梓「今日は学校も休みだし、軽音部の集まりもないし、どうしようかな」
梓「憂……は家の用事があるみたいだし。純……ジャズ研あるって言ってたっけ」
梓「ああー休日が過ぎていく……」
梓「そうだ! 買いもの行こう買いもの! そうだそうしよう!」
梓「電車に乗ったはいいものの、どこ行こうかな。最後に洋服買ったのいつだっけな……」
梓「あ、あの人かわいい……でも、私の身長だとああいうのムリだろうな」
梓「あ、ピーコートだぁ……うーん、でもいいやつはけっこう高いんだよね。なんでもそうだけど」
梓「うーん……あ、あそこの人ディスクユニオンの鞄持ってる」
梓「たまにいるよねぇ……そうだ! レコード屋行こうレコード屋! 行ったことない中古屋さんとか回ろう!」
梓「よし、決まった。あ、ここで降りなきゃ!」
梓「うわぁ……すごい人。やっぱここの駅迷路だ」
梓「あれ、どっちが地上出口だっけ? えーと、こっちが都庁だから、こっちがアルタがある方かな」
梓「前に一度来てるし、なんとかなるよね」
――20分後
梓「……おかしいな、どこかの百貨店に入っちゃった」
梓「……あれ、ここは本屋さん」
梓「……外出ちゃった。中央公園」
梓「ここどこー!?」
梓「ガード下まで戻ってこれたけど、駅着いてから1時間近く経っちゃった……」
梓「えーと、ここが新宿アルタ前。今日は休日だからいいともはやってないや」
梓「このまま進んで行けばユニオンだけど、今日は西新宿の方に行ってみよう。えっと、線路を挟んで反対側だね」
梓「確かこっちのほうにロスアプソンっていうお店があるはずなんだけど……」
梓「天丼屋さん、カフェ、ラーメン屋……またラーメン屋……またラーメン屋」
梓「おかしいなぁ、携帯で住所見るとこのあたりなのに。ここが柏木公園。西新宿の……」
梓「私、今日まだ一度も目的地にたどり着けてないよ……」
梓「結局知らないお店に入っちゃった……」
梓「オジサンのお客さんばっかりだ。売り物もブート中心かな」
梓「クラプトン、ゼップ、ストーンズ……クラシックな感じのが多いなぁ」
梓「1000円かぁ……気になるけど、ここは我慢しとこ」
梓「ふぅ、ちょっと公園で休憩しよ休憩。歩き疲れちゃった」
梓「ハァ~……」
梓「すぐ目の前はレゲエのお店かな? ドーナツ盤ばっかりみたい」
梓「ボブ・マーリーは好きだけど、ちょっとまだそこまで手が出ないかな」
梓「それよりロスアプソンだよ! もうこの辺3周はしてるのに見つからないってどうなってるの!?」
梓「もうユニオン行ってタワレコ寄って帰ろっかな……」
梓「……あそこのビルちょっと変わってるな」
梓「レコード屋さんの中にはテナント借りて2階にあったりもするんだよね」
梓「もしかして……」タタッ
『LOS APSON?』
梓「やったー! 見つかったよー!」
梓「ここ、マンションなのかな? そこの一室を使ってるのかぁ。見つからないはずだよ」
梓「えーっと……6階」
梓「……なんか緊張してきた」
梓「他の部屋も何かの事務所なんだね。えーと、お店は……」
梓「ここかな。目的地到着! いえす!」
梓「って唯先輩じゃないんだから」ブンブン
梓「どこから入るんだろ? 扉は閉まってるけど……アレ?」
『OPEN 15:00』
梓「うそおおおおおッッ!?」←現在12:00
梓「ちゃんと調べとくんだった……なんか今日はうまくいかないなぁ」
梓「お腹もすいてきたし……」キュウウ
梓「ご飯にしよう。あんまり無駄遣いしたくないけど、せっかく都心部に出てきたんだしどこかで食べたいな」
梓「うーん、ラーメン……ちょっと気分じゃない」
梓「思い出横丁……おそばがあったと思うけど、なんか違う」
梓「どこかのレストラン……に一人で入るのもなんだか……」
梓「ハァ……」
梓「結局、駅まで戻ってきちゃった……」
梓「もう帰ろうかな……ん?」
「すいませ~ん、手相の勉強してるんですけど~」
「はい?」
「すいません、手相の勉強してるんですけど、ちょっとお時間いただいてもよろしいですか?」
「手相かぁ、なんだか面白そうですねっ!」
「それじゃあ、ちょっと失礼して……ふむふむ、これは」
梓「唯先輩!」
唯「あれ、あずにゃーん! 偶然だねぇ~」
梓「はやくしないと映画始まっちゃいますよ! ほらこっちこっち!」グイグイ
唯「わっ!? あ、あずにゃん、映画? わたし今手相見てもらってるのにィ~」
梓「まったくもう、唯先輩素直すぎます」
唯「えへへ。あずにゃん今日はお買いものかい?」
梓「はい。唯先輩も?」
唯「んー、適当にブラブラしようと思ってさー。ねえ、お腹すいてない?」
梓「今、私どこかでご飯食べようかと思ってたんですけど」
唯「ホントに!? よーし、いこいこ!」
梓「え、でも、どこに?」
唯「おいしいご飯が食べられるとこ!」
梓「おいしいものって、ハンバーガーですか」
唯「お昼にハンバーガーって好きなんだよ~。むぐむぐ」
梓(そういえば新宿にも二郎あるんだよね。さっきはスルーしちゃったけど、思い出したらそっちのほうが……)
唯「ほいで、はふにゃん」
梓「はっ、はいっ!? 別にやさいましましとか考えてないですよっ!?」
唯「ましまし? あずにゃんは今日は冬モノのお買いもの?」
梓「あ、ああ……実は今日は中古レコード屋を回ろうかと思って」
唯「中古レコード?」
梓「このあたりは中古店がとても多いんです。前から気になってたお店もあるし、掘り出しものがないかな~って」
唯「レコードってなに?」
梓「え……レコードって見たことありませんか?」
唯「バーコードなら知ってるよ!」フンス!
