1 : 以下、名... - 2018/05/21 16:15:58.62 YOGuTys40 1/646

初投稿になります。

以下は、この作品を読む前に把握していただきたい事でございます。

1.この作品は、相棒と聲の形のクロスオーバーSS。
時系列は相棒側は、シーズン16第1・2話が終了してから
第8話までの間の11月という設定で、右京さんの相棒が冠城亘君です。
聲の形は、小学生編になります。

2.世界観は相棒寄り。聲の形の年代も相棒側に合わせた形になります。

3.ストーリーの都合で、双方の原作に登場していないオリキャラや独自設定が出て来ます。
苦手な方はご注意して下さい。

最後に、私は聲の形そのものは未見です(そもそも、見る勇気が…)
一応ネタバレ情報等は見ていますが、それでも原作と合わない部分が出てくるかもしれないことをご了承下さい……

元スレ
相棒×聲の形「灯台下暗し」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526886958/

2 : 以下、名... - 2018/05/21 16:16:24.68 YOGuTys40 2/646

―2017年 11月―


岐阜県のとある市で『ある事件』が起きた。

それは、『見落としてはならないもの』を
見落としてしまった者達が犯してしまった大きな過ち……

これは、そんな彼らと関わった2人の刑事の物語である。

3 : 以下、名... - 2018/05/21 16:16:52.46 YOGuTys40 3/646

~相棒シーズン16 オープニング~

4 : 以下、名... - 2018/05/21 16:17:18.33 YOGuTys40 4/646

相棒×聲の形 ~1日目~


ある日、東京から岐阜県水門市を2人の男が訪れた。

1人は眼鏡を掛け、スーツを着た初老の男。

もう1人は、彼より若い男。


初老の男の名は『杉下右京』

警視庁の陸の孤島にして人材の墓場とも言われる『特命係』の係長で、
数々の難事件を解決してきた、本庁きっての切れ者にして変わり者で有名な人物だ。


もう1人の若い男は『冠城亘』

かつては法務省事務次官『日下部彌彦』の下にいたキャリア官僚で、
当初は出向という形で特命係を出入りし、何かと右京に絡んできていたが、
1年前に起きたある事件をきっかけに法務省をクビになり、警察学校に入学。
その数ヶ月後、紆余曲折合って杉下右京の現在の相棒となった。

ちなみに、彼が本格的に特命係入りを果たして、今年で早二年目である。

5 : 以下、名... - 2018/05/21 16:17:48.95 YOGuTys40 5/646

冠城「ここですね」


そんな窓際部署の2人は、とある一軒家に辿り着く。

表札には『伍堂』と書かれてある。

早速、その家の呼び鈴を右京が鳴らすと、中から若い風貌の男性が姿を現した。



若い男性「はい…どちら様でしょうか?」

右京「東京の警視庁から来ました、特命係の杉下右京です」


そう言いながら警察手帳を見せる右京に続いて、
冠城も「冠城です」と名乗った。


右京「交番巡査の伍堂圭三さんですね?」

「警視庁からの命令で、あなたが東京への旅行の際に落とした、警察手帳をお届けに上がりました」


と言って、スーツの中から自分の物とは別の警察手帳を差し出す右京。
それを見て「あぁ、間違いない!僕のですよ!」と言って手帳を受け取る伍堂と呼ばれた男。
今回、特命係に下された命令は、この伍堂刑事に警察手帳を届ける事だったのである。

6 : 以下、名... - 2018/05/21 16:18:25.07 YOGuTys40 6/646

伍堂刑事「ありがとうございます!」

「見付からなかったらクビだと部長から言い渡されて、どうしようかと思っていたところで……」

「本当に、助かりました!」

冠城「お礼は、届けてくれた方に言って下さい」

右京「今度からは気を付けて下さいよ?」

「念押しで常に持ち歩くのは構いませんが、警察手帳は我々警察官の命のようなもの」

「今回は、善良な市民が拾ってくれたから良かったものの、万が一犯罪者の手に渡りでもしたらそれこそ大変です」

伍堂刑事「以後、気を付けます!」


右京の注意を受け、びしりと敬礼する伍堂刑事。

そんな彼に見送られながら、特命係の2人は家を後にした。

7 : 以下、名... - 2018/05/21 16:19:06.44 YOGuTys40 7/646

冠城「しっかし、旅行先で警察手帳落とすなんて、間抜けにも程があると思いませんか?」

右京「もっともな意見です。後は、気を付てくれるようになる事を祈るしかありません」

冠城「それにしても、内村刑事部長も面倒なお使いを頼んだものですね……」

「いち早く届けなければならないものだったとはいえ……」

「何も、東京から離れたこんな所に、わざわざ俺達送り込む必要ないんじゃないですかね?」

「持ち主も分かってるんだし、郵送で送ればいいのに」

右京「あの方の事ですから、恐らくそれすら面倒だったのでしょうねぇ…」

冠城「ところで…ちょっとお腹空きません?」

右京「言われてみると……」

冠城「じゃあ、早速近場の店でも探しましょうか?」

右京「構いませんが、出来る限り安いお店をお願いします。
僕達は、観光に来たわけではありませんからねえ」

冠城「ホント、真面目ですね。少しくらい羽目を外しても罰は当たりませんよ」


と言いつつ、冠城はスマホを取り出して、近場の安い店を探し始めた。

8 : 以下、名... - 2018/05/21 16:19:56.84 YOGuTys40 8/646

右京「…?」


その時であった。右京がふと、側にあった小学校の裏門目を向けてみると、
門の向こうで小学6年程度の3人の少年の姿が目に留まる。

それ自体は、特に何でもなかったが、問題は少年達の様子……

3人の内2人が、1人の少年に暴力を振るっていたのだ。


右京「冠城君…!」

冠城「どうしたんで……あっ!」


右京の声掛けで目の前で起こっている事に気付いた冠城は、店を探すのを中断。
すぐさま2人の少年に向かって「君達、何してるんだ!」と叫ぶ。
その声に反応した2人の少年は、まずい…!と言った様子でその場から逃げ出した。

9 : 以下、名... - 2018/05/21 16:22:08.02 YOGuTys40 9/646

少年「………」


一方、暴行を受けていた少年は、その場からフラフラと立ち上がりながら、
門の向こうにいる右京達にゆっくり顔を向ける。


右京「大丈夫ですか?」

冠城「酷い怪我だね…一度保健室で診てもらった方がいいよ」

右京「僕達も一緒に行って先生に相談してあげますよ」

少年「……」


優しく声を掛ける特命係の2人であったが、少年は何も言わずにフラフラと立ち去った。
予想外の反応に、冠城は不思議がる。


右京「?」


一方、右京はある事に気付く。向こうにある体育館らしき建物の陰から、
限りなくピンク色に近い茶色の髪をしたショートボブカットの少女が覗き込んでいたのだ。
だが、その少女は右京に見付かったのに気付いたのか、すぐに建物の陰に姿を消してしまう。


冠城「どうしました?」

右京「いえ……何も」

冠城「それにしても今の……ただ事じゃありませんでしたね」

右京「そうですねぇ……」

冠城「腹ごしらえの前に、立ち寄りますか?ここ……」


問い掛ける冠城。

右京の答えは、言うまでも無くYESであった。

10 : 以下、名... - 2018/05/21 16:23:21.80 YOGuTys40 10/646

―水門小学校 校長室―


水田校長「私が、校長の水田門木です」


校長室に招き入れられた特命係の2人に自己紹介をし、お辞儀をする水田校長。
それに対して、特命係の2人もお辞儀し返し、水田校長に促されて椅子に腰かける。


水田校長「警察の方が、何のご用でしょうか…?」

右京「実は、少しばかり確認したい事がありましてね…」

水田校長「確認……ですか?」

右京「つい先程、校舎内でこちらの学校の生徒さんが、別のクラスか同じクラスかは分かりませんが……」

「2人の生徒さんから、暴力を振るわれているところを見掛けました」

「そこで、この学校で何が起こっているのか、確かめようかと……」

冠城「申し訳ありませんね。細かい事が気になる方でして」

水田校長「…………」


右京の問いに、水田校長は顔を曇らせた。

11 : 以下、名... - 2018/05/21 16:23:54.23 YOGuTys40 11/646

冠城「……?」


その様子に冠城は怪訝に思う。

一方、校長はそれに気付かないままこう答えた。


水田校長「多分……喧嘩か何かでしょう」

右京「喧嘩?」

水田校長「はい…当校では、生徒が他の児童に暴力行為を行ったと言う事実は、確認されていません」

「しかし、年頃の子供も多いですからね……ちょっとした事で、衝突を起こすといった事はあると思いますよ」

右京「なるほど…ちょっとした衝突による喧嘩ですか………」

冠城「となると、思いの外大した事ではなかったって訳ですね?」


冠城の言葉に水田校長は「はい…」と答えた。


右京「お忙しい所、お時間を取らせてしまいました…」

水田校長「いえ構いません。これも、あなた方の仕事でしょう……?」

冠城「そうですね。じゃ、行きますか?」

右京「えぇ…これで、失礼します」


こうして右京は、冠城と一緒に校長室を後にしようと立ち上がったが……

12 : 以下、名... - 2018/05/21 16:24:59.36 YOGuTys40 12/646


右京「あ…!最後にひとつだけよろしいですか?」

13 : 以下、名... - 2018/05/21 16:25:36.40 YOGuTys40 13/646

と言って、また校長にある事を聞いた。


右京「この学校で、他に何かしらのトラブルがあった事はありませんでしたか?」

「例えば、先程の男の子の件とは別に、いじめもしくはそれに相当する事案があったとか……」

水田校長「…………いいえ」

右京「そうですか…」


一言そう答えると、右京は冠城を連れて校長室を後にした。

それを確認すると、水田校長は自分以外誰もいなくなった室内で
「ふぅ……」と、まるで肝が冷えるような状況から脱したかのように、安堵の表情を浮かべていた。

14 : 以下、名... - 2018/05/21 16:31:51.78 YOGuTys40 14/646

―水門小学校 廊下―


校長室を後にした特命係の2人が、外に向かって歩いていたその時であった。


???「だから何度も言ってるだろう!お前にアイツらを糾弾する資格は無い!」

右京冠城「「?」」


突然、向こうから誰かの怒鳴り声が聞こえる。

何事かと思いその先に向かい、覗き込んでみると、
そこには先程の少年が、教師と思われる眼鏡を掛けた男性と向かい合っている。
一応、少年は手当てを受けたらしく、顔中絆創膏だらけ。

だが、教師らしき男性は彼に対し、何故かあまりいい顔をしていない。

それだけにとどまらず、こうも言い放った


教師「これはお前がまいた種だ!自分でやった事は、自分でどうにかしろ!」

少年「け、けど……」

教師「何だ?文句があるなら、言ってみろ」

少年「…………」

教師「無いならさっさと教室に戻れ!次の授業に間に合わんだろ」


教師に吐き捨てられ、少年は何も言い返さずに教室に戻っていく。
その一部始終を、特命係の2人は隠れて静観する。

そして……

15 : 以下、名... - 2018/05/21 16:32:33.74 YOGuTys40 15/646

少女「……………」

右京「……」


右京はまた、あの少年の姿を心配そうに見ている少女の姿を目撃するのであった。

16 : 以下、名... - 2018/05/21 16:34:51.23 YOGuTys40 16/646

その後、校舎から離れた特命係の2人は、近場に飲食店で食事をとる事になった。


冠城「どうです?あなたのご注文通り、近くて安いお店を探してあげました」

右京「確かにそうですが……」

冠城「そうですが……何か?」

右京「この料理…明らかに君好みのものではありませんか?」

冠城「別にいいじゃないですか。パイナップル入りの酢豚がある訳じゃあるまいし…」

右京「そういう問題ではないですがねぇ……」


そのようなやり取りを交わしつつ、淡々と料理を口にしていく特命係の2人。

その途中、冠城はいきなり「右京さんは、どう思います?」と問い掛けた。

17 : 以下、名... - 2018/05/21 16:37:16.96 YOGuTys40 17/646

右京「何がですか?」

冠城「何がって…さっきの事ですよ」

「率直に言って、俺はあの校長は怪しいと考えています」

右京「怪しい、ですか……」

冠城「えぇ……」

「あの2人の少年が彼にしていた事は、喧嘩にしては明らかに度が過ぎてる感じだったし…」

「何しろあなたに問い掛けられた時、あの校長の顔色は明らかに変わっていました」

「そこで俺が考えたのは、『学校があの少年へのいじめを知りながら、見て見ぬ振りをしているではないか?』ということなんですが……」

右京「確かに、色々と気になる点があるのは事実です。しかし、ひとつ分からない事があります」

冠城「分からない事って?」

右京「先程の少年の担任と思われる教師の言葉です」

「あの時彼は、『これはお前がまいた種だ!自分でやった事は、自分でどうにかしろ!』と言っていました」

「それも、あんなに傷だらけな少年を前にしてです」

18 : 以下、名... - 2018/05/21 16:38:35.95 YOGuTys40 18/646

冠城「確かに、なんか引っ掛かりますね」

右京「いずれにせよ、あの学校が何か隠しているのは、間違いないでしょう」

冠城「それをはっきりさせないと気が済まない」

右京「えぇ…」

冠城「そう来なくちゃ、面白くありませんね」

右京「冠城君…遊びではありませんよ?」


右京の突っ込みに、冠城は「分かってますっ!」と返す。


冠城「で?次は何処当たるつもりですか?」

右京「その事ですが、もう決めてあります」

冠城「何です?」

右京「それはですねぇ……」

19 : 以下、名... - 2018/05/21 16:42:15.48 YOGuTys40 19/646

数時間後……

水門小学校は下校時間になり、生徒達が次々と正門から出て家路に就く。
その様子を、特命係の2人が遠くから隠れて覗いている。


冠城「どうして、下校中の子供達を見張らなくちゃならないんです?」

右京「…………」

冠城「ここで待ち構えて、さっきの少年を捕まえて話を聞き出すという算段ですか?」

右京「………………」

冠城「まあ確かに、方法としてはありかもしれませんが……」

右京「君……少し黙っててくれませんか?」

冠城「すみません……」


と言って頭を下げる冠城。

20 : 以下、名... - 2018/05/21 16:42:54.34 YOGuTys40 20/646

右京「…来ましたよ」

冠城「え…?」


その直後、目当ての子供が学校から出てくる。
それは、先程少年の様子を見ていた少女であった。

少女は、特命係の2人が見張っている事に気付かないまま、家路に就く。


冠城「女の子?」

右京「行きますよ」

冠城「あ…はい!」


予想外の相手に戸惑いつつも、冠城は右京と共に彼女を尾行する。

一見すると、普通に歩いて帰っているように見えるが……

21 : 以下、名... - 2018/05/21 16:48:39.65 YOGuTys40 21/646

冠城「………あの娘、やけにキョロキョロしてません?」


冠城の言う通り、少女はやたらと周囲を気にしながら歩いている様子であった。


右京「確かにそうですねぇ……」

冠城「まさか、俺達の気配に勘付いたとか?」


早くも尾行がバレたと考える冠城。その時、彼の横を自転車に乗った男性が走り抜ける。
運が悪い事に、男性の行く先には、尾行中の少女がいた。

しかし、男性は曲がるのが面倒なのか、
避ける気配がなく代わりにベルを鳴らして自分の存在を知らせている。


少女「…」


だが、何故か少女は振り返らず、まるで何事もないかの如く前進している。


冠城「危ない!」


冠城の声と共に特命係は助けに出ようとしたが、
尾行の為に距離を取っていたせいだろう、間に合わなかった。

22 : 以下、名... - 2018/05/21 16:52:28.39 YOGuTys40 22/646

キキ――ッ!

が、男性の方が寸での所で急ブレーキを掛けた為、衝突は避けられた。


少女「!!」


そして、ようやく自分の後ろに自転車が来ていた事に気付いたのだろう、
少女は男性の方に振り返り、驚いている。

その際、右京は彼女の耳に注目したのだが、この時誰も気が付いていない。


男性「馬鹿野郎!何であんだけ鳴らしたのに避けねぇんだよ!今度から気を付けろ!!」


怒鳴り付けてくる男性に対し、少女は無言で頭を下げている。
そんな彼女の様子を確認すらしないまま、男性は走り去った。
彼が走り去るのを確認すると、少女は再び歩き出す。

23 : 以下、名... - 2018/05/21 16:55:28.30 YOGuTys40 23/646

右京「…大事に至らなくて良かったですね」

冠城「しかし、感じ悪い人でしたね」

「目の前に人がいると分かってるんだから、自分の方から避ければいいのに……」


男性の行動に呆れ返る一方、冠城はある疑問を抱く。


冠城「けど…何であの娘、ベルの音に気付かなかったんでしょうか?あれだけ鳴らされたら、普通誰だって気が付くのに……」

右京「どうやらあの娘、耳が不自由なようですよ」

冠城「何でそんなこと分かるんですか?」

右京「今、ほんの一瞬だけ耳に補聴器を入れているのが見えたもので……」

冠城「相変わらず、細かいところに目が行くこと……」

右京「君もせっかく鼻が利くのですから、視野も広くなくては困りますよ」


右京の言う事に冠城は「出来る限り精進してみます」と答えた。

それと同時に、彼女がやたらと周囲を気にしているのに納得がいった。
音がよく聞こえない以上、他に頼れるのは自分の目だけ。
だからこそ、周囲に気を配らねばならなかったのだろう。

24 : 以下、名... - 2018/05/21 17:00:05.47 YOGuTys40 24/646

そんな事がありつつも、2人は少女の尾行を続けた。

尾行の末、彼らは一件のマンションに辿り着く。
彼女の入っていったマンションを前に、冠城が「ここがあの娘の家ですか…」
と呟く一方、右京はマンションに向かって歩き出す。


冠城「あ、ちょっと待って下さいよ!」


自分を置いて先に進む上司の後を、冠城は急いで着いて行く。
彼らが向かったのは、マンションの管理人室。

そこで、マンションの管理人と対面する。

25 : 以下、名... - 2018/05/21 17:01:20.06 YOGuTys40 25/646

管理人「私が管理人の者です」

右京「どうも…警視庁特命係の杉下右京です」

冠城「冠城亘です」


特命係の2人は、名乗りながら警察手帳を管理人に見せた。


管理人「警察の方が、ウチに何のご用で…?」

右京「実は、お会いしたい方がいらっしゃいましてねぇ……」

管理人「お会いしたい方?どちら様で?」

右京「こちらのマンションに、『西宮さん』と言う方は住んでいらっしゃいますか?」

管理人「西宮……えぇ、確かに住んでますよ。何か、御用で?」

右京「大した事ではありません。少し、確認したい事があるだけです」

冠城「何はともあれ、西宮さんのお宅に案内してくれませんか?」

管理人「分かりました」


こうして、特命係の2人は西宮家の前に案内された。

26 : 以下、名... - 2018/05/21 17:02:02.73 YOGuTys40 26/646

管理人「こちらです」

右京「どうもありがとう……」

冠城「今回の事は、我々が本部に直接お伝えしますので、後はお任せ下さい」

管理人「分かりました。どのような事情があるのか知りませんが、お仕事頑張って下さい」


そう言い残して、管理人は立ち去った。

27 : 以下、名... - 2018/05/21 17:02:41.91 YOGuTys40 27/646

冠城「……さて、そろそろ話してくれませんか?」

右京「何をですか?」

冠城「とぼけないで下さい」

「何で急に、あの娘を尾行しようなんて話しになったんです?」

「おまけにあの娘の名前……いつ知ったんですか?」

「俺達、まだ一度もあの娘と会ってないはずなんですが」

右京「実は、先程あの少年の様子をあの娘が覗いているのが見えましてねぇ……」

「彼女が何か知っているのではないかと思ったんです」

「その上、胸のところに名札をしていました。名前はそこから…」

冠城「本当に細かい所に目が行きますね」

「とはいえ……目の付け所はいいと思いますよ?」

「隠し事をしようとしている人や被害者本人をつつくより、目撃者に当たった方が情報を得られる確率は高いですからね」

右京「分かったのならば、行きますよ」

冠城「はい」

28 : 以下、名... - 2018/05/21 17:03:20.36 YOGuTys40 28/646

ピンポーン!

