空手家「なんだと!?」
剣道家「やるか?」
空手家「今日という今日は我慢ならねえ、決着つけてやる! 勝負だ!」
剣道家「いいだろう」
空手家(こいつは剣道初段だが、俺は空手二段! ……絶対勝てる!)
剣道家「ところで――」
空手家「?」
剣道家「剣道三倍段って知ってるか?」
元スレ
空手家(二段)「勝負だ!」 剣道家(初段)「剣道三倍段って知ってるか?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1516553353/
空手家「なんだそりゃ?」
剣道家「剣道は武器があるから、空手や柔道のような素手で戦う武道が剣道と互角に戦うには」
剣道家「剣道の三倍の段位が必要という意味だ」
空手家「な、なんだと……!?」
剣道家「私は剣道初段、君は空手二段……段位は二倍しかない」
空手家「う!」
剣道家「つまり君では私には勝てないというわけだ」
空手家「そんな……!」
空手家(このままじゃまずい……どうしよう!?)
剣道家「さぁ、始めようか。私が絶対に勝つ戦いをね」サッ
空手家「ちょっと待った!」
剣道家「?」
空手家「試合前に電話をさせてくれ!」
剣道家「まぁ、いいだろう」
空手家「あのー……もしもし」
剣道家(なんだ? 誰に電話をかけてるんだ?)
空手家「空手連盟ですか? あの、今すぐ俺の段位を上げて欲しいんですけど」
空手家「あっ、本当ですか!? ありがとうございます!」
空手家「じゃあ今から俺は四段ということで! はい……はい、ありがとうございます!」
剣道家「え!?」
空手家「待たせたな……」
空手家「たった今、俺は空手四段になった」
剣道家「なんだとォォォォォ!?」
剣道家「ちょ、ちょっと待て! そんなのアリかよ!」
空手家「アリもなにも、空手界のお偉いさんが認めてくれたんだからアリだよ」
空手家「これで俺の段位はお前の三倍以上になったわけだ……始めようぜ」サッ
剣道家(ま、まずい……かくなる上は!)
剣道家「ちょっと待った。私も試合前に電話させてくれ」
空手家「ふん、いいだろう。遺言を残しておくんだな」
剣道家「あのー、剣道連盟の方ですか?」
剣道家「大変申し訳ないんですけど、私の段位を二段にして頂けないでしょうか?」
剣道家「あ、大丈夫? はい、ありがとうございます!」
空手家(こいつ、まさか!?)
剣道家「待たせたな……私は剣道二段になった」
空手家「なんだってェェェェェ!?」
空手家「ふざけんな! 俺のマネしやがって! そんなの認めねえぞ!」
剣道家「君に認めてもらわなくても、誰がなんといおうと、今の私は剣道二段だ」
剣道家「つまり、空手四段の君では勝ち目はない……!」
空手家「く、くそっ……」
空手家「こうなったら……もう一回電話だ!」
空手家「空手連盟ですか? たびたびすみません」
空手家「はい、俺の段位を七段にして欲しいんですが……できます?」
剣道家「え」
空手家「あ、できる? じゃあお願いします! ありがとうございます!」
剣道家「ちょっ……」
空手家「ふふふ、これで俺は空手七段になった。剣道二段なんざ怖くねえ!」
剣道家「ぐ、ぐぐっ……!」
剣道家「だったら私も!」
剣道家「剣道連盟ですか? 私を今すぐ剣道三段にして下さい!」
剣道家「そこをなんとか……はい、はい……ありがとうございます! このお礼は後日!」
空手家「ま、まさか……!?」
剣道家「そのまさかだ。剣道三段にしてもらった!」
空手家「やられたッ!」
空手家「だったらもう一回電話だ!」
空手家「空手連盟さん! 俺を空手十段にして下さい!」
剣道家(十段といったら、最高位のはず……できるわけが……)
空手家「できる? ……ありがとうございます!」
剣道家「ウソォ!?」
空手家「さぁ、どうだ! これで剣道三段にも勝てる!」
剣道家「往生際の悪い奴め……だったらこっちも……!」
剣道家「どうだ! 剣道四段にしてもらったぞ!」
空手家「だったら……!」
空手家「お願いします! 空手十三段にして下さい!」
剣道家「十三段なんて段位はない! できるわけ――」
空手家「できる!? やったぁ! じゃあお願いします!」
剣道家「ちょっとォォォォォ!」
空手家「これで勝てる!」
剣道家「くそっ……かくなる上は……!」
剣道家「剣道五段!」
空手家「空手十六段!」
剣道家「剣道六段!」
空手家「空手十九段!」
剣道家「剣道七段!」
空手家「空手二十二段!」
剣道家「剣道八段!」
空手家「空手二十五段!」
空手師範「何やってんだ、あのバカどもは……段だけ上げても意味ないだろうに」
剣道師範「放っておきましょう。そのうち飽きますよ」
……
……
空手家「ハァ、ハァ、ハァ……」
剣道家「ハァ、ハァ、ハァ……」
空手家「あのさ……もうやめようか」
剣道家「そうだな……」
空手家「段位を上げまくってるうちに、だんだんと争うことの空しさに気づいたよ」
剣道家「私もだ……」
空手家「なにせ武道とは、敵を倒すためでなく己に打ち勝つためのものだからな!」
剣道家「その通り、もうこんな下らない争いはやめよう!」
空手師範「ほう……あの二人、だいぶ成長したようだな」
剣道師範「地位が人を成長させることもあるといいますし、段位が上がったことで」
剣道師範「あの二人も相応に成長したのではないでしょうか」
空手師範「なるほど……あながち無意味でもなかったのか」
それからしばらくして――
キイイイイン……
ゴゴゴゴゴ……
ズウン……
「なんだ?」 「宇宙から巨大な飛行物体が降りてきた!」 「まさか、宇宙人か!?」
ウイーン……
宇宙人「ほっほっほ、地球の皆さん、こんにちは」
宇宙人「これが地球ですか……なかなかの星ですねえ」
宇宙人「さっそくですが、この地球は私の植民地とさせていただきます」
宇宙人「悪く思わないで下さいね」
ザワザワ……
「ふざけるなっ!」 「誰がお前なんかに従うか!」 「宇宙人を追い払うんだ!」
オーッ!!!
