日の丸弁当専門店『まるひの』――
女店長「はい、日の丸弁当一丁!」
客「どうも!」
客「いやー、最初は日の丸弁当専門店なんてふざけた店だなんて思ってたけど、最高だね!」
客「今ではここの弁当なしじゃ仕事やってらんないよ!」
女店長「なにしろうちはご飯と梅干しにはとことんこだわってますから」
客「それに店長さんも美人だしねえ。その梅干しのペンダントもよく似合ってるよ~」
女店長「ふふっ、お上手なんだから」
イケメン「……」
元スレ
イケメン「俺がイケメンすぎるせいでバイトテロやってもテロにならない」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1551107942/
女店長「イケメン君もだいぶ仕事を覚えてきたわね」
イケメン「ありがとうございます!」
女店長「そろそろワンオペで任せちゃっても大丈夫かな?」
イケメン「――ええ、ぜひ! ぜひやらせて下さい!」
女店長「じゃあ、明日は君一人にお任せしちゃおうかな」
イケメン(ついに来た……! この時が……!)
イケメン「……」
イケメン(今日この店は俺以外誰もいない……さっそく始めるか)
イケメン「弁当に乗せるための梅干しを――つまみ食い!」パクッ
イケメン「すっぱぁ~~~~~! でもうんめぇ~~~~~!」
イケメン「もう一個!」パクッ
イケメン「もう一個!」パクッ
イケメン(しかもこの様子を――動画で撮影する!)
イケメン(そしてこれをネット上にアップ!)カタカタッターンッ
イケメン「……」
イケメン「……できた」
イケメン(弁当のおかずに使う梅干しをつまみ食いだなんて、ネット民に大バッシングされるに決まってる!)
イケメン「よーし、どんどん拡散されろ、俺のバイトテロ動画よ……」
「キャーッ! ステキーッ! あたしも食べられたーい!」
「なんておいしそうに食べるのかしら!」
「うまそうだな……この梅干し」
「『まるひの』か……ちょっと遠いけど、寄ってみようかな」
……
イケメン(バカな、バッシングどころか、『いいね!』がつきまくってるだと……!)
女店長「今月、ずいぶん売り上げが伸びたわねえ」
女店長「イケメン君、なにか心当たりある?」
イケメン「いえ、それがさっぱり……」
イケメン(くそっ、逆効果になっちまった! 俺の動画がかえって宣伝になっちまったよ!)
女店長「イケメン君、これから閉店までワンオペ頼める?」
イケメン「任せて下さい!」
イケメン(再びチャンス到来! 今度こそ……!)
イケメン「やっぱ食うだけじゃ生ぬるかったな」
イケメン「こうなったら……梅干しをゴミ箱に全部捨てる!」
ドザザッ
イケメン「これでよし」
イケメン(きっとネット上では食べ物を粗末にすんじゃねえって義憤の声で一杯になるに違いない)
イケメン(もちろん、捨てた梅干しはちゃんと拾って食うけどね)
「キャーッ! ステキーッ! あたしも捨てられたーい!」
「なんて見事な捨てっぷりだ! さすがイケメン!」
「断捨離だわ! 断捨離マスターだわ!」
「捨てられた梅干しもきっと喜んでいることだろう……」
……
イケメン(おかしい……食い物を粗末にする動画がなんでこんなに好評なんだよぉ!?)
イケメン(また売上が伸びちまった……)
女店長「今日もよく売れたわねー」
イケメン「え、ええ! しかし、やりがいがありますよ!」
女店長「イケメン君ならカフェだとか洋服屋だとか、もっと似合いそうなバイト先がありそうだけど」
女店長「よくやってくれて助かるわ」
イケメン「日の丸弁当は……俺にとって思い出の料理ですから……」
女店長「ふうん、そうなんだ……」
イケメン(またワンオペの機会が来た! 今日こそ……!)
イケメン(今日はもう容赦しない!)
イケメン「まず、一度梅干しを口に頬張る」チュパッ
イケメン「これを吐き出す」ペッ
イケメン「しかもこれをご飯に乗せて、商品にしちゃう」ヒョイッ
イケメン(これは飲食物を扱う店として、最もやっちゃいけない行為だろ!)
イケメン(下手すりゃ刑事事件になるかもしれないけど、かまうもんか!)
ところが――
ワイワイ… ワイワイ…
「あなたの唾液つき梅干しがついた弁当を売ってくれ!」
「間接キスしたぁ~い!」
「動画見て来ました! ぜひあの弁当を売って下さい!」
「あ、あんたの口に入った梅干し、た、食べたいんだな」
イケメン(客が押し寄せてきたぁぁぁぁぁ!!!)
職員「保健所の者です」ザッ
イケメン(保健所キター!)
