1 : 以下、\... - 2015/08/07 22:42:47.357 SkGBXkqM0 1/13

勇者「……戯言は良い、なぜだ?」

騎士「…私は永らく勇者様に支えて参りました」

騎士「勇者様のその正義の心に胸を打たれ、忠誠を誓いました」

騎士「しかし、この頃の勇者様の行動はまるで正義とは思えません」

騎士「故、私はここから去るのです」

勇者「…俺が正義では無いと?お前の言っている事が分からぬ」

勇者「盗みもしなければ人を殺したことも無いのだぞ」

騎士「…仰る通り、「人」は殺した事などありませぬ」

勇者「………何が言いたい?」

元スレ
勇者「なぜ裏切った?」戦士「…空が綺麗だったので」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1438954967/

5 : 以下、\... - 2015/08/07 22:56:00.940 SkGBXkqM0 2/13

騎士「…私は、勇者様が魔族を問答無用で斬る事に疑問を抱いておるのです」

勇者「…何を言っている。魔族とは邪悪の心を持った種族。絶えさせねば」

騎士「……私にはそうは思えないのです…」

騎士「例えば昨日…四葩の側に幼い魔族に居りました」

騎士「親らしき亡骸が側にあり、表情は頑なでした」

騎士「…おそらく、親は人間に殺されたのでしょう…それで…親のために危険を犯して美しい四葩を見せていたと思うと…私は…」

勇者「…殺したか?」

騎士「……殺しました」

勇者「結局、お前も殺しているんじゃないか」

騎士「…あんな幼い魔族は1人では生きられぬので…せめて…私の手で苦しまずに」

勇者「…お前は優しすぎる。そんな考えは捨てろ」

6 : 以下、\... - 2015/08/07 23:02:01.088 SkGBXkqM0 3/13

騎士「しかし!花を愛でる心が魔族にもあるということです」

勇者「それがどうした?第一この村も夜な夜な魔族に襲われている」

勇者「俺やお前がやらなければ、誰がやる?」

騎士「…襲ってくるならば、仕方の無い事だと思います…しかし、問答無用で殺すのはどうかと…」

勇者「…殺せば良いのだ、魔族に良いも悪いも無い」

勇者「…………とにかく、それも魔王を倒せば終わる話だ」

勇者「分かっているな?魔王が棲む城すぐそこだ」

勇者「今夜…この村を後にして魔王を討つ」

勇者「それとも何か?…魔王を前にして怯んだ故の発言か」

勇者「これ以上俺の邪魔をすると言うのなら…俺がお前を殺す」

7 : 以下、\... - 2015/08/07 23:13:51.727 SkGBXkqM0 4/13

騎士「!……」

勇者「去れ。お前が望んだ事だろう」

騎士「勇者様…!私は…勇者様に心を持った魔族も居ることを分かってさえ貰えれば…」

勇者「…こころ?」

騎士「銀月を見上げ、美しいと思うのも…桜を見て儚いと思うのも…心故ではないのですか」

騎士「人間でさえ忘れているその心を、魔族が持っているというのなら…それは」

勇者「………俺は、この世界を美しいと思う」

勇者「そして…この世界にとって魔族は汚らわしいものだ」

勇者「俺は戦い続ける…共に美しい世界を見たいなら…美しい花を咲かせたいなら付いて来い」

騎士「美しいものは、いつか汚れ、美しい花は、いずれ散ります」

騎士「………魔族は滅びる運命なのかもしれません」

騎士「…付いて行きます。そして共に看取りましょう、この世界の終末を」

8 : 以下、\... - 2015/08/07 23:22:11.155 SkGBXkqM0 5/13

騎士「……魔族も、人間も…共にそれぞれの運命を辿るでしょう」

騎士「…もう私に言える事はありませぬ」

勇者「…では、今夜だ…今夜は既望。魔王の力が最も弱まる月だ」

勇者「………今夜で、全てが終わる」



勇者「…準備は良いか?」

騎士「……はい」

勇者「……では、行くぞ」

騎士「勇者様…もし」

騎士「…もし私が死んだら…」

勇者「もしもの話は嫌いだ…それに、お前は死なせない」

騎士「!………私も、全力で勇者様を御守り致します」

9 : 以下、\... - 2015/08/07 23:30:06.865 SkGBXkqM0 6/13



勇者「…閑古鳥の鳴くような城だ」

騎士「罠かもしれませぬ…お気をつけを」

勇者「いや…恐らく魔王は一騎打ちを望んでいる」

勇者「…俺の宝刀と、魔王の妖刀…どちらが強いのか思い知らせてやる」

騎士「では…私は」

勇者「…見ているだけで良い。決して魔王に触れるな…これは俺と魔王の決闘だ」

勇者「そして…俺がもし…」

騎士「…もしもの話は嫌いです」

勇者「!……」

騎士「大丈夫です…心配しなくても、私はこの闘いに命を懸けていますから」

騎士「…信じています、勇者様」

10 : 以下、\... - 2015/08/07 23:37:44.460 SkGBXkqM0 7/13

勇者「……俺は」

魔王「茶番は良い。我を殺せるはずなどないのに、何の心配がいろう?」

勇者「!!……魔王!ついに会えたな…」