一通り話しを終えると、特命係の2人は西宮宅の呼び鈴を鳴らす。
すると、1人の老婆が玄関の扉を開けて顔を出す。

この家に暮らす少女の祖母『西宮いと』である。


いと「はい?」

右京「西宮さんですか?」

いと「そ、そうですが…あなた方は?」

右京「東京の警視庁から来ました、特命係の杉下右京です」


伍堂刑事の時と同じ要領で名乗りながら警察手帳を見せる右京と、
それに続いて「冠城です」と名乗る冠城。

唐突な警察官の訪問に、いとは目を丸くした。

29 : 以下、名... - 2018/05/21 17:12:06.85 YOGuTys40 29/646

いと「あの…警察の方が、どうして?」

右京「お宅にいらっしゃる娘さんに、用がありましてねぇ…」

冠城「もう学校も終わってる時間ですし、戻られていますよね?」

いと「え、えぇ…しかし孫に何のご用が?」

右京「大した事ではありません。少し、お話しを聞きたいもので…」

いと「とにかく、外で立ち話も何ですので、中へどうぞ…」

右京「お心遣い、感謝します」

冠城「お邪魔させて頂きます!」

30 : 以下、名... - 2018/05/21 17:13:32.70 YOGuTys40 30/646

いとに案内され、西宮宅に上がり込む特命係の2人。
すると今度は、黒髪のショートヘアーのボーイッシュな出で立ちの少女が待っていた。

少女の3歳年下の妹『西宮結絃』である。


結絃「婆ちゃん、その人達誰?」

いと「警察の方よ。ウチの娘に用があるみたいなのよ」

結絃「それって……ひょっとしてオレ?」

右京「残念ながら違います。君より3歳くらい年上の娘の方で……」

結絃「それって姉ちゃん?」

冠城「そんな所だね……」

結絃「それじゃあ、オレ呼んでくるから、その間そこで婆ちゃんと一緒に待ってなよ」


結絃はそう言って姉を呼びに向かっていった。

31 : 以下、名... - 2018/05/21 17:14:21.26 YOGuTys40 31/646

いと「やれやれ、気が早いね……」

冠城「いえ…むしろ大助かりですよ」

右京「それにしても、随分とボーイッシュなお孫さんですねぇ…」

いと「おや…ゆずが女の子だと分かるんですか?」

右京「えぇ……」

「髪も短く服装も男性的で、パッと見た感じ男の子に見えますが」

「目元や唇、顔の輪郭等に少女としての特徴が見えたものでして……」

いと「これはまた、随分と細かいところに目を付けたこと……」

右京「そういう所を気にしてしまう性分でして……」

冠城「しかし…あの娘、あれですよね?今時で言うその、僕っ娘……的な、そういうのですよね?」

いと「………」


冠城の言葉に、いとは何故か表情を曇らせた。

32 : 以下、名... - 2018/05/21 17:15:50.68 YOGuTys40 32/646

いと「それだけなら、まだ良かったんですがね……」

冠城「え…?」

いと「何でもありません。こちらの事です……」

「ゆずが、もう1人の孫を連れて来るまで居間の方で待っていて下さい」


こうして特命係の2人は居間に案内され、自家製のしそジュースを振る舞われる。
それから少しすると、ショートボブカットの少女が結絃の手で彼らの前に連れて来られる。

彼女こそ、暴行を受けた少年を見つめていた少女だ。

33 : 以下、名... - 2018/05/21 17:16:35.33 YOGuTys40 33/646

結絃「ほら、これがお姉ちゃんに用事がある刑事さんだよ」

右京「どうも初めまして。特命係の杉下右京です」

冠城「冠城亘です」

少女「…………」


自己紹介をする特命係の2人に対し、
少女は何も喋らず、代わりに両手で何かしらのジェスチャーを見せた。

34 : 以下、名... - 2018/05/21 17:17:46.91 YOGuTys40 34/646

冠城「?」

結絃「刑事さん、手話分かんないかな?」

冠城「ごめんね…こう言う子とは、筆談でしか会話した事なかったから……」

「ちなみに…何て言ってたの?」

結絃「『始めまして、私の名前は西宮硝子です』だよ」

右京「西宮硝子ちゃんと言うのですか…」

冠城「硝子ちゃんは、喋る事も出来ないんですね」

いと「全く喋れない訳ではありません」

「しかし、生まれ付き耳が不自由だったことが祟って、正しい声の出し方が分からないもので……」

結絃「だからさ、刑事さん達には悪いけど、オレが通訳やるから、お姉ちゃんに何聞きたいのか話してくれない?」

35 : 以下、名... - 2018/05/21 17:18:48.20 YOGuTys40 35/646

右京「その必要はありませんよ」

結絃「え?」


予想外の答えに結絃はキョトンとする。

そんな彼女をよそに、右京は硝子の前に立ち目線を合わせると、
笑顔を浮かべながら手話で


「僕は特命係の杉下右京。あちらにいるのは、冠城亘君…」

「今日は、君にお話しがあってここに来ました」


と伝える。

極々自然に手話を使う右京の姿に結絃は驚いた。

36 : 以下、名... - 2018/05/21 17:19:17.10 YOGuTys40 36/646

結絃「す、凄い!刑事さん、手話出来るの?」

右京「彼と違い、いかなる相手ともコミュニケーションを取れるよう、必要最低限のスキルは身に着けているもので……」

冠城「右京さん……今、さり気なく僕の事けなしませんでした?」


と冠城は突っ込んだが、右京は無視して手話で硝子との会話を始める。

37 : 以下、名... - 2018/05/21 17:22:58.86 YOGuTys40 37/646

右京「硝子ちゃん……今から僕の質問に、正直に答えて下さい。いいですね?」


手話を交えながらの指示に梢子は「分かりました」と手話で伝える。


右京「今日、君の通っている学校でいじめられている男の子を見かけました」

「君は、その男の子の事を心配そうに見ていましたね?」


右京の問い掛けに、硝子は少し表情を濁しながら「はい…」と手話で答えた。


右京「一体彼は何故、あんな事になってしまったのですか?

「彼の事を見ていた君なら、何か事情を知っていますよね?」


更なる質問を掛ける右京。
だが、硝子は複雑そうな表情を浮かべ、手話をやる手を止めてしまう。

39 : 以下、名... - 2018/05/21 17:25:57.33 YOGuTys40 38/646

いと「おや…どうしたんだね?」

硝子「………」


中々その先を話そうとしない硝子。
その様子は、心を痛めているように見える。

一方、右京の手話を見ていた結弦は、何かに気付いたかのように右京にある事を聞く。


結絃「刑事さん……横から悪いけど、そのいじめられていた男の子ってどんな奴だった?」

右京「そうですねぇ…黒く、ボサボサした髪をしていて、少しばかりつり目な印象受けました」

結絃「ボサボサ頭のつり目……」


「もしかして……『石田』かな?」

40 : 以下、名... - 2018/05/21 17:26:25.86 YOGuTys40 39/646

右京「石田?」

結絃「石田将也……お姉ちゃんをいじめてた野郎さ」

「ひょっとして刑事さん達、お姉ちゃんが学校でいじめられた事、調べてるの?」

右京「はいぃ?」


結絃の言葉に、右京らは疑問の表情を浮かべた。

41 : 以下、名... - 2018/05/21 17:27:28.36 YOGuTys40 40/646

結絃「違うのか?」

右京「確かに、僕達が調べているのは、あの学校で起こっているいじめの事ですが…」

冠城「僕達は、男の子がいじめられている事実を確認しようと、硝子ちゃんに話を伺いに来ました」

「だから、硝子ちゃんがいじめられていたという話しは、初耳です」

右京「一体、どういう事なのでしょうか?差し障りがなければ、お教え頂けませんか?」

いと「えぇ…」

42 : 以下、名... - 2018/05/21 17:27:58.80 YOGuTys40 41/646

そう言っていとは、事の経緯を語り始める。


梢子があの学校の6年2組へ転校したのは、今年の4月頃……

その時は、特にこれと言った異変はなかったのだが、6月頃から何かがおかしくなり始めた。
硝子がずぶ濡れで帰ってきたり、筆談用に持たせたノートや靴を紛失したり……
挙句の果てには補聴器の紛失と故障が8回、それに伴って耳を負傷するという事態が発生。
そこで硝子と結絃の母親が、学校側を問い質したのだという。

43 : 以下、名... - 2018/05/21 17:30:06.53 YOGuTys40 42/646

いと「そこで開かれた生徒会で、石田君が犯人である事が判明したんだそうです……」

右京「そうでしたか…」

冠城「しかしその石田君、どうして硝子ちゃんをいじめたんですかね?」

「8回も補聴器に手を出すなんて、さすがにやり過ぎだと思いますよ」

結絃「決まってんじゃないか。お姉ちゃんが耳悪いから、その事バカにしてたんだよ!」

「オレも、アイツが姉ちゃんの補聴器捨ててるとことか見たし!」


結絃の一言に特命係の2人は、硝子の身に何が起きたのか大体把握できた。

人は、自分と大きく異なるものを見ると、
珍しがってちょっかいを出したり、排除しようとしたりするもの。

要するに、石田は硝子の聴覚障害をネタに彼女をいじめていたのだろう。

そう思う一方で、右京の脳内に『ある疑問』が渦を巻き始める……

44 : 以下、名... - 2018/05/21 17:31:02.30 YOGuTys40 43/646

いと「ゆず……落ち着きなさい。その事はもう終わったんだから………」

結絃「け、けど……」

冠城「終わったって?」


結絃をたしなめるいとの一言に、疑問を呈する冠城。

45 : 以下、名... - 2018/05/21 17:31:28.41 YOGuTys40 44/646

???「ただいま」


その時であった。1人の女性が部屋にこの家に入ってきたのである。
彼女こそ、梢子と結絃の母親である『西宮八重子』だ。


結絃「……!」

いと「おや八重子、今日は随分と早かったねぇ」

八重子「今日は色々とあってね…あら?あなた達は?」

右京「どうも…警視庁特命係の杉下です」

冠城「冠城です…諸々の事情があって、お邪魔させてもらっています」

八重子「ふーん……?」


特命係に対して無関心そうに振舞う八重子であったが、硝子がこの場にいる姿を見て顔色を変える。

46 : 以下、名... - 2018/05/21 17:33:39.45 YOGuTys40 45/646

八重子「硝子!アンタ、宿題は終わったの?」

硝子「あ……ぅ………」

八重子「その様子だとまだなようね。さっさと部屋に戻りなさい!」

冠城「あ…あの、奥様?僕達、彼女に用事がありましてね……」

八重子「うるさいわね!アンタ達には関係ないことよ!」

結絃「ちょっと母さん!この刑事さんの話しも聞いてやりなよ!」

八重子「アンタもうるさいわね!」

「大体、何で警察がウチに上がってるのよ?ウチは、何もやましい事やってないわよ!」

「ほら硝子!部屋に戻りなさい!」


そう怒鳴り散らした末、八重子は硝子を無理矢理自室に引っ張っていった。

47 : 以下、名... - 2018/05/21 17:34:31.83 YOGuTys40 46/646

結絃「クソ!アイツめ……!」

いと「これ、ゆず……」

「刑事さん、娘の八重子が不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません……」

冠城「いやいやいや!不快だなんてとんでもない!」

右京「いきなり上がり込んだのは、事実ですからねぇ…早々に退散させてもらいます」

「硝子ちゃんも、少しばかり話すのを躊躇っている様子でしたし、無理強いは出来ません」

「また、日を改めてお伺いします……」

いと「え、えぇ…」


こうして、申し訳なさそうないとを背に、特命係の2人は西宮宅を後にする。

その後、いとは心配そうに……

結絃は恨めしそうに……

それぞれ違う表情で、母親に無理やり連れていかれた
硝子の部屋の扉を無言で見つめるしかなかった。

48 : 以下、名... - 2018/05/21 17:38:39.60 YOGuTys40 47/646

―水門市内―


冠城「まさか、あなたに手話の心得まであったとは驚きです」

「あなたの事ですから、耳の不自由な人間が関わった件がいくつかあってもおかしくないとは、思っていましたが……」

「その手の方と直接会話する術を、きちんと持っていたんですね?」

右京「かくいう君は元はキャリア官僚だったんですから、手話のひとつくらいは出来なくてはならないと思うんですがねぇ……」

冠城「申し訳ありませんね。あなたと違い、幽霊やプリキュアに関心を持てる程の多趣味性がないものでして……」

右京「冠城君……前者はともかく、後者はあの時の捜査に必要だったから調べただけであって、大して興味があった訳ではありませんよ」

冠城「大して興味がないのなら、シールになっている人物が何のアニメのキャラクターなのか特定するのに、結構時間が掛かるはずです」

「しかし、俺の記憶が正しければ、あなたは写真に映ったあのシールを見てから」

「あのキャラクターがプリキュアである事を特定するのに、あまり時間が掛からなかったような気がするんですが……」

「そこのところ、どうなんです?」

右京「…………」


冠城の問いに、右京は何も答えなかった。

黙秘を実行した上司に、冠城は先程けなされた仕返しが出来たような気分になるが、
「まあ、その事はともかく……」と言って気持ちを切り替える。

49 : 以下、名... - 2018/05/21 17:40:45.45 YOGuTys40 48/646

冠城「右京さんはどう思いました?硝子ちゃん達のお母様の態度……」

「確かに唐突に上がり込んだのは俺達だし、2人の刑事2人がいきなり上がって来たと知ったら」

「最初のお婆様みたく自分達が疑われてるんじゃないかと勘ぐってしまうのは、まあ分かりますが……」

「だからといって、あんなに言うことないと思いませんか?」

右京「確かにあまりにも辛辣ではないかと、僕も思います。ただ……」

冠城「ただ?」

50 : 以下、名... - 2018/05/21 17:41:15.03 YOGuTys40 49/646

右京「あのお母様からは、何かしらの『意思』を感じました」

冠城「意思ですか?」

右京「ご本人は、厳しい顔のままでいるつもりだったようですが、僕には彼女の目から強い意思が宿っているように見えました」

「それが何なのか、現段階では見当が付きませんが、障害を持つお子様がいらっしゃる家庭です。何か複雑な事情があってもおかしくはない……」

冠城「ああいう家庭は、デリケートな面が多いですしね」

「ただ、それなら何で硝子ちゃんは、あの学校に通ってるんでしょう?」

「あの水門小って学校、見た感じ普通の学校ですよね?」

右京「その点も気になりますが、今重要なのはそちらではありません」

冠城「あの少年の事ですね」


冠城の言葉に右京は「えぇ…」と答えると、こう続ける。

51 : 以下、名... - 2018/05/21 17:44:53.76 YOGuTys40 50/646

右京「この一連の調べで、あの子の身に起きた出来事の背景が少しずつ見えてきました」

「結絃ちゃんの話しが正しければ、あの少年の名前は石田将也……当初彼は、西宮硝子ちゃんをいじめていた」

「最初はただちょっかいを出しているだけだったのか、それとも始めからいじめに相当する行為だったのか……」

「いずれにせよ、石田君は硝子ちゃんが難聴である事を理由に嫌がらせを行った」

「その行為が積みに積み重なり、とうとう彼女の補聴器を8度に渡って故障・紛失させ、その上耳を負傷させる事態にまで発展させてしまった」

「恐らく、昼間彼の担任と思われる方が言っていたのは、この事を指していたのでしょうねぇ……」

冠城「この事から石田君は硝子ちゃんをいじめた事で、クラス内から報復を受けている可能性が高い」

「となると、あれは石田君の自業自得と言う事になりますが……」

52 : 以下、名... - 2018/05/21 17:47:01.88 YOGuTys40 51/646

右京「そうだった所で、あのようなやり方が許されると思いますか?」

「それに、今日我々が知ったのは、硝子ちゃんと石田君がいじめを受けていたと言う大まかな事実だけ……」

「詳しい状況を把握した訳ではありません」

「硝子ちゃんいじめの報復と断定するのは、あまりにも早過ぎる」

冠城「俺達、まだ石田君本人に話を聞いていませんしね」

「それに、『もう終わった』という西宮さん達の言葉も気になるし……」

「……ん?」

53 : 以下、名... - 2018/05/21 17:48:11.87 YOGuTys40 52/646

その時であった。噂をすれば何とやらか、向こうの道を昼間見た少年……
即ち、石田将也がトボトボ歩いている姿を特命係の2人は発見する。

昼間の暴行の跡である、顔の絆創膏が相変わらず痛々しい。

そんな印象を彼らが抱いていると、石田は一件の店に入っていく。

それは『HAIR MAKE ISHIDA』と書かれた看板がある床屋であった。

54 : 以下、名... - 2018/05/21 17:48:56.37 YOGuTys40 53/646

冠城「HAIR MAKE ISHIDA(ヘアメイクイシダ)……」

右京「恐らく、ここが彼の自宅でしょう。そして、看板にイシダとあると言う事は……」

冠城「やはり、彼が石田将也君で間違いない…」

右京「…冠城君」

冠城「何ですか?」

右京「至急、今夜泊まる宿を探して下さい」

55 : 以下、名... - 2018/05/21 17:50:25.60 YOGuTys40 54/646


「東京に帰るのは、まだ少し先になりそうです」

56 : 以下、名... - 2018/05/21 17:53:14.44 YOGuTys40 55/646


冠城「了解……」

57 : 以下、名... - 2018/05/21 17:55:42.03 YOGuTys40 56/646

1日目(第1話)はここまでになります。
次回は、石田周りを攻めて行きます。

以下は補足


その1.伍堂圭三。

本作のオリジナルキャラクターです。名前の元ネタは特にありません。
当初は伍堂啓介にする予定でしたが、広瀬啓介と被るので現在の名前に変更したという経緯があります。
ちなみに彼、今後もストーリーに絡んできますのでお忘れなく。

その2.水門小学校の校長。

聲の形公式のキャラクターですが、原作アニメでは名無しの権兵衛でした。
当SSでは、名前が無いと少し不便かなと思い、勝手に名前を追加させてもらいました……
ちなみに、水田門木と言う名前にこれと言った元ネタは無く、
水門小学校の水門の響きから適当に着想したものです。

それと、右京さんが手話できるのはシーズン5元日スペシャルで披露された公式設定です。
また、聲の形側の月数はネットで調べた考察を参考にしているので、
原作と違うかもしれません事をご了承ください……

58 : 以下、名... - 2018/05/21 17:56:16.26 YOGuTys40 57/646

とりあえず、今日の更新は以上です。
今後、不定期に更新していく予定でございます。

初投稿ゆえに色々と不慣れなところがありますが、どうぞよろしくお願いします…

63 : 以下、名... - 2018/05/27 11:56:44.37 1GsLvrze0 58/646

相棒×聲の形 ~2日目~


翌日の朝……

西宮宅では硝子は朝食を終え、服を着替えて学校に行く時間になっていた。


硝子「………」


だが、硝子は1人気乗りしない表情を浮かべている。
そんな彼女が自身の脳裏に浮かべているのは、昨日いじめられたり、
教師に突き放されたりしていた石田の姿……

そして、その事を調べに来た右京の顔であった。


八重子「硝子!学校に行く準備は出来たの?!」


それを遮らんと言わんばかりに、怒鳴るような声と共に八重子が姿を現す。

64 : 以下、名... - 2018/05/27 11:57:13.85 1GsLvrze0 59/646

八重子「もう出来てるじゃないの!早く行きなさい、遅刻するわよ!」

硝子「………」

八重子「何よその顔は!あの事はもう終わったのよ?」

「そんな顔をしてると、またあのクソガキに舐められるわよ!」


娘の表情に苛立つような表情を浮かべる八重子は、彼女の腕を無理矢理引っ張り、玄関へ連れて行く。
それを結絃は見逃さない。


結絃「母さん!ちょっとは優しくしてやれよ!」

八重子「うるさいわね。ほら!行きなさい硝子!」


反論しようとする結絃を無視して、八重子は硝子を押す。
八重子の強い押しに硝子は素直に従うしかなく、学校へと出掛けて行った。

65 : 以下、名... - 2018/05/27 11:57:40.01 1GsLvrze0 60/646

八重子「さて…私も早く仕事に行かなくちゃね」

「母さん!私がいない間結絃を甘やかさないで頂戴」

結絃「ちょっと…婆ちゃんはオレらのこと甘やかしてなんか……」


バタン!

