妹「えぇ?」
兄「盗んだだろ」
妹「ちょっ、やめてよ~。変な言いがかりつけるのやめて~」
兄「でもお前盗んだだろ」
妹「えぇ? もっ、そおいうのやめて~。盗んでないって~」
兄「本当か?」
妹「ほんとだって。んなことしないって。お兄ちゃ~ん、盗んでないってば~」
兄「じゃあお前、そのアタマにかぶってんの何だよ」
妹「」
元スレ
兄「オレのパンツ盗んだだろ」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1297781180/
兄「それ何だよ」
妹「……」
兄「妹、それ何だよ」
妹「……」
妹「……///」
兄「いやいやいやいや、何で照れてんの」
妹「……デュフッ」
兄「え?」
妹「デュフフッ、デュフッ……///」
兄「ちょ、お前、いったん笑うのやめろ」
兄「詳しく聞こうじゃないか」
妹「え、えぇ? なにぃ……?///」
兄「いやいや、だから、何でオレのパンツかぶってんの」
妹「えぇ? ま、待って待って。これ? これでしょ?」
兄「うん」
妹「え、こっち? こっちなの?」
兄「だからそのパンツだって言ってんだろ」
妹「……あっ、あぁ~っ。これかぁ~、あぁ~!」
兄「何でかぶってんの」
妹「いや、これ違くってさ。違うのよ、パンツじゃないのよ」
兄「防災ずきんとでも言うつもりか」
妹「防災ず……きんじゃあないね」
兄「うん」
妹「いい線いってるけどね」
兄「うん」
妹「センスはいいね……」
妹「……」
兄「……」
妹「……」
兄「ちょ、もういいから早く返してくんない? 寒いんだけど」
妹「えっ、なっなにぃ……?///」
兄「見りゃわかるだろ。風呂上りなんだよこっちは」
妹「……もっ、やだぁあ~! おにっ……お兄ちゃんったらすっぽんぽ~ん!」
兄「うん、そうなんだけど」
妹「すっぽんぽんだよお兄ちゃ~ん!!」
兄「うん、あの……うん。返してもらえればいいから」
妹「すっぽ……デュフフフッ///……すっぽんぽんだよもおぉ~~!!」
兄「えぇ~~。こっちチラッチラ見とるコイツ」
妹「すっぽんぽん祭りだよぉ~~~!!」
兄「ちょ、あんまおっきい声出さないでくれない!? 姉さん来ちゃうから!」
妹「隠して! ほらタオルあるから隠してよ!」
兄「えぇ? う、うん。なんかすげえ納得いかないんだけど」
妹「おしまいなさい! 早くおしまいなさい!」
兄「わ、わかったわかった」
妹「ひっこめなさい! ひっこめちゃいなさい!」
兄「わかったって」
妹「………」
兄「コイツ……自分の頭のことは棚に上げやがって」
兄「しかも『ひっこめなさい』って」
妹「………」
兄「完全にチ○コに重きを置いた発言じゃねーかよ」
妹「………///」
兄「ほら。隠したから。な?」
妹「………」
兄「………」
妹「………それで?」
兄「え?」
妹「なんの話?」
兄「えぇ~~。主導権取りにきたコイツ」
妹「一から説明してごらんなさい」
兄「え? 一から?」
妹「できるでしょ。お兄ちゃんなんだから」
兄「わかったよ。話せばいいんだろ」
妹「そうそう」
兄「話すのはいいけど………お前の頭のパンツがすげえ気になるんだよ」
妹「………」
兄「………」
妹「………」
兄「………ックション!!」
妹「あっ……お兄ちゃんの鼻水……///」
兄「……///」ズズッ
兄「……えっと、いいっすか」
妹「うん」
兄「いや、なんかね、風呂から上がったら、用意してたパンツがないのよ」
妹「ほお」
兄「で、妹かなって」