梓(今は唯先輩みたいな反応が普通なのかな? でも軽音部なんだし一応知っておいてほしい……)クスン
梓「レコードはCDと同じ音楽記録媒体なんですが、今は主流じゃないんです。そうですね、CDのお父さんみたいな感じです」
唯「ふむふむ」
梓「CDよりも大きくて、黒いんですけど。あっ、唯先輩スクラッチってわかりますか?」
唯「スクワット?」
梓「こう……キュッキュッ~チェケラッチョ!」
唯「! ヨウヨウー! チェケラッチョイ!」
梓「まざっふぁっかー!」
唯「寝ちゃお寝ちゃおー!!」
唯「あずにゃん、ノリノリだね~」
梓「失礼しました……(うう、恥ずかしい)」
梓「話を戻しますけど、あのラップのDJの人たちが使ってるのがレコードです」
唯「ふうん」
梓「今日はそれを買いにきたんです」
唯「おお~」パチパチ
梓「(なんかペース狂う……)唯先輩は今日このあとどうするんですか?」
唯「うーん、どこかでご飯食べて、お店見てまわって帰ろうと思ったけど……ねえねえ、あずにゃんについていってもいい?」
梓「私はもちろんかまわないですけど」
唯「あは! じゃあさじゃあさ、私もレコード見たい!」
梓「じゃあ、一緒に近くのお店まで行きましょうか」
唯「今日はいい天気だね~」
梓「ちょっと寒いですけどね」
唯「あはは、そうだねぇ~」
梓(なんか不思議。唯先輩って一人で買いものに出かけるイメージとかなかったのに)
唯「……」ジッ
梓「どうしたんですか?」
唯「あそこ、楽器屋さんだ」
梓「あぁ、そうですね」
唯「……」
梓「唯先輩、見たいんだったら言ってくれていいんですよ?」
唯「え!? ホントに!? う~んでもォ~今日はあずにゃんに従うって決めてるしィ~」モジモジ
梓「なんですかそれ……ほら、行きましょう」
唯「へっへっへっ、どこまでもついて行きやすぜ、ダンナ」
梓「もう~今度はなんなんですかそれー」
唯「こないだ水戸黄門スペシャル見てさぁ……」
唯「うわぁ……」
唯「あずにゃん! すごいよ! ギー太ばっかり! ギー太が勢ぞろいでズラァっと!!」ハフハフ
梓「ギブソンのフロアみたいですから」
唯「ほへぇ……」
梓(こんなに興奮するとは……私もちょっと見ていこうかな)
唯「うふふふふ~」
梓「唯先輩、今度新しく買うんだったら別のにしてみたらどうですか? ほら、リッケンバッカーとか」
唯「ギー太『お父さん、今日はお嫁さんを連れてきました』
ギー太の父『ほう、誰かね』
ギー子『初めまして、ギー太さんと将来を誓ったギー子です』
ギー太の母『あらまあ、素敵な娘さん』
ギー太の父『うむ、これでギブソン一家も安泰だ。わっはっはっはっ』
ギー太『これから、世界一の家族になろうね』
ギー子『子供は3人よ』」
梓「……」
唯「イヤン、ギー助さんのエッチィ!」ニマニマ
唯「面白かったねぇ~」
梓「店員さん、ちょっと引いてましたよ……えっと、じゃあ次はレコー」
唯「あずにゃん!」
梓「は、はい?」
唯「ここ、下着屋さんだ」
梓「え!? あ、ああ、はい、そうですね……」
唯「すごいね、街の真ん中に下着屋さんだ」
梓「はい……」
唯「……」ジッ
梓「どっ、どこ見てるんですかもうッ!」
唯「えへへへ~」ニヤ
唯「ねえ、あずにゃん、そこのお店入ろうよ。ほら、あのピンクのヒラヒラしたのとかカワイイよぉ~」
梓「わっ、わたしあんなのつけませんっ!」
唯「別にあずにゃんに薦めたわけじゃないけど」
梓「ハッ!!」
唯「まあまあ、あずにゃん、ほら嗜みというやつだよ~。あ、私最近一つ大き目のが欲しかったんだぁ~」
梓(あれ!? いつの間にか唯先輩のペースになってる!?)
唯「いや~買ったねぇ、あずにゃん」
梓「はい……(私、何しに来たんだっけ)」
唯「あの紫のやつ、似合ってたのに」
梓「唯先輩のセンスおかしいですッ!」
唯「そうかなぁ。ありゃ?」prprprpr
梓(電話?)
唯「ちょっとごめん。はいはい。平沢ですよ~」
唯「うんうん……え? おばあちゃんみたい? わたぁし、これでも、ことス、ズゥはっさいになるんだよォ~」
唯「いまー? 下着屋さん」
梓(下着屋さんって……誰と話してるんだろ?)
唯「うんうん……えー……ってコラァ、タチバナー!」
梓(タチバナって誰!?)
唯「そんなに迫力ない? うーん……うん、じゃあ今度見せっこしようねー」
梓(何を見せっこするの!?)
唯「ばいばーい」
唯「ごめんね~。じゃあ行こっか」
梓「……あの」
唯「うん、なんだい?」
梓「今の電話って友達ですか?」
唯「うん、そうだよ」
梓「えっと、もしかして、その、かっ、かっ」
唯「閣下?」
梓「いいえ、やっぱなんでもないです!!」
唯「へんなあずにゃん~」
梓(まさか……いや、今まで考えたこともなかったけど)
梓(唯先輩、彼氏とか、いるのかな)
梓(子供っぽい人だと思ってたけど、ちょっと今日いつもと感じ違うし)
梓(……まさかね。いや、想像つかないっていうか、ムリ!)