だが、結絃の言葉を無視して、八重子も仕事に出て行ってしまった。

66 : 以下、名... - 2018/05/27 11:58:52.22 1GsLvrze0 61/646

結絃「またシカトかよ!」

いと「ゆずや、仕方ないよ……」

「それに、石田君の事ももう終わったんだから………」

結絃「石田の事……か」

67 : 以下、名... - 2018/05/27 12:00:11.58 1GsLvrze0 62/646

いと「……どうしたんだい?」

結絃「いや、昨日の刑事さんの言ってた事が少し気になってさ」

いと「石田君がいじめられている……確かそんな事言ってたねぇ」

結絃「アイツがいじめられようが、知った事じゃないけどさ…」

「『何でそれを、刑事さんが調べてるんだろ?』って思って……」

「しかも、姉ちゃんがそれを見てたっていうし……」

「一体、何が起きてるっていうんだ?」

いと「…………」

結絃「とにかく、学校が終わったら姉ちゃんに聞いてみるよ」

いと「そうね……そうするのが一番かもね………」

68 : 以下、名... - 2018/05/27 12:00:39.65 1GsLvrze0 63/646

―石田宅―


石田「母ちゃん…俺、行ってくるから」


一方、石田もまた学校へ登校しに行く所であった。


美也子「行ってらっしゃい……ショーちゃん」


そんな彼を、母親の『石田美也子』は見送る。

しかし、玄関を出る石田の後ろ姿は、とても暗く映った。

69 : 以下、名... - 2018/05/27 12:03:27.04 1GsLvrze0 64/646

美也子「…………」


何故彼は、あんなに暗いのだろうか?

そう言えば昨日、傷だらけで学校から帰ってきた。

いや、昨日だけではない。

本人は、また学校ではしゃぎ過ぎたといっていたが……

その割には、あまりにも傷の具合が酷過ぎる。


美也子(やっぱり……あの子………)

70 : 以下、名... - 2018/05/27 12:04:01.04 1GsLvrze0 65/646

いじめられているのか?

そう考え、美也子は首を横に振った。

もし仮にそうであったとして、自分に何が出来る?
彼が硝子をいじめたのは紛れもない事実……

いじめの加害者の母親の自分がいくら言った所で、
よその子をいじめた母親が何を言うのかと断じられるのは目に見えている。


美也子「ショーちゃん……」


それでも彼女は、これ以上何もしてあげられない自分に、歯がゆさを感じた。

71 : 以下、名... - 2018/05/27 12:06:22.77 1GsLvrze0 66/646

―水門小への通学路―


小学校低学年・高学年が自身の母校へと向かう道。

その途中で、石田と硝子が出くわした。


石田「あ…」

硝子「…………」


目が合ってしまう2人……

石田はとても複雑そうにしている一方、硝子は彼の顔をジッと見ている。
彼の顔には、未だに昨日の傷の手当てをした跡である、絆創膏が貼られてある。

72 : 以下、名... - 2018/05/27 12:06:51.50 1GsLvrze0 67/646

石田「な…なんだよ?」

硝子「…………」

石田「なに人の顔ジロジロ見てんだよ!」

硝子「……………」

石田「あぁ…そういやお前、耳聞こえなかったんだっけ?それでいて、凄く音痴で……」

硝子「……………」

石田「大体、俺がこうなったのは全部お前のせいだ!お前なんか来なかったら…!」


まるで、今の自分の状況に対する苛立ちをぶつけるかのように言い放つ石田。
しかし硝子は、表情を崩さず彼を見続けている。

そんな彼女に、石田は余計苛立ちを募らせた。

73 : 以下、名... - 2018/05/27 12:07:22.20 1GsLvrze0 68/646

石田「ンな顔されても分かんねぇよ!なんか言いたきゃはっきり言えよ!このぉ!」


当たり散らすように硝子を軽く押し飛ばすと、石田はさっさと先に行ってしまう。
それでも梢子は、怒らずに彼の後ろ姿をジッと見つめていた……

74 : 以下、名... - 2018/05/27 12:07:57.56 1GsLvrze0 69/646

―旅館の前―


冠城「さあて…右京さん、今日は何処から行きますか?」


そう言いながら旅館から出て来つつ、「やっぱり、石田君のお宅ですか?」と冠城は隣を歩く上司に尋ねた。


右京「そうするつもりですが、今日は別行動と行きましょう」

冠城「別行動ですか。それは面白い……」

右京「…………」


面白がっている様に振る舞う冠城に対し、右京は冷ややかな目を向けた。


冠城「冗談です!だから、何をすればいいか教えてくれません?」

右京「………それはですね」


右京は、冠城に何をして欲しいのかを説明した。

75 : 以下、名... - 2018/05/27 12:09:40.82 1GsLvrze0 70/646

冠城「分かりました。出来る限りやってみましょう」

右京「お願いします。僕は、石田君のお宅を当たります」


こうして、2人はそれぞれ別の場所へと向かって行った。

77 : 以下、名... - 2018/05/27 15:13:20.56 1GsLvrze0 71/646

―HAIR MAKE ISHIDA―


店内には客がおらずガラガラであった。

石田の硝子いじめが発覚して以来、こんな調子なのだ。

あんな出来事が起きたのだ、何処からか噂が流れて石田家に不信感を抱かれてもおかしくない……


???「お邪魔します」


だがその時、誰かが店に入って来る。


美也子「いらっしゃいませ…」


美也子が店の出入り口に目を向けると、そこには眼鏡とスーツ姿の男が1人……

言うまでもなく、特命係の杉下右京だ。

右京は、「どうも初めまして。こういう者です……」と言いながら警察手帳を見せた。

78 : 以下、名... - 2018/05/27 15:14:30.44 1GsLvrze0 72/646

美也子「警察?」

右京「東京の警視庁にある特命係から来ました、杉下右京です」

「あなたが、石田将也君のお母様ですか?」

美也子「は、はい。母の石田美也子ですが………」

右京「少々お話があります。お時間頂いても、よろしいですか?」

美也子「…………」

79 : 以下、名... - 2018/05/27 15:15:55.70 1GsLvrze0 73/646


「はい、構いません……」

80 : 以下、名... - 2018/05/27 15:16:44.17 1GsLvrze0 74/646

警察がウチに来た……

この事実に、美也子はある確信を抱き、右京を自宅の居間に案内した。

81 : 以下、名... - 2018/05/27 15:19:14.94 1GsLvrze0 75/646

―石田家の居間―


右京「本当にいきなり押し掛けて、申し訳ありませんねぇ……」

美也子「そんな事ありません。最近めっきりお客様が減ってしまって、暇でしたから…」


最近、客が減っている……


何故、そうなっているのかについて、右京はあえて言及しなかった。
石田の硝子いじめが関連している事は、今までの調べで明らかであったからだ。

一方、美也子は恐る恐るこう尋ねた。

82 : 以下、名... - 2018/05/27 15:20:31.54 1GsLvrze0 76/646

美也子「ところで、刑事さん……お話と言うのはもしかして、息子の……」

「ショーちゃ…じゃなくて、将也のことで来たのでは……?」

右京「そんな所です」

美也子「じゃあ目的は……」

右京「彼が、西宮硝子ちゃんに対して行ったいじめについて、詳しい話を伺いに……」


右京の一言に、美也子の表情が一気に重苦しくなる。

それだけ、息子の所業を憂いているという事なのだろう。

息子が硝子をいじめた事実に対する
強い責任と自任の念を美也子から感じつつ、右京は話しを続ける。

83 : 以下、名... - 2018/05/27 15:21:07.63 1GsLvrze0 77/646

右京「ご察しであると思いますが、我々はとある事情から息子さんのした事を調べました」

「結果、西宮硝子ちゃんの事をいじめていた事実が判明した……」

「しかし、動機の面が未だ不透明でありましてねぇ……」

「硝子ちゃんの妹さんは、硝子ちゃんの難聴の事を馬鹿にしていたのではないかと仰っていましたが……」

「実際のところ、どうなのでしょう?」

84 : 以下、名... - 2018/05/27 15:22:32.24 1GsLvrze0 78/646

美也子「…多分、その娘の言う通りだと思います」

「ショーちゃんは、友達とつるんで度胸試しとか言って河に飛び込んだり、自分より体の大きい人に喧嘩を売ったり……」

「親の私が言うのも何ですが、やんちゃ過ぎる悪ガキでした」

右京「随分と無茶をなさっていたのですねぇ……」

「しかし、止めなかったんですか?」

85 : 以下、名... - 2018/05/27 15:24:33.34 1GsLvrze0 79/646

美也子「…………」

「はい……」

「数年前に夫が出て行って以来、1人で店を切り盛りしていて忙しかったですし……」

「何より、変に叱るより、好きにさせておいた方がいいと思っていました」

「一番上の娘も、しょっちゅう恋人をとっかえひっかえに連れて来てたので」

「尚更、子供達は自由にしておくべきだと……」

「けど、それがこんな事になってしまうなんて……」

右京「普段からやんちゃが過ぎていたという事は、硝子ちゃんへのいじめもそれの延長線上のようなものだったと?」

美也子「恐らくは…………」

「それに、今年に入ってから、お友達の子とつるむ事がなくなってきたので、それも関係しているのかもしれません」

86 : 以下、名... - 2018/05/27 15:25:04.63 1GsLvrze0 80/646

右京「………」

「ところで、息子さんが硝子ちゃんをいじめた事で、学校から他に何か聞いていませんか?」

美也子「いいえ…将也が西宮さんのお子さんをいじめていたこと以外、なにも……」


彼女のその言葉に、右京は「なるほど……そうですか」と納得してみせる。

87 : 以下、名... - 2018/05/27 15:26:41.40 1GsLvrze0 81/646

美也子「あの…聞きたいのは、それだけですか?」

右京「えぇ……何か?」

美也子「…せっかくお伺いしてくれた所、こんな事を言うのは申し訳ありませんが……」

「出来るなら、もう息子の事で来ないで欲しいんです……」

右京「…………」

「…息子さんの事で色々とお辛い事はご察しします」

「しかし、警察としてこの問題に目を瞑る訳には……」

美也子「違うんです」


これ以上、石田の事で責められるのが
嫌なのだろうと思って言った右京であったが、美也子はそれを否定した。

88 : 以下、名... - 2018/05/27 15:27:57.81 1GsLvrze0 82/646

右京「違う?それは、どういう事で……?」

美也子「………」

89 : 以下、名... - 2018/05/27 15:28:23.80 1GsLvrze0 83/646



「実は…………」


90 : 以下、名... - 2018/05/27 15:29:08.13 1GsLvrze0 84/646

―水門小学校―


6年2組の教室では、いつも通りの授業が行われ、いつも通りの時間が過ぎていた。

ただ1人、石田を除いては……

91 : 以下、名... - 2018/05/27 15:29:37.42 1GsLvrze0 85/646

石田「……………」


昨日特命係の2人に見付かった事があったのか、向こうがそう言う気分なのかは不明だが、
今日は肉体的苦痛を与えるようないじめは行われはしなかった。

だがその代わり、誰からも無視され、一部の生徒からはケラケラと笑われている……

92 : 以下、名... - 2018/05/27 15:30:17.64 1GsLvrze0 86/646

石田「ん…?」


その時であった。石田は自分の席に目を向けると、そこには梢子がいた。
一体彼女は何をしているのかと言うと、彼の机を雑巾がけをしている。

本来ならば、自分の机を誰かが掃除してくれる事は喜ばしい事であるはずなのだが、
相手がよりによって自分がいじめた相手……

石田は、それが不愉快に感じた。

93 : 以下、名... - 2018/05/27 15:31:04.35 1GsLvrze0 87/646

石田「おい!何勝手に人様机拭いてんだよ!あっち行け!」

硝子「あ……」


彼は怒鳴りながら梢子を机から突き放すと、もう手を出されまいと言わんばかりに席に腰掛ける。
それでも硝子は心配そうな目を向けるが、「何見てんだよ?さっさと行けよ!」と結局突き放されてしまう。

耳がはっきりと聞こえないとは言え、彼の様子からそう言われていると察したのだろう、
硝子はシュンとしながら彼の席から離れるしかなかった。

94 : 以下、名... - 2018/05/27 15:32:18.47 1GsLvrze0 88/646

石田(たく…何なんだよ!)


そう言えば、この前も勝手に机の中を漁っていた事もあったっけ……?

と、硝子の行動を思い出したが、今の状況の事で頭が一杯な石田は、
その理由まで考える余裕はなかったのであった……

95 : 以下、名... - 2018/05/27 15:33:57.92 1GsLvrze0 89/646

その頃、校長室ではある男が水田校長に呼び出されていた。
石田がいる6年2組の担任教師である。


担任「校長…いきなり呼び出して、何でしょうか?」

水田校長「竹内君。実は昨日、警察の方が私のとこに来てね……」


校長の問いに、『竹内』と呼ばれた6年2組の担任は「警察が?」と少しばかり驚く。


竹内「一体、何の用で来たんで?」

水田校長「…………」

「『この学校の生徒が、暴力を振るわれている現場を見た』と……」

96 : 以下、名... - 2018/05/27 15:35:00.48 1GsLvrze0 90/646

竹内「……………」

水田校長「一応、喧嘩と言う事にはしておいたんだが……」

竹内「…………」

「あなたが喧嘩だと思っていらっしゃるのなら、そうなのでは?」

水田校長「んーまあ…そうだと思いたいんだが……」

「向こうは『いじめか何かがあったのではないか?』と疑っているみたいでね」

竹内「それに対しては、何と答えたんです?」

水田校長「『特に何もなかった』と……」

97 : 以下、名... - 2018/05/27 15:36:01.65 1GsLvrze0 91/646

竹内「……………」

「だったら、問題ないじゃないですか」

「西宮いじめの犯人は石田……そういう事で話しは付いたはずです」

「あれ以来、私のクラスも平和です。今更聞くような事じゃないでしょう?」

水田校長「それも、そうだな……」

「すまんね……西宮君のいじめ問題があったばかりだから、少し心配になって………」

竹内「本当に、要らない心配ですね」


呆れた風に返すと、竹内は「では、業務に戻らせてもらいます」と言って退室する。

98 : 以下、名... - 2018/05/27 15:37:34.28 1GsLvrze0 92/646

竹内「ふぅ…………」


そして、校長室の外で安堵するかのように息を吐いた。

99 : 以下、名... - 2018/05/27 15:39:56.24 1GsLvrze0 93/646

―放課後―


石田はいじめられる前にさっさと家に帰ろうと、足早に学校を出ようと歩いていた。


???「おい…!」


だが、正門を出た辺りで、彼は後ろから誰かに呼び止められる。
その声に石田は反射的に反応し、振り返ってしまう。


???「お前……さっさと帰って逃げようとか思ってるんじゃねぇよな?」


振り返った先には、昨日自分に暴力を振るっていた2人の少年……

名前は、『島田一旗』『広瀬啓祐』

100 : 以下、名... - 2018/05/27 15:41:18.59 1GsLvrze0 94/646

石田「な……なんだよ?何の用だよ?」

島田「インガオーホーの続き……」

石田「え…?」

島田「だから、昨日のインガオーホーの続き」

石田「…!」


島田の言葉に石田の表情が青ざめた。

要するに、昨日特命係に中断させられた暴行の続きを、今から始めようと言われたのだ。

101 : 以下、名... - 2018/05/27 15:42:19.98 1GsLvrze0 95/646

石田「お、おい……こんな所で続きやるの、まずいんじゃねぇか……?」

島田「だから、今から場所移すんだよ……広瀬!」

広瀬「おう!」


島田に命令され、広瀬は石田を押さえつける。


石田「や、止めろよ…!明日でもいいだろ?!」

島田「そうやって逃げようたってそうは行かねぇよ」


考えを見透かしたかのように返す島田。

そして抵抗虚しく、何処かに連れて行かれそうになる石田。


だが……

102 : 以下、名... - 2018/05/27 15:45:17.35 1GsLvrze0 96/646



???「ちょっと、そこの君達ぃ~」


103 : 以下、名... - 2018/05/27 15:45:48.54 1GsLvrze0 97/646

突然、自分達以外の男性に呼び止められ、彼らはその声がした方向を振り返る。


島田広瀬「「!」」


振り返った瞬間、2人は驚きの表情を見せる。
何故ならそこには、昨日自分達の石田へのいじめを止めてきた冠城亘がいたからだ。

104 : 以下、名... - 2018/05/27 15:46:26.62 1GsLvrze0 98/646

冠城「その子を何処へ連れて行く気かな?」

島田「え…あ……」

広瀬「そ、それは……その………」

冠城「もしかして、昨日僕達のせいで出来なかった喧嘩の続きかな?」

島田広瀬「「………」」

105 : 以下、名... - 2018/05/27 15:48:18.68 1GsLvrze0 99/646

冠城「駄目だなぁ……」

「君達みたいな年頃になると色々あるのは分かるけど、だからって喧嘩は良くないよ?仲良くしなきゃ~」

広瀬「お、おい…!島田……」

島田「に…逃げろ!」


何でまた邪魔が……!

と悔しさを感じたものの、今この場で捕まっては元も子もない。

そう言う訳で、広瀬と島田は一目散に逃げて行った。

106 : 以下、名... - 2018/05/27 15:48:58.03 1GsLvrze0 100/646

冠城「…………」


この場から立ち去る彼らを見た後、冠城は「大丈夫かい?」と石田に声を掛ける。

彼らから解放された石田は、何も言わずにさっさとその場から立ち去ろうとした。

107 : 以下、名... - 2018/05/27 15:50:49.77 1GsLvrze0 101/646

冠城「石田将也君だね?」


石田「!?」


だが、冠城に自分の名前を呼ばれ、石田は驚き、足を止めて彼を見た。

何故、彼は自分の名前を知っているのだろうか?