妹「え? そこでもう!?」
兄「だってお前、前科あるし」
兄「こないだとか、人指し指でオレのパンツくるっくる回しながら」
妹「あっ、やめて」
兄「『これが本場! 本場のピッツァの作り方!』って」
妹「やめて、やめっ……デュフフッ///」
兄「家族がいないリビングの中央で」
妹「もうやめておねがい」
兄「オレがたまたま帰ってきたからよかったものを」
妹「ほんとごめんなさい」
兄「お前にピッツァの何がわかるんだよ」
妹「すいません」
兄「……」
妹「……ほんとすいません。若気の至りで」
兄「許せねえよその若気は」
妹「……デュフフッ///」
兄「ナメてんのか貴様」
兄「まあ、とにかくな」
妹「うん」
兄「それで妹かなって」
妹「でも、お姉ちゃんって可能性も否めないじゃん」
兄「う~ん」
妹「アリっちゃあアリでしょ」
兄「……でも、あの人はそういう感じじゃないっつーか」
妹「お姉ちゃん、今朝のごはんのあとさ」
兄「え?」
妹「お兄ちゃんの箸、舐めてたよ」
兄「……いや、え?」
妹「舐めてたよ。ねろりねろりと」
兄「え、えっ、マジなの? 『ナメてんのか』つながりとかじゃなくて?」
妹「あたしそういうウィットないもん」
兄「くそったれ……案の定だよ。あの人はそーいう間接的な感じで来るんだよ」
妹「わかるわかる」
兄「お前だってパンツ盗んでんじゃねーかよっ……」
妹「ち、違うよ! あたしは……」
兄「……」
妹「あたしは、お兄ちゃんのことを思って……」
兄「その言い方良い感じに聞こえるからやめろ」
兄「っていうか、姉さんっていつもそういうことしてんの?」
妹「だいたいやってる。舐める日が9で舐めない日が0.5くらい」
兄「残りの0.5はなんだよ。どちらともいえない日かよ」
妹「否。しゃぶってる」
兄「ちくしょう……お前らいい加減にしろよっ……」
妹「ねー。ありえないよね」
兄「文脈を考えろよっ……自分の頭見ろよっ……」
妹「違うし。あたし違うし」
妹「あたしがパンツを盗んだっていうか……」
妹「パンツがあたしを呼んでたみたいなところがあって……」
妹「お兄ちゃんのパンツって……なんか、こう、抗いがたいものがあって」
妹「盗んだんじゃなくて……パンツの能力(ちから)を引き出したみたいな」
兄「ふむ、なるほどな」
妹「結果として『盗む』っていう形になったのは、ほんと忸怩たるものがあって」
兄「そういうことだったのか。パンツ返せよ」
妹「お兄ちゃんのバカっ!!」
兄「えぇ~~~っ。どこに怒鳴られる要素があったの!?」
兄「もう実力行使で行くぞ。そこに直れ」
妹「えっえっやだぁ」
兄「オレの力をナメるなよ。1000妹パワーはあるぞ」
妹「やだぁ。1000妹パワーやだぁ」
兄「なにくそ!」
妹「おやめになって!」
兄「くそっ! 妙な動きで頭を振るんじゃないっ!」
妹「やめて~~~~!!」ヒュンヒュン
兄「その動きやめろ! なんか酔ってくる!」
妹「やめて~~~~!!」ヒュンヒュンヒュンヒュン
兄「くそっ! 三半規管にくる! パンツが増えて見える!!」
姉「何やってんのよあんたたち」
妹「あ、お姉ちゃん! 助けて! なんか酔ってきた!」ヒュンヒュン
兄「自分のせいだろーがっ……」
兄「…………」
姉「弟、いい加減にしてあげなさいよ」
妹「そうだよ! やめて! やばいんだよ! のどもとまで来てる!」
兄「……」
姉「……」
兄「姉さん」
姉「……///」
兄「なんでオレのパジャマ着てんの」
姉「えっ……なにぃ?///」