イケメン(唾液つき弁当出したなんて、こりゃ最低でも営業停止だろ!)
職員「あの……」
イケメン「はい? なんでしょう?」
職員「ぜひ、あなたの唾液のついた梅干しの日の丸弁当を売って欲しいのですが……」
イケメン「お前もかよ!」
イケメン「くそっ!」ガンッ
イケメン「どんなにバイトテロしても、この店の評判を落とすことができない!」
イケメン「なぜだ!? 俺がイケメンだからか!? イケメンすぎるからか!?」
イケメン「どうすればいいんだ……!?」
イケメン(昔、こんな格言を聞いたことがある……『口でダメならケツでやれ』)
イケメン(こうなったら――)
イケメン「梅干しをケツの穴につめて……」モゾモゾ
ガチャッ
女店長「なにやってるの?」
イケメン「わっ!?」
女店長「……」
イケメン「て、店長……」
女店長「とりあえず、ズボンとパンツはきなさい」
イケメン「は、はい……」
女店長「今まで黙ってたけど、あなたがおかしな動画を上げてることは知ってたわ」
女店長「どうしてこんなことするの?」
イケメン「……」
女店長「答えなさい」
イケメン「そ、それは……」
女店長「それは?」
イケメン「あんたが俺の母親だからだよぉ!!!」
女店長「!」
イケメン「子供の頃、俺は母子で貧乏暮らしをしていた。毎日毎日ご飯は日の丸弁当……」
イケメン「だけど、俺はそれでも幸せだった。それなのに、それなのに……」
イケメン「あんたは俺を施設に預け、行方をくらませたんだ!」
女店長「……!」
イケメン「俺は俺を捨てたあんたを恨んだ……」
イケメン「そして、施設を出る年齢になったらすぐにあんたを捜し始めた!」
イケメン「もちろん、復讐するためにな……!」
イケメン「日の丸弁当専門店をやってるって知った時にゃ、思わず苦笑しちまったよ!」
女店長「ごめんなさい、当時の私にはとても女手一つであなたを育てられなかった……」
女店長「毎日日の丸弁当じゃ、栄養失調になるのは明らかだったし……」
女店長「児童相談所からも虐待じゃないかっていわれて、もう施設に預けるしかなかったのよ……」
イケメン「勝手なことを! どうせ俺を育てるのが面倒になっただけだろう!」
女店長「違うわ! 私はあなたのことを一時だって忘れたことはなかった!」
イケメン「ウソつけ! 俺が実の息子って今まで気づかなかったくせに!」
女店長「それはあなたがイケメンに育ちすぎたから……」
イケメン「うるせえ! 梅干しのペンダントなんて、ふざけたもん付けやがって!」サッ
女店長「あっ、それはっ!」
イケメン「オシャレして、男遊びに夢中だったんだろ――」
イケメン(ん、このペンダント……ロケットになってるのか)
パカッ
イケメン「……!」
イケメン「これは……子供の頃の俺の写真……!」
女店長「そう、私はずっとそれをペンダントに入れていたの」
女店長「辛い時はいつも、それを見て頑張ったわ……。いつか、あなたを迎えに行けるようにって……」
イケメン「母さん……!」
女店長「だけど、それでも私があなたを捨てたという事実は変わらないわ……」
女店長「ごめんなさい、ごめんなさい……」
イケメン「もういいんだよ、母さん」
イケメン「それに俺こそ悪かった。バイトテロで店の評判を落とそうとして……」
イケメン「これからは俺、真面目に頑張るよ!」
イケメン「親子で『まるひの』をもっとすごい弁当屋にしよう!」
女店長「ありがとう……」
イケメン「それじゃさっそく真面目な動画撮影をしよう」サッ
イケメン「母と子でやってる日の丸弁当屋『まるひの』をよろしく!」
女店長「よろしくね!」
イケメン「……これでよし」
女店長「こんなんで、売り上げがもっと伸びるかしら?」
イケメン「どうだろう……。でも効果がなくても、母さんと動画を撮ることができて嬉しいよ」
女店長「うん、そうね。もっといっぱい母子の動画を撮りましょ!」
ワーワー… キャーキャー…
「ここか! 美形母子がやってる弁当屋ってのは!」
「今まで日の丸弁当を貧乏飯ってバカにしてたけど、メチャクチャうまいなこれ!」
「弁当百個買いますから、お二人のサインくださーいっ!」
「ぜひテレビ出演して下さい! そこらのアイドルよりよっぽど絵になる!」
ワーワー… キャーキャー…
女店長「動画がアップされるや否や、毎日空前の大繁盛で大忙しだわ! 予約もいっぱい!」
女店長「もうてんてこ舞いだわ! どうしましょ!」
イケメン「うーむ、もしかしたらバイトテロよりもひどいことになってしまったのかもしれない……」
~おわり~