昨日、少し顔を合わせただけで、一言も会話していないのに……

108 : 以下、名... - 2018/05/27 15:51:27.52 1GsLvrze0 102/646

冠城「やっぱり……君が石田君なんだね?」

石田「あ…アンタ、一体……?」

冠城「話したいのは山々だけど、ここだとちょっとまずい……場所を移そう」

石田「あ…あ、あぁ……」


冠城の提案に流されるままに乗っかる石田。

こうして、彼を連れて移動を開始しようとする冠城であったが……

109 : 以下、名... - 2018/05/27 15:53:59.95 1GsLvrze0 103/646

冠城「?」


その時、後ろの方を見ると、硝子が遠くからこちらを見ている事に気付く。
しかも良く見てみれば、彼女の目線は石田の方にも向けられているようにも見えた。

110 : 以下、名... - 2018/05/27 15:55:26.48 1GsLvrze0 104/646

冠城「…………」


冠城はその様子が少し気になったものの、
今は石田の方が優先であった為、その場を立ち去るしかなかった。

こうして冠城は、石田を連れて近場のファミレスに入り、
そして隠れるのに最適そうな席に腰掛けた。

111 : 以下、名... - 2018/05/27 15:56:46.01 1GsLvrze0 105/646

冠城「ここなら、向こうの席からはすりガラス越しで君の姿は良く見えないし」

「外からも、僕の陰になって君の姿は誰にも見えない」

「唯一の目撃者は店の人とそこの監視カメラだけど……」

「店員が他の客に君の事を話すわけないし、監視カメラの映像だって一般人が見れるものじゃない」

「そもそもこんな店、子供だけで入れやしない……」

「どうだい?彼らから身を隠すには、打って付けだろ?」


そう言ってウインクしてみせる冠城。
だが、石田は彼に対する不信感を拭いきれなかった。

そんな中、店員の女性が冠城が注文したオレンジジュースを石田に持って来る。

112 : 以下、名... - 2018/05/27 15:57:33.87 1GsLvrze0 106/646

冠城「ほら……喉乾いただろ?」

石田「け、けど……」

冠城「僕からのおごりだ。遠慮しないで飲めって」

石田「………」


冠城にそこまで言われると、石田は半ば仕方なしにオレンジジュースに口を付ける。

そして、彼が全部飲みきったあたりで、冠城は表情を切り替える。

113 : 以下、名... - 2018/05/27 15:58:48.84 1GsLvrze0 107/646

冠城「自己紹介がまだだったね。僕はこういう者だ……」


そう言って冠城は、自分の手帳を見せる。


冠城「警察手帳……一度くらいは見た事あるだろ?」

石田「! じゃ…じゃあ、アンタは……!」

冠城「僕は、東京の警視庁から来た刑事だ」

「名前は、冠城亘……」

石田「冠城亘……」

114 : 以下、名... - 2018/05/27 15:59:50.19 1GsLvrze0 108/646

冠城「さて、どうして僕があそこにいたのかだけど……」


身分を明かした冠城は、昨日島田達のいじめを止めた後、
右京と共に色々と調べて回った事を石田に明かした。


冠城「そうして君の事を調べていく内に、君が西宮硝子ちゃんをいじめていた事が分かったという訳だ」

「だから、あそこで君を待っていたんだ。その事を詳しく聞く為にね」

石田「…………」


事情を聞かされた石田の表情は重かった。

当然だろう、自分の所業がこんな形で警察に知られるとは、思ってもみなかったのだから。

そして、冠城がその事を咎めに来たのだろうとも考えた。

115 : 以下、名... - 2018/05/27 16:01:58.60 1GsLvrze0 109/646

冠城「言っとくけど、僕は君を咎める為に話しを聞こうってわけじゃないんだ」


予想外の言葉に石田は「え…?」と疑問符を浮かべる。


冠城「君、今いじめられているでしょ?」

石田「い、いや…それは……」

冠城「隠さなくたっていい。昨日のあれは、どう見ても喧嘩なんかじゃない」

「無抵抗な相手をリンチにして痛めつける……立派ないじめだ」

「さっきだって、そうなり掛けていたんじゃないのかい?」

石田「……」

116 : 以下、名... - 2018/05/27 16:03:47.09 1GsLvrze0 110/646

冠城「しかし、何故硝子ちゃんをいじめる側だった君が、今度はいじめられる立場になったのかっていう疑問があってね……」

「僕は最初、硝子ちゃんをいじめた事に対する報復だと思ったんだけど……」

「ウチの上司は、他の可能性も疑ってるみたいでね……君に直接聞いて来いって言われたんだ」

石田「…………」

冠城「だから…正直に話して欲しい」

「今君がいじめられているは、硝子ちゃんをいじめた事に対する報復なのか?そうじゃないのか?」


真剣な面持ちで、石田と顔を合わせながら冠城は問い掛ける。
一方石田は、そわそわした様子で答えようとしない。

答えるべきかどうか迷っているようだ。

そこで冠城は、次のような事を言った。

117 : 以下、名... - 2018/05/27 16:04:22.81 1GsLvrze0 111/646

冠城「話したくないのなら、それで構わない」

「一般人……それも子供から強引に事情を聞き出すなんて、警察のする事じゃないからね」

「けど……それでいいのかい?」

石田「え…?」

冠城「君は今、担任の先生からの助けも得られない状況に陥っているんじゃないのかい?」

石田「どうして、そのことを?」

冠城「昨日、学校でたまたま見たんだよ。君が、先生に相手にされていない現場を……」

石田「…………」

118 : 以下、名... - 2018/05/27 16:06:22.25 1GsLvrze0 112/646

冠城「それに、被害者が被害に遭ったと認めてくれなければ、僕達警察も手の出しようがない。事件性が、認められないからね」

「しかも僕らは違う所轄の刑事だ……この市には長くはいられない。いつ、警視庁に呼び戻されてもおかしくないんだ」

「そうなったら、君を助ける大人はいなくなるだろうね」

「それでも乗り切れる……後悔しないという自信があると言うのなら、僕達は引き下がるつもりでいるけど」

石田「……!」

119 : 以下、名... - 2018/05/27 16:07:23.90 1GsLvrze0 113/646

冠城の言葉に、石田は表情を曇らせる。

少しばかり脅すような真似をして冠城は心を痛ませたが、間違った事は言っていないつもりだ。

このまま石田が何も話さなければ……救いを求めてくれなければ、意味がない。

6年生と言えども、彼はまだ子供……大人の助けがなければ生きていけない年頃だ。

だから尚更、彼自身が自分達大人に救いを求めてくれなければ、その時点で終わってしまう。

それこそ、昨日今日といじめから救ったことすら無意味になる。

120 : 以下、名... - 2018/05/27 16:08:10.17 1GsLvrze0 114/646

冠城「大丈夫……君から聞いた事は、上司以外には誰にも話さない」

「僕の上司も、同じ対応を取ってくれるだろう」

石田「ほ、ホント……か?」

冠城「僕達は警察だ……秘密は守るよ」


秘密は守るという冠城の言葉……

この一連の流れで、石田の心は揺れ動く。

そして……

121 : 以下、名... - 2018/05/27 16:08:38.75 1GsLvrze0 115/646



石田「じ、実は……」


122 : 以下、名... - 2018/05/27 16:09:30.31 1GsLvrze0 116/646

―西宮家―


結絃「姉ちゃんお帰り」

硝子「おきゃ…えり……」


学校から帰って早々、待ち構えた結絃に硝子は呂律の回らない声で「お帰り」と返してみせる。

ランドセルも下ろし、手も洗い、少し落ち着いた頃合いを見計らい、
結絃はいよいよ、気になることを聞き出そうと動く……

123 : 以下、名... - 2018/05/27 16:10:07.09 1GsLvrze0 117/646

結絃「姉ちゃん…ちょっと聞きたい事あるんだけど」


手話を交えて聞いて来る妹に、硝子は「なに?」と手話で返す。


結絃「昨日、刑事さんが石田がいじめられてて、姉ちゃんがそれ見てたって言ってたけど……」

「一体、どうしてそんな事してるんだ?石田に何が起きてるんだ?」

硝子「…………」


その事を聞かれた途端、硝子はまた昨日の時の様に手話をする手を止めて黙ってしまう。

124 : 以下、名... - 2018/05/27 16:10:44.34 1GsLvrze0 118/646

結絃「ね、姉ちゃん……?」


何も答えない姉を不思議がる結絃。

一方、本人は手話で「宿題やってきます」と伝え、足早に自室に行ってしまった。

125 : 以下、名... - 2018/05/27 16:11:21.38 1GsLvrze0 119/646

結絃「姉ちゃん…!」

いと「ゆず…どうしたんだい?」

結絃「婆ちゃん……姉ちゃんに、石田がいじめられてる事を聞いてみたんだけど」

「何も答えてくれなかった……」

いと「そうかい……」

結絃「どうしてだよ……何で話してくれないんだよ?」

「なんか…アイツのこと庇ってるみたいだ……」

いと「……………」

126 : 以下、名... - 2018/05/27 16:13:14.42 1GsLvrze0 120/646

一方その頃……

ファミレスで話しを終えた冠城は、石田を彼の自宅まで送り届けていた。


石田「この辺でいい。ここまで来れば、アイツらには会わないから」

冠城「そうかい?じゃあ、気を付けて……」


こうして、石田に背を向けてその場を立ち去ろうとする冠城。
そんな彼に対し、石田は「待って…!」と言って彼を引き止める。


冠城「ん……?」

石田「さ、さっき話したこと……」

冠城「…………」

127 : 以下、名... - 2018/05/27 16:13:48.13 1GsLvrze0 121/646




「何の事かな?」



128 : 以下、名... - 2018/05/27 16:14:37.89 1GsLvrze0 122/646

石田「え…?」

冠城「僕は、喧嘩沙汰になりそうになった君を助け、君を家の側まで送った……」

「それ以外に何もしていない」

「つまり、君は僕に何も話していない……」

「そうだろう?」


すっとぼけた風に言って見せた後、冠城は改めてこの場から去っていく。

彼の受け答えに、石田は絶対に彼は秘密を守ってくれる……

自分の味方だという確証を得るのだった。

129 : 以下、名... - 2018/05/27 16:15:17.90 1GsLvrze0 123/646

冠城「…………」

こうして、石田を送り終えた冠城は、泊っている旅館の部屋に戻ってみると、
そこには既に右京がおり、ちゃぶ台の上のお茶を優雅にすすっていた。

130 : 以下、名... - 2018/05/27 16:16:04.46 1GsLvrze0 124/646

冠城「そろそろ、紅茶が恋しくなってきたんじゃないですか?」

右京「やっと戻りましたか。僕はずっと、ここで待っていたのですが……」

「一体何処で油を売っていたんでしょうかねえ?」

冠城「せっかく戻って来て、そりゃないじゃないですか~」

右京「では、君はちゃんと石田君から話しを聞く事が出来たんですか?」

冠城「もちろんです。下校時間を狙って正門で待ち構え、捕まえました」

「その際、例の2人にまたいじめられそうになってたので、助けてあげましたよ」

「そちらは?」

131 : 以下、名... - 2018/05/27 16:17:18.18 1GsLvrze0 125/646

右京「石田君のお母様……石田美也子さんから、話しを伺うことが出来ました」

冠城「お母様にですか……」

右京「どうやら、シングルマザーのようで……」


右京の答えに「そうだったんですか……」と冠城は納得する。

132 : 以下、名... - 2018/05/27 16:18:16.98 1GsLvrze0 126/646

冠城「で?彼女は、なんと?」

右京「その前に、君が石田君から聞いたことを話して下さい。何を聞いたかは、その際お話しします」

冠城「分かりましたが……その前に、ひとつ聞いて宜しいですか?」

右京「何でしょうか?」

冠城「朝は特に気にしていませんでしたが、わざわざ別々に行動する必要あったんでしょうか?」

「2人で石田君のお母様に話を伺って、その後石田君に話しを聞く……」

「それでも、問題なかったと思うんですが……」

133 : 以下、名... - 2018/05/27 16:19:36.98 1GsLvrze0 127/646

右京「大の大人……それも男2人が揃って話しを聞くよりも、一対一で話した方が向こうも話しやすいだろうと判断しました」

「それに、あのようなお子様から証言を引き出すのは、僕よりも君の方が向いていると思いましてねぇ……」

冠城「つまりそれは、俺の能力を買ってくれたので?」

右京「それはともかく、早く話してくれませんかねぇ……」

冠城「そこは『はいそうです』って言って下さいよ……」


そう言って残念そうにしつつも、冠城は石田から聞いた話を語り出す。

134 : 以下、名... - 2018/05/27 16:20:31.32 1GsLvrze0 128/646

何でも石田は、今まで島田や広瀬と言った学校の友達と一緒に、
よく馬鹿騒ぎして遊んでいたのだが、今年に入りその2人が

135 : 以下、名... - 2018/05/27 16:21:22.93 1GsLvrze0 129/646



『いい加減危ないから』


『来年の中学校への進学に向けての勉強を進めたいから』


136 : 以下、名... - 2018/05/27 16:21:49.76 1GsLvrze0 130/646

などの理由で、石田の馬鹿騒ぎの輪から離れて行ったのだという。

137 : 以下、名... - 2018/05/27 16:22:22.75 1GsLvrze0 131/646

冠城「それで石田君、凄く退屈だったそうで…」

右京「その矢先に、硝子ちゃんがやって来た……」

「石田君のお母様も、友人とつるまなくなったのが関係していると言ってしましたが……」

「彼女に手を出したのはやはり、普段の行動の延長線上のようなものだったわけなのですね」

冠城「えぇ…彼が言うには、最初は自分にとっての非日常……。悪く言えば、退屈しのぎの道具みたいに見ていた様なんです」

138 : 以下、名... - 2018/05/27 16:23:29.65 1GsLvrze0 132/646

最初はただからかっていただけだったものを、面白がって続けてい行く内にエスカレート。
からかいから嫌がらせへと変わっていったのだと、冠城は語った。

6年生と言えども、石田はまだやんちゃ盛りの子供……

調子に乗って事を大きくしてしまうのは、彼でなくとも十分あり得る。

だが、そう考えると『担任に止められなかったのか?』という疑問が出てくるが……

139 : 以下、名... - 2018/05/27 16:24:29.00 1GsLvrze0 133/646

右京「そして、彼の担任はその事を黙認していた訳ですか……」

冠城「良く分かりましたね」

右京「学校からは『硝子ちゃんいじめの犯人は石田君である』という事実しか聞かされなかった……」

「石田君のお母様は、そう仰っていました」

「それに、昨日の硝子ちゃんのお婆様の話しを聞いた時から、その時点で教員が止めなかったのかという疑問があったもので……」

冠城「さすがです。まさにその通り……」

「しかも、石田君の担任……昨日我々が見たあの人、竹内というんですが……」

「問題はいじめの黙認だけではないらしいんですよ」

右京「と、言いますと?」

140 : 以下、名... - 2018/05/27 16:25:28.74 1GsLvrze0 134/646

冠城「……………」

「どうやら彼、硝子ちゃんが石田君のいるクラスに入った時点で、彼女の世話を生徒達にやらせていたそうなんです」

「要するに、丸投げですね」

「それが原因で、6年2組の授業はいつも遅れていて、生徒達はその事で梢子ちゃんを忌々しく思っていたみたいなんです」


石田が硝子へのいじめをエスカレートさせたのも、それが一因しているのだと冠城は語った。

141 : 以下、名... - 2018/05/27 16:25:57.18 1GsLvrze0 135/646

冠城「それと、竹内先生は確かにいじめの黙認はしましたが、一応注意はして来たそうですよ」

右京「ですが、軽い注意しかしなかった……」

冠城「ご名答」

「石田君が言うには、彼は注意してくる事はしてきたものの……」

142 : 以下、名... - 2018/05/27 16:27:34.81 1GsLvrze0 136/646



『やり過ぎは良くない』


『こんな事を続けていると、いつか自分に返って来るぞ』


143 : 以下、名... - 2018/05/27 16:29:23.59 1GsLvrze0 137/646

冠城「と、忠告めいた事を言ったくらいで、それ以上の事はしなかったと………」

144 : 以下、名... - 2018/05/27 16:34:34.27 1GsLvrze0 138/646

注意しかしなかった……

つまり、竹内は硝子いじめを黙認したばかりか、必要最低限の対応しか取らなかった事になる。

その上、硝子の世話を生徒に押し付けていたとは……


他人の子供を預かっている以上、教員は彼らの身の安全と教育の場を保証出来なければならないはずだ。

しかし、竹内は硝子に対し、それが出来ていなかった……

生徒を指導する立場の人間がして許されることではない。

145 : 以下、名... - 2018/05/27 16:35:44.67 1GsLvrze0 139/646

冠城「で、話しはここからなんですが……」

「実は、あの学校でクラス対抗の合唱コンクールが行われたそうでしてね……」

「その事で、『喜多』という教師と竹内先生が『ある事』で揉めていたんです」

「その『ある事』と言うのが、硝子ちゃんをコンクールに参加させるかどうかでした」

146 : 以下、名... - 2018/05/27 16:36:35.57 1GsLvrze0 140/646

何故竹内と喜多が、そのような事で揉めたのか?

