嫁「たまには食器洗いくらいやってよー!」
夫「うるせーな、こっちは働いてんだぞ!」
嫁「こっちだって働いてるってば!」
夫「たかがパートだろうが!」
嫁「そっちこそ出世の見込みないくせに!」
夫「いいやがったな!」サッ
嫁「斧なんか持って、どうしようってのよ!」
夫「決まってんだろ!」
ザシュッ! ズバッ! ザンッ! ドバッ!
元スレ
夫「夫婦喧嘩して斧で嫁を五等分しちまった」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1558023717/
ゴロン…
夫「嫁を頭部、右腕、左腕、胴体、下半身に五等分しちまった」
頭部「正確には五“等”分じゃないけどね」ゴロ…
夫「細かい奴だな」
夫「どうする? 接着剤がありゃくっつけられるが、接着剤はカギのかかった俺の机の引き出しにしかないぞ」
夫「元通りになりたかったら今すぐ謝りな!」
頭部「……ふふ」
夫「何がおかしいんだよ! 踏み潰してやろうか!?」
頭部「あなたはとんでもない過ちを犯した!」
夫「どういうことだ!?」
頭部「こういうことよ!」
右腕「……」ギュオオオッ
ドゴォッ!
夫「ぐえっ……!?」
夫(右腕が……ロケットパンチのように……)ヨロ…
頭部「いきなさい、下半身!」
下半身「はあっ!」ブオンッ
バキィッ!
夫「ぐわっ! なんて蹴りだ!」
夫「ちょ、ちょっと待て! バラバラに動けるのはいいとして、なんで喋れるんだ!」
下半身「声とは音ッ! 音とは振動ッ! 振動さえ自在に操れるなら、声帯なくとも発声可能ッ!」
夫「なるほど!」
頭部「つまり、五対一ってわけよ」ゴロン…
右腕「……」ジリ…
下半身「……」ジリ…
左腕「……」ジリ…
胴体「……」ジリ…
夫(うぐ……自分がやったこととはいえ凄まじい光景だ)
夫「――だがッ!」
夫「こういうパーツが分かれたボスを倒す時は、核となる部位を倒せばいいというのはTVゲームの常識ッ!」
夫「つまり頭部であるお前を仕留めればッ!」ダダダッ
頭部「!」
夫「パーンチッ!」
グシャッ!
頭部「がふっ……!」
夫「フッ……俺の勝ちだ」
左腕「……」モゾモゾ
夫「ん?」
左腕「神よ……頭部を復活させたまえ……」パァァァ…
夫「ま、まさか……蘇生呪文!?」
頭部「ふぅ、ビックリした」ムクッ
夫「倒したはずの頭部が復活しやがった!」
夫(これじゃ、いくら頭部を倒しても無駄だ! 復活されちまう!)
夫(先に回復担当の左腕を倒さなきゃ!)
夫「喰らえッ!」ブオンッ
ガキィンッ!
胴体「通さぬ」
夫「胴体の豊満なボディにガードされた……!」
夫「なんとか胴体を突破しなきゃ……!」
ドカッ! バキッ! ガッ!
胴体「むう……」
夫「よし、硬いがあと少しで倒せ――」
左腕「回復させたまえ……」パァァァ…
夫「うおお、回復されてしまうッ!」
右腕「オラァッ!」ギュオオッ
バキィッ!
下半身「てりゃあっ!」ブオンッ
ドゴォッ!
夫「ぐほっ……!」
夫(しかも悠長に胴体ばかり狙ってると、アタッカーのこいつらが攻撃してくる!)
夫(だが、落ち着け……)
夫(とりあえず、個々の役割は分かった……)
夫(頭部は司令、右腕は攻撃、左腕は回復、胴体が守備、下半身も攻撃、だ。実質的には四対一といっていい)
夫(まず絶対に倒さなきゃならないのが左腕! 延々と回復される!)
夫(だが、左腕をやるには胴体を倒さなきゃならない!)
夫(胴体を攻撃すると、すかさず右腕と下半身が攻撃してくる!)
夫(となれば、アタッカーどもをやり過ごしつつ、胴体を一気に倒す! これがすべきことの最優先ッ!)
夫(やることが決まれば、あとは全力を尽くすのみ!)