唯「らぶ~らぶ~らぶずっきゅん~♪」
梓「ここですよ(ああ、なんかここまで長かったな……)」
唯「ディスケー……うにおん?」
梓「ディスクユニオンです」
唯「なんか狭そう」
梓「それは言わないお約束です。じゃあ、一番上の階のヴァイナルから見ましょうか」
唯「張り紙ばっかり」
唯「……ねえ、あずにゃん、なんだか不思議なニオイがするね」
梓「中古レコードがたくさん集まってるとこんな感じになっちゃうんです。たぶん」
唯「ほあ……」キョロキョロ
梓「唯先輩、これがレコードですよ」
唯「ポスターみたい」
梓「これは某女性声優も好きなストーンズの『スティッキー・フィンガーズ』ですね」
唯「ジーンズがもっこりしてる」サスサス
梓「ど、どこさわってるんですか」
唯「いやぁ、このジーンズにチャックが開いたりしないかなーって。えへへへ」
梓「これはついてないですけど、本当にジッパーがついてるのもありますよ」
唯「えっ、そうなんだ?」
梓「えーっと……」シャバッバッバッバ
唯「おお!」
梓「はい?」
唯「もう一回やってもう一回!」
梓「えっと……」シャバッバッバッバ
唯「おお~!!」パチパチパチ
梓「……///」
唯「なにやってるのそれ?」
梓「レコードはCDみたいにタイトルが確認しやすくないから、こうやって引っぱりだしてチェックして、欲しいものを探すんですよ」
唯「そんなにパッパッパーってやってもわかっちゃうんだ。すご~い」
梓「でも、乱暴にやっても傷ついたりするのでほどほどに」
梓「これは律先輩が好きなザ・フーの『マイ・ジェネレイション』ですね」
唯「へぇ~……」ジッ
梓「えっと中身ですけど。スイマセン、あの、これ視聴できますか?」
店員「はい、こちらでよろしいですか?」
梓「はい」
店員「……」ゴソゴソ
梓「あの黒い円盤がレコード本体ですよ」
唯「……」ジッ
『Out in the street~♪♪』
唯「……」
『People try to put us down~~♪♪』
唯「……」ジッ
梓(なんかすごい真剣にジャケ見てる……)
唯「あずにゃん」
梓「はい」
唯「この人のしてるマフラーすごくかわいい。私も欲しいよ」
梓「えっ、そっちですか」
『Kids are alright~~♪♪』
唯「こういうのっていくらくらいするの?」
梓「そうですね、このザ・フーは5000円みたいです」
唯「ごっ、5000円!? 私の一カ月分のお小遣い!」
梓「希少品だったり、音がいいものは値段が高くなるんです。あ、ちなみにこっちの」
梓「ビートルズのUK版はモノラル音源に加えてラウドカットなので福沢さん一人じゃとても足りません」
梓「そもそも60年代はステレオへの移行がまだ完全ではなかったのでこうしてモノラルとステレオの両方が存在するんですが、私はこの時代のものは断然モノですね」
梓「ジャズ系は親が持っているんですがこのへんのロックはあまり持っていないんです、なのでここのラインナップはいずれ全て――」←音質厨
唯「あう……あずにゃん恐い」
梓「それじゃあ、次は下の階に行きましょうか。この下はオルタナ系のロックが多いから最近のものも扱ってると思いますよ」
唯「うん」
梓「うーん、ゼップのSHMってどうなんだろう……」ブツブツ
唯「……」ジッ
梓「唯先輩、階段気をつけてください」
唯「あ、うん。あのさ」
梓「はい?」
唯「なんていうんだっけ、こーゆーの。えっと……後ろ首を捕まえられる?」
梓「話が全く見えないです……」
唯「ううん、やっぱなんでもない」
梓「?」
梓「ここは主にオルタナロックとか前衛音楽を置いてるフロアですね」
唯「折る棚? 前衛? あ、なんかカワイイ曲がかかってる」
梓「ここはCDもありますよ」
唯「ホントだ。あ、スリップノットだ!」
梓「唯先輩、スリップノット好きなんですか?」
唯「前にね、さわちゃんが特訓してくれたときにDVD見せてくれたんだ~。みんなオモシロイ格好だよね」
梓「そうですね」
唯「あ、これも教えてもらったやつ、えーっと、ナイン・ミンチ・ネルズ?」
梓「お肉じゃないんですから……ナイン・インチ・ネイルズですね」
唯「うわっ、800円だ!」
梓「中古ですからね。このへんのバンドはだいたい1000円前後で買えますよ」
唯「へぇ~……これ買お」
梓「『フラジャイル』ですね(唯先輩のイメージとはだいぶ遠いなぁ)」
梓「えーっと」ゴソゴソ
唯「こっちはレコードなんだね」
梓「あ、スプーンだ」
唯「スプーン?」
梓「アメリカのロックバンドなんです。すごく演奏がカッコイイですよ」
唯「このジャケットだっけ? かわいいね。男の子が椅子に座ってる」
梓「たぶん一番新しいやつですね……私、これにします」
唯「なんだかジャケットかわいいと欲しくなってくるね~」
梓「内容がわからなくてもジャケットだけで買う人もいますよ。ジャケ買いっていうんです」
唯「ジャケ買いかぁ……ププ、シャケみたい」
梓「その発想はなかったです……」
唯「よし! 私もジャケ買いする」フンス!
梓「あんまり考えないで無心になってやってみるといいですよ」
唯「じゃあCDでやってみよう。無心……む、むむむむ!」スッ
唯「これ! あ、かわいい~」
梓「んん?」
唯「日本語だ。えーっと、暴力、温泉、芸者。変な名前~」
梓(これって中原昌也さんの前衛系のやつだったような……男の人がミラーマン歌ってるっていう……)
唯「中身はわかんないけど、うん、ジャケットかわいいからこれにするよ~」
梓「そ、そうですか~(うーん、本人は満足そうだしいいか)」
紬「ん……」
紬「あ、いけない。またピアノの上で寝ちゃった」
紬「ふわぁぁ……まだこの曲作ってる途中だわ。続きやっちゃお」
紬「たぶん、私たちってあんまりマイナーよりもメジャーのほうが合ってると思うんだけど……」
――ポーン、ポロローン
紬「よし! フーン、フンフンフーン♪」ポロロポロローン
紬「……澪ちゃんだったら、切ない感じとかうまく歌ってくれるかも」カキカキ
紬「えっと、こうかしら。よいしょ」ボーンボロロローン
紬「フンフン♪」ボーンボロボロボロボロ
紬「フーンフーン♪ フフフーンフフーン♪」ボボボボーン ポロポロポロ
紬「……ちょっと発声苦しいかな。でも澪ちゃんなら声でるかも」カキカキ
紬「うん、ちょっとくらい転調してもやってくれるよね。澪ちゃん歌うまいから」
紬「フフーン、フフフフーーーン♪」ボーンボンボンボンポロポロロロロロロ
紬「フッフーーン♪ フンフフフフーン!」ダーンッ ダーンッ ダーンッ
紬「フーーン! フフーーンフーーン!」ダンダンッダダンッ ポロポロポロ
紬「フンフンフンフンフンフン!!」ジャンジャンジャン パーーーンッ ジャジャジャッ
紬「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふぅーー!!」ダンダンダンダンダンダンダンダン
斎藤「お嬢様、失礼します」
紬「のっ、ノッてきたのおおおぉぉーーっっ!!」ダンダンダンダンポロロロダダンッ
斎藤「!?」
紬「あら、斎藤」
斎藤「ピアノも結構ですが、お休みをなさってはいかがでしょう。あまり無理をなさるのも体に毒でございますゆえ」
紬「そうねえ。あ、もうお昼」
斎藤「昼食の準備なら既に」
紬「その前にちょっと外に出てきます」
斎藤「は、ですが今から遠出をなされるのは……」
紬「そこのコンビニまでよ」
紬「あの人ももう少しフランクだといいんだけど……」
―いらしゃいませこんにちわー。
紬「えーっと、あっ、あったあった」
紬「この栄養ドリンクって、前から飲んでみたかったのよね」
紬「いっぱいあるけど、どれがいいのかしら」
紬「うーん……そうだ、せっかく外に出たんだから薬局まで行って買おうかな」
紬「うん、そうしよう。でも、お腹すいたし、ちょっと何か買い食いしよっ♪」
紬「と、その前に……」
男性客A「……」
紬「♪」
男性客B「……」
紬(わたし、コンビニで立ち読みするのが夢だったの~)
紬(漫画ってあんまりわからないけど、この都市伝説特集……すごく怖い)
紬(N県にあるトンネル……そこは全国的にも有名な心霊スポットであるが、当時23歳のBさんは友達と旅行がてら冷やかしにそこを通ることにした……)
紬(どうしてわざわざ夜中に行くのかしら……)
紬(『ねえやっぱやめようよ~』『大丈夫だって。ほら、なんにも起こんないじゃん』)
紬(外は暗闇。赤いライトに照らされたトンネルの中ゆっくり車を進めていくと……)
紬(『あ、あれ? エンストしちゃった』)
紬(『えーうそぉ!?』『おかしいな……』『だからやめようって言ったじゃあん!! ねえはやくなんとかしてよォ!』)
紬(『でもエンジンかからないのよ……ちょっと、さわんないで、邪魔しないでよもォ~』)
紬(『わたし、なにもしてない……』)
紬(『は? さっきから私の左腕……』)
紬(そこには後部座席から青白い手が彼女の左腕を掴んでいたッ!!)