理由は言わずもがな、硝子は耳がよく聞こえず、声も上手く出せないからだ。
そのような人間が合唱コンクールに入れば、どうなるか……

結果は言うまでもない。

147 : 以下、名... - 2018/05/27 16:37:01.97 1GsLvrze0 141/646

冠城「まあでも、喜多先生の強い推しで、結局硝子ちゃんも参加させられたんですが……」

「結果は言うまでも無く、6年2組の惨敗」

「それをきっかけに、6年2組の生徒達のフラストレーションが爆発……」

「石田君の硝子ちゃんいじめに積極的に、参加するようになっていったそうです」

148 : 以下、名... - 2018/05/27 16:38:50.10 1GsLvrze0 142/646

そうして石田は、硝子の机に落書きしたり、
教科書や靴を隠したり、筆談用ノートに落書きした上で校内の池に捨てたり、
そして例の補聴器を破損・紛失させたりなどと言った事件を、起こしてしまったのだという

しかもこの件には石田だけでなく『植野直花』という女子生徒を始めとした、多くの生徒が関わっていたそうだ。

直接手を出していない生徒も、彼らの行いを止めるどころか、遠くから笑っていたり、
中には『川井みき』の様に必要最低限の注意にとどめ、後は安全圏に避難しているような者もいたのだという。

149 : 以下、名... - 2018/05/27 16:40:03.98 1GsLvrze0 143/646

冠城「その時、石田君はとても楽しくて……それでいて、嬉しかったそうです」

「『クラスのみんなを苦しめる相手に制裁を加えるだけで、離れて行った友達が戻って来たから』と……」

右京「彼からして見れば、そうだったのかもしれませんねぇ……」

150 : 以下、名... - 2018/05/27 16:42:18.06 1GsLvrze0 144/646

だが右京は、石田の行いを肯定する気はなかった。

今まで共に遊んできた友達が離れて退屈だったのも分るし、
それを理由に、何かに手を出したくなってしまう気持ちも分かる。
そして、健常な人間に囲まれて生きてきた石田にとって、硝子は大変珍しい存在に映った事だろう。

だが、先程の冠城の言の通り、石田は硝子の事を人間として見ていなかった節がある。

それでいて、この所業。

これはただのいじめ……犯罪だ。

151 : 以下、名... - 2018/05/27 16:43:27.51 1GsLvrze0 145/646

だが、それ以上に右京が許せなかったのは、周りの人間の行動であった。

竹内は硝子への対応を生徒に丸投げし、石田の行動に対しては軽く注意しただけ。
障がい者児童への理解を乞うべき人物がそれを放棄したことが原因なのに、
生徒達は硝子に対してストレスを溜め、石田と共謀する始末……

この時の6年2組の教室は、硝子に対するいじめが横行する無法地帯と化していたのは想像に難しくない。

それでも竹内は、彼らを止めなかったのだろう。

これだけでも充分悪質であったが、そんな右京の怒りに更に火を点けるような話が冠城の口から語られる……

152 : 以下、名... - 2018/05/27 16:45:29.87 1GsLvrze0 146/646

冠城「けど、そんな事も長く続くはずがなく、補聴器が8回紛失・破損させられた事で西宮家が学校側を訴えた」

「ところが、犯人捜しのために行われた生徒会で、いきなり竹内先生が『硝子ちゃんいじめの犯人は石田君だ』と言い出した」

「竹内先生は、自分が何度も注意したのに石田君がそれを聞かなかった事にし……」

「自身の注意不足を有耶無耶にしたどころか、生徒達が石田君に加担した事すらなかった事にしてきたんです」

「6年2組の生徒達も、その流れに乗って自分達の責任を石田君に擦り付けた……」

「結果、硝子ちゃんの補聴器の件で生じた賠償金170万円を、石田君の母親一人が支払う事になった」

「おまけに、学級裁判で6年2組がカーストになった事で、生徒達は石田君をいじめるようになった……」


「……と言うのが、石田君があの2人から暴行を受けていた事の真相です」

「同時に、これがあの学校で起きた、硝子ちゃんいじめの実態でもあります」

「彼らは、全ての責任を石田君に押し付け、まるで何事もなかったかのように学校生活を続けているという訳です」

153 : 以下、名... - 2018/05/27 16:51:23.99 1GsLvrze0 147/646

右京「…………」


冠城から聞かされた、水門小学校での石田と硝子の詳細な状況に、
右京は表情ひとつ変えなかったものの、何となく怒気らしきものが滲み出ているのを感じた。

それを察した冠城は「ところで…そちらは他に何か聞きませんでしたか?」と無難に尋ねた。

154 : 以下、名... - 2018/05/27 16:52:12.04 1GsLvrze0 148/646

右京「……………」

「このようなことを、仰っていました……」

155 : 以下、名... - 2018/05/27 16:54:01.93 1GsLvrze0 149/646

~回想~


右京「違う?それは、どういう事で……?」

美也子「………」

「実は私、補聴器の賠償金170万円を西宮さんに払ってきたんです」

右京「賠償金を?」

美也子「えぇ…それが、私があの家族さんに出来る、せめてもの償いでしたから……」

「だから、この件はもうケリが付いているんです……」

「悪い言い方をすれば、刑事さんの出る幕は無いと言う事になります……」

右京「…………」


そう語る美也子の様子に、さすがの右京もこれ以上問い質すのは酷だろうと判断した。
しかし、それでも聞いておきたい事があった。

156 : 以下、名... - 2018/05/27 16:54:37.12 1GsLvrze0 150/646

右京「お気持ち、察しします…」

「ただ……最後にひとつだけ、お伺いしてよろしいですか?」

美也子「何ですか?」

右京「実は昨日…息子さんが、同じ学校の児童から暴行を受けている現場を目撃しました」

「この事から、彼は学校内でいじめを受けている可能性があります」

「あなたは、その事をご存知ですか?」


右京の問いに、美也子はそこまで動揺する様子はなかった。

157 : 以下、名... - 2018/05/27 16:55:18.89 1GsLvrze0 151/646

右京「…ご存知なのですね?」

美也子「学校から聞かされた訳ではありませんし、本人が話していわけでもありません」

「むしろ、あの子は『学校ではしゃぎ過ぎたんだ』と言ってましたが……」

「私も母親です…心配かけまいと誤魔化しているのは分かります」

「明らかに、いつもより酷い有様で帰って来る事が多くなりましたから……」

右京「学校には訴えなかったんですか?」

美也子「出来るならそうしたいです。けれど、将也はよその子をいじめてしまいました……」

「そのような子の母親が声を上げたところで、かえって反感を買われるだけです……」


そうは語るものの、彼女の顔からは悔しさややり場のない怒りなど、
様々感情が複雑に入り混じっていた。

その表情から、我が子を助けられない自分に対する
歯がゆさが滲み出ているのを、右京は感じた。


~回想終了~

158 : 以下、名... - 2018/05/27 16:56:17.74 1GsLvrze0 152/646

冠城「確かに、加害者の身内は加害者と同列に扱われるもの……」

「石田君のお母さんが手を出せずにいるのも、無理はありませんね………」

右京「…………」

冠城「…右京さん?」

右京「…冠城君。君は、この話しを聞いてどう思いましたか?」

冠城「どうしたんですか?急に……」

右京「いいから答えて下さい」


急に意見を求めてきた上司に、冠城は少しばかり動揺したが、
右京の真剣な表情に並々ならぬものを感じ、素直にこう答えた。

159 : 以下、名... - 2018/05/27 16:57:40.38 1GsLvrze0 153/646

冠城「許せない…と言うのが正直な感想です」

「最初に手を出したのは石田君である事は確かだし、硝子ちゃんにした事も擁護出来たものじゃない」

「裁きを受けるのは当然です」

「けどそれは、いじめに加担した生徒や原因を作った竹内先生も同じはずなのに、彼らは石田君の非を利用して自分達だけ責任を逃れた」

「おまけに、クラスの順位がカーストになった責任すら、いじめという形で石田君に押し付ける始末です」

「こんな事やってるんだ……硝子ちゃんいじめも、誰かが石田君に代わって継続させている可能性が高い」

「彼らにも思うところがあったのかもしれませんが……」

160 : 以下、名... - 2018/05/27 16:58:10.18 1GsLvrze0 154/646




「そうだとしてもこんなこと、間違っていると思いますよ」



161 : 以下、名... - 2018/05/27 16:58:59.50 1GsLvrze0 155/646

右京「その通りです。こんなこと間違っている……」

「彼らに裏切られたのは石田君の自業自得ではあります」

「しかし、6年2組の生徒達と竹内先生が石田君にした事は、石田君が硝子ちゃんにしたこと以上に許しがたい……」

「全ての真実を明らかにし、彼らを自身の罪と向き合わさなければ、何も解決しませんよ……!」

冠城「…………」


強い口調で言い放つ上司の姿に、冠城は自分と彼の意思が一致していると確信した。

162 : 以下、名... - 2018/05/27 17:03:42.02 1GsLvrze0 156/646

冠城「お互い意見が合いましたね……」

「しかし……ひとつ、大きな問題があります」

「どうやって彼らの罪を暴くのかです」

「石田家と西宮家の示談が成立している今、うかつに手出しできないし……」

「生徒達や竹内先生を攻めようにも、こちらは証拠がない……」

「石田君いじめから事を進めようにも、俺達は島田君達と何度か顔を合わせている」

「これ以上、不用意に嗅ぎ回りでもしたら、彼に対するいじめをかえって助長する恐れがある」

「はっきり言って、お手上げですよ」


と言いながら、本当に両手を上げて見せる一方で、
「けど、あなたの事だから、何か手は考えてあるのでしょう?」とも聞いてみせた。

163 : 以下、名... - 2018/05/27 17:04:43.90 1GsLvrze0 157/646

右京「君も察しが良くなりましたねぇ……」

冠城「という事は、ビンゴですか?」

右京「そんなところです」

冠城「それで?どんな手、考えてるんです?」


冠城の問いに右京は「水田校長を利用します」と答えた。

164 : 以下、名... - 2018/05/27 17:05:26.80 1GsLvrze0 158/646

冠城「あの校長を、ですか?」

右京「冠城君……昨日僕達の質問に対して彼、何と答えましたか?」

冠城「……そう言えば、硝子ちゃんいじめの事隠しましたね」

右京「そう……彼は我々に対し、いじめなどのトラブルはなかったと嘘の証言……即ち、偽証を図ったのです」

「ここまで言えば、分かりますね?」

165 : 以下、名... - 2018/05/27 17:06:03.98 1GsLvrze0 159/646

冠城「………………」


「彼の偽証から事を進め、そこから芋ずる式に6年2組のいじめ問題を引きずり出そうというわけですね」

166 : 以下、名... - 2018/05/27 17:09:09.55 1GsLvrze0 160/646

右京「そういう事です。彼が、今回の件を何処まで把握しているかは分かりませんが……」

「一度示談で決着を着けたと思っていた問題に、別の問題が隠れていると知れば、否が応でも事の真偽を確かめたくなるはずです」

「警察が6年2組に立ち入ることをあの方に許可させれば、それで問題ない……」

冠城「しかし、どのみち証拠は必要になりますよ」

右京「そこで僕に考えがあります」

冠城「考えって?」


右京は、冠城に自分の考えを話した。

167 : 以下、名... - 2018/05/27 17:10:09.17 1GsLvrze0 161/646

冠城「確かに、それを調べさせるのが確実そうですが……」

「そう都合良く今も保管していますかね?」

右京「だからこそ、君にも動いてもらおうというわけですよ……」

168 : 以下、名... - 2018/05/27 17:11:02.53 1GsLvrze0 162/646

冠城「………………」

「分かりました」

「ただ、俺らの顔と身分は割れていますからね……別の奴にやらせる事になりますが、構いませんか?」

右京「構いませんよ……元より、そうさせてもらうつもりです」

冠城「んじゃ、明日朝一番に『アイツ』に連絡入れてみますかね……」

右京「頼みますよ」


そうして、右京の考えを実行に移す事となった冠城。

6年2組のいじめ問題に終止符を打つべく、ついに特命係が動き出した……

178 : 以下、名... - 2018/06/01 05:06:05.58 5sCMbn110 163/646

相棒×聲の形 ~3日目~


―翌日―


硝子は、水門小学校へと足を進めていた。

いつも通りの、通い慣れた道。

しかし、その表情はどこか曇りがちだ。


右京「おっと!これは失礼……」

硝子「…!」


その時であった。突然、右京が通り掛かり、彼女と軽くぶつかってしまった。

179 : 以下、名... - 2018/06/01 05:08:00.33 5sCMbn110 164/646

硝子「あ…!」


そんな彼を見送ったその時であった。
硝子は、足元に一枚のハンカチが落ちている事に気付く。
見た所、大人の男性が使っていそうなデザインであり、硝子は先程ぶつかった際に右京が落とした物なのではないかと考える。

そこで彼女は、急いでそれを拾い上げ、急いで右京の下に駆け寄る。


硝子「あ…あ、にょ……!」


何とか追い付いた硝子は、スーツの裾を引っ張りながら呂律の回らない声で右京を呼び止めた。


右京「どうしました?」

硝子「こるぇ……」


振り返った右京に、硝子はハンカチを差し出した。


右京「おやおや…これは僕のじゃありませんか。拾ってくれたんですか?」


と言いながら手話を交えると、硝子は首を縦に振った。

180 : 以下、名... - 2018/06/01 05:10:37.72 5sCMbn110 165/646

右京「どうもありがとう……君も学校で頑張って下さいね」


ハンカチを受け取りながら、手話を交える右京。
それを見た硝子は、一瞬複雑な表情になったが、すぐに愛想笑いを浮かべて頷くと学校の方へと歩みを進める。


右京「…………」


だが右京は、その表情が心配を掛けまいと作った顔である事を見抜いていた。
そしてどういう訳か、その際髪から見え隠れした彼女の右耳を注視する。

その後、硝子が拾った自分のハンカチに少しの間目を向けたのち、ポケットにしまい込みながらある場所へ向かった。

181 : 以下、名... - 2018/06/01 05:15:22.23 5sCMbn110 166/646

―西宮家―


いと「はい……あら?」


呼び鈴が鳴ったので、いとは顔を出すとそこには右京が立っており、彼女に対して深々とお辞儀をする。
それから、彼はまたリビングに案内された。

この時間、硝子はもちろん彼女の母親もいなかった。


結絃「あれ?刑事さんまた来たんだ」


そこへ、結絃が奥の部屋から姿を現した。


右京「おや……君もいたんですか?」

結絃「え?うん、まあ……」

右京「学校に行かないんでいいんですか?」

結絃「そ、それは……」


右京の問いに結絃は言葉を詰まらせた。


いと「刑事さん…ゆずは硝子の事で色々とありまして………」

右京「…………」


いとの一言で、右京は察した。

結絃は、姉の障害をネタにいじめに遭い、不登校になったことを……

182 : 以下、名... - 2018/06/01 05:18:44.33 5sCMbn110 167/646

右京「なるほど……知らなかったとはいえ、辛い事を聞いてしまい申し訳ない」

結絃「いいんだよ。元はと言えば、アイツが……」

「母さんが、姉ちゃんをちゃんとした学校に連れて行かないのが悪いんだから!」

いと「これ、ゆず!」

結絃「だってそうじゃんかよ!そのせいで姉ちゃん何度もいじめられてんのに、アイツはその事まるで分かっちゃいない!」

「おまけに姉ちゃんに解決させるとか何とか言って今まで助けもしなかった癖して」

「今回に限ってはちゃんと石田の母さんに補聴器の弁償させて……」

「まったくわけ分かんないよ!」

いと「ゆず……!すみません、刑事さん……」

右京「いえ……構いませんよ」

「しかし、彼女とお母様はあまり仲がよろしくないんですねぇ……」

183 : 以下、名... - 2018/06/01 05:19:55.89 5sCMbn110 168/646

結絃「当たり前だよ!姉ちゃんの事中々助けようとしなかったばかりか、髪まで切って補聴器を見えるようにしようとして……!」

「そんな事したら余計いじめられるって分かんねぇのかなあ?」

いと「ゆず!ちょっと外に出てってもらおうかしら?刑事さんが落ち着いて話が出来ないでしょう」

結絃「ちぇ…!しょうがねぇな……」


さすがのいとも、他人の前で結絃が愚痴々言うのを良しとせず退室を命じると、結絃は渋々と部屋を出て行った。

184 : 以下、名... - 2018/06/01 05:21:01.60 5sCMbn110 169/646

いと「本当にすみません。孫が、お見苦しいところを………」

右京「いいえ……彼女が愚痴をこぼすようなきっかけを作ってしまったのは、こちらです」

「あなたが頭を下げる必要はありませんよ」

「それに……お母様が硝子ちゃんに何をしてきたのか、それが少しばかり分かりました」

いと「八重子がしてきたこと……?」

185 : 以下、名... - 2018/06/01 05:21:46.79 5sCMbn110 170/646

右京「…………」

「今の結絃ちゃんの話しを聞く限り、彼女は硝子ちゃんに対し、結構な無茶振りをなさっていたようですね?」

「硝子ちゃんが普通の小学校に通っているのも一昨日の厳しい態度も、それが関係している……違いますか?」

いと「……………」


右京の問いの、いとはしばし黙ったのち、こう答えた。


いと「娘は……八重子は、本当はあんな娘じゃないんです……」

「昔から不器用で、周囲から誤解される事がしょっちゅうあるもんで……」

「それに、好きでああやっている訳でないんですよ」

右京「と、仰いますと?」

186 : 以下、名... - 2018/06/01 05:23:05.90 5sCMbn110 171/646

いと「…………」

「あれは、13年以上前の事です……娘は、1人の男性と結婚しました」

「その男性と結婚して最初に産まれたのが、硝子でした……」


その時の八重子は、実に幸せだったのだといとは語る。

だが……


いと「硝子が産まれてから3年後……あの娘の幸せは終わりを告げました」

「ある日、硝子の様子がおかしい事に気付いたんです。こちらの声に、ほとんど反応しなくなって……」

「そこでお医者様に診てもらったところ、高難度難聴であると診断されました」

右京「硝子ちゃんが障害を持っていると分かったのは、産まれてから3年経った後だったのですか……」

いと「産まれた直後はまだある程度耳が聞こえていたらしく、最初の検査の段階で見逃されていたようで……」

「おまけにお医者様の話によると、『先天性風疹症候群(せんてんせいふうしんしょうこうぐん)』の可能性が高いと……」

右京「先天性風疹症候群……母親の持つ風疹ウィルスに由来する障害ですか」

「ということは、八重子さんは硝子ちゃんを身ごもった当時、風疹ウィルスを発症していた……」

いと「えぇ……」

「心当たりがないか聞いてみたら、夫と子作りをした後、調子が悪くなった時期があったと言っていました」

「そこで、夫の持っていた菌が移ったのではないかと思い、八重子は硝子の障害の件も含め、彼にその事を話しました」

「しかし………」

187 : 以下、名... - 2018/06/01 05:24:29.42 5sCMbn110 172/646

八重子がそうしたところ、夫は態度を一変させ、
『八重子が予防接種を怠ったせいだ』などと言い出し、自分の責任を八重子に押し付け、
その上硝子が聴覚障害を患ったことを理由に、彼女を毛嫌いし始めたのだ。

彼だけではない……彼の両親もだ。

彼らは自分達の息子の非を咎めるどころか、彼に肩入れし……

188 : 以下、名... - 2018/06/01 05:25:08.61 5sCMbn110 173/646



『障害を抱え、国などから補助を受けて生きる子供など要らない』


『責任逃れをする世間知らずな親の子は、きっと世間知らずに育つ』


『不満があるなら1人で育てろ』


189 : 以下、名... - 2018/06/01 05:25:56.41 5sCMbn110 174/646

などと散々文句を言って硝子や八重子を毛嫌いした末、
八重子に硝子を押し付け、そのまま別れてしまったそうである。

190 : 以下、名... - 2018/06/01 05:27:36.98 5sCMbn110 175/646

いと「以来、彼らが何処で何をやってるか……今はもう分かりません」

「八重子は、その時のことを酷く悔やみました。『私がもっと強気に出ていれば、硝子を守れたのに』と……」

「私もあの娘の事を庇い切れなかったので、『あなた1人のせいではない』と言ったのですが、それでも彼女は自分を責めました」

「そして、お腹に結絃がいると分かった頃からでしょうか?」

「あの娘は、涙を捨てて硝子を『障害に甘えない強い子に育てる』と誓ったんです」

「こうして八重子は、硝子達に対して厳しく接するようになった訳なのです」

右京「硝子ちゃんが普通学校である水門小学校に通っているのも、その一環のようなものだったのですね?」

191 : 以下、名... - 2018/06/01 05:28:17.29 5sCMbn110 176/646

いと「はい……」

「しかし、刑事さんの言う通り無茶振りが過ぎるところがありましてね……」

「この6年間、硝子は他の学校でも補聴器を紛失したり不適切な扱いを受けました」

「それでも八重子は、硝子自身が強くなり、自力で解決出来るようになる事を望み、普通学校に入れるのを止めませんでした」

「その一環として、先程結絃が話した通り、硝子の補聴器がはっきり見えるよう髪を切ろうとまでして……」

「結絃が、男の子の様に振る舞う様になってしまったのも、それが原因です」

「あの娘は、八重子から硝子を守る為、自ら髪を切って女の子らしく振る舞う事を捨ててしまった……」

「ただ……さすがの八重子も、今回の石田君の所業は見逃せなかったようですがね」

右京「硝子ちゃんは今年で6年生……小学校生活も残り僅かですからねえ」

「『今回ばかりはしっかり解決しなければいけない』と考えたのでしょう」

いと「えぇ、恐らくは……」

右京「………」

192 : 以下、名... - 2018/06/01 05:31:13.31 5sCMbn110 177/646

今の話を聞き、右京は八重子の中に宿る意思の正体を理解した。

彼女は、夫の不備を押し付けられ、それに対して抵抗が出来なかったのだろう。
だからこそ、絶対に弱みを見せないと心に誓った。

娘達を強く育てようと手厳しく接しているのも
自分の二の舞を踏ませたくないという意図がある事も充分考えられた。

しかしそれは、母としては苦渋の決断でもあったに違いない。
真面目にやればやるほど、かえって理解されなくなるというリスクもない事はないのだ。
結絃が彼女に反感を持っている事からも、それは明らかだ。