兄「いやいやパジャマ。それオレのでしょ」
妹「あっ! お姉ちゃん!? なんでお兄ちゃんのパジャマ着てるの!?」
姉「ちょっと待ちなさいよあんたたち。全裸と頭パンツに言われたくないわよ」
兄「今さら『待ち』の姿勢なんかとれねえんだよ」
妹「そうなんだよ!」ヒュンヒュン
姉「変な言いがかりやめてくれない?」
妹「やめてくれない!?」ヒュンヒュン
兄「紛れもないオレのパジャマだろうが」
姉「違うわよ。これはあれよ」
姉「……光の屈折とかで、そう見えてんでしょ」
兄「光の屈折でオレのパジャマがぁ?」
妹「ないわー。それはないわー」ヒュンヒュン
兄「我が家の重力場はそんなヤワじゃねえんだよ!」
妹「いいこといった! 今いいこといったよ!」ヒュンヒュン
兄「女の言い訳ほど見苦しいもんはないぜ!」
妹「実に耳が痛い!」
兄「紛れもないオレのパジャマだろ!」
妹「このパンツはあたしの!」
兄「パジャマ盗ったんだろ!」
妹「そうだそうだ!!」
姉「…………」
姉「そうですけど!?」
兄「…………」
妹「…………」
姉「…………///」
兄「……うん」
兄「思いのほか早くゲロったな」
妹「年の功ってやつだろうね」
兄「うん。お前よりは賢明だったかな」
姉「ほめても何もでないわよ」
兄「割とほめてないからな」
姉「でも色んな汁は出るわよ」
妹「年の功ってやつだろうね」
兄「お前たいして意味わかってねえだろ」
姉「……それで? 何の話?」
兄「その主導権の取り方は流行ってんの?」
妹「雑誌とかでね。『この交渉術がアツい』みたいな」
兄「ぜってー載ってねえだろ。あとお前のパンツすげえ気になるんだけど」
姉「防災ずきんじゃないの?」
兄「それさっき言ったよオレが!」
妹「『夜の交渉術も!?』みたいなね」
兄「そんなにふくらます話題じゃねえだろ!」
姉「妹ったらエッチ~~~! お姉さん色んな汁出ちゃう」
兄「下の方へ下の方へ行くのやめろお前ら!!」
妹「デュフフ///」
姉「デュフフフ///」
兄「クソがっ!! さばききれねえ!!」
兄「……どうしてそんなことしたんだよ姉さん」
姉「たいした理由じゃないわ」
妹「そんなもんだよね」
姉「そうね。強いて言うなら……」
姉「…………」
兄「…………」
妹「…………」
姉「…………」
兄「……あの、そういうの考えてから言ってくれない?」
姉「弟への性欲……かな?」
兄「待たせたわりに最悪の答えじゃねえか!」
妹「わからないでもない! わからないでもないよお姉ちゃん!!」
兄「ほんと最悪だよ。リビドーまみれすぎる」
姉「『ザ・リビドー大納言』と呼んでちょうだい」
妹「あたしは少納言でもいいよ!」
兄「自分のパジャマはどうしたんだよあんた」
姉「脱いだわよ。脱いでたたんだわよ」
兄「クソっ……変に律儀なのが腹立つっ……」
妹「リビドーの成せる技だね」
兄「おかげで全裸だよクソったれ」
姉「もうね。眼福すぎてね」
妹「高ぶるよね」
兄「オレの気分は地すべりだからなお前ら」
兄「……とある消息筋からの情報なんだけど」
妹「いわゆる妹ってやつね」
兄「姉さんはオレの箸を舐めてるんですか」
妹「ねろりねろりとですか」
姉「『舐める』……。『舐める』、かぁ……」
兄「反芻する必要あるの?」
姉「まあ、俗っぽく言えばそうなるわね」
兄「舐めてるってことでいいよね?」
姉「つい手がのびちゃうのよ」
兄「そんなケーキバイキングみたいな言い訳が通用するとでも思ってんのか」
姉「弟クンには残念なお知らせかもしれないけど」