紬「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
男性客「!!」ビクッ
紬「うぅ……恥ずかしいことをしてしまった」
紬『すひません! すひません!』
紬「もうあそこのコンビニ行けないわ……あ、薬局」
紬「もう早く買って帰ろ」
紬「えっと……昨日ほとんど徹夜みたいになっちゃったし、眠気覚まし的なのを買ってみたいけど」
紬「どれがいいのかしら……」
紬(なんとなく……刺激が強そうなやつを選べばいいんじゃないかしら)
紬「赤マムシ……これは強そうね。これひとつ」
紬「スッポン? トンちゃん? 隣にあるし一応コレも」
紬「ニンニクなんてある。これもキきそう~」
紬「あ、なぁんだ、眠気覚ましっていうのもあるんだぁ~」
紬「よし! こんなところかしら。すいませーん、これくださ~い」
店員「いらっしゃいま……せっ!?」
紬「♪」ニコニコ
店員(昼間から、若い、かわいい子が、精力剤買いこむって……)
紬「?」ニコニコ
店員「ご、ご出勤ですか?」
紬「え?」
梓「それじゃあ、次は外に出て、別館のジャズに行ってみましょうか」
唯「ジャズかぁ。あずにゃん、オットナァ~♪」
梓「はいはい。今までの本館から数件隣り……ここですね」
唯「お店の中が明るくて、なんだかオシャレな感じがする」
梓「さっきと違って外からも店内が見えますからね。中古は上なので階段あがりましょう」
唯「ほいほ~い」
唯「さっきのロックがあった所より全体的にすっきりしてるね」
梓「そうですね。私はここではあまり目当てのものはないんですけど、唯先輩は見ていきますか?」
唯「うん、ジャケット見る~」
梓(なんか楽しそうだなぁ)
唯「さっきの暴力温泉芸者さんは日本語だったから、また日本語の探してみよ」
唯「むむむ……」
梓「なにかイイのありました?」
唯「これ、えっと、高柳昌行さん? セカンド、コンセプト? これジャケットカッコイイ気がする」
梓「高柳昌行さんですか……(フリージャズのギタリスト……唯先輩って前衛方面が向いてるのかなぁ。でも中身わかってないし)」
唯「でも、ちょっと高いや。これはやめとくよ」
梓「そ、そうですか(なんだかホッ)」
梓「ジャズ館のまた隣のビルの3階がレコード専門なんですよ」
唯「へえ~」
梓「さあ、着きましたよ」
唯「ふおぉ……さっきよりも古そうなのばっかり。それにオジサンばっかりだね」
梓「若い人も来るとは思いますけど……見当たりませんね」
唯「それじゃあ、また見てみよっか」
梓「そうですね」
唯「ねえねえ、あずにゃん。私もあずにゃんみたいにしゅばばば~ってレコード見たい」
梓「そうですね、それじゃあ棚の一番奥のレコードを引っぱりだしてください」
唯「こう?」サッ
梓「これ、どう思います?」
唯「うーん……ジャケットかわいくない」
梓「それじゃあ、これを戻して、一つ手前のを取り出してみましょうか」
唯「ふんっ!」サッ
梓「こうやって、一枚一枚見ていくんです」
唯「え~。でもこれじゃすっごい時間かかるよ~?」
梓「スピード勝負じゃないんですから。それに慣れれば段々手つきも速くなりますよ」
唯「そっかぁ」
唯「あずにゃん先輩、リスペクトするッス」ゴソゴソ
梓「私、後輩なんですけど……」
唯「あ~ずにゃんのた~めな~らエンヤコ~ラ~♪」ゴソゴソ
唯「うーん……」ゴソゴソ ポイ
梓「これ、気になるんですか?」
唯「うん。とりあえず目に付いたのは出そうと思って~」ゴソゴソ
梓(コルトレーンの『ブルートレイン』かぁ。確かにジャケットかっこいいもんねぇ)
唯「ここにはもうイイのない気がする」
梓「え?」
唯「ぎゅうぎゅうにレコード詰めてあって……取り出すの、たいへん、だっと」ゴソゴソポイ
梓(ボビー・ハッチャーソンの『モンタラ』だぁ! これ確かウチにないやつだ!)
梓「ゆ、唯先輩? どういう基準で選んでるんですか?」
唯「ん~? もちろんカワイイかカワイクナイかですよ!」フンス!
梓「はぁ……カワイイかカワイクナイか」
梓(これはカワイイのかな……)←気になったら尼見てちょ
唯「ふぅ~。一仕事したぜぇ」
梓「結局選んだのは最初の2枚でしたね」
唯「うーん……」ジッ
梓「(すごい真剣だ……)店員さんに言えば視聴させてもらえますよ?」
唯「やっぱりいいや」
梓「えっ!? 両方ですか?」
唯「うん。だってこの人すっごい真面目な顔してて、ずっと見てると疲れそうなんだもん」
梓(真面目な顔って……まあ確かにコルトレーンの演奏ってすごくシリアスなものもあるけど)
唯「あずにゃんはどうするの?」
梓「あ、わ、私、先輩が選ばないならコレ(モンタラ)にしますっ!」
唯「そっかぁ~。よかったねぇボビー」ナデナデ
梓(やっぱり名前つけてる……いや、合ってるんだけど)
梓「ふぅ」
唯「あずにゃん、お疲れかい?」
梓「いえ! あ、でもお昼前から歩き回ってたから、ちょっと疲れたかもです」エヘヘ
唯「じゃあ、どっかでお茶にしようよ。ほら、3時だし。休憩!」
梓「あ、ホントだ。それじゃあ、そうしましょっか」
唯「ほぉ~かごは~ティータ~イム♪」
梓(そういえば他の先輩たちは何してるんだろ?)