それでも八重子は自身の信念を曲げず、今日まで彼女らを育ててきたのだろう。

並の人間なら、途中で挫折してもおかしくない……

そう考えると、八重子は親としては立派な人物と言えよう。

しかし……

193 : 以下、名... - 2018/06/01 05:31:45.90 5sCMbn110 178/646

右京「お婆様……八重子さんがどれ程の覚悟を持って、硝子ちゃん達と接して来たのか理解出来ました」

「彼女があそこまで厳しい態度を取るのは、旦那様一家の押し付けから硝子ちゃんを守れなかった弱い自分を隠す為……」

「硝子ちゃんを守れなかった自分に対する、一種の責任と戒めの表われでもあった」

「障害を患うお子様を持つ親は、周囲から見下される事も多い」

「旦那様もおらず、あなた以外に頼れる人間がいなかった彼女は、そうするしかなかった……」

「その決意は、生半可なものではない……だからあなたは、今までずっと彼女のやり方を見守ってきた」

いと「…………」


何の返事を返さないいとではあったが、否定をしているわけではない事はすぐに理解出来た。

194 : 以下、名... - 2018/06/01 05:33:52.48 5sCMbn110 179/646

右京「しかし……本当に八重子さんのやり方に、問題はなかったのでしょうか?」

いと「え…?」

右京「人は完璧ではありません。例え真っ当な理由で動いているつもりが、知らない間に間違いを犯すことがあります」

「この13年間、八重子さんを見守ってきたあなたは、そう感じることがあったのではありませんか?」

「例えば、先程申した無茶振りとか……」

いと「…………」


右京の問い掛けに、いとは思い当たる節がある様な表情を浮かべた。


右京「あなたも、理解なさっているとは思いますが……」

「子供という存在は、いじめに対しては無力です。そこに障害の有無は関係ない……」

「結絃ちゃんが健常な人間であるにもかかわらず、いじめに耐えかねて不登校になってしまっている事からも明らかです」

「人がいじめられる理由は色々とありますが、一番分かりやすいものとしては、『自分達と異なる存在を受け入れられない』というものが挙げられます」

「今回の件はまさにそれです。これまで、硝子ちゃんに対して不当な扱いをしてきた者達は、彼女の障害を理解し、歩み寄ろうとしなかったのでしょう」

「しかし何故、そんな事になってしまうのか?」

195 : 以下、名... - 2018/06/01 05:34:59.87 5sCMbn110 180/646



「それは、硝子ちゃんが同じ人間でありながら、彼らと異なる点があるからです」


196 : 以下、名... - 2018/06/01 05:36:41.13 5sCMbn110 181/646

右京「人は、自身と異なる存在を見ると、それを排除しようとしてしまう……ある意味、本能のようなものです」

「健常な人間の多い普通学校では、そのような思想の人間が特に多い」

「障害を持つ人間が、普通学校で上手くやっていけたという事例はない事はありませんが……」

「硝子ちゃんの事を理解出来る人間がいなければ、どんなに強くあれと望んだところで、それは意味を成さなくなる……」

「彼女に歩み寄り、理解しようとする人間がいなければ、硝子ちゃんに対するいじめがなくなる事はないでしょう」

「何故硝子ちゃんはいじめられるのか?何が駄目なのか?」

「そして、どのような学校に入れれば、彼女がいじめられる確率が減るのか?」

「今一度、八重子さんと話し合ってみてはいかがでしょうか?」

いと「…………」

197 : 以下、名... - 2018/06/01 05:38:46.55 5sCMbn110 182/646

右京の話しを聞き、いとの表情は複雑であった。

八重子は今は二児の母……子供ではない。

母親の自分が、今更干渉すべきではないと考えているのだろう。

それ故、娘と孫の領域に必要以上に足を踏み込んではいけないと、
今まで自制を掛けてきたことは想像出来た。

しかし……それでも右京は、このままにすべきではないと考えていた。

198 : 以下、名... - 2018/06/01 05:40:53.86 5sCMbn110 183/646

右京「…………」

「僕も無茶な事を言っているのは分かっているつもりです」

「母として、大人になった娘さんの意思を尊重してあげたい気持ちも分かります……」

「しかし、硝子ちゃんは来年で中学生……大人への道を歩み始める頃です」

「それなのに、八重子さんは自身の誤りに気付かず、お孫さん達も彼女の真意を知らず、溝を作ったまま……」

「果たして、このままでいいのでしょうか?」

「場を取り持つ為、中立の立場を保つのも大事ですが……」

「時としては、踏み込んだ対応を取っても罰は当たらないと思いますよ」

いと「…………」


右京のいう言葉を、いとはただ黙って聞いていた。

199 : 以下、名... - 2018/06/01 05:43:26.43 5sCMbn110 184/646

右京「…………」

「申し訳ない。僕とした事が、年上の方に対し、なんと説教じみたことを………」

いと「……そんな事、ありません。久し振りに、いい話しを聞かせてもらって感謝しています……」

「ここまで真摯な言葉を掛けてくれる男の人に会うのは、何年振りでしょうねぇ……」

「私も、長生きして色々知ってるつもりでいたけれど、まだまだだったのかもしれません……」

200 : 以下、名... - 2018/06/01 05:47:51.64 5sCMbn110 185/646

右京「………」

「そう言って頂けると、幸いです………」


と、右京は安心の意を見せた。

何故、わざわざいとに呼び掛けたのか?

それは、この件はあくまで西宮家の問題であるからだ。

八重子が姉妹を虐待していたというなら話しは別だが、
今回のケースは、硝子の事を考え過ぎたが故の失敗に近い。

相手が犯罪者でない以上、警察がうかつに足を踏み込んでいい領域ではない。
例え杉下右京個人として言ったところで、第三者の横槍と断じられるのも目に見えている。

そもそも、自分達が今追っているのは6年2組のいじめ問題……

西宮家の問題の解決ではない。

西宮家の問題は西宮家の人間に解決させなければならない。

それが、彼女らの為なのだ。

201 : 以下、名... - 2018/06/01 05:50:29.48 5sCMbn110 186/646

いと「ところで、今日は何のご用で?生憎、硝子は学校ですが……」

右京「その事なんですがねぇ……」

「独自に調べてみたところ、硝子ちゃんにわざわざ話を伺う必要はないことが判明しまして……」

いと「では、その事をお知らせに?」

右京「えぇ……」

「しかし、それとは別に『ある物』が必要になりました」

いと「ある物?」

右京「それはですねぇ……」

202 : 以下、名... - 2018/06/01 05:54:36.51 5sCMbn110 187/646



―水門小学校―


「お願いです!どうかこの通り…!」


学校の事務室にいる事務員の前で、1人の男が両手を合わせ頭を深々下げながら何かを頼み込んでいる。
どうやら、この学校に何か用事があって来た者のようだ。
そこへ、職員に連れられて水田校長がやって来る。


水田校長「この人かね?」

職員「はい……先程から、あなたに会うまで絶対帰らないと言って聞かないもので……」


職員の説明を聞き「ふむ……」と言ったのち、水田校長は男に声を掛ける。

203 : 以下、名... - 2018/06/01 05:55:15.31 5sCMbn110 188/646

水田校長「君……私が、校長の水田ですが」

青木「おぉ!やっと来ましたか……あぁ、これはどうも初めまして!」

「僕、『青木年男』と言いましてね、どうしてもこの学校に用がありまして……

「その為に、どうしてもあなたと話がしたかったんですよ~」


なんと、この学校を訪れた男の正体は警視庁サイバー対策課の青木であった。

何故彼が、ここにいるのか?

一方、目の前の青年が警察の人間だと知らないまま、校長は質問を続ける。

204 : 以下、名... - 2018/06/01 05:56:47.62 5sCMbn110 189/646

水田校長「用事とはなんだね?」

青木「実は、僕の友人が教師の勉強やってましてね、その勉強の為に小学校の授業を見学しようと思ってたみたいなんですが……」

「運が悪い事に高熱でぶっ倒れて、出来なくなってしまったらしくて……」

「だから僕が代わりにその様子を見学して、見た内容まとめて持って来いって頼まれたんですよ」

「僕は断ったんですが、この時期のこの学校じゃないと絶対駄目だと言って聞かないもので……」

「ですのでここは、あなた様直々に見学許可を頂きたいと……」

職員「こ、校長……どうします?」

水田校長「うーむ……」

青木「もちろん、授業の邪魔になる事は一切やりません!廊下から黙って見てるだけなんで…!」

「用が済んだら、すぐ帰りますから……ね?」

205 : 以下、名... - 2018/06/01 05:57:44.85 5sCMbn110 190/646

水田校長「………」


青木の頼みに、水田校長は少し考えたのちこう答える。


水田校長「分かった…そう言う事なら、好きにして構わんよ」

青木「ありがとうございます!では、ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと終わらせてきます」


と言って青木は、早々に学校の奥へと足を進めて行った。

206 : 以下、名... - 2018/06/01 05:58:32.91 5sCMbn110 191/646

職員「校長……良かったんですか?」

水田校長「見学くらいなら構わんだろう」

「それに、これが元でこの学校に注目が集まるかもしれんし……」

職員「は、はぁ……」

207 : 以下、名... - 2018/06/01 06:00:25.71 5sCMbn110 192/646

―水門小学校内の廊下―

青木「ふぅ……」

「何で僕がこんな遠くまで来て、こんな猿芝居打たなきゃなんないんだか……」


廊下を歩きながら愚痴る一方で、
「しかし、こんなにあっさり通してくれるなんて……あの水田とか言う校長、とんだ無能だな」と校長の事を嘲笑ってもみせた。


青木「さて…6年2組の教室はっと………」


6年2組の教室を探し歩く青木。しばらくそうしている内に、彼はその教室を発見する。


青木「あったあった……何の授業やってるんだ?」


青木はこっそりと6年2組を覗き込むと、竹内が授業内容を黒板に書いて生徒を指導している最中であった。
そこに書かれた文字や、生徒達が開いている教科書を見る限り、国語の授業をやっているようだ。

208 : 以下、名... - 2018/06/01 06:01:04.88 5sCMbn110 193/646



青木「撮影開始……」


209 : 以下、名... - 2018/06/01 06:01:53.59 5sCMbn110 194/646

それを確認するや、青木は懐からスマホを取り出して動画撮影を開始した。
しかしそのスマホは、良く見れば彼のものではない。

そして、彼が『誰かのスマホ』で撮影している授業風景は、次のようなものだ。

210 : 以下、名... - 2018/06/01 06:06:58.36 5sCMbn110 195/646

竹内「次は朗読だ。西宮、読んでみろ」

硝子「………」


教科書の内容を読むよう、竹内は硝子に指示する。


硝子「あ、う……ひ…………」


映像の中の硝子は、必死に教科書に書かれた内容を口にするが、呂律が回らず意味不明な言葉になってしまう。


竹内「何やってんだ……」

「おい植野、どう読むか教えてやれ!」

植野「………」

「はい……」


それを見かねた竹内は、隣に座る黒髪の少女……

即ち、植野直花に梢子の朗読のサポートを指示すると、植野は渋々了承した。


植野「ほら……ここはね、こう読むのよ」

硝子「う…いぃ……」

植野「違うわよ!……あぁ、もう!」


隣から大きな声で発音の仕方を教える植野だったが、
耳の不自由な硝子がすぐに理解出来るはずがなく、授業は中々進まない。

そうしている内に、植野の表情はあからさまに険しくなり、
周りの生徒達も笑っていたが、竹内はと言うと笑うのを止めるよう喝を入れただけで、
硝子と植野を助けようとはしなかった。

青木は、この一連の様子を念入りに撮影した。

211 : 以下、名... - 2018/06/01 06:08:43.35 5sCMbn110 196/646

青木「これで良しっと……」


動画撮影を終える青木。だが、彼の目的はこれで終わりではなかった。

次の目的達成の為、彼は手近な男子トイレの個室に身を潜めた。

212 : 以下、名... - 2018/06/01 06:09:09.16 5sCMbn110 197/646



―西宮家―


右京「わざわざ無理を言ってしまって、申し訳ありませんね」

いと「いえいえ…構いません。刑事さんの役に立てるのなら、それで充分です」


どうやら、ある物を借りる事に成功したらしく、右京は礼を述べながら西宮家の玄関に足を運ぶ。

そんな中、いとはある疑問を投げ掛ける。


いと「しかし、どうしてそれが必要なんですか?」

右京「申し訳ありません。現段階では、お話しする事は出来ないものでして……」

いと「守秘義務…ですか?」

右京「えぇ……」

「しかし、全て終わったらきちんとお返ししますので、どうか心配なさらずに……」

いと「はい、分かりました」


いとの返事を確認すると、右京をお辞儀をした後立ち去ろうとしたが、
「あ!最後にひとつだけ……」と言いながら振り返り、次のような事を聞いた。

213 : 以下、名... - 2018/06/01 06:09:50.29 5sCMbn110 198/646

右京「石田君の事で、硝子ちゃんは何か言っていませんでしたか?」

いと「えぇ……昨日、あの娘が学校から帰った後、結絃が聞いていました」

右京「彼女は何と?」

いと「それが……何も答えてくれなかったそうです」

右京「何も答えなかった?」

いと「えぇ…結絃は、『まるで石田君の事を庇ってるみたいだ』と言っていましたが……」

右京「そうですか。いや、少し気になったものでしてね……」

「では、今度こそ失礼します」


そう言うと、右京は西宮家を後にする。

そして、『ある場所』へと向かって行くのだった。

214 : 以下、名... - 2018/06/01 06:12:28.09 5sCMbn110 199/646



―水門小学校 校内―


チャイムの音を合図に、青木はトイレの個室から出てくると
廊下に出ている生徒に見付からないようにしながら、再び6年2組の教室に向かった。


???「ねえアンタ…どういうつもりなの?」

青木「ん…?」


そして、例の教室を訪れると、怒気の籠った声が聞こえる。

それは、先程硝子のサポートを指示されていた、植野直花……

彼女は、腕を組んだ格好で席に座る硝子を睨んでいる。


硝子「………」

植野「どうしていつもいつも、あたしがあんだけ教えてやってるのに分かってくれないの?」

硝子「……………」

植野「そうやってまた、だんまり決め込もうっていうの?」

「ふざけんなよ!」

215 : 以下、名... - 2018/06/01 06:13:07.84 5sCMbn110 200/646

パチン―――!

怒鳴りながら植野は、硝子の頬に平手打ちを叩き込む。

痛みで顔を歪める硝子。


一方、周りの生徒達はというと……

216 : 以下、名... - 2018/06/01 06:13:44.00 5sCMbn110 201/646

川井「~♪」


川井みきを始めとした、多くの女子・男子生徒は知らん振りしており、
中には何事もないかのように談笑している者達もいた。

見ている生徒もいるにはいたものの、その多くが硝子の姿を見て笑っている。


硝子「…………」


しかし、硝子は自衛の為だろう、愛想笑いを浮かべている。

217 : 以下、名... - 2018/06/01 06:14:34.75 5sCMbn110 202/646

川井「何だよ……笑って許される問題じゃねぇんだよ!」

「大体、アンタが来てからこんな事ばっか……」

「石田もいじめられるようになったし、あたしもアンタのせいで恥かいてばっかだし……」

「アンタが来てから、何もかもがおかしくなったのよ!分かってる?」

「いや……分かってないだろ!」

218 : 以下、名... - 2018/06/01 06:15:11.86 5sCMbn110 203/646



「この悪魔……!!」


219 : 以下、名... - 2018/06/01 06:15:54.56 5sCMbn110 204/646

硝子「…………」


と、硝子を罵ってみせる植野。

硝子も聞こえているわけではないが、植野の様子から何を言われているのか何となくは感じ取っている。

一方、こんな事になっているにもかかわらず、周囲の生徒達は止めに入らない。

それどころか………

220 : 以下、名... - 2018/06/01 06:16:44.14 5sCMbn110 205/646

女子生徒A「あーあ……可哀想に」

女子生徒B「けど、いい気味よね」

女子生徒C「アイツのせいで私らの授業、滅茶苦茶だもんね~」


と、陰口を叩いている生徒が大多数であった。

青木は、その様子も『誰かのスマホ』で撮影している。

221 : 以下、名... - 2018/06/01 06:17:35.70 5sCMbn110 206/646




男子生徒「おっちゃん、何やってんだ?」

青木「い!?」


その時であった。たまたま近くを通り掛かった
他のクラスの生徒に話し掛けられ、青木は思わず変な声を上げてしまう。

そして、急いで『誰かのスマホ』をポケットにしまい込む。

222 : 以下、名... - 2018/06/01 06:19:12.08 5sCMbn110 207/646

男子生徒「今、なんか隠さなかった?」

青木「隠してない!隠してないよ~……」

男子生徒「つーか、おっちゃん誰?先生じゃないよね?」

青木「あ、あのね……『お兄さん』はね、学校のお勉強に来てる人でね………」

女性教師「どうしたの?」


そこへ、他のクラスの教師がやって来る。

223 : 以下、名... - 2018/06/01 06:20:26.72 5sCMbn110 208/646

男子生徒「変なおっちゃんが、こそこそ何か覗いてたんです」

「しかも、何か怪しいもの隠しました」

女性教師「え!?」

青木「ち、違います!僕は、友達の頼みで学校の勉強に来た者です!」

女性教師「そうなんですか?」

「けど……今は休み時間ですけど」

青木「休み時間の様子観察も、学校の勉強の内なんです!」

「それに、見学許可もちゃんともらってます!後で校長先生に聞いてみれば分かります!」

「それに、もうそろそろ帰りますんで、校長先生にそう伝えておいて下さい!」

「それじゃ!!」


と言って強引に押し切ると、青木は足早に逃げ出した。

そんな彼に、生徒と教師は呆気にとられるのであった。

224 : 以下、名... - 2018/06/01 06:22:13.77 5sCMbn110 209/646

―水門小学校 敷地内―


青木「はぁ…はぁ……危なかった………」

「たく……何がおっちゃんだよ、あのガキ!僕はそんなに言われる程老け込んでないっつーの!」

「……うん?」


青木は、ふと前を見ると、そこには池があった。


青木「池……」

「丁度いい……ここにある物拾って、こんな学校さっさとおさらばだ!」


そう言いながら、青木は池の中を覗き込んでみる。

覗いた先にあったものは果たして……?

225 : 以下、名... - 2018/06/01 06:23:19.42 5sCMbn110 210/646



―職員室―


島田と広瀬は、急に竹内にこの場所に呼び出された。


広瀬「お、おい……先生、どうして急に俺達を呼び出したんだ?」

島田「知らねぇよ……お前、何かしたんじゃないのか?」

広瀬「やってねえよ……!」


竹内「お前達……」


そのようなやり取りを交わす2人の前に、竹内が姿を現す。
それを見た2人は、ぴたりと黙って彼と向き合った。

226 : 以下、名... - 2018/06/01 06:23:57.92 5sCMbn110 211/646

竹内「実は聞きたいことがある……正直に答えてくれ」

島田「な、何ですか…?」

竹内「お前達、最近石田へのことで、やり過ぎてはいないだろうな?」

島田広瀬「「!」」


竹内の問いに、2人は背筋を凍らせた。

彼は、自分達の石田いじめに対しては、ほとんど無関心だったはず……

どうして今頃、そんな事を聞かれなければならないのだろうか?