姉「弟クンの箸をしゃぶってると、私のニューロンが小躍りしだすのよ」
兄「はなはだ遺憾だわ」
姉「あと股間のあたりのセポイが蜂起しだすの」
兄「わかんねぇなぁ~~。オレ世界史とってなかったしわかんねぇなあ~~~」
妹「あたしもよくわかんないけどそういう感じあるかも!」
妹「あのね、お兄ちゃんのパンツかぶってると、おまたがワッショイなの!」
姉「それはきっと妹の股間のスパルタクスが反乱してるのね」
姉「これ豆知識ね」
妹「へぇ~~」
兄「…………」
兄「もういい、わかったよお前ら」
姉「……お?」
妹「お? お?」
兄「そんなに言うならこっちにも手があるぞ」
姉「お? おお? お?」
妹「おおお? お?」
兄「ちょっ、うるさい」
姉「怒っちゃった? 怒っちゃった系ですか?」
妹「怒っちゃった系の雰囲気をかもし出す姿勢ですか?」
姉「雰囲気をかもし出す姿勢を打ち出す主義のイデオロギーは何色ですか?」
妹「空色ですか?」
兄「知らねえよ! うっとうしいポエムだな!」
兄「あのな……オレもう部屋に着替え取りに行くから」
妹「なんですと」
姉「あちゃ~~~」
兄「返してもらえない以上それしかあるまい」
姉「そのまま生活に落ち着くっていうパターンは」
兄「ない。万に一つもない」
妹「からの~~~~?」
兄「万に一つもない」
姉「マン毛一つもない?」
兄「万に一つもない」
妹「あっ」
兄「おやすみ~~~」スタスタ
姉「なにがスタスタだこの野郎させるかバカ野郎!」
妹「あっ!!」
姉「」シュバァァァァァ
兄「なっ」
妹「飛んだ!! お姉ちゃんが飛んだ!!!」
姉「」シュビドゥバァァァァ
妹「猛禽類さながら!」
兄「すごい飛んでるけど大丈夫なのかこれ!」
妹「大丈夫みたい! お姉ちゃんサムズアップしてる!」
兄「どうなってんのこれ!! 滞空時間やばいんだけど!!」
妹「すごいよ! お姉ちゃんのこと見直したかも!」
姉「」シュタッ
姉「」
兄「すごい息上がってるこの人」
妹「写真撮ったからあとでブログにアップしよう」
姉「ゼェ……アップしないで……ゼェ……」
妹「すごい形相。アップするのやめよう」
兄「クソ……なんだかんだいって階段の方に回りこまれてしまった」
姉「ゼェ……ゼェ……肺がめっちゃ痛い……」
妹「代償は大きかったね」
兄「どっから湧いてんだこのエネルギーは」
姉「行かせないわよ……弟クン……」
兄「というか妹、ブログやってたのか……」
兄「とにかく、どうすればいい」
兄「階段がふさがれてる以上、オレの部屋にはいけない」
妹「前に立ちふさがるのは姉」
姉「退路を絶つのは妹」
姉「完成したわね……私たちの……」
妹「私たちだけのフォーメーション……!」
姉「名づけて……」
妹「ええっ! 考えてないよお!」
兄「楽しそうだなおい」
母「楽しそうねえ。何してるのあなたたち」
兄「母さん!……」
母「お母さんですよ」ズルズル
兄「…………」
妹「お母さん!」
姉「お母さん!」
母「何度言わせる気ですか」ズルズル
母「ジタバタジタバタして。近所迷惑でしょう」ズルズル
兄「…………」
母「もうあなたたちは全裸で頭パンツで。何してるの」ズルズル
妹「ごめんなさい。でも頭パンツはゆずれません」
兄「……………」
兄「母さん」
母「何度言わせる気ですか」ズルズル
兄「いや、そうじゃなくってあの……」
姉「あっ」
妹「母さんのうしろ」
兄「そのうしろの……」
母「なんですかあなたたち。私のうしろばっかり見て」ズルズル
母「背中フェチですか」ズルズル