騎士「何という気迫…流石と言うべきか」

勇者「…来い。一太刀で斬る」

魔王「……何を言っているのだ、我は闘うつもりなど毛頭ない」

騎士「な…どういうことだ?」

魔王「だからお前らと闘うつもりはない…何回言わせるつもりだ?」

勇者「…お前にそのつもりがなくても俺は闘うぞ!」

魔王「まあ待て。勇者というものは1人でも多くの命を助けるのが信念だろう」

勇者「…何が言いたい?」

魔王「我としても魔族を殺され続けるのは避けたい。同盟を組まないか」

騎士「同盟…?」

11 : 以下、\... - 2015/08/07 23:44:48.379 SkGBXkqM0 8/13

魔王「恐らくだが…ここで我が死んでも魔族は人間を襲い続け…そのうちまた新しい魔王が誕生する」

魔王「そして勇者が死んでも人間からまた勇者が生まれ、魔王を殺そうとするだろう」

魔王「歴史は繰り返す」

魔王「我も好き好んで人間を殺している訳ではない。損得勘定で殺しているだけだ」

魔王「だから…ここで勇者と魔王の闘いに終止符を打つ」

騎士「……つまり、お互いの為に共存する道を探すという事か」

騎士「たしかに…可能なら誰も殺さず殺されない世界にしたいが…」

魔王「…そう悪くない話だ。心配なのは分かるが我の統率力は魔界一だ。我が命ずれば魔族は人間を襲わなくなる」

騎士「人間も襲われなければ無闇に殺そうとしないだろう…」

12 : 以下、\... - 2015/08/07 23:50:45.859 SkGBXkqM0 9/13

騎士「ふむ…中々良い案かもしれないが…」

騎士「……勇者様?」

勇者「…………………忘れろということか?」

魔王「なに?」

勇者「魔族に家族を殺され、友を殺され、何もかも奪われた人間達に、それを忘れろと?」

勇者「……人間達の憎しみは一生消え続けないだろう」

魔王「……それは我も同じ事だ」

魔王「魔族も…人間の手によって親を殺され友を殺された……」

魔王「魔族と人間がお互いを受け入れ、共存するのは無理な話かもしれない…お互い憎みすぎている」

魔王「……しかし…お前は憎い魔族を殺した時、何を思った?」

勇者「………………」

14 : 以下、\... - 2015/08/07 23:56:04.919 SkGBXkqM0 10/13

魔王「嬉しかったか?胸のすくような思いだったか?それとも…」

勇者「……あんなに憎いはずだったが、殺した後は虚しいだけだった」

勇者「自分の手が血で汚れる度、何をしているのか分からなくなった」

勇者「…………少なくとも、良い気分では無い」

騎士「!……勇者様……」

魔王「……我も同じだ、復讐から生まれるのは虚しさだけだ」

魔王「…終わらせよう、お前も我も…復讐よりすべき事があるのでは無いか?」

勇者「………………そうか」

勇者「もう………誰も殺さなくて済むのか」

魔王「…我は、魔族の為に墓を建てようと思う」

勇者「…………終わりにしようか」

15 : 以下、\... - 2015/08/08 00:00:58.126 EUoRCoIo0 11/13

騎士「…勇者様…良いのですか?」

勇者「俺が決めた事だ…分かってくれるな?」

騎士「…………もちろんです、勇者様」

魔王「では、決まりだ…誓約書は書いておいた」

勇者「……ああ」

騎士「これで、世界はやっと一つになる」

魔王「………勇者、お前が理解のある奴で良かった。感謝している」

勇者「……いや、俺の考えが変わったのは騎士のお陰だ」

騎士「……!いえ…」

17 : 以下、\... - 2015/08/08 00:10:03.591 EUoRCoIo0 12/13

魔王「では…我にはやるべに事がある」

騎士「……では、私達も」

勇者「ああ……魔王、またいつか会おうぞ」

騎士「…これで良かったのでしょうか」

勇者「そんな事は誰にも分からぬ。さ、まず王の元に帰り報告しなければ」

騎士「……勇者様、私は今まで勇者様にお支え出来て幸せでした」

勇者「………………」

騎士「……共に、世界の終末を看取るという約束、覚えおりますか」

勇者「ああ…覚えている…」

勇者「…これからも色々な事が起こるだろう、しかし…還るべきところは同じだ」

騎士「……そうですね…私はいつまでも勇者様にお支えします」

騎士「命が尽きる、その日まで」

19 : 以下、\... - 2015/08/08 00:15:20.994 EUoRCoIo0 13/13

桜の下にて

少年「お父さん、ここにある2つのお墓ってだれのなの?」

「ん、ああそれは昔の勇者様と、勇者様に仕えた騎士様のものだ」

少年「勇者?昔は勇者が居たんだ…」

「そのお二人は世界をお救いになったんだ」

「そして世界を救った後も人々を助け続け、同じ日に2人とも亡くなったらしい」

少年「そうなんだ…でも、変なうわさ聞いた事あるよ」

「うわさ?何だい?」

少年「その2人の命日になると、魔王みたいな見た目の怖そうな魔族が、必ずお参りに来るんだって…」


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