夫「いくぞっ、胴体ィ!」ダダダッ
胴体「来い」
頭部「なるほど、守りの要である胴体を集中攻撃するというわけね」
頭部「胴体を倒し、蘇生されるまでに左腕を倒せれば、勝利がぐっと近づくものね」
頭部「賢いじゃない。というか、それしかないでしょうけど」
頭部「だけど私の妨害も加わったら、どうかしら?」
頭部「……」ギリギリギリ…
夫「うおっ!?」
夫(なんだこの音……歯ぎしりか!?)
ギリギリギリ…
夫(くそっ、うるせえ! 戦いに集中できない!)
夫(単なる司令塔だと思ってた頭部が、あんな技を繰り出してくるなんて!)
下半身「戦いの最中に立ち止まって」バッ
右腕「いいのか?」ギュオオオッ
夫「しまっ――」
ドギャアッ!!!
夫「ぐはぁぁぁっ!」
夫「くそォォォォォッ! どきやがれッ!」
ドカッ! バキッ!
右腕「ぐはぁっ!」
下半身「がふっ!」
左腕「右腕と下半身を回復させたまえ」パァァァァ…
夫「回復すんなァァァァァ!」
胴体「通さぬ」バッ
頭部「ボリューム上げるわよ」ギリギリギリギリギリ…
夫「うぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
下半身「ソバット!」
ドガァッ!
夫「ぐああっ……!」ドサッ…
夫(無理だ……突破できない……強すぎる……)
夫(この五等分のコンビネーションは完璧すぎる……!)
頭部「ここまでのようね」ゴロン…
夫「ぐ……!」
頭部「さあ、降参する気になった?」
夫「いや……」
頭部「あっそう。だったら――トドメよッ!」
夫(こうなったら最後の手だッ!)
夫「胴体ッ!」ガシッ
胴体「な……! なにをするか……!?」
夫「この柔らかな胸、この美しい腰のくびれ、なんて素晴らしいんだ」スリスリ
夫「君と結婚して本当によかった!」
胴体「よせ……戦闘中だぞ。しょうがない人だ……」ポッ…
夫(よし!)
夫「右腕!」サッ
右腕「きゃっ!?」
夫「なんてほっそりとして美しい指だ……さすがは俺の嫁!」
右腕「嬉しい……」
夫「左腕!」サッ
左腕「え……」
夫「結婚指輪、左手にちゃんとしてくれてるんだね。ありがとう」
左腕「あなたからもらった指輪ですもの……」
夫「下半身! いい足してるねえ……」スリスリ
下半身「もうっ……やめてよっ……」
頭部(こいつ、まさか……ッ!)
夫「どうやら……みんな俺に惚れ直してくれたようだ」ザッ
ズラッ…
夫「これで……五対一だな。ただし今度はこっちが“五”だが」
頭部「うぐぅ……!」
夫「一度は惚れさせた女だ。パーツが分かれたところで、もう一度惚れさせるのは簡単なのさ」
頭部(やられたッ……!)
夫「もう守ったり回復してくれる味方はいない。お前を破壊すれば、俺の勝利だッ!」
夫「喰らえぇぇぇっ!」シュバッ
頭部(私の負けだわ……!)
――ピタッ!
頭部「……?」
頭部「攻撃が寸止め……!?」
夫「――なんてな。勝負は引き分けということにしておこう」
頭部「ど、どうして! なんで情けをかけるの!?」
夫「俺はお前との戦いで、“役割分担”というものの大切さを知った」
夫「人はそれぞれ役割を分担することで、より大きな力を発揮できると分かった」
頭部「……!」
夫「これからは食器洗いぐらい俺がするよ。ちゃんと話し合って、家事は曜日ごとに分担してやろう」
頭部「あなた……」
夫「愛してるよ」チュッ
頭部「んっ……」
「ちょーっと待った!」
夫「え」
右腕「なぜ頭部にだけキスを!?」モゾ…
左腕「私たちとは遊びだったのですか!?」モゾ…
胴体「許せぬ……」モゾ…
下半身「そう! いつもあなたは頭部ばかり大切にして……」モゾモゾ…
夫「!?」
夫「おいおい、ちょっと待てよ……お前ら同一人物だろ? 嫉妬してどうする――」
右腕・左腕・胴体・下半身「うるさぁぁぁぁぁい!!!」
右腕・左腕・胴体・下半身「覚悟ォォォォォ!!!」
ドカッ! バキッ! ドゴッ! グシャッ! ボゴォッ!
夫「たっ、助けてくれええええええっ!!!」
頭部「こりゃ五等分にされた私が一つに戻れるのは当分先のことになりそうね……」
― 完 ―