妹「すごい! すごいでっかいポリ袋!」
姉「しかも中ギュウギュウ!」
妹「母さん何引きずってんの!」
兄「…………」
姉「ほんと、中ギュウギュウ……」
姉「…………」
妹「…………」
兄「…………」
兄「母さんそれ……」
母「…………」
母「………///」
兄「……全部、オレの服だよな?」
妹「………」
姉「………」
母「そうですけど!?」
完
第一部のあらすじ
この家族の女みんな変態
――そして、風雲急を告げる第二部が始まる
そういうことにする
兄「…………」
妹「年の功だ! 年の功システムだ!」
兄「…………」
姉「貫禄を見せつけたわね!」
母「やだあ。照れるわ~///」
兄「認めりゃいいってもんじゃないんだよ!」
兄「っていうか何してんだよ母さん!」
母「母さんね、考えたのよ」
妹「すげえ!」
姉「さすが母さん!」
兄「まだ何も言ってねえよ!」
母「悩みに悩みぬいたの」
妹「うんうん」
姉「ええ、ええ」
兄「…………」
母「それで……お兄ちゃんはもう」
母「服、着なくていいんじゃないかな、って」
妹「わんだふぉーーーー!!」
姉「イエス! イエス!」
兄「…………」
姉「神算鬼謀すぎる!」
妹「お母さんの時代だね!」
兄「…………」
母「お兄ちゃんはもう」
母「服、着なくていいんじゃないかなって」
兄「聞こえてるよクソババア!!」
姉「あら……」
母「…………」
姉「なんてこと言うの弟クン」
妹「鬼畜! 悪鬼羅刹!」
兄「まあそんな感じになるとは思ってたよ」
姉「親に向かって! ひどすぎるわ!」
母「…………」グスン
兄「え?」
妹「あやまれ! 平身低頭であやまれ!」
母「…………」ウルウル
兄「え、マジで」
姉「人生はいつだって現実(リアル)よ!」
兄「えっと……なんか」
妹「………」
姉「『ひどいこと言って』」
兄「あ……ひ、ひどいこと言って」
姉「『すみませんでした』って」
兄「………すみませんでした」
姉「『もうこんなこと言いませんから』って」
兄「もうこんなこと言わないから」
姉「『ずっと全裸でいるから』って」
兄「ずっとぜん……」
姉「『すっぽんぽんだから』って」
兄「…………」
姉「…………」
母「…………デュフッ///」
兄「もういいよ。もういいーーーよ! 何なんだよお前ら!!」
妹「また怒っちゃった」
姉「御しがたいわね」
兄「何なんだお前ら。セクシャルクーデターかお前ら!」
姉「まあ落ち着きなさいよ」
兄「セクシャル・クーデターかお前ら!」
妹「あのフレーズ気に入ったみたいだよ」
姉「しっくりきたんでしょうね」
兄「オレを全裸にして何が楽しいんだよ!」
母「おやめなさい!!」
兄「……え?」
母「いいかげんにしなさいよ、お兄ちゃん」
母「あなた知ってるの?」
兄「……え」
妹「…………」
姉「…………」
母「徳川家康はね、三方が原の戦いに敗れた時」
兄「…………」
母「その恐怖に、ウンコをもらしたのよ」
兄「…………」
兄「……いや、え?」
兄「なんでこのタイミングでウンコを漏らした徳川家康の話を……」
妹「……………」
姉「……………」
兄「何でお前らも押し黙ってんの!? そういう話じゃねーからこれ!」
母「じゃあ、ちょっとお母さん行ってくるわね」ズルズル
兄「ちょっ、え?」
妹「あ、いってらっしゃーい」
姉「気をつけてね」
母「はーい」ズルズル
兄「母さん!?」
兄「……え、行っちゃったんだけど。オレの服持って行っちゃったんだけど」
兄「おいおい……どうする気だよ」