その疑問に答えるかのように、竹内は次のような事を話す。

227 : 以下、名... - 2018/06/01 06:24:53.16 5sCMbn110 212/646

竹内「実は昨日、校長先生に呼び出されてな……」

「『この学校の生徒が、暴力を振るわれている現場を見た』と、警察に聞かれたらしいんだ」

島田「け、警察の人に?」

竹内「そうだ……」

「お前達は特に石田に手を出しているからな……何か目を付けられる事でもしたんじゃないか?」

島田「そ、そんな訳ない……な?」

広瀬「う、うん……!」

228 : 以下、名... - 2018/06/01 06:25:44.12 5sCMbn110 213/646

竹内「…………」

「そうか、ならいいんだ」

「だが、くれぐれもやり過ぎないように……いいな?」

島田広瀬「「はい」」


こうして、2人は開放された。

だが、何故竹内にあんなことを聞かれたのか……

その疑問は尽きなかった。

229 : 以下、名... - 2018/06/01 06:26:58.19 5sCMbn110 214/646

広瀬「島田……一体、どういう事なんだろうな?」

島田「…………」

広瀬「何で急に、竹内先生はあんな事聞いてきたんだろ?」

「それに、警察の人がどうして校長先生のところに……?」

島田「……」

「は!」


その時であった……島田の脳裏に、ある人物の姿が思い浮かぶ。

それは、二度に渡って自分達のいじめを妨害した、あの男……

冠城亘の姿が……

230 : 以下、名... - 2018/06/01 06:29:21.41 5sCMbn110 215/646

島田「まさか!アイツ……!」

「ん……?」


冠城の正体に勘付く島田。

するとその時、教室にいたくなくてウロウロしていたのだろう……

目の前の廊下を歩く石田の姿が目に留まる。


島田「…!」


その姿を見るや、島田は速足で石田に駆け寄ると、胸倉を掴んで壁に押し付ける。


石田「!? な、なんだよ……!」


突然の出来事に困惑する石田。

そんな彼の事などお構いなしに、島田は「おい……知ってる事全部話せ!」と問い掛ける。

231 : 以下、名... - 2018/06/01 06:33:03.87 5sCMbn110 216/646

石田「何の事だよ……?」

島田「とぼけんじゃねぇよ……昨日、お前を助けた奴いただろ?」

石田「あ……あの、男の人?」

島田「そうだ……」

「アイツ、誰だ?」

石田「へ…?」

島田「誰だって聞いてんだよ!」


そう言って島田は、乱暴に石田の体を揺すった。

彼の行動の理由が分からず、石田はますます混乱する。

232 : 以下、名... - 2018/06/01 06:36:40.86 5sCMbn110 217/646

石田「だ、だから何なんだって……!」

島田「さっきな……竹内先生からお前のことを聞かれたんだよ!」

石田「俺のこと……?」

島田「あぁ……」

「校長先生から『警察の人から、俺がお前をボコボコにしてること聞かれた』ってな!」

石田「け、警察が校長先生に?」

「……け、けど、それと俺に何の関係が?」

島田「昨日と一昨日、俺達の邪魔したアイツ……警察だろ?」

「アイツに何か話したんじゃないのか?」

石田「……!」


島田の問いに、石田は思わず反応してしまう。

その様子を島田は見逃さない。

233 : 以下、名... - 2018/06/01 06:37:10.13 5sCMbn110 218/646

島田「やっぱ知ってんのか?アイツのこと……」

石田「そ、それは……」

島田「一体、何話した?正直に言え……!」

石田「…………」


鬼気迫る様な島田の問いに、石田は一瞬言おうか否か迷ったが、
すぐに冠城が言ってくれた、あの言葉が彼の脳裏を過ぎった。

234 : 以下、名... - 2018/06/01 06:37:59.02 5sCMbn110 219/646



『大丈夫……君から聞いた事は、上司以外には誰にも話さない』


『僕の上司も、同じ対応を取ってくれるだろう』


235 : 以下、名... - 2018/06/01 06:38:46.97 5sCMbn110 220/646

石田「…!」


そうだ、彼も自分が全てを話した事を秘密にしてくれると約束してくれたのだ、

だったら、自分も……!

236 : 以下、名... - 2018/06/01 06:39:14.86 5sCMbn110 221/646

石田「さ、さあ……?」

島田「はあ?」

石田「だ、誰なんだろうな?あの人……」

島田「…………」

「お前、それ本気で言ってるのか?」

石田「あ、あぁ……」

「確かにあの人、俺のこと助けたけどさ……」

「あの後、すぐに俺を家の側まで届けてくれて……」

「だから、警察の人なのか全然分からないし、なんにも話してない……」

島田「…………」

「ふざけてんのか?」

石田「ふざけてねぇよ……」

「大体、お前が正直に言えっつったんじゃねぇか……」

島田「……………」

237 : 以下、名... - 2018/06/01 06:41:03.24 5sCMbn110 222/646

こうして、しばし無言で石田を睨む島田。

同じく無言で見つめる広瀬……

そして……

238 : 以下、名... - 2018/06/01 06:41:35.03 5sCMbn110 223/646

ドカッ―――!

島田は、石田の顔を殴りつけた。


石田「いって……!」


殴られ、赤くはれた頬を押さえ、その場に跪く石田。

一方、殴った本人は忌々しそうに舌打ちしたのち、
「行くぞ!」と言って、広瀬と共にその場から離れて行った。


石田「…………」

239 : 以下、名... - 2018/06/01 06:43:38.53 5sCMbn110 224/646

広瀬「お、おい……島田、大丈夫なのかよ?さっき竹内先生に……」

島田「あぁ……だからさっきは、一発殴るだけで済ませてやった」

広瀬「けど、石田の奴、本当にアイツのこと何も知らないのか?」

島田「分からない。けど、あんなんじゃ聞くだけ無駄だろ」

「とにかく、ほとぼりが冷めるまでアイツへのインガオーホーは、しばらく休みだ」

広瀬「あぁ……」

240 : 以下、名... - 2018/06/01 06:44:12.32 5sCMbn110 225/646



だが、島田達はまだ知らなかった……

こうしている間に、自分達を裁こうとする者達が、着々と準備を進めていることに……


241 : 以下、名... - 2018/06/01 06:47:19.44 5sCMbn110 226/646



水門市内某所カフェ……

このカフェの一角で、1人の青年がコーヒーをたしなんでいた。

冠城亘である。

そこに、水門小学校でやるべき事を終えた青木年男が姿を見せる。

242 : 以下、名... - 2018/06/01 06:47:56.50 5sCMbn110 227/646

青木「やれやれ……」

「こっちはやりたくもない猿芝居やらされるは、正体バレそうになって肝を冷やす思いをしたっていうのに……」

「あなたと言う人は、安全地帯でコーヒー飲んでサボタージュですか?」

「お高く留まった身分だ事ですねえ!」

冠城「別にサボって何かねぇよ。お前が来るまでの間、する事がないから休憩してただけだ」

青木「はいはいそーですかっと!」


あからさまに納得していない声色で、青木は冠城の向かい側の椅子に腰かける。

243 : 以下、名... - 2018/06/01 06:48:40.89 5sCMbn110 228/646

冠城「それで?ちゃんと撮ってきたんだろうな」

青木「その前にひとつ言いたい事があります」

冠城「なんだよ?」

244 : 以下、名... - 2018/06/01 06:50:27.25 5sCMbn110 229/646

青木「顔も身分も明かしてて入りずらかったと言うのも分かりますし……」

「いきなり岐阜県警に頼む事も出来ないと言うのも分りますよ?」

「けど……何で僕なんですか!?」

「僕はサイバーセキュリティー課の特別捜査官であって、潜入捜査官じゃないんですよ!」

「大体、こう言うのは伊丹さん達に頼むのが筋ってものじゃありませんかね?」

冠城「まあまあ……あの2人だって、わざわざ遠くの小学校に忍び込みに来てくれる程暇じゃないんだよ」

「それに引き換え、お前は今日は非番……つまり休暇中」

「偶然にも、彼らや俺達以上に動きやすい立場だったんだ」

「おまけに、遅刻する心配もない……上から怒られないだけマシだろ?」

青木(休暇じゃなかったら遅刻させる気だったのかよ……)


心の中で呟きながら、青木は恨めしそうな目線を送る。

それに気付いているのかいないのか、冠城は「それに、お前を選んだ理由はそれだけじゃない」と言う。

245 : 以下、名... - 2018/06/01 06:53:21.96 5sCMbn110 230/646

青木「それだけじゃないって、どういう事ですか?」

冠城「よく考えてみろ……」

246 : 以下、名... - 2018/06/01 06:55:30.89 5sCMbn110 231/646




「芹沢さんはともかく、伊丹さんのあの顔は潜入に向いてないだろ?」



247 : 以下、名... - 2018/06/01 06:56:25.30 5sCMbn110 232/646

青木「…………」

「確かに、それは言えてますね」

「あんなこっわ~い顔の人がやってきたら、門前払いは確実です」

「それどころか、ヤクザか何かと間違われて通報されるかもしれませんね」

冠城「だろ?」


この間、警視庁にいる本人が背中のかゆみを訴えながら「誰かが俺のこと、悪く言ったような気がする」と言い出し、
芹沢から「病院予約しますよ?」とブラックジョークを飛ばされたのかどうかは定かではない……

248 : 以下、名... - 2018/06/01 06:57:00.91 5sCMbn110 233/646

青木「しかし、貴重なお休みの時間を潰した罪は重いですよ」

冠城「それは悪かったっと……」

青木「本気で謝ってるんですか?それ……」

冠城「一応は……」

青木「…………」

冠城「それより、早いところ結果を報告しろ」

青木「分かりましたよ……」


冠城の受け答えにイラっとしつつ、青木は『誰かのスマホ』を差し出した。

249 : 以下、名... - 2018/06/01 06:57:52.84 5sCMbn110 234/646

青木「ほら……要求通り、『あなたのスマホ』にばっちり収めてきましたよ」

冠城「どれどれ……」


出された『誰かのスマホ』=自分のスマホを手に取ると、
冠城は先程青木が撮影した事の一部始終を確認した。


青木「どうですか?」

冠城「……よく撮れてるじゃないか。さすが、お向かいさんを覗き見する趣味があるだけの事はあるな」

青木「失敬な!あの時は、たまたま事件が起きたのが目に入ったので、とっさに撮影しただけです」

「そんな趣味断じてありません!」

250 : 以下、名... - 2018/06/01 06:59:21.68 5sCMbn110 235/646

冠城「はいはい……それで?」

青木「何です?」

冠城「だから……西宮硝子ちゃんの筆談用ノート。それも回収したんだろ?」


そう言いながら、硝子のノートを出すよう促す冠城。

だが、青木は……

251 : 以下、名... - 2018/06/01 07:02:47.13 5sCMbn110 236/646

青木「残念ながら回収出来ませんでした」

冠城「はあ?何で?」

青木「それらしい池を見付ける事は出来ました。しかし、そんなものなかったんですよ」

冠城「ど、どうしてだよ?」

青木「こっちが聞きたいですよ……」

「本当にその石田とかいう少年は、学校の池にノートを捨てたと言ったんですか?」

冠城「あぁ、間違いない」

青木「だとしたら、騙されたんじゃありませんかね?」

冠城「とか言って、ホントはちゃんと確認しなかったんじゃないのか?」


疑いを掛ける冠城に対し、青木は何も分かっていない奴を見るような目でこう返した。

252 : 以下、名... - 2018/06/01 07:03:59.14 5sCMbn110 237/646

青木「あのですね……あの池は、それなりに深さはありましたが、かと言って底が見えない程でもありませんでした」

「ノートなんか沈んでたら分かりますよ」

「まあ……仮にあったところで、証拠隠滅の為に学校が処分したと思いますよ」

253 : 以下、名... - 2018/06/01 07:04:55.35 5sCMbn110 238/646




「なんせあの学校、腐ってますからね」



254 : 以下、名... - 2018/06/01 07:08:32.71 5sCMbn110 239/646

冠城「腐っている?」

青木「えぇ……あのクラスの様子を見てすぐ分かりましたよ」

「クラスの担任は西宮硝子の授業を生徒に丸投げ、あのクラスのガキんちょはその事で西宮硝子に八つ当たり」

「それでもって周りの連中はガン無視決め込んで、ケラケラ笑って陰口叩く始末……」

「挙句の果てに、校長は僕をあっさり通す無能ときた」

「何とまあ、ド低能なこと!」

「これを腐っているといわずに何と言いますか?」

冠城「……………」

255 : 以下、名... - 2018/06/01 07:09:55.70 5sCMbn110 240/646

青木「けど、何処の学校もこんなものなんでしょうね」

「自分達の失敗を怒られるのが怖いから、知らん振りを決め込んで……」

「いざ咎められそうになれば、いじめた奴に全部擦り付けて自分達だけはのうのうと仕事を続けていく……」

「子供連中も、そんな奴らの背中を見て、真似をして……そして汚い大人に育っていく」

「まるで犯罪者育成教室……う〇こだ!」

256 : 以下、名... - 2018/06/01 07:10:23.32 5sCMbn110 241/646




「そして、こんなう〇こどもを満足に掃除出来ず、日本中にゴロゴロさせている警察はもっとう〇こですよ」



257 : 以下、名... - 2018/06/01 07:13:24.78 5sCMbn110 242/646

冠城「…………」


普段なら反論するところであったが、今回冠城は珍しく青木の言い分を真面目に聞いていた。

警察嫌いの青木の事だ、学校問題にかこつけて警察の事を叩きたかっただけなのかもしれない……

だが、言っている事自体は割と的を得ていた。

この日本には今回のような事件が起きた学校は、数が知れないだろう。
それらちゃんと解決出来ているのか聞かれると……

それは出来ているとは胸を張って言えない。

学校内のいじめは、限られた空間内で行われている。
それが故に、警察が気付くのに遅れ、そして気付いた時には既に内密に処理された後であることが大半だ。
今、こうしている間も、何処か別の学校でも同じ事が起こり、その真実が闇に葬られ続けているに違いない。