唯「あずにゃんのビニール袋おっきくていいなぁ~」
梓「ここ、バッグも売ってますよ」
唯「でも2月25日にならないと売ってないんですよ、あずにゃん……」
梓「え……?」
澪「うわぁ……ここが雷門。初めて見たぁ」
澪「えっと、今だいたい3時か。これなら夕方にスカイツリー見る前にブラブラできるな」
澪「うーん、それにしても休日の人だかりすごい……」
澪「とりあえず浅草寺まで歩くか」
澪「やっぱり観光客大勢いるな。小さい人口のサラダボウル……」
澪(英語で話しかけられたらどうしよう)
澪「あっ……と、ここ、写真撮影の邪魔か」
観光客「ムゥ、マドモワゼール!」
澪(って考えてるそばからキタァ!? しかも英語じゃないし!!)
観光客「アァ……」
澪「アアアアアアイキャンスピークえんぐりっすぅ~!」
観光客「ユーアーメリカン?」
澪「のっ、ののっ、のの、ノノー!」
澪(エートエートエートエートエートエート!)
観光客「すいません、写真、お願いします」
澪「へっ?」
観光客「家族で、撮りたいです」
澪(日本語話せる人だった……)
澪(ゆっくりだけど発音キレイだった……)
澪「(しかも……)お菓子までもらっちゃった」
澪「ハァ……でもありがたくいただこう。むぐ」モグモグ
澪「あ、おいし」
澪「なんだろコレ? 衣がついてるけど中がアンコ。揚げ饅頭って言ってたっけ」
澪「ふむふむ……」モグモグ
澪「おいしいなぁ……あとで自分でも買おう」
澪「お店の数もすごいな……たぶんお寺まで一直線だと思うけど、迷いそう」
澪「この賑わってる感じ……うまく撮れるかな? よっ」カシャ
澪「あ、少し傾いてる。まあしょうがないな」
澪「! 旗が出てる。あれが揚げ饅頭のお店か。んー……でも帰りにしよ」
澪「おお! お寺までの道が開けた! あれが浅草寺!」
澪「ここから……よいしょ」カシャ
澪「うーん……デジカメはすぐにパソコンに取り込めるから楽しいんだけど。やっぱりLC-A持ってくればよかったかな」
澪「あれ!? また揚げ饅頭のお店がある!?」
澪「はぁ~……やっぱり人気なのかなぁ」カシャ
澪「さて。いよいよお寺の方に進むぞ~」
澪「煙が……お香、じゃあないよね。なんていうんだっけ。こういう煙ってだいたい厄除けみたいなやつだったと思うけど」
澪「みんな、頭に被ってる……私も」パタパタ
澪「そうだ。左手にもしておこうかな」パタパタ
澪「ベース弾きにもご利益がありますように……」
澪「じゃあ、本堂にお参りしよう」
澪「あ、その前にここの煙たいスペースも」カシャ
澪「5円ですみません」チャリーン
澪「……」
澪(家内安全、無病息災、あと、これからも軽音部のみんなと仲良くやっていけますように)
澪「……」
澪「ふぅ。よし! じゃあ……」
澪「ご飯にしようかな。うん、別にそっちが目当てじゃあないけど、うん、せっかくだしな」
澪「うん」
澪「うーん、おそばとかあるんじゃないかな。とりあえず適当に歩いてみるか」
澪「あれが五重の塔(定食みたいの食べたい)」カシャ
澪「歩いてみるとけっこうあっという間(甘味系でもいい)」
澪「あれ、お寺抜けちゃったかな?」
澪「まあいいや、ちょっとこっちのほうブラブラしよう(なにもパフェとか食べたいっていうんじゃないんです)」
澪「うーん、下町っぽい(なにか、食べたい)」
澪「ご飯が食べられるところ……」
澪「お店はたくさんあるみたいだけど、みんな飲み屋みたいだ」
澪「お、あれが花やしき」カシャ
澪「あれ? なんか商店街みたいなとこ出ちゃった。あ~……」
澪「まぁいっか。戻ってさっきの飲み屋みたいなところに入ろう」
―いらっしゃいませ~。
澪(入っちゃった……)キョロキョロ
澪(すごい、昼間からみんなお酒飲んでる、あそこのおじさんも、こっちのおばさんも)
澪(普通のご飯って食べられるのかな……)
おばちゃん「お決まりですかぁ~?」
澪「えーっと……(えーとえーとああれメニューか)」
澪「あっ……あの、生姜焼き定食、っていうの、ください」
おばちゃん「定食のほうでいいのね?」
澪「は、はい」
おばちゃん「生姜焼き定食~」
澪(注文をしてしまうと少し気が楽になった)ホッ
澪(あそこのおじさん、顔真っ赤だなぁ。テレビは……競馬映してる)
澪(私みたいな人、他にいないな……家族連れか、お店のおばちゃんと仲良く話してるから地元の人なのかな)
澪(あ、よく見たら生姜焼き定食1000円だ……飲み屋さんだからかな)
澪「まだかな……」ソワソワ
おばちゃん「ごめんねぇ遅くなっちゃってぇ」
澪「えっ!? いえいえいえ!」
おばちゃん「はいお待ちどうさまぁ。生姜焼き定食ね」
澪「……」
<生姜焼き定食>
・ご飯、味噌汁、生姜焼き、キャベツ
・味噌汁はワカメと豆腐
・生姜焼きはタレがかなりかかってる
・キャベツ用にマヨネーズが添えてある
澪(普通に……おいしそうだ)
澪「いただきます」
澪「(生姜焼き……)もぐもぐ」
澪(甘いなぁ。でも口にちょうどいい)ムグムグ
澪「(味噌汁……)……ぶっ!」ゲフゲフ!
澪(すっごく熱い。熱すぎて味わかんない……ちょっと舌火傷しちゃった。冷めてからにしよう)
澪「生姜焼きおいしいなぁ」モグモグ
澪(あ、マヨネーズがタレと混ざっちゃった。大丈夫かな)
澪「……」
澪(あれ? おいしいなあ。マヨネーズかかった生姜焼き)
澪「……」モグモグ
澪(嬉しい発見。意外な組み合わせ。ちょっとコッテリ感が増すというか)
澪(これを今度詩にしよう。突然の出会い。でも運命的なカップリング~)
澪「ふふっ(あ、味噌汁冷めてきてる。ああ、ちょうどいいなぁ、このあったかさ)」
おばちゃん「あそのこの女の子、うれしそうに食べるねぇ」
おじさん「母ちゃんもあれぐらいのルックスだったらいいんだけどな!」
おばちゃん「何言ってんのバカだねもうぅ~」
澪(あ、エリって確か仏像好きなんだっけ。メールしてみようかな)パチッ
澪「ん、律からだ」
律『最近さ~澪ふくよかになった?』
澪「ブッ!!」
澪(あいつ~……いや冬になってから確かに体重計薄目で見るようになったけど! 今まさに食べちゃってるけど!)