兄「まさか、捨てたりしないよな」
姉「……わからないわ」
兄「そんなバカな」
妹「お兄ちゃんかわいそう」
兄「むなしく響いたな今の一言は」
姉「そうね。ただひとつだけ言えるのは……」
兄「…………」
姉「私たちは、『試合に勝って、勝負に負けた』……そういうことかしら」
兄「…………ごめん、何の話してんの?」
兄「っていうか」
兄「スキありっ!」シュバッ
姉「あっ!」
妹「階段の方! お兄ちゃんの部屋だ!」
姉「ホーリーシット!」
妹「ガッデム!」
兄「一瞬の風になれ!」ダダダダダダダ
姉「は、早い!」
妹「相当はやい!」
姉「いきいきしているようにも見える!」
兄「久方ぶりだぞ我が牙城!」バタン
兄「……はぁはぁ」
ガサガサ
ゴソゴソ
ガサガサゴソゴソ
兄「…………」
兄「…………」
兄「やべえ…………」
兄「妙にこざっぱりしてるんだけどこのタンス」
兄「マジで全部ないんだけどオレの服」
姉「返しあげてもいいわよ、このパジャマ」
兄「ちょっ、鍵かかってたんだけど」
妹「ただし条件があるよ」
兄「鍵! ねぇどうしたの鍵!」
姉「…………鍵は犠牲になったわ」
妹「いいヤツだったけどね」
兄「鍵ぃいいいいいーーーー! オレのプライバシぃいいいいーーー!」
姉「『一瞬の風になれ』のくだりあたりから妙なテンションね」
妹「もうどうでもよくなってるんだろうね」
姉「そんな弟クンに朗報よ」
兄「……『条件』とやらか」
妹「……ククク」
兄「今までそんな笑い方してなかっただろ」
姉「……デュフフ///」
兄「そっちがいいとも言ってねえよ!」
姉「条件っていうのはね」
妹「寝るんだよ!」
兄「え、寝ればいいの?」
妹「ちがうよ、一緒にだよ!」
兄「えぇぇえ~~~。お前らと?」
妹「こいつぁ面白くなりそうだぜ!」
兄「全然あおるとこじゃねえからここ」
姉「簡単なことよ。一緒にそのベッドで寝るだけ。発情期のサルにでもできるわ」
兄「発情期だと余計ややこしいだろ!」
姉「じゃあ普通のサル。……いや、やっぱり発情期で」
兄「その意地は何をもたらすんだよ!」
妹「ねようよ~~~いっしょねようよ~~~~」
兄「確かに簡単そうに聞こえるが」
妹「簡単だからさ~~~。ね、すぐ終わるからさ~~」
姉「痛くしないからさ~~~ちょっとだけだから~~~」
兄「お前ら絶対ヘンなことする気だろ」
姉「先っぽだけだから!」
妹「先っぽだけ!」
兄「お前ら交渉の席に着く気あんのか!」
姉「ただし返してあげるのはパジャマかパンツどちらかよ」
兄「せめて譲歩をしろよ!」
妹「まあそうカッカしなさんな~~~」
兄「……はぁ、そうか。わかったぞ」
兄「………」
兄「お前ら、最初からこれが狙いだったわけか」
姉「見抜かれてしまってはしょうがない」
妹「見抜かれてもなお胸を張ろう」
兄「……まったく」
姉「……」
兄「……ふふ、アホらしいなオイ」
兄「お前らのそのエネルギーはほんとどっから来てんだよ」
姉「弟」
兄「うん?」
姉「今日、何の日か覚えてる?」
兄「今日……?」
姉「ええ」
妹「……」
兄「今日って……」
兄「……」
兄「まさか」
姉「……」
兄「え、お前ら」
妹「……」
姉「そのまさかよ」
妹「……………デー、トゥーユー」
兄「え、おいおい」
姉「……ッピバースデー、トゥーユー」
兄「おいおいおい!」
妹「ハッピバースデェーー、ディア!」
姉「弟クーーーン!」
兄「えっ……ウソお!」
妹「ハッピバーーースデェエーーー」
姉「トゥウウ!」
姉「…………」