しかし――
「強い、強すぎる……!」 「核ミサイルも効かないなんて……!」 「地球は終わりだ……」
宇宙人「ほっほっほ……この程度ですか」
宇宙人「宇宙拳法を極めた私に、あなたがたのチャチな兵器など通用しませんよ」
宇宙人「ちなみに私の宇宙拳法の段位は……530000段です」
宇宙人「この段位になると、拳だけで星を破壊することも可能なのですよ」
宇宙人「おーっほっほっほっほ!」
宇宙人「さぁ、地球人たちよ! 私にひれ伏すのです!」
空手家「ちょっと待った」ザッ
剣道家「真打ちとして、我々が相手をしよう」ザッ
宇宙人「なんですか、あなたがたは?」
空手家「俺は空手の使い手だ!」
剣道家「私は剣道の使い手だ」
宇宙人「あなたがたも武道を習っているのですか、面白い」
宇宙人「では、あなたがたの段位を、このスカウターで計ってみましょうか」ピピピ…
宇宙人「まず、そちらの竹刀を持った方の段位は……」ピピピ…
剣道家「……」
宇宙人「初段? ほっほっほ、この程度の実力で私に挑もうというのですか?」
剣道家「あいにく、それはまだ本気になってない時の段位だ」
宇宙人「なんですって?」
剣道家「いくぞ」ザッ
剣道家「はああああああああ……!」
剣道家「はあああああああああ……!」ゴゴゴゴゴ…
宇宙人「剣道初段……十段……100段……な、どんどん上がっていく!?」
宇宙人「500……1000……3000……5000……10000……50000……!」
剣道家「はああああああああああああああああ……!」シュインシュインシュイン
宇宙人「10万……50万……100万……200万……!」
剣道家「はあああああ……!!!」シュゥゥゥゥゥ…
宇宙人「バ、バカな……剣道300万段ですってぇ!?」
空手家「次は俺だ」ザッ
宇宙人(まさか、こいつも段位を上げられるなんてことは……)
空手家「はあああああああああ……!」ゴゴゴゴゴ…
宇宙人「こいつもどんどん上がっていく……信じられん!」
空手家「ああああああああああああ……!」シュインシュインシュイン
宇宙人「500万……600万……700万……」
宇宙人「空手900万段!? 剣道家のちょうど三倍だ!」
空手家「ふぅ……」シュゥゥゥゥゥ…
剣道家「いっとくがこんなのは序の口だ」
宇宙人「!?」
空手家「俺たちが瞬間的に高められる段位はまだまだこんなもんじゃない」
宇宙人「な、なんですって!?」
宇宙人(こいつら……段位を自由自在にコントロールできるというのか……!)
剣道家「さぁ、どうする?」
空手家「宇宙拳法530000段のお前じゃ、勝ち目は限りなく薄そうだが……」
宇宙人「うぐぐぐ……!」
宇宙人「ふざけやがって! こんなものはスカウターの故障だ!」グシャッ
宇宙人「宇宙拳法530000段の実力、思い知らせてくれる!」ボウッ!!!
宇宙人「きええええええええっ!!!」バシュッ
剣道家「やれやれ、仕方ない」
空手家「相手になってやるよ」
剣道家「次元斬り!」
ザンッ!
宇宙人「うわっ!? 空間に亀裂が……!」
剣道家「剣道300万段ともなると、竹刀で次元を切り裂くことも可能なんだ」
宇宙人「次元を……!?」
剣道家「もし今のを当てていたら、お前の命は異次元の彼方に消え去っていた」
宇宙人「ぐ、ぐ、ぐ……!」
空手家「はぁっ!!!」
ボッ!
宇宙人「ひっ!」
宇宙人(今の正拳突き、寸止めだというのになんという迫力……)
空手家「空手900万段以上の俺が本気で突いたら、小規模のビッグバンを起こすことも可能だろう」
宇宙人「あ、あ、あ……」
宇宙人(文字通り、次元が違いすぎる……!)
空手家「俺たちは武道家だ。無益な殺生は好まない」
剣道家「このまま自分の星に帰り、今までの罪を悔いるなら見逃してやろう……」
宇宙人「……!」
宇宙人「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁっ!!!」
ビューンッ!!!
空手家「終わったな……」
剣道家「ああ、これで悔い改めてくれることだろう」
空手家「段位を上げたら、それに引きずられて俺たちの実力もここまで伸びてるとはな」
剣道家「もし我々の段位が初段と二段のままだったら、地球はあの宇宙人に支配されていただろう」
空手家「あの時、二人で段位を上げられるだけ上げておいてよかったな!」
剣道家「まったくだ」
剣道家「では帰りに、ビールを一杯飲んで帰るか」
空手家「いいねえ! お前が一杯なら、俺は三杯飲まないとな!」
~ END ~