澪「……」
澪『やっぱ体動かさないとダメだよな。ドラムとかさ。あとドラムとか』
律『(ノД`)・゜・』
澪「ふん!」パチッ
澪(そういえば、他のみんな今日はどうしてるんだろ?)
梓「それじゃあ、次はクラブミュージック館に行ってみましょう」
唯「クラブ(蟹)?」
梓「主にダンスミュージックですね。ハウスとかヒップホップとか」
唯「……(第一蟹体操~♪ チャーンチャラチャラーン)」モヤモヤ
梓「普段聴かない音楽に触れてみるのも勉強になりますよ」
唯「う、うん! 私、がんばるよあずにゃん!」
梓「はい!(なんかやる気だなぁ。ふふっ、これで今度から部活の練習も増えるかな)」
―いらっしゃいませー。
唯「な、なんかさっきまでとはまた別世界だね、あずにゃん」
梓「そうですね。やっぱり扱ってる音楽もパーティー用というか、スタイリッシュな感じですから」
唯「……(蟹カニパーティ♪ かにKANIパーティ♪)」モヤモヤ
梓「ここはCDとレコード両方ありますよ」
唯(蟹のパーティーかぁ……)
梓「えーっと、ここがテクノですね。ミニマル、ディスコ、ダブステップ……」
唯「……」プシュー
梓「私も分からないものが多いです。一緒に見ましょう……って唯先輩!?」
唯「カニ……カニ……テク?」プシュー
梓(許容量超えちゃってる!?)
梓「つまり、チェケラッチョイな音楽が専門だと思ってもらえば、たぶん大丈夫です」
唯「オッケーオッケー!」
梓(本当に大丈夫かな?)
唯「……あずにゃんや。このレコード、ジャケットがないよ? 真っ白。中古だから?」
梓「ああ、えっとですね、この手の音楽は12インチ、つまりレコードのシングルが中心なんです。もちろんそれに限らずでもあるんですけど」
唯「12インチ?」
梓「レコードの大きさのことですね。これはさっきまで見てたものと同じ大きさで、12インチです」
梓「でも中身は1曲から4曲くらいしか入ってません。これは視聴用以外に、実際にパーティとかでかけるために使われたりしますから。
ジャケットはこんな風に真っ白なスリーブが多いですね。デザインがあるものもありますけど」
唯「ほあ……」
梓「えっと……ほら! これなんかデザインがついてますね」
唯「……S、K、R、E、A、M。スクリーム?」
梓「たぶんそう読むんでしょうね」
唯「あはは、これ間違ってるよ~。だってスクリームってSCREAMだもん」フフン
梓(ワザとなんじゃないかな~)
唯「チェケラッチョ~」
梓「……!(あれ、スロッビング・グリッスルだ! へぇ~ディスコ扱いなのかなぁ)」ゴソゴソ
唯「ねえねえ、あずにゃん。これカワイイ~」
梓「えっと、The Low And Theory……ATCQだったかな? 確かにオシャレですね~」
唯「あははは! ほら、こっちのコマネチみたい!」
梓「Midnight Maurauders……(確かすごい名盤とか言われてたような……)」
唯「ほわぁ、このへんの人、みんなアディダスのジャージだ。運動するのかな?」
梓(なんだか誤解を増しいるような……でも私このへん門外だしなぁ)
唯「うおっ! 8000円!? えっと……モーディマンン?」
梓(リカルド・ヴィラロボスって、確かミニマルテクノだっけ? うーん、私はまだこのへんは早いかも)
唯「ねえねえ、あずにゃん、私コレ買うよ~」
梓「スヌープ・ドギー・ドッグ……一応言っておくとこれラップですよ」
唯「イラストかわいい~」
梓(先に音楽について教えてから連れてくればよかったかなぁ)
唯「コレくださ~い」
唯「あずにゃんはまだお探しかな?」
梓「もうちょっとまってください……よいしょ」ゴソゴソ
唯「ここのレコードにかかったビニール、つるつるしてて好きだなぁ」
梓「ビニールですか……ん、えーっと、Move Your Body……」
梓(なんだっけ確かどこかで聴き覚えがああそうだ『24アワーパーティーピープル』のサントラに入ってたっけ
そうだそうだ確かピアノで始まってドッチードッチーなハウスで確かこういうジャンルはシカゴハウスっていって
えーとそうだそれでよく聴いた覚えが……)
梓「……私、コレにしますね」
唯「ま、ま、マーショル、じぇふぇる……」
梓「マーシャル・ジェファーソンって読むんですよ。唯先輩、英語の授業の方大丈夫ですか?」
唯「え、だっ、だいじょぉ~ぶだよぉ~?」
梓「勉強もがんばってくださいね」
唯「すみましぇんぬ」クスン
澪『それじゃあ、駅で待ち合わせね』
律「ったく~。なぁ~んでお前もついてくるんだよ~」
聡「いいじゃんかよ別にー。姉ちゃんたちだけ夜遊びとかずるいぞ」
律「夜遊びに行くわけじゃないっつの。澪が壁紙の写真撮りたいっていうからその付き添い」
聡「壁紙ってなんの?」
律「パソコーン。今日は昼間は浅草見物してたんだってさ~」
聡「それで連れてけって姉ちゃん言ったんだ?」
律「だって澪しゃんがどうしてもって言うから~」
聡「今日一日暇そうにしてたもんな、姉ちゃん」
律「……さぁとしーっ! コラ!」
聡「ちょっ、八つ当たりかよ!」
律「まだ時間あるなー。どこかで時間潰すかぁ」
聡「あ、じゃあ秋葉原行こうよ秋葉原」
律「……聡、今のうちに言っておく」
聡「なに?」
律「お前の年で彼女できないのはおかしくもなんともないからなっ!」
聡「どういう意味だよそれ!」
律「だって……買いにいくんだろ、ほら、ラブプラスとか」
聡「違うよ! ゲームだよゲーム! モンハン!」
律「姉ちゃんは弟の部屋で見つけるならエロゲーよりエロ本がいい」
聡「だぁから違うって!