妹「…………」
姉「…………」
妹「…………」
妹・姉「「ユゥウウウウウウゥゥウウウウ~~~~!」」
兄「…………」
兄「…………」
兄「あの」
兄「別にオレ誕生日じゃないんだけど」
姉「…………」
妹「…………」
兄「…………うん」
妹「…………」
姉「…………チッ」
兄「えっ」
妹「…………フゥ」
姉「萎えるわ」
兄「えぇえ~~~。一転して険悪な雰囲気に」
兄「すごいハモッたりとかしてたのに!」
姉「こっちだって慈善事業じゃないのよ?」
兄「知ってるよ! 性欲だろ!」
姉「まあそれはともかくとして」
兄「一番議論したいところだよ!」
姉「でもまあ」
姉「弟」
兄「…………」
兄「………なんだよ」
妹「…………」
姉「今日」
姉「何の日か覚えてるでしょ?」
兄「…………」
兄「…………」
兄「…………ああ」
兄「父さんの、命日だろ」
妹「…………」
姉「ご名答」
妹「…………うん」
姉「…………」
兄「なんだよ」
兄「だからなんだよ」
姉「…………」
妹「お兄ちゃん」
兄「…………」
姉「あれから、もう一年も経つのね」
兄「…………そうだな」
姉「お母さん、元気になったわよね」
兄「……そうだな」
姉「よくがんばったわね」
兄「…………」
兄「…………なにがだよ」
姉「お父さんが死んじゃって」
妹「っ…………」
姉「母さんも、ちょっと滅入ってて」
兄「…………」
姉「男はあなたひとりだったじゃない」
兄「…………」
兄「…………知らねえよ」
姉「よくがんばった」
兄「うるせえよっ…………」
姉「母さんもそうだったけど」
妹「……っ……っ」
姉「あなたもあまり笑わなくなった」
兄「気のせいだ」
姉「……そうかしら」
兄「気のせいだよ」
姉「…………」
姉「……そういうことにしとくわ」
兄「…………」
姉「でもまあ、最近はこうやって」
妹「………」
姉「バカ騒ぎすることもなかったじゃない?」
兄「なんだそれ」
妹「……お兄ちゃん」
姉「…………」
兄「なんだよ、それ」
兄「もしかしてお前ら」
妹「…………」
兄「だからか?」
兄「だからこんなこと?」
姉「…………」
妹「…………」
兄「…………は、」
兄「真性のバカだなお前ら」
兄「ありえねえ」
兄「アホか」
兄「母さんもグルか」
姉「…………」
妹「…………」
兄「いや、あの人の差し金か?」
兄「まあいいや」
姉「……」
兄「あのな」
妹「っ…………」
姉「…………」
兄「余計なお世話なんだよ」
兄「たいしたこともできねえくせに」
兄「人のことなんか気づかってんじゃねえよ」
姉「…………」
兄「もう一回言ってやろうか」
妹「…………」
兄「余計なお世話なんだよ!」
姉「……っ」
妹「…………おにいちゃあん」
兄「うるせぇっ!!」
妹「――――っ!」
姉「…………」
妹「…………」
兄「ああクソ」
兄「気分ワリぃ」
兄「全部お前らのせいだ」
姉「…………」
妹「…………」
兄「お前らがこんなことするから」
姉「…………」
妹「…………」
兄「はァ……気分ワリい」
兄「…………」
姉「…………」
妹「…………」
兄「…………」
兄「…………おい」
兄「……パンツとパジャマ返せよ」
妹「え…………」
姉「…………」
兄「さっさと返せ」
姉「…………」
妹「…………」
兄「気分がワリいから不貞寝する」
妹「…………」
兄「…………」
兄「だから」
姉「…………?」
兄「お前らもいっしょに不貞寝しろ」
妹「…………」
妹・姉「「…………っ!!」」