この問題で一番罪深いのは、ある意味日本警察なのかもしれない……

258 : 以下、名... - 2018/06/01 07:13:58.95 5sCMbn110 243/646

そう思った時、ふと冠城は昨日の右京の表情を思い出した。

石田の話しを聞いて何を感じたのかと問い掛けた際に見せた、あの真剣な表情が……


恐らく……いや、間違いなく彼も分かっている。

今回の問題は、水門小学校に限った事ではないことを……

他の学校の過ちを裁けず、野放しにしてしまっている日本警察の現状を……


今この瞬間、冠城は自分達が今回の件に関わるのがいかに大事なことであるのかを再認識させられた。


そして「まさか……お前にその事を教えられるなんてな………」とボソリと呟く。

259 : 以下、名... - 2018/06/01 07:15:40.51 5sCMbn110 244/646

青木「何か言いました?」

冠城「ん?あぁ……」

「『ノートがなくても、これくらいあれば充分だ』ってな」


と言って誤魔化す冠城。誤魔化しと知らないまま、
青木は「それは良かった。また行って探して来いと言われたら、どうしようかと思いましたよ」
と言ってみせた。

260 : 以下、名... - 2018/06/01 07:16:46.71 5sCMbn110 245/646

青木「という訳で、僕はこれで……」

冠城「おいおい……せっかくここまで来たんだし、一杯くらい飲んでけよ」

「ここのコーヒー、美味しいぞ?」

青木「お断りします。休みと言えども暇ではないんで……」


冠城の誘いを突っぱねると、青木は席を立って足早に帰っていった。
そんな彼の後ろ姿を見送ると、冠城は静かにまだカップに残ったコーヒーに口を付ける。

その後、飲み終え、会計を済ませると、『ある場所』へと向かって行った。

261 : 以下、名... - 2018/06/01 07:18:20.17 5sCMbn110 246/646

所変わって水門市のとある交番……

今この場所で、1人の男性が勤務に当たっていた。
一昨日、特命係から警察手帳を返された伍堂刑事だ。


???「失礼します……」

伍堂刑事「ん?」


その時、外から声がしたもので振り返ってみると、そこには右京が立っていた。

263 : 以下、名... - 2018/06/01 07:20:20.12 5sCMbn110 247/646

右京「本部に問い合わせたところ、謹慎処分が解かれ、復帰したと聞きましてねぇ………」

伍堂刑事「あなたは……杉下さん?」

冠城「伍堂さーん……あ!右京さんも来てましたか」


そこへ冠城もやって来る。

彼も同様の手段で、伍堂刑事がここにいる事を突き止めたのだろう。

一方、伍堂刑事は冠城までまだここにいる事に驚く。

264 : 以下、名... - 2018/06/01 07:22:21.60 5sCMbn110 248/646

伍堂刑事「冠城さんまで……一体、どうしたんですか?僕はてっきり、本庁に帰られたものかと……」

冠城「そうしたかったんですが、色々と野暮用が出来ちゃったもので……」

右京「冠城君、そちらはどうでしたか?」

冠城「青木の奴、上手くやってくれました」

「ただ、ノートは池にはなかったって言うんですよ……」

「アイツは、学校が処分したんじゃないかって言ってましたけど……」

右京「そうですか…では、今回集めた物だけで何とかしましょう」

冠城「そう言えば、そちらは目的のもの、手に入ったんですか?」

右京「えぇ……修理可能か確かめる為、いとさんがまだ保管してくれていました」

265 : 以下、名... - 2018/06/01 07:25:21.72 5sCMbn110 249/646

伍堂刑事「あ、あの……何の話をしてるので?」

右京「おっとこれは失礼……」

冠城「実は、あなたに見て欲しいものがあるんです」

伍堂刑事「見て欲しいものって?」

冠城「これなんですがね……」


そう言って冠城は、自分のスマホを取り出すと、先程青木に撮らせた映像を伍堂刑事に見せる。


伍堂刑事「ん…?」


見せられた映像に目を向ける伍堂刑事。その横で右京も映像をジッと確認する。


伍堂刑事「この娘は?」

冠城「西宮硝子ちゃん……耳が不自由で、言葉を上手く発する事が出来ない女の子です」

伍堂刑事「障害がある娘なんですか?」

「なのに、こんな事が……?」


驚きを隠せないでいる伍堂刑事。

その後彼は、2つの映像全てを見せられた。

266 : 以下、名... - 2018/06/01 07:27:48.50 5sCMbn110 250/646

冠城「これで全部です。どうです?」

右京「問題ありません。これなら、充分証拠になるでしょう」

伍堂刑事「あ、あの……これは一体?」

冠城「伍堂さん…あなたは水門小学校って学校ご存知ですよね?」

伍堂刑事「もちろんですよ。この市内にある学校ですし…」

冠城「この映像は、その学校の中のものなんですが……」

「4日前、あの学校で生徒がいじめられていると思しき現場を、見ちゃったんです」

右京「そこで僕達は、校長先生を尋ねました。しかし……」

冠城「校長先生は、あくまで喧嘩であり、学校内でいじめなんかなかったと言いました」

右京「ところが、その後調べてみた結果、あの学校で西宮硝子ちゃんを巡るいじめ問題が起きている事が判明しました」

冠城「その件自体は、加害者の親が硝子ちゃんの親に賠償金を支払って解決した事にはなってるみたいなんですけど……」

「見ての通り、他にも犯人がいて、いじめが続いていたんです」

267 : 以下、名... - 2018/06/01 07:28:19.21 5sCMbn110 251/646

右京「その上、今の映像から見ても担任教師の対応は不適切です」

「あの学校の校長先生は、これらを隠す為に我々に偽証を図った可能性が高い」

冠城「こんなの……警察官として許せますか?」

伍堂刑事「許せませんよ!何とかしてあげないと……」

右京「なので、他に証拠になりうるものを持ってきました」


そう言って右京は、スーツの中からある物を取り出した。

それは、壊れた補聴器であった。

268 : 以下、名... - 2018/06/01 07:30:04.83 5sCMbn110 252/646

伍堂刑事「これは?」

右京「いじめの被害者である、西宮硝子ちゃんが付けていた補聴器です」

「これらは全て、いじめ問題の際に破損させられた物……つまり、犯人の指紋が付着している可能性が非常に高い」

冠城「少なくとも西宮家は4人、加害者とされているお子様は1人……」

「それ以上の指紋が出た場合、彼らの関与も疑うべきです」

右京「そこで、あなたには岐阜県警にこの事を調べてくれるよう、進言して欲しいんです」

伍堂刑事「僕がですか?」

冠城「俺達は、違う所轄の人間だ。その上、厄介者扱いまで受けている窓際部署……」

「そんな連中の話なんて、そう簡単に通るものじゃないでしょう?」

伍堂刑事「え?えぇ……」

右京「なのでお願いします」

269 : 以下、名... - 2018/06/01 07:32:45.57 5sCMbn110 253/646

伍堂刑事「………」

「そんなの気にしなくていいですよ。兄に言えば一発なんですから」

右京「兄?」

冠城「あなた……お兄さんがいらっしゃるので?」

伍堂刑事「えぇ…『伍堂清太郎』と言いまして、岐阜県警本部の一課の警部をやってるんです」

「おまけに義理堅い人でしてね……僕の手帳を届けてくれたあなた達の頼みと聞けば、絶対に断りませんよ」

冠城「…………」

「右京さん、意外な所に味方がいましたね」

右京「では、早速お願いします」

伍堂刑事「了解です!」


こうして伍堂刑事は、兄に知らせるべく電話を掛ける。

270 : 以下、名... - 2018/06/01 07:33:53.48 5sCMbn110 254/646

伍堂刑事「あぁ、兄さん……ごめんね、そっちも忙しいのに」

「それでさ、一昨日僕に警察手帳届けてくれた、本庁の刑事さん2人のこと覚えてるよね?」

「今、その人達が兄さんの助けを必要としてるんだよ」

「……………」

「うん、分かった。杉下さんに替わるね」


兄と会話を交わした末、伍堂刑事は「はい」と言って右京に受話器を差し出す。

右京は、受話器を受け取ると、そのまま伍堂刑事の兄に話しかける。


右京「替わりました。警視庁特命係の杉下右京です」

伍堂警部『伍堂清太郎です。何やら事件があったそうですが?』

右京「えぇ……」


こうして右京は、伍堂警部に水門小学校のいじめ問題の事を全て話す。

271 : 以下、名... - 2018/06/01 07:34:38.23 5sCMbn110 255/646

伍堂警部『小学校のいじめか……それは穏やかではありませんね』

右京「ですので、こちらも証拠を揃えて来ました」

「ご協力、願えませんか?」

伍堂警部『もちろんです』

『ただ、私は今少し手が離せない状況でしてね……』

『部下の坂木を代わりに遣しますので、弟に全て預けておいて下さい』

右京「分かりました」

「では、また後程……」

伍堂警部『えぇ、後程……』


こうして、右京は伍堂警部との電話を終え、受話器を元に戻す。

272 : 以下、名... - 2018/06/01 07:35:20.16 5sCMbn110 256/646

冠城「どうでしたか?」

伍堂刑事「兄はなんと?」

右京「これから証拠品を取りに部下の方を遣すそうです」

「その間、あなたに預けてくれと……」

伍堂刑事「僕にですか?」

右京「出来ますか?」

伍堂刑事「もちろんですよ!大事な物ですからね、絶対渡しておきます」

右京「では、これも預かってくれませんか」


そう言って右京は、伍堂刑事にあるものを差し出す。

それは今朝、硝子が拾って渡したハンカチだった。

273 : 以下、名... - 2018/06/01 07:36:32.66 5sCMbn110 257/646

伍堂刑事「ハンカチ?」

右京「今朝、偶然硝子ちゃんとぶつかった際、彼女が拾ってくれましてねぇ……」

「彼女の指紋が付着しているはずなので、他の指紋と区別を付けるのに使って下さい」


もちろん、偶然など真っ赤な嘘……

硝子に触らせる為にわざと落としたは、言うまでもない。


伍堂刑事「分かりました!では、補聴器と映像入りの冠城さんのスマホと共にお預かりします」

冠城「それは構いませんが、警察手帳みたいになくさないで下さいよ?」

「特にこれ……俺の大事なスマホですから」

伍堂刑事「さすがにそんな事まではしませんよ!とにかく、お任せ下さい!」

右京「お願いします」

「それと、何か報告したい事があったら、僕のスマートフォンに電話を掛けるようにとも伝えておいて下さい」

「ちなみに、番号はこちらです」


そう言って右京は、自分のスマホの番号をメモに書き写して伍堂刑事に渡した。


伍堂刑事「分かりました。兄にそう伝えるよう、部下の人に言っておきます!」


と、びしっと敬礼してみせる伍堂刑事。
それを確認すると、特命係の2人は彼に後を任せて交番を後にした。

274 : 以下、名... - 2018/06/01 07:38:12.14 5sCMbn110 258/646

冠城「さて……後は、岐阜県警が結果を出すまで待つだけですかね?」

右京「いえ……まだやらねばならない事があります」

冠城「え……?」

「ちょ、ちょっと待って下さい。今日、僕達がしないといけないのは、証拠集めだったんじゃ……」

右京「そのはずだったんですが、急遽やらなければならない事が増えたんです」

「これから、市内の住宅街を回りますよ」

冠城「は、はい……」

275 : 以下、名... - 2018/06/01 07:39:11.12 5sCMbn110 259/646

どうも腑に落ちないながらも、冠城は右京の言う通りにする事にした。

こうして、特命係の2人は水門市内の住宅街である事を聞いて回る事になった。
しかもどういう訳か、水門小へ歩いて通学出来る距離にある住宅街を重点的に当たった。
だが、どんなに聞いて回っても右京の望むような情報は、入って来ない。

276 : 以下、名... - 2018/06/01 07:40:32.69 5sCMbn110 260/646

右京「なるほど……それを聞いて安心しました。では、これで……」


お礼を言いながら、家から離れていく右京。ここでも情報は手に入らなかったらしい。
そこへ、途中で別れて聞き込みに行った冠城が、合流してくる。


冠城「右京さん!」

右京「冠城君、そちらは?」


右京の問いに、「全然です」と返す冠城。

そんな彼らの姿を、不思議そうに見ている女性が背後に1人……

それに気付かないまま、2人は話しを続ける。

277 : 以下、名... - 2018/06/01 07:42:32.85 5sCMbn110 261/646

右京「そうですか……」

冠城「けど、右京さん……」

「いくら、あの学校へ歩いて通学できる範囲内に絞ってるとはいえ、俺達だけで探すなんて無謀じゃないですか?」

右京「自分達の足で地道に探すのは、警察の基本ですよ」

冠城「いや、それもそうですけど……」

「というか、何でいきなりこんなこと始めたんです?」

278 : 以下、名... - 2018/06/01 07:42:59.40 5sCMbn110 262/646



女性「あ、あのぉ……」


と、冠城が疑問をもらし始めたその時、後ろから見ていた女性が声を掛けてきた。

279 : 以下、名... - 2018/06/01 07:46:46.89 5sCMbn110 263/646

右京「おや……あなたは?」

女性「私……ですか?『佐原』と申します……」

「先程から、色んな家を聞いて回っていますが、あなた達は……?」

右京「警視庁特命係の杉下右京です」

冠城「冠城亘です」

佐原「刑事さん……何か、事件でも?」

右京「最近、不登校児童の非行が問題になっていましてねぇ……」

「なので、実態調査を行っているんですよ」


不登校児童の非行の実態調査……

無論、怪しまれないようにする為の嘘なのであるが、それを聞かされた佐原と名乗った女性は、
「不登校児童の?!それは、本当ですか?」と、まるで会いたかった人に会えたかのような様子で聞き返してくる。

280 : 以下、名... - 2018/06/01 07:47:44.06 5sCMbn110 264/646

右京「えぇ…そうですが?」

佐原「丁度よかった……是非とも、刑事さん達に会って欲しい子がいるんです!」

冠城「会って欲しい子がいる?」

右京「もしかしてその子、水門小学校に通っていたりしますか?」

佐原「そうです!良く分かりましたね」

右京「………」

冠城「……………」


彼女の答えに、特命係の2人はお互い顔を見合わせる。

ようやく、目的の人物に会えるかもしれないという期待を滲ませて……

281 : 以下、名... - 2018/06/01 07:49:09.48 5sCMbn110 265/646

―通学路―


学校が終わって、家路に就く石田と硝子。

植野の平手打ちを喰らった硝子の頬は、若干の赤みを帯びていたが、それも少し引いている。
一方、島田に殴られた石田の頬は、先程より腫れは引いたものの、不完全であった為かガーゼが貼ってある。


硝子「…………」


硝子はそれを心配そうに見つめている。

だが、石田は……

282 : 以下、名... - 2018/06/01 07:49:47.77 5sCMbn110 266/646

石田「何だよ?これが面白いのか?」

硝子「…………」

石田「ホント、感じ悪いよな……お前」

硝子「……………」


石田の言で、何とも気まずい空気が漂う。

その空気が漂ったまま、2人はお互いが別れる道に差し掛かる。


石田「…………」


しかし石田は、特に何も言わずに硝子と別れ、帰っていく。

283 : 以下、名... - 2018/06/01 07:50:28.81 5sCMbn110 267/646

硝子「……………」


その姿を、硝子は黙って見ていたのだった。

それを知らないまま、石田は帰宅する。

284 : 以下、名... - 2018/06/01 07:50:56.34 5sCMbn110 268/646

美也子「お帰りショーちゃん」

石田「ただいま母ちゃん……」

美也子「あら……そのほっぺた、どうしたの?」

石田「また学校で暴れ過ぎた」

美也子「またなの?来年は中学生なんだから、いい加減馬鹿騒ぎは止めなさいよ」

石田「分かってるよ……」


と言ってランドセルを降ろし、手を洗いに向かう石田。

285 : 以下、名... - 2018/06/01 07:51:46.75 5sCMbn110 269/646

美也子「…………」


しかし美也子は、石田の頬のガーゼの正体が、また学校でいじめられた傷跡なのではないかと思った。

本来なら、転校させればいい話しだが、そんなにすぐに出来るものではない。

そもそも、本人はそれを望むのだろうか?

果たしてそれが、彼の為になるのだろうか?

美也子は、分からなかった……

286 : 以下、名... - 2018/06/01 07:52:57.89 5sCMbn110 270/646

―夜―


硝子と結絃が寝静まった西宮家の西宮いとの部屋に、八重子は呼び出された。


八重子「何なの母さん?私、明日も早いんだけど」


突拍子もなく呼び出してきた母に対し、八重子は軽く愚痴を漏らした。


いと「本当にすまないね……けど、本当に大事な話しなんだ。聞いてくれるかい?」

八重子「構わないけど」


素っ気無く返す八重子。

だが、母親であるいとは、それが彼女なりの了解の意思表示である事がすぐに分かった。

なので、心置きなく話しを切り出す……

287 : 以下、名... - 2018/06/01 07:54:22.18 5sCMbn110 271/646

いと「八重子、ちょっと早いかもしれないけどね……」

「私が話したいのは、硝子の進学先についてなんだよ」

八重子「硝子の進学先?」

いと「あぁ……」

「硝子も来年で中学生になるけど……」

「中学になっても、あの娘を普通の学校に入れるつもりなの?」

八重子「今更聞くまでもないでしょう」

288 : 以下、名... - 2018/06/01 07:55:08.90 5sCMbn110 272/646

いと「………」

八重子「……なに?」

いと「八重子…悪い事は言わないよ。それは止めておやり」

八重子「はあ…?」

いと「普通の学校に入れたところで、あの娘が苦しむだけだって事よ」

八重子「それは……来年から養護学校かろう学校に入れろって事なの?」


八重子の問いに、いとは無言で頷いた。

それを見て、一気に表情が険しくなる。

289 : 以下、名... - 2018/06/01 07:56:12.92 5sCMbn110 273/646

八重子「ふざけた事言わないでくれる?それじゃあ、硝子が強くなれないじゃない」

いと「本当にそうなのかねぇ……」

「この6年間、あなたはそう言ってあの娘を普通学校に入れてきたけれど……」

「そうやって上手く行った試しがあったかい?」

「何処へ行っても、不当な扱いを受けては転校しての繰り返しだったじゃないか」

八重子「それは、硝子が強くなろうとしないからよ。あの娘が強くなれば、そんなこと……」

いと「それは無理な相談だよ。子供なんて、いじめには無力なものよ」

「ゆずだって障害がないのに、いじめに耐えかねて不登校になってしまった……」

「それだけじゃない。あなただって、小さい頃いじめられた時は、よく私に泣き付いてたんだよ?」


八重子の幼少期の事を例題に挙げてみるいとであったが、当の本人は「そんな昔の事、忘れたわ」と冷たくあしらった。

290 : 以下、名... - 2018/06/01 07:57:09.10 5sCMbn110 274/646

いと「覚えてないなら構わない」

「けど、どうして石田君や今まで通って来た学校の子達は、硝子をいじめたのか……」

「お前は、一度でもその理由を考えた事があるかい?」

八重子「それは硝子の事を馬鹿にしたからでしょう?あのクソガキどもは、あの娘の事何も分かっちゃいないのよ!」

いと「分かっているじゃないの……」

「そうさ、学校にいる人達からしてみれば、硝子は赤の他人……あの娘の事情なんて知った事ではないんだよ」

「結局、あの娘に理解のある人がいなければ、どんなに強い娘にする事を望んでも意味がないんだよ」

291 : 以下、名... - 2018/06/01 07:57:58.86 5sCMbn110 275/646

八重子「そんな事で、あの娘を障がい者用の学校に入れろというの?」

いと「そんな事なんかじゃない。あの娘にとって大事なことよ……」

「お前が、あの時の事を今も引きずっているのは分かるよ。だから私もずっと、お前の事を見守ってきた……」

「今更、お前のやり方を否定する気はない。捨てろという気もない」

「けどね……せめてあの娘を入れる学校の事だけは、見直して欲しいのよ」

「あえて不利な環境に入れて、成長を促そうというつもりなのでしょうけど……」

「必ずしもそれが、障害に負けない強い娘を育てる方法とは限らないよ」

「それに硝子だって、自分の障害が周りに影響を与えている事を気にしているはずさ」

八重子「…………」

292 : 以下、名... - 2018/06/01 07:59:08.54 5sCMbn110 276/646

いと「あの娘は、私なんかと比べるとまだまだ先が長い……」

「障害に甘えない強い娘にするのは、もっと大きくなってからでも遅くはないはずだよ」

「専門の学校でもいじめられないとは限らないけれど……」

「お前が、真に硝子がいじめられない事を願うなら、安全性が高い学校に入れてあげるのが筋ってものだよ」

「そうすれば、結絃だってあなたへの認識を改めるだろうさ」

八重子「………………」


いつになく真剣な表情で訴えるいと。

その姿に、八重子は一瞬だけ何か思う表情を見せたものの……

293 : 以下、名... - 2018/06/01 07:59:45.74 5sCMbn110 277/646

八重子「言いたい事はそれだけ?」

いと「え…?」

八重子「突然説教臭い事言い出して、一体どういう風の吹き回し?」

「今になって母親面でもしたくなったのかしら?」

いと「八重子……」

八重子「同じ家族と言えども、硝子を育てるのは母親の私の務めなの」

「あの娘の事をどう育てるのか、どの学校に入れるのかを決めるのは、私の役目……」

「もちろん、結絃の事も……」

いと「………」

八重子「年寄りの気紛れに付き合っていられるほど、私は暇じゃないの」

「だからもう……休ませてもらうわ」


そう言って八重子は、その場を立つと部屋から出て行ってしまった。

294 : 以下、名... - 2018/06/01 08:00:33.90 5sCMbn110 278/646

いと「……………」

1人自室に残されたいとは、その姿を黙って見送るしかなかった……

295 : 以下、名... - 2018/06/01 08:01:00.29 5sCMbn110 279/646

同じ頃、特命係が泊っている旅館の一室……


右京「そうですか……どうもありがとう」


誰かから電話が掛かったのだろう、スマホ越しで相手に礼を言って右京は電話を切る。

そこへ、冠城がトイレから戻って来る。


冠城「内村刑事部長に、ここで好き勝手に動いている事がとうとうバレたんですか?」


戻って早々、冗談を言ってみる冠城であったが、
右京には「それなら、わざわざお礼を言いますかね?」と真面目に返されてしまう。

296 : 以下、名... - 2018/06/01 08:02:04.19 5sCMbn110 280/646

冠城「ちょっと冗談言ってみただけじゃないですか……ホント、ノリが悪いですね」

右京「こっちはふざけている訳ではありませんよ」

冠城「それは失礼しました……」


と言って謝ると、冠城は改めて「じゃあ、真面目にお聞きします。今の電話、誰からです?」と聞いた。

297 : 以下、名... - 2018/06/01 08:02:46.69 5sCMbn110 281/646

右京「伍堂警部からです。たった今、例の補聴器の鑑定が始まったと……」

冠城「ようやく番が回ってきましたか……」

右京「話しによると、明日にでも結果は出るそうですよ」

冠城「じゃあ、今日俺達が出来る事は、今度こそ終わったんですね?」

右京「そう言う事になります。しかし……」

「冠城君、ひとつ聞きたいことがあります」

冠城「何ですか?」

298 : 以下、名... - 2018/06/01 08:04:01.53 5sCMbn110 282/646

右京「昨日君は、石田君がいじめられそうになったところを助けたと仰っていましたが……」

「その現場に、硝子ちゃんはいましたか?」

冠城「あ……そう言えば確かにいましたね、硝子ちゃん」

「あの時は、石田君の安全が優先だったんで、声は掛けませんでしたが……」

「そう言えばあの娘、一昨日も石田君がいるところにいたんでしたっけ?」

右京「えぇ……」

「やはり彼女、石田君がいじめられている現場をいつも覗いていたようですね」

299 : 以下、名... - 2018/06/01 08:04:36.33 5sCMbn110 283/646

冠城「けど、どうしてでしょうか?」

「硝子ちゃんからしてみれば、石田君は自分をいじめた相手……」

「そのような子が虐げられている現場にわざわざ足を運んで、何を考えてるんでしょうか?」

「まさか……ああ見えて、自分をいじめた相手の惨めな姿を見て楽しんでいる何てこと、ないですよね?」

右京「どうでしょうかねぇ……真実は、意外なものかもしれませんよ?」


何処か意味深な言い回しを見せる上司に、冠城は「もしかして右京さん、何か知っているので?」と尋ねた。

300 : 以下、名... - 2018/06/01 08:08:16.44 5sCMbn110 284/646

右京「ある程度想像は出来ていますが、現段階では僕の妄想でしかない状態です」

「とにかく今は、目の前の問題の解決を優先すべきだと思います」

冠城「そうですね。事件を解決した後、ゆっくりと調べましょう」


こうして、特命係も眠りに就く事となった。

明日に迫る、『終止符を打つ時』に備えて……


続き
相棒×聲の形「灯台下暗し」【後編】

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