―秋葉原
律「デッカイ広告だなぁ。あれはアニメ?」
聡「ゲームだよ。魔法使いの夜。延期だけどね」
律「ふーん。あの女の子とエッチしちゃうの?」
聡「あれは全年齢対応! あの会社は昔はそういうのあるけどこれは違うの! なのにわざわざPC対応なんだぜ!」
律(よくご存じで……)
聡「絵も武内崇じゃなくなっちゃったし、キレイなのはいいけど、一体いつ発売するんだか!」
律(思ったよりも弟はディープだった)
律「あ~姉ちゃんは勝手にブラブラしてるからさ。時間までそっちも好きなとこ行きな」
聡「そう? いいの?」
律「いいのいいの。ただし遅れるなよ~。そんじゃね~」
聡「わかったー」
律「まあ、あたしがいたら買いにくいものもあるだろ」
律「さーて、どうしよっかなー」
メイド「メイド喫茶でーす。どーぞー」
律「ああいう格好も学校だとできるけど、一人だと店に入ったり、着たりする気にはならないなぁ」
律「あ、そうだ、万世橋のカツサンドがあったっけ。それでとりあえず」
律「うーん、りっちゃん様孤独なグルメだわん」
―ありがとうございましたぁ。
律「これ(カツサンド)、漫画より高いんだよな」
律「うーん、上等上等」ムグムグ
律「ソースの味は男の子~ったって、女の子も食べますよ~っと」モグモグ
律「む……澪からメール」
澪『コレ さっきのご飯』
律「浅草で食べたのか。けど、これ私が貸した漫画の影響だな」
律「生姜焼き? おいしそ~……」
律(なんかタレ濃いなぁ。だいぶ甘いんじゃないのコレ。まあ、今度澪が来たとき作ってみるか~)
律「えーっと……『生姜焼き? しょうかしょうが~ アレ ところでコレ男の顔写ってね?』っと」
律「おお、返信はやい。さすが……って電話か」prprprpr
律「はいはーい」
澪「写ってないよ! なんにも写ってないってばぁっ!!」
律「そっかなぁ……ほらぁ、茶碗の真横に物欲しげに口をぱかぁっと開けたやつが」
澪「いないのー! なんにもいないんだってばぁー!! ナンニモイナイナンニモイナイナンニモイナイ……」
律「それよりさー」
澪「あ、そっ、そうだ! いいいい今から浅草寺戻ってお祓いしてもらえばっ!」
律「はいはーい。澪ちゃーん、そろそろこっち帰ってきてね~」
澪「あとで覚えてなさい」
律「はい……いや、澪とこの後合流するのはいいんだけどさー。唯たちは今何してんのかな?」
澪「ああ、そっか、都合がつけばみんな一緒に行くのもいいよな」
律「だしょ~?」
澪「だしょって何?」
律「私は唯と梓に電話してみるからさ、澪ムギに声かけてみてよ」
澪「うん、わかった。それじゃあ、ちょっと切るぞ」
律「うっすー」
澪「切るよー」
律「リコピン!」
澪「……切る、からね」プププ
律「リコピンパワー」
澪「……」プッ アッハッハッハ
律「リコピンスマッ……あ、切りやがった」
唯「カーティス・メイフィールド、ジャケットかっこよかったね~」
梓「そうですね」
唯「『カーティス』だっけ、あの黄色いやつ……黄レンジャーってかんじ」
梓「戦隊モノですか……」
唯「りっちゃんって黄レンジャーだよね~」
梓「まぁ、ドラムとカチューシャが黄色ですから」
唯「私はレッドです!」フフン
梓「さり気にリーダーポジション……唯先輩はマスコットって感じです」
唯「戦力外通告!? あ、電話」prprprpr
梓(またタチバナさん?)
唯「もしもし、りっちゃん?」
梓「律先輩ですか?」
唯「うん……えっとー今新宿ー」
唯「そこどこの駅?……ふむふむ……あずにゃん、なんかねりっちゃんがみんなで集まろうぜ~って」
梓「今からですか?」
唯「まだ回ってないところがあるけど……」
梓「……また今度にしましょうか」
唯「そうしよっか」
梓(今日もずいぶん見たしね)
唯「わかったぁ~それじゃあね~」
唯「……あずにゃん、本当はまだ回りたかった?」
梓「えっと、でも今日はもう、ちょっとレコード屋はいっぱいって感じです」
唯「また、絶対来ようね」
梓「はい」
唯「へへへ」
梓(なんか、今日の唯先輩、お姉さんって感じ)
唯「それじゃあ、行こうかぁ~」
梓(憂はいつもこんな感じなのかな)
唯「どんぶらこ~どんぶらこ~」
梓「唯先輩? 駅は逆方向ですよ」
唯「……」
梓「どうしました?」
唯「あのね……申し上げにくいのですが、私、もう一回だけ見たいのものがあるのですが」
梓「……」
唯「ご、ごめんね! でもこれだけ! 本当に一瞬ですから!」
梓(やっぱ唯先輩だな)
唯「執行猶予を~」オウオウ
梓「ザ・フーですか?」
唯「うん、最初に見たやつ。あれやっぱり欲しくなっちゃって」
梓「でも、けっこう高いですよ?」
唯「へへへ、あれ買っちゃったら今月パーです。でもいいんだ」
梓「そういえば、あれだけは視聴もしましたからね」
唯「ジスズマイゼネレーションベイベー♪」
梓「やれやれ」
唯「なんだか一周した気分だねー」
唯「ザ・フーってW?」
梓「はい」
唯「だぶりゅ~……」パタパタ
梓(だいぶ手つきが慣れてきてる)
唯「アレ? ないなぁ……ない」
梓「ホントですか? 次のXに隠れちゃってるとか」
唯「うーん……ない。Vにもない。ないねぇ……」
梓「誰か買っていっちゃったのかもしれないですね」
唯「あぁ……」
梓「(すごく残念そう……)こ、こういうこともありますよ。レコードは一期一会ですけど、また見つかりますって」
梓(あう……今のよくなかったかも……)
唯「……そうだね。ふんす! また会おう! アディオス!」
澪「もしもし、ムギ?」
紬「は~い、ムギで~す」
澪「あのさ、今から出てこられる?」
紬「わたし、絶賛24時間営業中なの~」
澪「(妙にテンション高いな)あのさ、みんなでスカイツリー見に行こうと思ってるんだ。それで駅は……」
紬「ふむふむ……招致仕りました~」
澪「うん。なんかムギ元気というか、いいことでもあったの?」
紬「私はみんなのおかげで、毎日とても幸せです」
澪「そうかぁ」
紬「ねーえ、澪ちゃん、澪ちゃんの声って前から私、とても素敵だと思ってるの」
澪「あ、ありがとう」
紬「今ねぇ、いい曲ができそうなの。サビで転調させて澪ちゃんを鳴かせてみたいわぁ~」