妹「おにい…………ちゃん」
姉「弟クン」
兄「…………」
妹「お兄ちゃん」
兄「…………おう」
姉「弟クン!」
兄「……っせえな、聞こえてるよ」
姉「弟クゥン!!」
兄「だから聞こえモガッ!」
姉「弟クン弟クン~~~!!!」
兄「~~~~~~~~」パンパン
姉「信じてたわ弟クン~~~~!!!!」
妹「お姉ちゃんタップしてるよタップ!」
兄「~~~~~~~~!!」パンパンパンパン
妹「死ぬ! お兄ちゃん死んじゃう!」
兄「た………助かった」
姉「ごめんね」
妹「お姉ちゃんったら」
兄「意識って……あんなに白くなるんだな」
妹「いい勉強になったね」
姉「また強くなったわ我が家の大黒柱が」
兄「……ああ。この経験を活かしてがんばるよ」
姉「…………」
妹「…………」
兄「…………プッ」
姉「…………ふふ」
妹「……ふふふっ!」
兄「あっははははははは!」
妹・姉「デュフフフフフフフフフッ!!」
兄「ごめん、やっぱ気持ちわるいわその笑い方」
姉「ごめんね苦しくさせちゃって」
兄「いや、いいよ」
妹「私タップ初めて見た。生で初めて見たよ」
姉「ふふ。三途の川でも見えちゃったかしら」
妹「お父さんが手を振ってた?」
兄「いや」
兄「……そんなもんねぇよ」
姉「…………」
妹「…………」
兄「ほかの家はどうか知らんが」
兄「ウチにはない」
兄「三途の川もお花畑も」
姉「…………」
妹「…………」
兄「ウチには必要ない」
姉「…………」
兄「父さんは死んだ」
兄「オレたちは生きてる」
姉「…………」
妹「…………」
兄「それだけだ」
妹「…………」
姉「……ふふ」
姉「もう、寝よっか」
兄「……そうだな」
姉「ちょっと妹! もうちょいそっち寄りなさいよ!」
妹「ごめん無理! もうスペース的に無理!」
姉「何ほざいてんの! 関節はずしなさいよ! そして腕を折りたたみなさいよ!」
妹「要求がアクロバティックすぎるよ!」
兄「ちょちょちょお前ら! 真ん中のオレが一番ぐわあああ」
姉「弟クンはだまってていいの!」
兄「オレが一番の被害者だろ!」
妹「お兄ちゃんうるさい!」
姉「『三途の川もお花畑も』」
姉「『ウチには必要ない』」
妹「やめてっ……デュフフフフ////……お姉ちゃんやめて!」
兄「本当にやめて!!」
兄「おら、お前ら電気消すぞ」
妹「うーい」
姉「はいはーい」
母「りょうかーい」
兄「…………」
妹「…………」
姉「…………」
兄「電気消すからな。断固として」
母「消しちゃって消しちゃって」
妹「すごいきついよ」
姉「いいじゃないたまには」
兄「………ふん」
「…………」
「……」
「」
兄「…………」
妹「…………」
姉「…………」
母「…………」
妹「…………」
姉「…………」
兄「…………」
兄「…………」
兄「…………朝か」
兄「……ふわぁ」
兄「…………」
兄「…………シャワー浴びてくるか」
兄「…………」
兄「ふわ……」
兄「ねみぃなあ……」
兄「結局あんま寝れなかったじゃねえか」
兄「妹が飛んだり姉が跳ねたり母が回ったり」
兄「あいつらほんとうるせえなあ」
兄「…………」
兄「…………」
兄「まあでも…………」
兄「…………」
兄「少し……楽しかったかな」
兄「さて」
兄「今日もがんばるか」
兄「…………あいつらのためにも、な」
兄「よっと」
ガラッ
兄「…………」
兄「って」
妹「…………」
兄「おいてめえ」
妹「…………デュフフ///」
兄「またオレのパンツ盗んだだろ」
おしまい
幸せそうで何よりだわ。