「……はい…ええ………わかりました。…ええ。テレビはちゃんと明るい部屋で見るように。それと……はい。それでは…」


西「…」

エリカ「…」


ノンナ「あの、名残惜しいのですが、同志から帰還命令が下されたので、私はこれにて失礼します」

エリカ「あら、残念ね」

西「カチューシャさんからですか?」

ノンナ「ええ。お腹が空いたとのことですので。もし宜しければまた…」

西「ええ。またお誘いします」

ノンナ「! 今日は色々とありがとうございました」フカブカ

西「こちらこそありがとうございます」フカブカ

エリカ「まぁ…楽しかったわよ」

西「」グイッ

エリカ「んぐ!? 引っ張るなっ!」フカブカ



284 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 19:53:36.94 9R9XbWYA0 276/281



西「ノンナさんも元気になったようで良かったです」

エリカ「…あの人も口数や表情は少ないけど副隊長として色々苦労しているのでしょうね」

西「ええ。皆何かしら悩みや不安を抱えながら生きてるんですよ」

エリカ「…アンタが言うと妙に説得力あるわね」

西「恐縮です」


♪ Ob's stürmt oder schneit, Ob die Sonne uns lacht, Der Tag glühend heiß


エリカ「…っと、まほさんからだ。ちょっと失礼」

西「了解」


「…はい、かしこまりました。…直ちに戻ります!」



エリカ「…悪いわね。私も"帰還命令"が下されたから今日はここでお暇するわ」

西「ちゃんとノミやダニを落として足を綺麗にしてから家の中に入るんですよ?」

エリカ「犬畜生と一緒にするなっ!!」

西「あははは」

エリカ「全く。…まぁ…」

西「ん」


エリカ「…楽しかったわ。たまにはこういうのも悪くないわね」


西「ええ。戦車道も良いですけど、そればかりでは偏食になりますので、息抜きは必要ですね」

エリカ「そうね。みほが大洗で楽しくやってるのを見て、少し羨ましいと思っただけに、こういう何気ない学生生活が眩しく見えたのかしら」

西「何気ない日常って思っている以上に尊いものですからね」

エリカ「違いないわ。…それじゃ、またお会いしましょう」

西「ええ」


285 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 20:36:07.45 9R9XbWYA0 277/281



西「さて。残るは私だけか…」


ツンツン


西「…ん?」

ルクリリ「(´・ω・`)」

西「んおっ!? る、ルクリリさん!? 」

ルクリリ「…ずっといたのに」シュン

西「え、あ…すみません…?」

ルクリリ「どーせ私は聖グロでも存在感の薄い女ですもん…」

西「ま、まぁまぁ…。ルクリリさんはこの後どうされるんですか?」

ルクリリ「え? うーん。今日は欲しいものゲットしたし、あまり遅いとまた怒られるから帰ろうかな」

西「そうですか」

ルクリリ「あ、絹代様よかったら聖グロに来ない?」

西「え? 宜しいのですか?」

ルクリリ「以前、ダージリン様と一緒にしてたこともあるし、多分大丈夫だと思うよ?」

西「そ、そうですかね…」


286 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 20:41:42.96 9R9XbWYA0 278/281


ルクリリ「大丈夫だよ。空き部屋あるし、ダメだったらウチらが使ってる相部屋もあるからさ!」

西「相部屋?」

ルクリリ「そうだよ。みんなで集まってゲームしたりする部屋するんだ!」

西「ほうほう」


プルルルル プルルルル


西「おっと、ダージリンからだ」

ルクリリ「ん? ダージリン様?」


ピッ


西「はい、絹代です」

ダージリン『絹代さん! あなた病院抜け出して何処にいるのよ?!』

西「わっ! すみません!! 逸見さんやノンナさん達と出かけておりましたっ!!」

ダージリン『…全く。退院したら連絡しろとあれほど言ったのに…』

西「すみません…」

ダージリン『病院の看護婦さんからチャーチルのプロモデル? を渡されたけど、あなたがそんな態度ならコレ、私が勝手に作るわよ?』

西「あっ! ダメです! それまだ作りかけなんですぞ!!」

ダージリン『あらあら。どうしましょうかね?』


西「む! 今から聖グロ行きますから持って来て下さい!」

ダージリン『え? 聖グロリアーナに来るの?』

西「ええ。ルクリリさんに強要されたので行きますよ」

ルクリリ「べ、別に私は強要してないよ!?」


287 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 20:45:50.82 9R9XbWYA0 279/281



ダージリン『ふふ。でしたらいらっしゃい。ちゃんとあなたのお部屋も綺麗にしてあるわ』

西「あはは。恐縮です。でも出来ればダージリンの…」

ダージリン『あらあら…。今度こそ"不純交友"になってしまうわ』

西「む…」

ダージリン『嘘よ。気をつけていらっしゃい。あと、ルクリリにも早く帰ってくるように伝えて下さるかしら』

西「かしこまりでございます! では後ほど」ケイレイ!


ピッ


西「…と、いうわけで聖グロに行きませう」

ルクリリ「だ、ダージリン様何て言ってたの?」オロオロ

西「なんかルクリリさんのおやつは"都こんぶ"とのことですよ?」

ルクリリ「うぇぇぇぇ!?」ガーン

西「まぁ、聖グロに行きましょう」

ルクリリ「都こんぶ…紅茶に合うのかなぁ……」ズーン


288 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 21:00:52.31 9R9XbWYA0 280/281





少し前までは、こんな何気ない学生生活をもう一度送れるなんて思わなかった。

ギスギスした人間関係、ドロドロした疑惑・不信。それらに埋もれて生きるのが精一杯だと思ってた。

今こうして、元通りの生活を送れるようになったのは、あのとき一生懸命戦ったから。

私達が死に物狂いで戦って、そして勝ち取った日常という権利だ。

以前までは当たり前すぎて何も感じなかった平凡な日常だけど、失って初めてその尊さに気が付けた。

だから、これからは平凡だけど有り難い日常を享受しつつ、全速前進で今を生きたい。






「ただいま。ダージリン」

「お帰りなさい。絹代さん」







私と大切な人たちが生きる道を守るために戦ったあの日々を、私はこの先もずっと忘れない。




                                     おしまい。


289 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/10/28 21:02:50.22 9R9XbWYA0 281/281



それではHTML化依頼を出してきます。

前回、前々回につづいて読んでくれた人、レスしてくれた人ありがとうございます。


記事をツイートする 記事をはてブする