澪「へ……?」
―業平橋
律「おいっすー」
唯「うめっしゅー!」
梓「新しい返しですか?」
澪「来たよー」
紬「おまたせ~」
唯「あれ? 聡くんだ、聡くんだ」
律「行きたいっていうからさ」
澪「じゃあ、聡もそろって写真撮ろうな」
聡「あ、はい。なんかスミマセン」
紬「うふふ、かわいい」
律「夜ギリギリ前だな。ツリー、写真に映んないんじゃないの?」
澪「これくらいの明るさがあれば大丈夫だと思うけど」
唯「ライトとかないのかな」
梓「クリスマスには試験でライトアップしたそうですよ」
紬「そう、残念ねえ」
唯「ほっ、私の携帯ちゃんで照らしてあげる!」ペカッ
律「なにぃ! 負けてられん! 田井中ムーンパワー!」ピカッ
聡「姉ちゃんは太陽拳使えばいいじゃん」
律「さぁとしーっ!」
紬「太陽拳ってなあに?」
唯「こうやってオデコ出して……天さん!」
紬「あはははははははははははははっっ!!」
澪「ふむ……」カシャ
唯「撮れたー?」
梓「やっぱり影が多いですね」
澪「まっ、こんなもんかな」
梓「ところで、さっきからムギ先輩が恐いんですが……」
紬「聡くん、あなたのお姉さんはとってもかわいい子なの。物知りだしエスコートもうまいし叩くのもうまいし」
聡「姉ちゃん、この人と普段何してんの?」
律「バンドだよ」
紬「いい音のするチョップなの」
澪「それじゃ、みんなで写真撮ろっか」
唯「はいはーい、私あずにゃんと写るー」
梓「ちょっ、腰のあたり撫でないでくださいよ」
唯「えぇ~。んもう、あずにゃんのイケズゥ」
澪「はい、撮るよー」カシャ
紬「次、私澪ちゃんと写りたいでーす」
律「そんじゃ、私が撮るよ」
澪「む、ムギ、なんで二の腕揉むの?」
紬「腕組んでるだけだよ~♪」
律「はい、チーズ」カシャ
澪「ひゃっ、そこ胸っっ」
紬「いい笑顔~♪」ニコニコ
唯「ほら、あずにゃん、ジャケットカメラに向けて!」
梓「恥ずかしいですよ往来で……」
唯「ほら、ボビーを見せて!」
澪「なんだそれ? レコード? 梓、撮るぞー」
唯「行くよ、あずにゃん! せーの、もんたら!」
――カシャ
梓「やっぱり恥ずかしいです……」
澪「うん、けっこうカッコよく撮れた。この梓、壁紙にしようかな」
梓「ちょっ、澪先輩!?」
紬「撮るよ~」
律「キリッ!」
澪「何を目指してるんだよ」
――カシャ
律「ほれ、聡も入んなよ」
聡「い、いいよ俺はー!」
律「なぁに恥ずかしがってんだ。はいはい、私と澪の間なー」
澪「あれー? 聡背伸びたね」
聡「はぁ。ども」
律(畏まっちゃってるのォ~)
――カシャ
律「サン、二ィ、イチ、キュー!」
唯「ふたりは!」ビシッ
紬「プリキュア!」ビシッ
――カシャ
澪「あ、唯鼻の穴全開」
律「あははは! ひどい美少女戦士!」
唯「カントクゥ~リテイクお願いしますよ~」
律「あ、ダメダメ、これもうゴーサイン出ちゃってるから」
唯「そんな……っっ!」
紬「カントクさん、私カントクさんと写りたいの~」
律「まったく琴吹ちゃんにはかなわんの~。どれ、よっこい正一。あ~そこのAD。僕ら撮って」
澪「誰がADだ」
唯「最後にみんなで撮ろうよ~」
聡「あ、俺やります」
澪「あ、ちょっと待って聡」
唯「お?」
澪「あのっ!」
観光客「ホワッツ?」
律(人に頼むのはわかるけど、なぜわざわざ日本語が通じなさそうな相手を……)
澪「く、く、く」
唯「英語でお願いするときって何だっけ?」
紬「Could you~よ」
澪「ヘルプ・ミー!!」
観光客「!?」
観光客「Are you ready, GIRLS?」
唯「イエスイエース!!」
観光客「OKAY! Here we go! ONE, TWO, THRRREEEEEE!!」カシャ
律(テンション高ェ……)
唯「イエーイ!!」
観光客「YEEEAAAHH!! You are so cool, BABIES!! You are so FUCKIN' COOOOOOLLL!!」
唯「オウイエーオウイエー!!」
澪「せ、せんきゅー!」
観光客「オーライ、ガール。ババァーイ!」
唯「バイバーイ」
紬「お気をつけて~」
梓「ふ、フレンドリーな人でよかったですね」
観光客「あ、ごめんなさい、一つ忘れてた。渋谷駅はどっちですか?」
律「日本語話せんのかい!!」
澪「やれやれ。今日はこんなところかな」
唯「ツリーはまだ出来てないんだねぇ」
紬「完成は次の冬ですって」
梓「未完成のツリーで記念写真かぁ」
律「なーんだよ、不満かー? 完成したときまた来る楽しみができただろー」
唯「そうだねー。また来ようねー」
梓「……そうですね」
唯「あずにゃんとはまた、ユニオンにも行かなきゃねー」
紬「ゆにおん?」
律「なんだおまえら、今日はデートかぁ?」
梓「ちっ、違いますっ!」
唯「え~違うの~?」
梓「もう! 唯先輩も変なこと言わないでください! もうっ!」
律「聡~おまえも澪と今度デートでもすればー?」
聡「は、はぁ!? 何言ってんだよ姉ちゃん!」
澪「デートかどうかはともかく、私は別にいいぞ?」
聡「え、あ、じゃあ」
紬「その前に澪ちゃん私とデートね!」
澪「へっ?」
紬「ねえ、澪ちゃん、赤マムシって飲んだことある?」
澪「赤マムシ!?」
――帰宅
梓「うん、ごめんね、今度は絶対憂も連れてくからさ。ホントだってばー」
梓「なっ、怒ったフリって……やっぱり憂って唯先輩とよく似てるね」ハァ
梓「ん、唯先輩が? いいけど」
唯「もしもしー? あずにゃーん?」
梓「はい、どうしたんです?」
唯「あのね、暴力温泉芸者さんのCD聴いてみたんだけど、演奏が始まらなくってさ~」
梓「えっ、不良品だったんですか?」
唯「うん……あ、話変わるけどさ、なんか最近近所ビリビリがうるさくてね~。お隣さんカラオケでミラーマン歌ってるみたい」アーサヤケノーヒカリノナカニー
梓「あ……唯先輩」
唯「ほい」タータカエボクラノ ミラーマーーーーーーン
梓「それがCDの中身です」
唯「え?」
完
131 : 以下、名... - 2011/01/09(日) 07:36:53.24 67D+h4gl0 93/93なんか途中で方向変わってしまた
浅草のせいで歯車がズレたか……