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リーグ・アン第32節。チャンピオンズリーグ出場権争いを繰り広げる3位RCランスと、2ポイント差で追う4位モナコによる大一番の後半77分、南野拓実はケヴィン・フォラントに代わってピッチに登場した。


 南野にとって公式戦の出場は、3月19日に行なわれたアウェーでのアジャクシオ戦(第28節)以来。実に約1カ月ぶりのことになる。

 南野はその試合でも77分にウィサム・ベン・イェデルと代わったが、その時はモナコが1点をリードした状況での途中出場だった。しかし今回のRCランス戦では、3点のリードを許している状況での途中出場だ。

 しかも、南野とともに投入されたマイロン・ボアドゥはエースのベン・イェデルとの交代。カードの切り方としては、指揮を執るフィリップ・クレマン監督がこの試合では白旗を上げたと受け止められかねない策にも見えた。

 結局、0-3のまま敗れてしまったことで、モナコはCL出場権争いから一歩後退。久しぶりにピッチに立った南野も、心境は複雑だっただろう。

 とはいえ、贅沢は言っていられない。どんな試合でも、どんな戦況でも、ほんの数分でも出場チャンスが巡ってきたなら、何かしらの"爪痕"を残す必要がある。それが、現在の南野が置かれている立場だ。

 今季ここまでの南野は、リーグ戦15試合に出場して先発は7試合。ヨーロッパの舞台(CL予選とヨーロッパリーグ)では出場6試合のうち4試合でスタメン入りし、クープ・ドゥ・フランスでも1試合に先発した。

 そして、アタッカーとして最も重要な得点に関して言えば、リーグ戦第8節のスタッド・ランス戦で記録した1ゴールのみ。アシストも3にとどまっている。

 モナコが南野の獲得に移籍金1500万ユーロ(約22億円/プラス出来高ボーナス300万ユーロ)を支払ったことを考えても、ここまでは明らかに期待を裏切った格好だ。現地フランスで厳しい評価を下されるのも当然と言えるだろう。

【若手にポジションを奪われ...】

 とりわけ、ワールドカップ中断後は出場6試合(先発2試合)と出場機会が著しく減少している。その要因は主にふたつある。

 ひとつは、南野が左MFで先発したリーグ再開後初戦のオセール戦(第16節/2022年12月28日)で、当時17歳のエリース・ベン・セギル(現在18歳)が彗星の如く登場したことだ。

 南野がアレクサンドル・ゴロヴィンと代わってベンチに下がった一方、後半開始から途中出場したフォルマション(下部組織)育ちの逸材は、その試合でいきなり2ゴールの鮮烈デビューを飾った。その後もベン・セギルは着々と出場機会を増やし、すでにリーグ戦で13試合に出場して4得点1アシストをマーク。あっという間にレギュラー争いに割り込んだ。

 卓越したボールテクニックに加え、すでに成熟した戦術眼も兼ね備えているベン・セギルは、クラブにとって"金の卵"だ。しかも内容に結果もついてきており、それが南野の出場機会が減少した要因のひとつとなった。

 もうひとつは、クレマン監督がワールドカップ中断後から布陣を固定し、各選手をそれぞれのポジションにあてはめていることが大きく影響している。

 それ以前の南野は、両サイドMF、2トップの一角、トップ下、あるいはシャドーなど、前線の複数ポジションで起用されていた。そのため、先発はもちろん、ベンチスタート時でも出場チャンスが回ってくることも多かった。

 ところがワールドカップ中断後は、クレマン監督が基本布陣を4-2-3-1(守備時は4-4-2)に固定。唯一、第25節のニース戦だけは相手に合わせて3-5-2を採用したが、0-3で完敗したこともあってか、その後は一切3バックを採用していない。

 さらに、各選手を起用するポジションも固定したため、南野のサイドMF起用も前述のオセール戦を最後に消滅。南野に与えられたポジションは、トップ下(または2トップの一角)に限定されることになった。これも、出場機会の減少につながっている。

【南野のライバルは5人】

 現在そのポジションには、前述のベン・セギル、元ドイツ代表フォラント、そして南野の3人。1トップ(または2トップの一角)には、目下リーグ17得点でチーム内得点王の主将ベン・イェデル、同じく12得点を記録するスイス代表ブレール・エンボロ(現在負傷離脱中)、ここまでリーグ戦2得点のマイロン・ボアドゥと、こちらにも3人がいる。

 つまり、前線中央ふたつのポジションに、計6人がひしめき合う状況だ。

 ただし、出場機会が減ったとはいえ、指揮官がいろいろ試したなかで南野の適性を「トップ下」と判断したことについては、ポジティブに受け止めるべきだろう。

 たとえば、第22節(2月5日)のアウェーでのクレルモン戦。

 4-2-3-1のトップ下で先発出場した南野は、前半44分、中盤で自ら奪ったボールをドリブルで運んだあと、左サイドのゴロヴィンに展開。受けたゴロヴィンのクロスをエンボロがフィニッシュするという、美しいカウンターアタックの起点となるなど、ベンチに下がる85分までシーズンベストのパフォーマンスを披露した。

「"タキ"はすばらしいトレーニングをすごして準備もできていた。私はそういう選手にチャンスを与えているが、残念ながら全員にギフトを与えられない現実がある」

 その試合後の会見でそう述べたクレマン監督は、「前線の軸は誰か?」と聞かれると「そういう考え方はしていない。自分自身に私はオプションを持っているんだと言い聞かせている。ただ、実際のところ、これからも11人を選ぶのはかなり難しい作業になるだろう」と話している。

 その後、ヨーロッパリーグ敗退によって試合数が減少したことで、クレマン監督の悩みが増大。そのうえ、過去2シーズンにわたってベン・イェデルのベストパートナーだったフォラントが今シーズン5度目の負傷から復帰を果たし、ベン・セギルも急成長中とあれば、なかなか南野に出番は回ってこない。

【残り6試合で最後のアピール】

 それでも、今回のRCランス戦でピッチに立った南野は、後半アディショナルタイム5分まで、上々のパフォーマンスを見せていた。

 約18分のプレーの中で、13度もプレー機会を作り、シュート3本を放ったほか、いくつかのチャンスに絡み、前線のスペースでCBやボランチからの縦パスを何度もレシーブ。クレマン監督が前線中央でのプレーを割り当てたことが、間違いではなかったことを改めて証明した。

 たしかに3点リードしていた相手のプレー強度や集中力が低下気味だったことは、加味する必要はある。だが、プレーのフィーリング自体は悪くない。少なくとも、複数ポジションでプレーが不安定だったシーズン前半戦よりは、安定感が出てきたことは確かだ。

 あとは、数字である。今後、モナコに残されているのはリーグ6試合。そのなかには、リール、リヨン、レンヌといった、ヨーロッパへの切符を競い合っているライバルたちとの対戦もある。

 どのタイミングで、どういったシチュエーションで南野にチャンスがやってくるかは、神のみぞ知る──。ではあるが、残された6試合で得点やアシストを少しでも上積みできるかが、加入初年度の印象を大きく変えることになるはずだ。

中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi



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